ボーダー 二つの世界 の商品レビュー
ミステリーとも幻想文学ともつかない表題作が出色。他者とは異なる能力を持ち、他者とは異なる見た目を持ち、世界から虐げられてきた者が、出会いを通して境界線の先へと進む物語。社会の残酷さに打ちのめされ、こぼれ落ちてしまいそうな人々へと向ける作者の眼差しが暖かく、同時に痛切な気持ちになる...
ミステリーとも幻想文学ともつかない表題作が出色。他者とは異なる能力を持ち、他者とは異なる見た目を持ち、世界から虐げられてきた者が、出会いを通して境界線の先へと進む物語。社会の残酷さに打ちのめされ、こぼれ落ちてしまいそうな人々へと向ける作者の眼差しが暖かく、同時に痛切な気持ちになる。 『臨時教員』や『紙の壁』もまた、世界と自分、他者と私という境界線があわく溶け合う瞬間が描かれ、ホラーの手触りはあるものの、幼いころに感じていた「自分以外の他人、あるいは世界がすべて作り物に見える」というあの感覚を想起させる。 また、映画化された『MORSE -モールス-』のエピローグとなる「古い夢は葬って」については、罪が円環する可能性、ではなく、共に罪を背負いながら生きる、という方向の物語が描かれていて好み。『ぼくのエリ 200歳の少女』の哀しさと美しさのその先を知ることが出来て嬉しかった。 表題作のタイトルになっている「ボーダー」というテーマは11の短編すべてに通底して存在している。社会生活を営む中で自然と定義づけられていくあらゆる物事への境界線が、誰かによって、社会によって都合よく決められた線引きでしかなく、規定しながら他者を見つめることへの警鐘が響く。しかしその響きは誰かを痛烈に批判するようなものではなく、私たちの心に初めから備わっていた(しかし忘れてしまっていた)無垢さを呼び覚ますような響きだった。 あと『マイケン』はリンドクヴィスト版のファイトクラブだった。悪だくみの思想が広がっていく話はいつだって楽しく、いつだって魅力的だ。
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表題作が映画化もされた、「モールス」「僕のエリ」の原作者の短編集 思ったより幻想小説っていうかファンタジーっていうか…あれなんだな… 映画の方が過激になってるのかな…
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
スウェーデンのスティーブン・キング、ことヨン・アイヴィデ・リンドグヴィスト(覚えられん…)の中短編集。初めて読む作家さん、「ミレニアム」シリーズは言わずもがな、ヘニング・マンケルやらマルティン・ベックやらと、北欧ミステリーはずいぶん親しむようになっているのだが、こういう幻想怪奇が混ざった小説はまだまだ未開拓かな(除くムーミン)。 水と冷たさに恐怖を感じる作風や、異生物に北欧神話を感じるあたりが、ご当地っぽいとも思える。キングとの比較されるのもむべなるかな…って思う箇所も、キングに感じるジャンクなアメリカンカルチャー臭が、この作品ではトロールやラグナロクなんかに感じる北欧臭がしてたりとか。 表題作や最後の中編「最終処理」、唯一異界を感じさせない「マイセン」あたりが、人気の出そうな佳作だが、個人的に非常に印象に残ったのが「紙の壁」。少年時代だからこそ出会える日常と幻想の接触は、世界中いつでもどこでも読まれるテーマだと思うが、オチをどうつけるか。ここで地域・時代によってすごく個性が変わると思う。この作品はさすが北欧って落とし方だと思ったが、さて日本だと…やっぱ、今だと鬼かな?
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スウェーデンの作家の作品は初めて読んだが、不気味なものばかりで当惑した.11編あったが、最後の「最終処理」は気持ちが悪くなって途中で止めた.死体を処理することのおぞましさをなんと考えているのか.「臨時教員」では旧友との話の中からその教員の実態が炙り出される.「古い夢は葬って」では...
スウェーデンの作家の作品は初めて読んだが、不気味なものばかりで当惑した.11編あったが、最後の「最終処理」は気持ちが悪くなって途中で止めた.死体を処理することのおぞましさをなんと考えているのか.「臨時教員」では旧友との話の中からその教員の実態が炙り出される.「古い夢は葬って」ではカリンとステファン夫婦に巻き込まれた私が、うまく対処するのが楽しめた.表題作は、割と引き込まれたが、感動するものではなかった.
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一応ホラーにカテゴライズされるものが多いのかな。幻想的な短編集。 お気に入りは「紙の壁」。正直なところを言えば、「え、ここで終わるの!?」という印象です。結局怖かったのか怖くなかったのかよくわからない……けれど、確実に恐怖は描かれています。いろいろ想像がありもしない恐怖を生む可能...
一応ホラーにカテゴライズされるものが多いのかな。幻想的な短編集。 お気に入りは「紙の壁」。正直なところを言えば、「え、ここで終わるの!?」という印象です。結局怖かったのか怖くなかったのかよくわからない……けれど、確実に恐怖は描かれています。いろいろ想像がありもしない恐怖を生む可能性も。 「マイケン」はどこかしら愉快な犯罪小説。こういうのをしたいとは思わないのだけれど、なんだかとっても楽しそうに思えてしまったのは私だけではないはず。 そして「MORSE」番外編である「古い夢は葬って」。あの二人がちらっと登場するのが嬉しいところだけれど。メインの物語は美しく、そして切なくて印象的でした。
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長短11の作品集。どの話も、原文の筆の運びのせいか翻訳のせいかはわからないが、冒頭からグッと入り込んで読めました。著者は表題作の他にも映像化されている作品があり、世界観・設定がイメージしやすい文章なんでしょうね。異論は有ると思いますが乙一の作品と似たような感覚を持ちました。
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詳細は、『あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート』を御覧ください。 → http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-1390.html 映画「ボーダー 二つの世界」 2019年10月11日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町 カ...
詳細は、『あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート』を御覧ください。 → http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-1390.html 映画「ボーダー 二つの世界」 2019年10月11日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町 カンヌ映画祭・ある視点部門でグランプリを受賞した北欧ミステリー 原作の作者は、『ぼくのエリ 200歳の少女』のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト。 原作は、ホラーよりはファンタジー。 でも映画は怖そうなので、見ないことにする。
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「モールス」の作家の短編集とはいっても中編も含まれる。いずれもテイストが異なり楽しめた。「最終処理」の前日譚は読みたいなぁ。「モールス」の続編は、予想していたものと違い驚き。
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ヒット作『モールス』のスピンオフも収録された短編集。スピンオフや続編にはさほど興味がないが(※〝モールス〟は面白かった)、こういう短編集に収録されていると、懐かしい人に再会したような気分になって嬉しかった。 しかしこの人、本当に名前が覚えられない……歳を取るってイヤだねぇ、と言い...
ヒット作『モールス』のスピンオフも収録された短編集。スピンオフや続編にはさほど興味がないが(※〝モールス〟は面白かった)、こういう短編集に収録されていると、懐かしい人に再会したような気分になって嬉しかった。 しかしこの人、本当に名前が覚えられない……歳を取るってイヤだねぇ、と言いたいが、若かったら覚えられたのかと言われると、正直、自信が無いw ロシア文学を最初に読んだ時も混乱したが、北欧の人名もなかなか馴染みが無くて難しい……。
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