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リラと戦禍の風 の商品レビュー

3.9

16件のお客様レビュー

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2022/03/29
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

人と人、国と国は何故、戦わなくてはいけないのか。 今現在、世界で起こっている争いも同様、こういった無辜の人の人生が失われ続けているのに何もする術がない。 上田さんの本はいつもSFめいているのでこの第一次世界大戦最中のひとりの兵士から始まる戦争のストーリーも多分違う印象で~との予感通り、魔物やら不死身の伯爵やらで内容が深い。それでも当時のヨーロッパ情勢、国と国の諍い、国境など、社会主義思想まで細やかに私の貧弱な頭に知識を注入させて下さる。第一次世界大戦の後は第二次世界大戦もあったという紙の上での知識はあったので、登場人物たちのこれから出会うであろう未来に辛い思いを抱いてしまうけれど、その当時の精一杯の生活に共感を覚える。 魔物となり、姿は変わって不死の世界を今現在も眺めているであろう、イェルクという若者にある意味同情してしまうのは、世界のため、人間のため、まだまだ働いて頂かなくてはいけないから。本当にそんな神のような存在あればいいけれど。 SF、フィクションとして普通に読み終えてしまうには勿体ない程の素晴らしい一冊でした。

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2021/12/17

第一次世界大戦の時代を舞台にしたファンタジー。魔物が暗躍する世界を描いているが、魔物が主役ではないと思った。戦争が人を破壊して人間ではなくなっていく、一方で魔物は魔物の欲求を満たすべく暗躍するが、その方がよほど人間らしいという逆転現象が起こる。ドイツの兵士だったイェルクは不老不死...

第一次世界大戦の時代を舞台にしたファンタジー。魔物が暗躍する世界を描いているが、魔物が主役ではないと思った。戦争が人を破壊して人間ではなくなっていく、一方で魔物は魔物の欲求を満たすべく暗躍するが、その方がよほど人間らしいという逆転現象が起こる。ドイツの兵士だったイェルクは不老不死の魔物になる。人間を救うためだ。魔物のニルは戦争の“無”を表現していると感じた。リラはポーランドの少女。吸血鬼をモチーフにした伯爵と住んでいる。両親はいない。イェルクはリラの護衛として伯爵に雇われている。改めて作品名を見て、戦争でもっとも被害を被るのはリラのような子供なのだなと再認識させられる。

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2021/11/03

たまたま第一次世界大戦について大枠を理解できてる状態だったので面白く読めたが、全く知識が無い状態だと、理解できない細部も多いと思う。

Posted byブクログ

2020/02/02
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

久々に上田早夕里の小説を読んだが、やっぱオモロい。 日本では、第2次世界大戦(太平洋戦争)を舞台に描かれた小説というのは、枚挙にいとまがないほどあまたあるが、第一次世界大戦(欧州戦争)が舞台となると、ずいぶん減るように思う。 日本人が、第一次世界大戦を舞台にした小説を描く、それだけでもなかなかなチャレンジやのに、なんと吸血鬼系ダークファンタジーで色づけてきたという…なんという目の付け所! しかも、混迷を極める当時のヨーロッパ情勢を、オスマン帝国勃興期やナイチンゲール時代まで遡って丁寧に説明されている、まったく興味がない人にはそれでもむつ開始かも知れないが、高校で世界史を選択した程度の知識があれば、丁寧につぶさに書き込まれた文章で、当時のヨーロッパが良く分かり、より一層小説世界に没頭できる。 戦場シーン、銃後の世間、これらの描写は重苦しく、全体的には重苦しい雰囲気が立ち込めているのだが、主人公やヒロインのリタ、魔物たちのやりとりがどこか軽妙で、決して絶望だけが印象に残る小説ではない。 …しかし、本当にどこまで人間ってのはおろかなんだろうか。ヨーロッパ中の人間が悲惨な目にあい、殺し合い、傷つけ合い、病気になり、不味い飯を少ししか食えなくなり、損な思いしかしてない戦争を、それでも続けるおろかさ。 戦争という選択肢は一番の悪手であって、それを選択する政治家は無能。まして「戦争をしよう」とすすんでその悪手をチョイスする政治家など下の下である。戦争を押し付けてるヤツに限って、自分は安全地帯で美味いものを食って惰眠をむさぼっていることを忘れてはならないと思う。美味いものと惰眠は人類全員がむさぼれるようにする…それこそ、あるべき人類の未来図ではないか? 「どの国が優れていて、どの民族が優秀か」…そんなことを競うのはもう終わりにしよう。まぁ、スポーツならエエのかも知れんけど…。

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2019/11/26

まことにもってお勉強が足りておらず、サラエヴォ事件から第一次世界大戦の勃発にいたる経緯なるものがてんで分かっていない。よって、帝国書院の高等地図でヨーロッパ国境の変遷図をにらめっこしながら読み進める。てなわけで、やたら時間がかかるし、史実に沿いながらも主人公のほか主要な登場人物が...

