落花狼藉 の商品レビュー
戦国の気風が残る、江戸時代初期。葦の生う辺地に、ひとつの町が誕生した。徳川幕府公認の傾城町、吉原だ。公許は得ても、陰で客を奪う歌舞妓の踊子や湯女らに悩まされ、後ろ楯であるはずの奉行所には次々と難題を突きつけられる。遊女屋の女将・花仍は傾城商いの酷と華に惑い、翻弄されながらも、やが...
戦国の気風が残る、江戸時代初期。葦の生う辺地に、ひとつの町が誕生した。徳川幕府公認の傾城町、吉原だ。公許は得ても、陰で客を奪う歌舞妓の踊子や湯女らに悩まされ、後ろ楯であるはずの奉行所には次々と難題を突きつけられる。遊女屋の女将・花仍は傾城商いの酷と華に惑い、翻弄されながらも、やがて町の大事業に乗り出す―。
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流石、まかてさん。面白い。 朝井まかてさんの最新作。吉原の創設者・庄司甚右衛門の妻・花仍(かよ)の一代記であり、黎明期の吉原を描いた作品です。 主人公の花仍が良い。甚右衛門に拾われた孤児であり、幼少期には余りの腕白ぶりに鬼花仍の異名を貰い、年頃になっても嫁の貰い手も無く、庄司甚右衛門の女房に収まった。他にも、口が悪く業突く張りなくせにどこか憎めぬやり手婆のトラ婆など多彩な人物が登場する。 表紙の華やかさに誤魔化されてはいけない。もちろん吉原が舞台ですから遊女の悲劇や純愛など艶な話もあるが、それは色を添えるくらい。メインは幕府の度重なる無理な注文や火事などの災難に粘り強く抵抗する亡八と呼ばれる吉原の名主・女将たちの奮闘ぶりであり、彼ら彼女らが築き上げた吉原という虚実を取り混た文化(廓言葉、道中など)です。 特に後半、花仍が女将を譲った後、一筆書きのようにサラリと描いて見せる時代の流れは見事です。 爛漫と咲いて、散れ。最後の言葉が響きます。
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初出 2018〜19年「小説推理」 タイトルは「亡八(すべての徳を失った者)」と言われる郭の経営者の所業が落花狼藉だと言っているのだろうか。 自らの家業をそう捉えた上で、遊女屋の女将として人間くさく生きた西田屋の花仍(かよ)の生涯を通して、草創期の吉原という傾城町を生き生きと描...
初出 2018〜19年「小説推理」 タイトルは「亡八(すべての徳を失った者)」と言われる郭の経営者の所業が落花狼藉だと言っているのだろうか。 自らの家業をそう捉えた上で、遊女屋の女将として人間くさく生きた西田屋の花仍(かよ)の生涯を通して、草創期の吉原という傾城町を生き生きと描いている。 みなし子だった花仍は西田屋甚右衛門に拾われ育てられ、鬼花仍とあだ名される勝ち気な娘になり、遊女になれる器量も無く、もらい手がないため甚右衛門の妻となるのだが、この甚右衛門が遣り手で、幕府と交渉して遊女屋を集めた吉原という町を作り、「売色御免」の許可を得る。花仍は吉原を率いる女将として生きることになる。 花仍は他の店の女将たちと相談して遊女たちの衣装や道中に工夫を凝らしたりする一方、年の近い遊女達を邪険にできず、最上位の太夫にした若菜を年季が明けたら好き合った歌舞伎役者と一緒になれるようにと考え、若菜が妊娠すると本人の希望を聞いて寮で出産させるが、女の子(鈴)を産み落として死んでしまい、このことがずっと花仍の後悔となる。 客を取る湯女を置く風呂屋を禁止するように甚右衛門らは幕府に働きかけるが、吉原の小店が風呂屋に遊女を派遣していたことがわかって、甚右衛門は小店の主達を磔刑にするが、娘として育てている鈴の友達の父親も含まれていて、鈴は口をきいてくれなくなってしまう。 甚右衛門が倒れて、別宅に移って息を引き取ってしまうが、花仍は夫が苦境にある時に寄り添えなかったことを後悔する。 明暦の大火で吉原も江戸城も焼け落ちるが、江戸の町の膨張によって、吉原は浅草の田んぼの中への移転を命じられる。鈴の婿の二代目甚右衛門は、敷地面積の拡大、移転料、夜間営業の復活を条件にこれを吞み、吉原は裕福になった町人達を新たな客層として発展してゆく。 松尾芭蕉や菱川師宣といった新たな町人文化の担い手が登場するのも、吉原が担った役割を物語らせている。 作者らしいしっかりした時代考証の上に、その時代を切り開いて生きた人々を描いた秀作。また賞を取るのではないか。
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吉原の初代惣名主・庄司甚右衛門。その妻である花仍を狂言回しに、吉原誕生から明暦の大火後の移設までを描いた作品。吉原という特異な地で繰り広げられる人間模様が好きで何冊か読んでいるが、ここまでからっと乾いた作品は珍しい。女流作家ゆえというわけでもなかろうが、あまり遊女たちの悲惨な姿を...
吉原の初代惣名主・庄司甚右衛門。その妻である花仍を狂言回しに、吉原誕生から明暦の大火後の移設までを描いた作品。吉原という特異な地で繰り広げられる人間模様が好きで何冊か読んでいるが、ここまでからっと乾いた作品は珍しい。女流作家ゆえというわけでもなかろうが、あまり遊女たちの悲惨な姿を強調していないのがいい。まあ、薄幸の太夫も描かれてはいるのだが……。ぼくの中で吉原物のベストは隆慶一郎作『吉原御免状』なのだが、それに次ぐ作品となった。
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時代物はあまり読まないのですが、新聞の新刊紹介で知り読みました。 表紙が華やかですね。 吉原が昔は江戸の町の中心に在ったことを知りました。 昔から日本堤に在ったものだと思っていました。
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江戸初期の吉原黎明期の大河ドラマ風小説。吉原の地名の由来や場変、しきたり等の成立過程が描かれていて勉強にもなった。安定度抜群の著者の作品だが、いつもより総花的で少し深みに欠けるかな。
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「吉原は造り物の世界。虚実を取り混ぜてお見せする、夢の世界にござりますれば」「親に捨てられ、売られた娘が躰も魂も磨き抜いて、大名とも対等に渡り合う。」朝井まかて 著「落花狼藉」、2019.8発行。読み応えがあります。大作です。12年かけて幕府から吉原を売色御免の町として認めさせた...
「吉原は造り物の世界。虚実を取り混ぜてお見せする、夢の世界にござりますれば」「親に捨てられ、売られた娘が躰も魂も磨き抜いて、大名とも対等に渡り合う。」朝井まかて 著「落花狼藉」、2019.8発行。読み応えがあります。大作です。12年かけて幕府から吉原を売色御免の町として認めさせた西田屋の主、甚右衛門とその妻、女将の花仍(かよ)。花仍の人生を語りながら吉原の歴史を。吉原の歴史を描きながら、遊女の暮らしと夢を。
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