我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの の商品レビュー
生命誕生に関する研究について、主に日本人研究者が進めているものを中心に紹介したものである。この手の本で、日本人研究者に対して集中的に直接話を聞いて取り上げてまとめるのは珍しい。グローバル標準の研究レベルが見えづらくなっているという欠点もあるように思えたが、面白い試みではある。 ...
生命誕生に関する研究について、主に日本人研究者が進めているものを中心に紹介したものである。この手の本で、日本人研究者に対して集中的に直接話を聞いて取り上げてまとめるのは珍しい。グローバル標準の研究レベルが見えづらくなっているという欠点もあるように思えたが、面白い試みではある。 そもそも「生命」とは何かを定義するのは意外と難しい。ちなみにNASAでは「生命」を「自律的で進化する能力を持つ複製システム」と定義しているらしい(『協力と裏切りの生命進化史』(市橋伯一著)より)。地球の「生命」はすべてDNA/RNAを持ち、そのシステムの中で特定のアミノ酸を使って作られているが、それを定義とするのは自己(地球)中心主義的にすぎる。本書では、自他を区別する「境界」と「代謝」と「自己複製」さらに「進化」を生命の必要条件として挙げている。 生命の誕生のストーリーについては、ニック・レーンの『生命の跳躍』や『生命、エネルギー、進化』の中で丁寧に解説されているように、海底の熱水噴出孔付近で誕生したとされる説が最有力であると思っていたのだが、さすがに大昔のことだけあって、まだ色々な異論があるようだ。著者も熱水噴出孔が業界の主流の考え方だと断った上で、その説に傾く横浜国立大学の小林教授と一方で陸上の温泉地帯を推す東京薬科大学の山岸教授をそれぞれ紹介する。ちなみに山岸教授はアミノ酸は宇宙起源であるという立場を取っているいう。また、中沢弘基『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』でもアミノ酸が隕石の衝突によって得られたという説を採り、海底の地下で生命が発生したと考えている。『生命はなぜ誕生したのか』のピーター・ウォードは必要なアミノ酸は火星から来たという説が有力だとしている。要するに、基本的なところは意識が合っているというように言いながらも、細かい点においてはかなり幅がある状況だ。 そういった地球上の生命の誕生について過去に起きたことを究明しようとするものとは別に、生命のようなものを実際に人工的に作ってしまおうとする研究がある。そう言った研究の中で、例えばベシクルと呼ばれる人工細胞膜を作る研究が行われている。この代表が海洋研究開発機構の車さんという研究者である。作ったベシクルに代謝のもとであるATPを移植したり、それが自己複製できるようにしたりといったことが試みられている。 そういえば、大学の同期で入学時に一緒のクラスになった友達が、当時生命を人工的に創りたいと言って、理学部の化学科に進んだのを思い出した。生命の起源は、それだけ魅力的なのだ。本書では取り上げられたのが、日本人研究者に限定されているが、世界で何が起きているのかはとても知りたくなった。 --- 『生命、エネルギー、進化』(ニック・レーン)のレビュー https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4622085348 『生命の跳躍――進化の10大発明』(ニック・レーン)のレビュー https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/462207575X 『協力と裏切りの生命進化史』(市橋伯一)のレビュー https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/433404400X 『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』(中沢弘基)のレビュー https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062882620 『生物はなぜ誕生したのか:生命の起源と進化の最新科学』(ピーター・ウォード)のレビュー https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4309253407
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