まことにもってお勉強が足りておらず、サラエヴォ事件から第一次世界大戦の勃発にいたる経緯なるものがてんで分かっていない。よって、帝国書院の高等地図でヨーロッパ国境の変遷図をにらめっこしながら読み進める。てなわけで、やたら時間がかかるし、史実に沿いながらも主人公のほか主要な登場人物が魔物とくれば、突飛な展開に浸りきれず仕舞いだ。ちらりとナイチンゲールに違いない人物の描写があり、偉人の伝記を読んだ中で最も尊敬するお方であるので、小説でのご活躍を期待して胸が躍ったが、残念ながら極めてわずかばかりの人物案内であった。もっと歴史を学んでおかないと楽しめないなと、いまさら反省しきり。

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2019/11/07

戦争と魔物のお話。 第一次世界大戦のヨーロッパの歴史物でした。 知らなくてはいけないことでしょうが、娯楽として読んでいるのでファンタジーだけの方が好き。 最近不死とか、人より長い寿命が辛いみたいな作品に触れているけど、イェルクはやることあるから大丈夫なのかな。

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2019/08/28

ドイツを中心とした第一次世界大戦のクロニクルに、”魔物”設定をうまい具合に調合したダークファンタジー(ワラキア公国出身の伯爵、といったら例の魔物ですね)。 オーシャンズクロニクルシリーズと比べると、ちょっとジュブナイル色が強め。近代史の知識が薄い人(=自分)も、違う国の出自をもっ...

ドイツを中心とした第一次世界大戦のクロニクルに、”魔物”設定をうまい具合に調合したダークファンタジー(ワラキア公国出身の伯爵、といったら例の魔物ですね)。 オーシャンズクロニクルシリーズと比べると、ちょっとジュブナイル色が強め。近代史の知識が薄い人(=自分)も、違う国の出自をもった人間、魔物に思い入れを持って読むことができる。史実に忠実な部分でも、ナイチンゲールやロダンと芸術に翻弄されたカミーユ・クローデルがさらっと出てきてそこもまた美味しい。

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2019/08/11

第一次世界大戦のさなか、悲惨な戦場の只中にいたイェルクは「伯爵」と呼ばれる不死者に出会い、救われる代わりにリラという少女の護衛を依頼される。 救いのない戦争と抗えずにもがく人間たち、そしてそれらを俯瞰する「魔物」の姿を描いた、歴史ファンタジー小説、です。戦争フィクションにファン...

第一次世界大戦のさなか、悲惨な戦場の只中にいたイェルクは「伯爵」と呼ばれる不死者に出会い、救われる代わりにリラという少女の護衛を依頼される。 救いのない戦争と抗えずにもがく人間たち、そしてそれらを俯瞰する「魔物」の姿を描いた、歴史ファンタジー小説、です。戦争フィクションにファンタジー要素が介在することで、戦争をより第三者目線で捉えられ、その愚かしさと虚しさをよりじっくりと感じられるように思いました。 「魔物」という、下手したら浮き上がってしまいかねない存在を全面的に「あるもの」として描いていることで、広く視界を取った話になっているように感じます。兵士の一目線ではたどりきれない戦の流れや、過去の情景も描かれることで、より繰り返されている戦というものに秘められた人間の業、というのを知れたような気にもなれたのです。 そのやりきれなさや辛さを抱えた中、毅然とまっすぐに風を起こして生きていくリラの姿がすがすがしく、頼もしくも思えました。

Posted byブクログ

2019/07/31

3.5。雰囲気はよく出てるのに、話を小さくまとめてしまっている印象で残念。もっと膨らませてもいいのに。書ける筆力あるのに。この作者、似た印象をもつ本が幾つかある。勿体無いなぁ(まあ、膨らませて書くなら違う話の世界観で優先してほしいのがあるけど)

Posted byブクログ

2019/07/28

帯に歴史ファンタジーとあるが、WWⅠの歴史小説として読んだ。 戦争ものは全体を扱おうとすれば被害は数字となり悲惨さの実感は乏しくなり、個人に焦点をあてればリアリティが出る一方で局所的になったり主人公の属する陣営に偏った視点となる。 しかし、この小説ではファンタジー要素を付加す...

帯に歴史ファンタジーとあるが、WWⅠの歴史小説として読んだ。 戦争ものは全体を扱おうとすれば被害は数字となり悲惨さの実感は乏しくなり、個人に焦点をあてればリアリティが出る一方で局所的になったり主人公の属する陣営に偏った視点となる。 しかし、この小説ではファンタジー要素を付加することで、WWⅠのいくつもの国の兵士や残された婦人などの個人を丁寧に描きながら、戦争の大局的な視点での動きの記述もこなしている(といっても戦争全体ではないし、もとよりそれを目指しているとも思わない)。 また、ファンタジー要素は史実の流れを変えるものでも史実と混濁させるものでもなく、しかし小説の中では史実にピタリと嵌るように織り込まれている。 WWⅠの時代の流れ、戦場や街の空気、様々な立場の大衆の生活や心情を感じることのできるとてもよい一冊だった。

Posted byブクログ