専門知は、もういらないのか の商品レビュー
無知浅学層による専門家への疑念・敵愾心に基づく発言が、ネットによって拡大・影響力を持っていることを嘆く本。 現状分析+愚痴の繰り返しで、内容以上に長く感じるが納得は得られる。もうちょっと纏めてもらえれば、半分のページにできたような気も。 ボヤキの部分を飛ばしながら、うまく速読する...
無知浅学層による専門家への疑念・敵愾心に基づく発言が、ネットによって拡大・影響力を持っていることを嘆く本。 現状分析+愚痴の繰り返しで、内容以上に長く感じるが納得は得られる。もうちょっと纏めてもらえれば、半分のページにできたような気も。 ボヤキの部分を飛ばしながら、うまく速読するとよい。
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Chat GPTが使いこなされるようになると、恐らく専門知に対する社会の中での扱いは、更に変わってくる。ハルシネーションを見抜けず、しかし、自分も議論に参加できる資格を得たようなつもりになり、やることなす事批評したがる層が増えるだろう。中野信子の講演で、こうした自粛警察的な人間の...
Chat GPTが使いこなされるようになると、恐らく専門知に対する社会の中での扱いは、更に変わってくる。ハルシネーションを見抜けず、しかし、自分も議論に参加できる資格を得たようなつもりになり、やることなす事批評したがる層が増えるだろう。中野信子の講演で、こうした自粛警察的な人間の行動は脳科学的に解明されているものとの話があった。コロナ禍以前にも直面していたが、更に傾向が強まっている。 民主主義社会は、あれこれ意見の出る公共空間があり、常に既成の知識に挑戦しようとする特徴がある。熟議の責任を負うのは、その結論を導いたマスである。孤独な正解者を社会的にリンチした後、それを知らずに呑気に破滅していく世界も、実は我々と隣り合わせだ。それだけ、民主主義や数の暴力は危うい。新聞の購読率は高齢者の消費傾向に救われ急激な低下はしていないが、新書のベストセラーは日本人口の1%、読解し、思考する層はその程度で、多くは与党と野党のマニフェストの違いや税金の用途さえ知らず、必死に働き、のんびりエンタメコンテンツを浴びる日々を送る。 専門知は必要だが、それが開放され、ネット経由で気軽に取得でき、大衆が大好きなお喋りやリンチへの参加券を手にし易くなった事には相応の危険がある。そもそも専門知とは定義を絞り込む過程で専門用語への置換を何層にも重ねる事で、原理、法理のフォーミュラを美しくした結果、醸成されるという性質を持つ。限定合理的な参加券の発行枚数が増え、数の暴力で査読を経た論説を覆しながら、反知性が市民権を得ていく事は恐怖だ。
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私が子供の時にはすでに「大学のレジャーランド化」が言われていたが、アメリカもそれほど変わらないようだ。平成に入ってからの日本の停滞は、大学が人材育成機関として機能しなかったことの証左であると思われるが、アメリカもそうなるのだろうか。
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思っている以上に反知性主義的な振る舞いをしているなと省みることになる。知は本来属人的ではない筈だ。本来、知の前に謙虚になるはずが、だからこそそれを理解できる自分を天才だと勘違いする。そこまで行かなくても、権利と知を混同して全ての意見には価値があるとするナルシシズムこそこの状況を生...
思っている以上に反知性主義的な振る舞いをしているなと省みることになる。知は本来属人的ではない筈だ。本来、知の前に謙虚になるはずが、だからこそそれを理解できる自分を天才だと勘違いする。そこまで行かなくても、権利と知を混同して全ての意見には価値があるとするナルシシズムこそこの状況を生んでいる。当たり前だが、無意味で浅はかな意見もあれば、本物の知もある。理解もあれば誤解もある。それらが等価であるはずがないのだが、こういうことを言うと嫌われるのでひとは、こういう当たり前を否定しようとする。 しかし本当の問題は、だれが浅はかさ、もしくはその逆を評価するのかという点に帰する。つまり、ひとは誰でも自分の下す評価を疑い得ない。
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表紙は最高。考えないことをめちゃくちゃ馬鹿にしてる。 専門家の立場で書かれた本なのに、感情や推論で書かれていた大半にはなんとも。もともとブログだったものに加筆したらしく、勢いは伝わってきた。それだけ怒ってるってことみたい。 専門家の定義で強く賛同できたところとして、「自分の専門に...
