空に牡丹 の商品レビュー
コロナのせいで今年の隅田川をはじめてする花火は中止になった。なんて虚しい世界になってしまったのだろう。慰霊や疾病退散の意味をもつ花火には人の心を穏やかにする力があり、静助はそんな花火に見せられて一生を生き抜いた。 ちなみに同時に読んだ瀬尾まいこの「戸村飯店…」と前半の舞台設定が非...
コロナのせいで今年の隅田川をはじめてする花火は中止になった。なんて虚しい世界になってしまったのだろう。慰霊や疾病退散の意味をもつ花火には人の心を穏やかにする力があり、静助はそんな花火に見せられて一生を生き抜いた。 ちなみに同時に読んだ瀬尾まいこの「戸村飯店…」と前半の舞台設定が非常に似通っていた。蔵書から適当に数冊手に取って読み始めるのに、何故かシチュエーションや世界観が似ている小説に当たってしまう。とても不思議だ。
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山下清の表紙絵に釣られて買った。柔らかい文体なのでさらりと読める。本を通して淡々としていて山場とか、そう言うものは言われてみればない。でも人生、振り返ってみれば多くの人は本になるようなものでもないし。でも静助さんはみんなが覚えている。夏の夜に読むのに一興。
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この本、なんで読もうと思ったのかなぁ。大島真寿美だったからとは思うのだが、他には何かなぁ。 明治初期、旧名主の次男・清助が、東京で観た花火に魅せられ、花火作りに身代かけて夢中になっていくという物語。 しかし、何だかあっさりしているな。大きな事件が起こるわけでもなく、時代の波に翻...
この本、なんで読もうと思ったのかなぁ。大島真寿美だったからとは思うのだが、他には何かなぁ。 明治初期、旧名主の次男・清助が、東京で観た花火に魅せられ、花火作りに身代かけて夢中になっていくという物語。 しかし、何だかあっさりしているな。大きな事件が起こるわけでもなく、時代の波に翻弄されるわけでもなく、花火作りにのめり込んで傍から狂人扱いされるわけでもなく。 東京で妾に焦れ込む長男に代わり曲がりなりにも家を守る次男に対し、周囲はその心情に寄り添うでもなく唯一の道楽には仕方なく目を瞑るといった体で進む話に、読者の私も同じような心境で読み進めてしまう。 清助も悪い人間ではなく、読んだあと口も悪くないので★★★にしたけど、あまり深みもなく、本音は2.5といったところ。 表紙の山下清を見れば、コロナのせいで花火大会がない夏の寂しさがより募る…。
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先祖の清助さんは大の花火道楽。金に糸目をつけず花火に費やし、かつては大地主だった家系を落ちぶらせてしまった。だけどそんな清助さんのことを悪く言う人はいない。彼の道楽のおかげで、何も無い普通の日にも花火を楽しめた村の人たち、彼ののんびりとした性格に癒され(時には困らされ)た家族、皆...
先祖の清助さんは大の花火道楽。金に糸目をつけず花火に費やし、かつては大地主だった家系を落ちぶらせてしまった。だけどそんな清助さんのことを悪く言う人はいない。彼の道楽のおかげで、何も無い普通の日にも花火を楽しめた村の人たち、彼ののんびりとした性格に癒され(時には困らされ)た家族、皆が清助さんを好きだったから。 花火に魅せられた男の人生が時代の流れを反映させながら描かれています。読んでいて私も清助さんをどんどん好きになる。人生は本当に花火のようなものかもしれませんね。自分自身だけでなく周りの人から見ても綺麗な花火。そんな人生を送れたらいいなと思います。
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戦時中の焼夷弾を思い出すから花火は嫌いと言う人がいるのは聞いたことがありますが、大抵の人は花火はが好きですもんね。静助さん、本当に花火のように人々の心の中に良い思い出として残っているんですね。
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花火に夢中になった一人の男の一生。 特にドラマティックな展開がある訳ではない。 御一新からの激動の時代を感じながらも、田舎町での暮らしが淡々と語られる。 それが却って新鮮で、よかった。 親戚の話を聞くように、ふと気が向いたらまた読んでみよう。
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読み終わったときに,なんかホッコリするような,それでいてもの悲しいような,そんな感じのする作品. 花火に入れ込んでしまったせいで身代を傾けてしまった,少し浮き世離れしたところのある,大地主(東京から遠くない村の元名主)の次男坊の静助さんのお話. こう書くと,ただの愚者の話と思わ...
