山峡奇談 の商品レビュー
古代から昭和初期まで、日本各地に伝わってきた 山に関する不思議な話、怖い話を集め、 現代語に訳したエピソード集。 自然界には人が踏み超えてはいけないボーダーラインが 確実にある、と思った。 一部、柳田国男『遠野物語』の読み直しにもなった。 しかし、附録「山窩綺談」は 明らかに戦後...
古代から昭和初期まで、日本各地に伝わってきた 山に関する不思議な話、怖い話を集め、 現代語に訳したエピソード集。 自然界には人が踏み超えてはいけないボーダーラインが 確実にある、と思った。 一部、柳田国男『遠野物語』の読み直しにもなった。 しかし、附録「山窩綺談」は 明らかに戦後の作り話で蛇足というか興醒め。 ■古代・中古(奈良~平安時代) 僧と鬼にまつわる話が目立つ(山だから当然か)。 新潟の「逃入(にごろ)村の塚と道真の祟り」が不気味。 村の人が手習いをすると菅原道真に祟られるため、 文字が書けないので、 よその人に頼んで代筆してもらわなければならず、 何故祟られるかというと、 昌泰の変【※】によって道真を追い落した藤原時平と その妻の墓(塚)があるためだ、とか。 【※】901年、左大臣藤原時平の讒言により 醍醐天皇が右大臣菅原道真を大宰府へ左遷した。 ■中世(鎌倉~安土桃山時代) 盗賊の話や武士の話。 『撰集抄』の西行が人造人間を作ろうとした との記述が(改めて)強烈。 東都隠士『万世百物語』収録、 宮本武蔵が悪漢に囚われた女性を救う話も印象深い。 ■近世(江戸時代) 動物を巡る奇談。 山に入る人はやはり熊や蛇を恐れていたか。 『万世百物語』収録、 蛇に呑まれた我が子を救い出したイタチの話「鼬の復讐」は グリム童話「狼と七匹の子山羊」に似ている。 『奇談雑史』収録、「狐に誑かされた男」が 滑稽かつ奇怪。 阿辺野の古狐に気をつけろと言われても 怖気づかなかった男がまんまと騙される話。 ■近代(明治時代~昭和) 天狗を巡る話あり、幽霊譚あり。 杉村顕道『信濃怪奇伝説集』中の「蓮華温泉の怪話」に 既視感を覚えたが、 先に読んでいたのは岡本綺堂「木曽の旅人」だった。 山の中の一軒家に旅の男がやって来て、 一晩泊めてくれと言い、主は快く招き入れたが、 幼い男児が怯え、犬は吠え……結局、 旅人は立ち去ったが(ネタバレ回避)――という恐怖譚。 「木曽の旅人」初出は1897(明治30)年『文藝倶樂部』 だそうなので、1942年に刊行された 『信濃怪奇伝説集』(←1934年『怪奇傳説 信州百物語』改題) より先で、すると、 信濃には同様の物語が様々なヴァリエーションで 語り継がれてきたのだろうか。
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