仙台藩士幕末世界一周 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
1860年に日米修好通商条約批准書交換のためにアメリカへ渡った使節団の一人、玉蟲左太夫の航海日記。太平洋を渡ってワシントンで用を足した後アフリカ・インドを経由して世界一周して日本に戻ってくるまでを記録している。正直すぎる本音は非公開の別巻に分けて書いたりしているが、アメリカの蒸気機械や立派な街並みに圧倒されたり、アメリカ人の顔色を窺って臆病な上司の叱責に不満を抱いたり、ナチュラルにアフリカ人を土人とさげすんだり、中国人が黒人奴隷のように虐げられる様に憤ったりと素朴な感想を綴っている。現代語訳で読みやすいし面白い。中国人と普通に漢文で筆談していたりして教養の高さにびっくりした。 儒教思想の日本人使節団は上下の礼がなっていないアメリカ人を白い目で見ていたようなのだが、左太夫はその分アメリカ人は情が厚いから艦長から部下まで気持ちでつながっていて有事に一致団結して戦うことができるのだ、と評価していた。当時の日本人としては頭脳明晰、先進的な視点の持ち主だったのだろうが、まず最初に不義理をする形で地元を出奔していたり、この旅でも上司への不満を隠しきれていないあたり世渡りはあまりうまくなかった様子。最期には戊辰戦争の敗戦処理で必要以上に厳しい処分を受けて切腹となる、というのもそんな印象だ。巻末では左太夫の子孫の方がとても悔しそうにその顛末を書いているが、確かに生きていれば間違いなくその後の世も活躍した人だし、一族の無念は大きいんだろうと思ったりした。
Posted by
下級藩士の日記をそのまま書き起こしたもの。所々に注釈があるのも、この本を面白くしている。中国人とは漢字筆談で意思疎通したり、当時の日本人が欧米人にどう思ってたか、などとても興味深い。 仙台藩士が一人で世界一周をした訳ではなく、国策として日本が集団視察をしている。私はタイトルから仙...
下級藩士の日記をそのまま書き起こしたもの。所々に注釈があるのも、この本を面白くしている。中国人とは漢字筆談で意思疎通したり、当時の日本人が欧米人にどう思ってたか、などとても興味深い。 仙台藩士が一人で世界一周をした訳ではなく、国策として日本が集団視察をしている。私はタイトルから仙台の話を期待してしまったが、仙台の話は皆無。 「幕末の下級侍でも、世界一周してこんな事考えてました」的なタイトルにした方が良いのでは、と考える。
Posted by
著者は1860年日米修好通商条約批准書交換の為、公式使節団の一書生としてアメリカに渡り、さらにアフリカ、ジャワ、香港と世界を一周し10ヵ月後、横浜港に帰着した。その間の日記がこの本である。英語もまったく知らない著者がアメリカの民主主義と物質文明に驚き、アフリカの未開さに呆れ、香港...
著者は1860年日米修好通商条約批准書交換の為、公式使節団の一書生としてアメリカに渡り、さらにアフリカ、ジャワ、香港と世界を一周し10ヵ月後、横浜港に帰着した。その間の日記がこの本である。英語もまったく知らない著者がアメリカの民主主義と物質文明に驚き、アフリカの未開さに呆れ、香港では中国人が黒人と同じように白人に鉄の棒で打たれながら働いているのを見て憤るのである。暴風雨では恐怖におののき、アメリカ人の情が厚いことに袖を濡らし、同行した日本の上官らがアメリカの顔色ばかり伺い、自分達にはえばり腐っていることや、同行した皆に好奇心が少ないことを嘆いている。当時の様子が良くわかる面白い日記である。
Posted by
本書は、仙台藩の下級士・玉蟲左太夫が、万延元年(1860年)に日米修好通商条約批准書交換のためにアメリカ軍艦ポーハタン号で世界一周をしてきた文書記録である。こんな記録が残っていたのか!と、とても興味深くおもしろく読めた。 同時期に咸臨丸で渡米した勝海舟は有名だが、詳細な記録は...
本書は、仙台藩の下級士・玉蟲左太夫が、万延元年(1860年)に日米修好通商条約批准書交換のためにアメリカ軍艦ポーハタン号で世界一周をしてきた文書記録である。こんな記録が残っていたのか!と、とても興味深くおもしろく読めた。 同時期に咸臨丸で渡米した勝海舟は有名だが、詳細な記録は読んだ記憶は無い。おそらく無いのだろう。本書は、まるでドキュメンタリーのように詳細に玉蟲左太夫の体験をつづっていく。これは、福沢諭吉の「西洋事情」に匹敵する記録文書だという、巻末の星亮一氏の解説に同感する。 幕末期の下級藩士に、これほどの知性があり、好奇心に満ち、文才がある人材が存在したことに驚く。現代に生きるわれわれは封建制度を否定的に評価することが多いが、江戸時代にも、これだけのすばらしい知性が存在したのだと感じた。 玉蟲左太夫が、これまで知られなかった理由も本書で明らかにされている。帰国後、仙台藩の枢要の地位についた玉蟲左太夫は戊辰戦争という激動の中で奥羽列藩同盟の敗戦の責任を取らされて切腹斬首という極刑をうける。朝敵とされるなかで歴史から抹殺されたのだろう。 本書は、玉蟲左太夫の子孫である山本三郎氏が、現代文に翻訳したものであるので、違和感無くスムーズに読めた。本書は大いに評価できる本であると思う。 本書を読んでのもうひとつの感想は、山本三郎氏の現代文翻訳があまりにも読みやすすぎることである。玉蟲左太夫が残した「航米日録」の高い価値を考えると、「航米日録」はもっと研究される価値があるとも思った。
Posted by
- 1