おにぎりの文化史 の商品レビュー
大変面白く、貴重な本だった。2014年企画展「大おにぎり展」の図録がやっと出たのか、と思ったら、それを基にした普及版だった。もはや幻の図録だったので、それはそれで素晴らしい。 おにぎりの歴史は、即ち日本人はどうやってお米を食べてきたのか、という大問題に直結する。おにぎりの文献記...
大変面白く、貴重な本だった。2014年企画展「大おにぎり展」の図録がやっと出たのか、と思ったら、それを基にした普及版だった。もはや幻の図録だったので、それはそれで素晴らしい。 おにぎりの歴史は、即ち日本人はどうやってお米を食べてきたのか、という大問題に直結する。おにぎりの文献記録を辿る第1章〜2章は、戦後のおにぎり呼称の変遷や、中世から近世にかけての絵巻物語や浮世絵に登場するおにぎりの姿を記録する。ご飯は主食なので、あまりにも当たり前に存在する。だからみんな、それぞれの地方色豊かなおにぎりを作っていたことの自覚がない。そして、実は国民のイメージが「三角おにぎり」に劇的に変化したのも1980年代で、つい最近のことなのだ。コンビニの普及によって国民意識が「統合」されたのである。つまり、歴史は現代も動いているのだ。また、中国地方だけは、まだ半分くらい「おむすび」の呼称か続いているらしい。そういえば私も「三角おむすび」とか言っている。 面白いのは、世界のおにぎり文化圏は日本以外では、タイ・ラオス・雲南地方だけらしい。粘り気のある米を使う中国や朝鮮半島でも、冷えた米飯を食べる習慣がなく、米飯とおかずを混ぜて食べることが多いのでおにぎりは無いという(韓国のキンパブはどう位置づけるのだろ)。だとすると、おにぎりは基本的に日本人の発明なのではないか? いつから始まったのか? 第3章にご飯や籾の炭化遺物がずらっと並んでいる。これだけのモノをよくも集めたと感心した。そして遺物観察と考察の結果、現存してる確定的な最古のおにぎりは、表紙にもある古墳時代横浜市北川表の上遺跡(6C)のものである事が明らかになった。いくつかの塊がくっついているらしい。しかも竹籠(弁当箱?)に入っていた。 おにぎりは弥生時代から始まっていてもおかしくないじゃないか? しかし、そうでもないらしい。ご飯を握れるように炊くまでには、古墳時代の蒸炊きを待たなくてはならなかったのである。実験考古学の説明が、実にわかりやすく出ていた。 炊飯の方法は、世界的にも大きく分けて6種類だ。 (1)湯取り法(炊き上げる)。途中で湯を捨てて炊き上げる。一部東南アジアで使用されていて、弥生時代もこうだったようだ。 (2)炊き干し法。現在の炊飯ジャーで炊く方法。 (3)蒸器で蒸す。赤飯・おこわなどはこれ。振り水で補う必要あり。古墳時代はこれだと言われている。 (4)湯取り法(蒸しあげる)。途中ザルなどにあげて蒸す。江戸時代文献にあり。 (5)煮る。お粥(炊き粥)を作るのに、使われる。 (6)炒め煮。西洋のリゾット、ピラフ、パエリアなどはこれ。 あと、チャーハンは炊いたご飯の再利用。雑炊は炊いたご飯の煮たもの。 私は弥生時代は蒸器はなかったのだから、雑炊やお粥が多かったと思っていたが、土器の付着物で他の穀物と混ぜて調理した例はないらしい。だとすると、ご飯を炊くのは、竪穴式住居の外で、かなり慎重に、技術を持って毎日作っていたことになる。感動する。それを高坏の食器を囲んで手づかみで家族で食べていた。パサパサのお米だったから、おにぎりは握れない。しかも、学芸員は三回試してやっとまともに炊けたのである、。そんなに苦労しても、お米が良かったのか?雨の日はどうしたのか?またもや新たな疑問が出てきた。古墳時代になって、やっとかまどを家の中に据えて蒸して炊くことができるようになる。 次第とパサパサ米から粘り気のあるウルチ米に変わって行く。そして弥生時代晩期から個別食器に変わって行く。食卓の情景はこの頃大きく変わったのだ。お箸が使われ始めたのも、この頃の少し後である。弥生時代、ご飯は必ず家族で鍋をつつくように手づかみで食べていた。人生の中で、食事がいかに大きな構成要素だったか、私は想像する。
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横浜市歴史博物館の「大おにぎり展」の企画展示を書籍化。 より「おにぎりの歴史」に焦点を当てた内容となっている。 序章 おにぎりをさがす旅へ・・・遺跡の遺物、絵に描かれたもの? 第1章 進化するおにぎり・・・おにぎりはいろいろ。進化と地域色。 第2章 おにぎり今昔物語・・・過去の...
横浜市歴史博物館の「大おにぎり展」の企画展示を書籍化。 より「おにぎりの歴史」に焦点を当てた内容となっている。 序章 おにぎりをさがす旅へ・・・遺跡の遺物、絵に描かれたもの? 第1章 進化するおにぎり・・・おにぎりはいろいろ。進化と地域色。 第2章 おにぎり今昔物語・・・過去の時代のおにぎりとは? 第3章 はじめてのおにぎり・・・発掘されたモノの正体を探る。 第4章 おにぎりが握れない!?・・・古代の米の品種と調理法。 トピックス有り。執筆者紹介有り。主要参考文献有り。 「おにぎり」を通して、調べることの楽しさを伝える本です。 なんといってもカラー画像の豊富さと説明のわかりやすさ。 大人だけでなく、中・高生(或いは小学高学年も)も興味惹かれる 楽しさが盛り込まれています。 特に、実際に発掘されたモノの調査、当時の土器を復元しての 米の調理を再現実証するのが興味深かったです。 なるほど、現在と米の品種が異なるばかりか、 弥生と古墳の時代によっても違いがあるそうな。 詳細に遺物を研究&調査する、歴史博物館の姿も窺える本です。
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