ここは私たちのいない場所 の商品レビュー
「ちっぽけなミスからっていうけど、本当は大きな失敗を招いている時は、それはちっぽけなミスなんかじゃない。重大なミスを犯していることに気づいていないだけ」
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短編だけれども白石一文がぎゅっと詰め込まれた再生の物語だなと思った。 解説で、パートナーを亡くした編集者の方(中瀬ゆかりさん)へ贈ったものだと知って納得。 とても優しくて包み込むような文章だったから。彼の作品はどれも優しい物語なのだけれど、文章からそれを感じることはあまりなかった...
短編だけれども白石一文がぎゅっと詰め込まれた再生の物語だなと思った。 解説で、パートナーを亡くした編集者の方(中瀬ゆかりさん)へ贈ったものだと知って納得。 とても優しくて包み込むような文章だったから。彼の作品はどれも優しい物語なのだけれど、文章からそれを感じることはあまりなかったから。 物語の終盤、芹澤と珠美は明らかに救われ、再生されるのだけれど、では何から救われたのか、については明確ではない。(出来事としてはあのことがかっかけでそれは明確に描写されているけれど、そのことが2人の心に明確なダメージを与えたとは思えなかった) 人は日々、傷付き、恐れ、挫け、そして日々、癒されてゆく。 芹澤と珠美がゆるやかに再生していく心地よい物語を背景に、白石一文が中瀬ゆかりさんへのメッセージを伝える構造になっているのかなと思う。 香代子の思い出の曲の話や、生と死の話、子どもがいる世界・いない世界の話。
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「誰かをどうしようもなく愛したことがある者。大事な存在を喪失したことのある者。そして、子供を持たない者。この3つのどれかに当てはまる人間なら、この小説が顕す人生観とその哲学的メッセージに共鳴しないはずがない」 これは巻末の解説を担当している、編集者の中瀬ゆかりさんによる文章。 中...
「誰かをどうしようもなく愛したことがある者。大事な存在を喪失したことのある者。そして、子供を持たない者。この3つのどれかに当てはまる人間なら、この小説が顕す人生観とその哲学的メッセージに共鳴しないはずがない」 これは巻末の解説を担当している、編集者の中瀬ゆかりさんによる文章。 中瀬さんは内縁関係にあった作家の白川道氏を突然失くした。そしてこの小説は、著者の白石一文さんが中瀬さんのために執筆したものらしい。 一言で感想を表すのはとても難しい小説だった。面白いとは言えないし、泣けるとか感動系とも違う。人間関係にスポットを当てると、つっこみどころも無いわけではない。 結果的に自分を陥れることとなった女性と親密になっていく主人公の芹澤。普通ならば恨んだり憎んだりするからなかなか無いように思うけれど、そうなることも分かった上で彼自身が決断を下したようにも見えるし、元々諦観に包まれて生きていたような人間だからそのようになったのかもしれない。 と考えると、理解出来ないわけでもない。そうなるべくしてなったと言うならば、こういうのが人と人の縁というものなのかもしれない。 白石さんの小説は既読のものはほぼ全部哲学に満ちていたけれど、この小説は短いだけにとくにそう感じた。 身近な、大切な人の死に触れたことがあるなら、芹澤と同じ風に考えたことがある人もいるだろう。その死を知らなければ、死んでいないのと同じなのに、と。 死ではないにしろ、過去に別れてしまった誰かとの関係が、ここではないどこかで続いている。ただの妄想でも、そう思えたら心が安らかでいられる。 中瀬さんが挙げた3つ、私も当てはまるものがたぶんある(子供を持たない者、は今のところ確実に当てはまっているけれど、それについて感じ入るようになるのはまだ先のような気がするが)。 また何年か後に読み直してみれば違うことを感じそうな小説だった。
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帯の言葉に引かれて衝動買いしたが、場面の設定や登場人物の設定に対して好感を持ちにくかった。「子供のいる世界」と「子供のいない世界」という区分けにも共鳴できなかった。
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ここは私たちのいない場所 後書きまで読んで、この物語が分かった気がしました。フッと湧いたように仕事を無くして、それ以後、何か中途で止まったままで何処へ向かうのか?どう決めようか何も思いが浮かんでこなかった。 これまで仕事が第一優先として生きてきた。ずっと立ち止まらせてきた人生を見...
ここは私たちのいない場所 後書きまで読んで、この物語が分かった気がしました。フッと湧いたように仕事を無くして、それ以後、何か中途で止まったままで何処へ向かうのか?どう決めようか何も思いが浮かんでこなかった。 これまで仕事が第一優先として生きてきた。ずっと立ち止まらせてきた人生を見つめ直して、自分の為の新しい一歩を何方へ向けて踏み出そうか、ずっと持ち合わせていなかった選択権をどう使おうかと逡巡しているような印象を読んでいてずっと感じていました。 最愛の者であっても違っても、見知った誰かを喪失したその時、なにか自身を振り返る瞬間があって、それが起因にこれまで観ていた景色の色あいが少しずつ変化して行くような…その変化を感じていた。 ちょっとした気まぐれから起こった気持ちの変化は、それまで自分を縛り付けてきたロープが自然と緩み解けてしまっていた。まだ自分では理解出来ていないかもしれないが、心の傷の再生が始まっている…そんな気持ちにさせる優しい物語だった。
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珠美との出会い(正確には再会)をきっかけに、芹澤の中でそれまで何十年間も閉じ込められていたものが開放されて、思わぬ方向に人生が流れていった。 そして『これでよかったのだ』と芹澤は感じているのではないかと思う。 一度きりで、思い通りにならず、この先何が起こるか分からないもの。その...