表紙は最高。考えないことをめちゃくちゃ馬鹿にしてる。 専門家の立場で書かれた本なのに、感情や推論で書かれていた大半にはなんとも。もともとブログだったものに加筆したらしく、勢いは伝わってきた。それだけ怒ってるってことみたい。 専門家の定義で強く賛同できたところとして、「自分の専門における最悪のミスとその避け方を知っている」「非常に狭い分野でありとあらゆるミスを経験した」人間。ものごとを多少知ってる人間を専門家と見なすことのおかしさは、考えるべき。 考えることをやめると、飛びつくのは陰謀論。物事のつながりが理解しやすいし、秘密を分かった気にもなれるし、何より面白い。けど大切なのは、社会ってそんな単純な構造はしていないってこと。
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所感→ https://twitter.com/lumciningnbdurw/status/1316630494356799488?s=21
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主にアメリカ現代社会の実情を題材に、市民の専門知(専門家)への態度や接し方がいかに変わってきたか、そしてどんな問題があるかが書かれた著作。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
『専門知は、もういらないのか 無知礼賛と民主主義』トム・ニコルズ 訳:高里ひろ みすず書房 2019.7 記録:2020.1.28 トム・ニコルズ アメリカ海軍大学校教授 専門はロシア・核戦略・NATO問題。 カバー画 岳敏君『太陽』 https://www.pinterest.jp/wanxiaowanwan/yue-min-jun岳敏君/ 麻にモナ・リザを描いて夜にヘリコプターの設計をしたダヴィンチ エッグエッド:知識人を揶揄する言葉。 90年代前半カリフォルニア大学のデューズバーグ教授含む少数のエイズ否認主義者のグループが登場。 証拠はなく珍説で終わるはずが南アフリカ共和国のムベキ大統領の関心を引いた。 エイズはウィルスが原因ではなく不健康が原因とする考えに飛びついて薬などの支援を断った。 結果30万人以上が死亡した。 ジム・キャリーは反ワクチン派なのか。 確証バイアス。自分の考えを裏付ける情報だけを受け入れる心的傾向だ。P17 レインマン。自閉症のレイ。サヴァン症候群。墜落事故を起こしたことがある航空会社をすべて暗記しており、飛行機に乗れない。 車でのアメリカ横断の方が危険だが、そちらを選ぶ。 我々はレイと同じところがある。 ほとんどの人間は自分が例外的に幸運とは思えない。P65 確証バイアスは一種の生存メカニズム。 2014年に某大学院生が同性婚に反対する人がその問題を本物の同性愛者と議論すると意見を変える確率が上がる主張をしたが、 データは嘘だった。指導教官は研究結果を認めたかったと認めている。 どんな議論も長引くとヒトラーやナチスドイツが引き合いに出されることが増えるゴドウィンの法則。 スタージョンの法則:あらゆるものの90%はクズだと。P130 バックファイア(逆発)効果:自分の意見が間違っているという証拠が示されても認めるよりも元の考えを強化する心理。 スタージョンの法則からは逃れられない。 レーガンが再選したら核戦争の危機が数学的に高まると、断言したカルディコット博士。オーストラリア出身の小児科医。 核の懸念は『渚にて』に触発されて、子供の治療どころじゃないと、軍縮と核政策の論争で発言力を持つようになった。 関連する実績と経験はなかった。10年近く在米して反核活動のコミュニティを代表する常連となった。 トム曰く自分の専門外の意見を求められて辞退できる専門家はあまりいない。 2016年のイギリスがEUから離脱するブレグジット論争。 移民排斥主義のイギリス独立党党首のナイジェル・ファラージ、離脱反対の専門家を攻撃した。 専門家への非難は有権者の政治的無知と知識人エリートへの本能的な反感につけこむ戦略の一環だった。 トランプはオバマがアメリカ生まれでないとしてアメリカ市民の証明を要求したバーサーズの初期メンバーの一人だった。 CSルイスのスクルーテイプ。地獄の高官。民主主義を呪文のように振りかざして個人が操れるという。
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もちろん、専門知は必要だという立場の本である。 アメリカの本だが、日本もそう変わらない。最近、当該分野では自明とされていることや少し考えれば分かりそうなことを指摘すると、クライアントが感情的になって拒絶反応を起こすことがあった。それも一回や二回ではない。 インターネットの影響で色...
もちろん、専門知は必要だという立場の本である。 アメリカの本だが、日本もそう変わらない。最近、当該分野では自明とされていることや少し考えれば分かりそうなことを指摘すると、クライアントが感情的になって拒絶反応を起こすことがあった。それも一回や二回ではない。 インターネットの影響で色々な情報にアクセスできるからだと思っていたが、もっと根深い問題のようだ。 「確証バイアス」、自分にとって都合の良い情報を集め、意に沿わない情報を取り入れないという心的傾向があることは聞いたことがあった。この傾向をもとに、大学、インターネット、メディアがそれぞれ一般人の反知性主義、ナルシズム、冷笑主義を助長した。 政治的には一人一票で平等であっても、一般人の意見とその分野の専門家の意見が平等であるわけがない。 当たり前といえば当たり前の指摘だが、もはや「非民主的なエリート主義」の意見だとして、そう理解してもらえない現状がある。 専門家の軽視は結局は一般人にも不利益になる。 一読の価値はあると思う。読みやすいし。
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本書を読むような人は本書の言っている事にとても共感できるのだろうけれど、 本書を読まないような人に本書の内容を受け入れてもらう方法を考えると途方に暮れてしまう。 本書はアメリカの話だが、日本にもほとんどそのまま適用できるだろう。
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