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ナチ 本の略奪 の商品レビュー

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4件のお客様レビュー

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2024/02/17

焚書で知られるナチだが、その理念は反知性主義ではなかった。自らの反ユダヤ主義を肯定する〈新しい知の体系〉を創り上げるため、貴重書から庶民の本棚まで狩り尽くす本の略奪者だった。本が奪われた痕跡を追ってヨーロッパ各地に取材したノンフィクション。 図書館から一冊の本を預かり、かつて...

焚書で知られるナチだが、その理念は反知性主義ではなかった。自らの反ユダヤ主義を肯定する〈新しい知の体系〉を創り上げるため、貴重書から庶民の本棚まで狩り尽くす本の略奪者だった。本が奪われた痕跡を追ってヨーロッパ各地に取材したノンフィクション。 図書館から一冊の本を預かり、かつての持ち主の孫に渡す旅の場面から序がはじまるので、てっきりその本の来歴を辿るような構成で語られていくのかと思いきや、そこにこだわることなく土地もトピックも次々に変わっていく。訳者あとがきで言われてる通り、たしかにこの語り口は主題がわかりづらいのだが、複雑な歴史をわかりやすく単純な物語に整理したくなる誘惑に屈しないというメッセージ性もあると感じた。 ヨーロッパ各地でユダヤ系の人びとが自らのルーツにまつわる資料を集めたエミグレ(移民)図書館をつくっていたこと、ナチがそうした図書館から重点的に略奪し、残すべき本の選定にユダヤ人を使っていたことを知った。「紙部隊」と呼ばれたその知識人グループの一人は、「私たちは自分たちの魂の墓を掘っている」という言葉を残したという。ナチは本を奪うことでユダヤ人から文化的な拠り所を奪おうとしただけではなく、それを自分たちに都合よく読み変えることで歴史を修正しようとした。歴史からユダヤ人を根絶やしにしようとしたのではなく、〈滅ぶべきユダヤ人の歴史〉を新たに創出しようとしたのだ。その欲望はおそらくナチに限ったものではなく、エミグレ図書館にナチの手が伸びたとき、その国のマジョリティが協力することもあった。 話は変わって、オカルト研究に熱心だったことで有名なヒムラーの話も面白かった。ヒムラーには魔女狩りにあった祖先がいたので、異端審問を「北方民族へのユダヤ人の陰謀」とみなしていたという。小説家にカトリシズムを攻撃する内容のヤングアダルト向け作品を書かせて、少年少女を洗脳しようともしていたらしい。現在その略奪コレクションは魔女研究者の一級資料とされていて、ナチは「魔女に好意的な、ヨーロッパで最初の、唯一の政府」と言われている。これがフィクションなら面白がって話は終わるが、実在してたんだからめちゃくちゃだ。 また、読みながらゼーバルトの小説『アウステルリッツ』をずっと思いだしていた。本書ではパリで略奪された本を奴隷労働者たちが仕分けした倉庫の一つに、「ギャラリー・アウステルリッツ」と呼ばれるものがあったと紹介されてもいる。蔵書票を剥ぎ取られ、略奪本という出自を消すように目録を書き換えられ、忘れ去りたい負の記憶として図書館で眠る本たちは、あの小説の主人公アウステルリッツそのものだと思う。 実は最初は装幀に惹かれ、パラッとひらいた第一章冒頭にガザと地名がでてくるのを見て腰を据えて読むことを決めたのだが、ロシアとウクライナの動向を含めてどうしようもなく2024年の今に繋がっている読書だった。

Posted byブクログ

2024/01/20

本を焼いたのは知られているが占領地でユダヤの本を片端から集めていたのは知られていまぜんでした。 その奇妙な性癖についての本です。 善悪からはちょっと身を引いて書いています。 集められた本が今どうなっているのかを同時にレポートした書き方がすぐれています。 また、ナチスのユダヤ...

本を焼いたのは知られているが占領地でユダヤの本を片端から集めていたのは知られていまぜんでした。 その奇妙な性癖についての本です。 善悪からはちょっと身を引いて書いています。 集められた本が今どうなっているのかを同時にレポートした書き方がすぐれています。 また、ナチスのユダヤ人差別の「思想」がどのようにして起こっていったかがくわしくわかりやすく書かれています。 ユダヤ人差別がナチス、ドイツだけの問題ではなかったことが、ナチスの蛮に世界が震撼した理由なのだとわかります。 ユダヤ人への差別を持っていない日本人がひどいというのと性質が違うのです。

Posted byブクログ

2019/10/04
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

フリーメイソンは実際にはナチにいかなる政治的脅威も与えなかった。ほとんどの結社は政治に全く無関心だった。だが、ナチの終末論体世界観の中で、フリーメイソンはユダヤ人の世界的陰謀において特別な昨日を果たしているとみなされ、秘密結社が何世紀にもわたってドイツを征服しようとたくらんでいるとされた。

Posted byブクログ

2019/09/15

 本年の春にテッサロニキを訪れたとき、この地はアリストテレスやアレクサンドロス大王ゆかりのギリシア第二の都市と称揚されるわりには荒廃した印象が拭えず、不思議な思いがしたものであった。ところが図らずも本書には、そのよってきたる原因が記されていた。  第二次世界大戦でナチスの占領され...

 本年の春にテッサロニキを訪れたとき、この地はアリストテレスやアレクサンドロス大王ゆかりのギリシア第二の都市と称揚されるわりには荒廃した印象が拭えず、不思議な思いがしたものであった。ところが図らずも本書には、そのよってきたる原因が記されていた。  第二次世界大戦でナチスの占領されるまでは、テッサロニキは過去何百年も世界最大のユダヤ人都市であった。つまりユダヤ人がマジョリティであり、そのもとで文化、経済が花咲く唯一の都市だったのである。第二次世界大戦勃発の時点でユダヤ人は5万を数えたが、この大戦を生き延びたユダヤ人はわずか2~3000人だったそうである。ナチスはユダヤ人を虐殺しただけでなく、ユダヤ文化の根幹となるタルムードをはじめとするあらゆる文献、古史料を略奪、焚書に処し、シナゴーグや墓地をすべて破壊して、ユダヤ人の痕跡を消したのである。現在のテッサロニキの荒廃した印象は、その破壊の残滓がもたらしたものであった。  似たような運命に見舞われた都市はワイマールやミュンヘン、フランクフルト等のドイツ国内はもとより、ポーランド、リトアニア、オランダ、さらにはローマ、パリ、プラハ‥‥とヨーロッパ各地に及ぶ。本書はこれらの地で行なわれたユダヤ文献の略奪や抹殺を実行した組織の実態、及びその規模と方法の一端を明るみに出したという点だけでも特筆に値する一書といえるだろう。

Posted byブクログ