読み終わったときに,なんかホッコリするような,それでいてもの悲しいような,そんな感じのする作品. 花火に入れ込んでしまったせいで身代を傾けてしまった,少し浮き世離れしたところのある,大地主(東京から遠くない村の元名主)の次男坊の静助さんのお話. こう書くと,ただの愚者の話と思われるかもしれませんが,さにあらず. 静助さんは,ご一新のあと急激に変わっていく風潮やその流に乗って流されていく人々に違和感を感じる鋭い感性を持っているし,名主の代わりもある程度きちんと務めている.ただ,やっぱり何か(おそらく財産を守ろうとする執着心)が欠落していて,周り人たちの心を慰めようと思っていた花火に入れ込んでしまう.だけど,そんな静助さんだから,周りの村人からも,残された子孫たちからも悪くいわれないし,いつまでも親しみを持って思い出してもらえている. うーん,空に牡丹.読後感は,花火を見た後の気持ちかな.
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「わたしのご先祖様には花火に魅せられ、財をつぎ込んだ静助さんという人がいる――」 幕末、江戸からそう遠くない丹賀宇多村の大地主・可津倉家の次男坊として生まれた清助さん。子供の頃に隅田川で見た花火の美しさに心奪われ、長じて後には職人を雇い、資金を援助し、外国から入ってくる目新しい...
「わたしのご先祖様には花火に魅せられ、財をつぎ込んだ静助さんという人がいる――」 幕末、江戸からそう遠くない丹賀宇多村の大地主・可津倉家の次男坊として生まれた清助さん。子供の頃に隅田川で見た花火の美しさに心奪われ、長じて後には職人を雇い、資金を援助し、外国から入ってくる目新しい薬品を買い集め、より色鮮やかで大きな新しい花火を作り、打ちあげることに夢中になる。 やがて静助さんの花火は可津倉流と呼ばれて一世を風靡するが、かつての名家は時流に乗って始め、一度は成功した洋物店が倒産。長男は失踪し、田畑を少しずつ失い、ゆっくりと凋落していった――。 『空に牡丹』は、静助さんという花火道楽で家を傾けた愚かなひとと、彼を支えた一族の人びとの物語だ。日本中がこぞって近代化にまい進し、富国強兵を掲げ、どこに向かうかもわからないままにひたすら前へと突き進んでいた時代から一歩引いて、美しいものだけを追いかけ、いろいろな人に迷惑をかけ、それ以上に丹賀宇多村の人びとに花火とともに「いい夜」の幸福な記憶を残した。 それが「見ようによっては凡人以下」と評される静助さんの、どうにも憎めない愛される理由なのだろう。 静助さんは裕福な家に生まれ、家を継ぐわけでもなく、花火に財産をつぎ込んで、その人生は至極呑気に見える。しかし楽しさもあれば、苦しみもあるのが人生。決して良いことばかりではなかった。そして楽しさの後に一抹の寂しさを連れてくる花火、まるでそのもののように、可津倉家が代々築きあげてきたものは失われ、静助さんがみんなと作りあげた可津倉流は名前も実態も残らなかった。 けれど話すときには思わず笑顔になってしまう、素敵な思い出が残った。静助さんのようなひとが周囲の人に支えられ、受け入れられていたあの頃の丹賀宇多村はいい時代、いい村だったに違いない。きっと、東京よりも。そして時代は変わった。けれど静助さんは語り継がれる。もう誰も静助さんを知らないけれど。もう誰も丹賀宇多川の河原で打ち上げられた花火を覚えていないけれど。静助さんは語り継がれるのだ。 ひとつの家の没落の話。ひとつの花火の流派が生まれ、短い間に跡形もなく消えていった話。虚しいはずなのに読んでいてとても幸せな気持ちになる、不思議な読書体験をもたらすファミリー・ヒストリー。読後の感想は「いい花火だった」。この言葉に尽きる。
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