珠美との出会い(正確には再会)をきっかけに、芹澤の中でそれまで何十年間も閉じ込められていたものが開放されて、思わぬ方向に人生が流れていった。 そして『これでよかったのだ』と芹澤は感じているのではないかと思う。 一度きりで、思い通りにならず、この先何が起こるか分からないもの。その人生をどうやって生きていくのか。 その問いは『何を大切にして生きていくか』でもあり、そこから裏をとれば『大切にしたいものを大切にして生きること』こそが、おそらくは生きていく指針なのだろう。 人との出会い、本との出会い、景色との出会い。 出会いは『大切なものが何か』を気づかせてくれる。
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人が死ぬということ。誰もが経験したことはないから、死ぬ時どんな感じとか、死んだらどうなるとか、わかるよしもない。ただ、死を身近に感じることはある。私も最近父を亡くしたが、死んだというより、いなくなったという感覚が近い。ただ不在なだけ。でも、時折もう二度と会えないと気づく瞬間があ...
人が死ぬということ。誰もが経験したことはないから、死ぬ時どんな感じとか、死んだらどうなるとか、わかるよしもない。ただ、死を身近に感じることはある。私も最近父を亡くしたが、死んだというより、いなくなったという感覚が近い。ただ不在なだけ。でも、時折もう二度と会えないと気づく瞬間があって、その時は奈落の底に落ちるような悲しみがおそってくるのだが。 この小説は、身近に死を体験した人に、その死に対してどう向き合うかを、淡々とした中でやさしく、時に強く導いてくれる物語だった。
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順風満帆な独身サラリーマンがあるトラブルに巻き込まれ 人生の岐路に立つ。それまでの人生からがらりと変わり 過去の人生を返えりながら未来を模索していく姿が綴られています。 主人公の男性が三歳で命を落とした妹の哀しみを 何処か心の奥底で思い続けながら生きていき、 それが要因なのか結婚...
順風満帆な独身サラリーマンがあるトラブルに巻き込まれ 人生の岐路に立つ。それまでの人生からがらりと変わり 過去の人生を返えりながら未来を模索していく姿が綴られています。 主人公の男性が三歳で命を落とした妹の哀しみを 何処か心の奥底で思い続けながら生きていき、 それが要因なのか結婚ということにとらわれずに生きて いるというのも何とも切なくも悲しい気がしました。 けれどそこにトラブルのあった女性とは何の因果か 切ろうと思いつつも切れない何かの縁というのが 後々まで続いているのが皮肉さとこの男性の良さだったり するのかとも思えました。 この世界は、子供のいる世界と子供のいない世界の二つに分かれていると 私はずっと思ってきた。 人間は大人になると「子供のいない世界」に身を置くようになるが、 その大半が親となって、再び「子供のいる世界」へと舞う戻っていく。 その他にも子供と大人の世界ということについて 色々と書かれていますが、これを読んでいて今まで自分では あまり意識していなかったことが上手くここで取り出されて 表現されているようで心にずしんときました。 子供のいる世界に舞い戻る機会のなかった大人は、 どうやったらより大人らしく、より成長した人になれるのだろうと 逆に疑問と不安を投げかけられた気もしました。 生死について随所に哲学的な言葉が散りばめられていて、 受け入れにくいことであっても何となく納得の 出来る言葉がありました。 白石さんの作品は何冊か読んでいますが、 この作品はラストに何かあるわけでなく、 尻切れトンボのようなふわっとした印象で終わってしまったので、 もう少し何か掴めるものが欲しかった気もしました。 けれど、苦悩しながらも主人公が意外と飄々と生きている姿には 少しほっとさせられたようにも思えて、 人生一度切なので悔いのないように生きるということを 改めて教えてくれた作品だと思います。 人生につまずいた時にまたこの作品を読んでみたら、 より深く考えることも出来ると思うので再読したいと思います。 解説で中瀬ゆかりさんがこの作品に対する思いや 大事な事などがたっぷりと書かれているので これで更に分かりやすくなっていると思います。 著者が作家であったパートナーを失った中瀬さんのために この作品を書かれたということを知り読了後には特別な思いがしました。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
何年ぶりかの白石作品。この作者の主人公の男性や登場する女性はどうしても他の作品と同じイメージで読んでしまう。 この薄さの中に作者の思考が沢山詰まっている。 読み進めていくうちに、あーこういう感じ、しばらく読んでなかったな、と懐かしい感覚。 「この胸に深々と…」を上巻で挫折したが、もしかするとこれが長編だったらやめたかも。 どうしても作者の哲学を理解しようと考えながら読んでしまうので疲れてしまう。 自分も近く親を亡くしたが、居ない世界、という感情は無かった。なるほど生死を意識し過ぎて恐れてしまうんだ。 むしろ解説の方が書かれている様な「二回亡くすことがない、もう二度とあの喪失感を味わわなくて済むというのが救い…」というのが切に思ったことだった。 最後に解説の方の為に書かれた小説と判り納得。
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