歪み真珠 の商品レビュー
バロック。 バロックのイメージではどれもとっつけなかったが、どの短編もすっきり終わらない、ファンタジー特有ぽさも出しつつの気持ち悪さを残し、あとのことは読者次第になる。 「奇妙な味」のような。
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※このレビューにはネタバレを含みます
「歪み真珠」とは「バロック」の語源。 ファンタジーとはちょっと違うけど、幻想的な短編集。 んー、あまり好みではないかな。 # ゴルゴンゾーラ大王と草の冠 蛙の王と蛇の女王が出てくるファンタジー的な設定だが、蛙たちがカエルツボカビ症でばたばたと倒れていくというなんとも現代的で現実的なオチ。 # 女神の通過 エドワード・バーン=ジョーンズの「The Passing of Venus」という絵画に着想を得た作品で、宗教絵画にありがちな、これいったい背景はどうなってんのという非現実的な構図をそのまま真正直に受け取って、物語にしたもの。ジョークとしか思えない。 # 娼婦たち、人魚でいっぱいの海 まさにタイトル通りの光景なんだけど、何のことだかよく分からない。 # 歪み真珠 ## 美しい背中のアタランテ 神話の知識が必要。アルゴナウタイは金羊毛を求める船旅で、アタランテは実際には参加したことになっているが、参加できなかった場合の並行世界的な話。だがよく分からん。 ## マスクとベルガマスク よく分からん。 ## 聖アントワーヌの憂鬱 ループから抜け出せなくなってしまった感じかな。 ## 水源地まで 現代風で現実的な設定になっているのが珍しい。それでも「水源を管理する魔女」や「橋姫」などの不思議な登場人物がいるし、複雑な山道を通って来たはずなのに山奥から海までが一直線に見通せるという違和感など、すこしずれた世界という感じがする。 ## 向日性について 人が日向では活動し、日陰では横になって眠る世界。なんだろう。不思議。 ## ドロテアの首と銀の皿 木に囲まれた洋館で冬眠をする人々という設定をラピスラズリと共有している。 つい意味や答えを求めながら読む癖がついてしまっているけれど、文章から立ち上がってくる風景や雰囲気に身を任せていればいいのだな。これはなかなかよかった。 皿に乗っていた首の持ち主、自殺した街娘は誰だったんだろう。何があったんだろう。 ## 影盗みの話 影盗みが何なのか分からないままだが、たぶん生まれつきそういう属性をもった人がいる世界の話。考えてみればラピスラズリの冬籠りもこの世界には存在しない属性をもった人がいる世界の話で、要は現実とは少しだけずれた平行世界のようなものにおける物語が多いことに気づいた。 ## 火の発見 ボルヘス的。 ## アンヌンツィアツィオーネ って受胎告知って意味だったとは。 ラストの「ふたなり」「世界を滅ぼす」にはどきっとした。大丈夫なのかな? ## 夜の宮殿の観光、女王との謁見つき 意味や答えを考えずに読むとすれば、特にどうという感想もない。大理石の糞だから何なんだ。 ## 夜の宮殿と輝くまひるの塔 女王の庶子の物語は誰かの想像なのだろうか。なかなか心を打つ話。この物語を聞いて、女王の表情が憤怒に見えたということだろうか。 ## 紫禁城の後宮でひとりの女が 西太后と幼い溥儀が登場しているようだ。龍族という通り、西太后が龍だったと思わせる描写がある。纏足は龍の足を隠すためのものだった。
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タイトルの歪み真珠とは「バロック」の語源であるらしい。頽廃的なまでの絢爛さを特徴とする西洋美術の一様式の名を冠する山尾悠子『歪み真珠』は、15編の掌編・短編を収めた幻想小説集だ。ギリシア神話などの古典文学や絵画に着想を得て紡ぎ出される優美にして残酷な作品世界は、存命の日本人作家と...
タイトルの歪み真珠とは「バロック」の語源であるらしい。頽廃的なまでの絢爛さを特徴とする西洋美術の一様式の名を冠する山尾悠子『歪み真珠』は、15編の掌編・短編を収めた幻想小説集だ。ギリシア神話などの古典文学や絵画に着想を得て紡ぎ出される優美にして残酷な作品世界は、存命の日本人作家としては他に類を見ない。その世界観を伝えるには個々の作品タイトルをそのまま記すのが手っ取り早いだろう。なお、数字は筆者が便宜的につけたものである。 1. ゴルゴンゾーラ大王あるいは草の冠 2. 美神の通過 3. 娼婦たち、人魚でいっぱいの海 4. 美しい背中のアタランテ 5. マスクとベルガマスク 6. 聖アントワーヌの憂鬱 7. 水源地まで 8. 向日性について 9. ドロテアの首と銀の皿 10. 影盗みの話 11. 火の発見 12. アンヌンツィアツィオーネ 13. 夜の宮殿の観光、女王との謁見つき 14. 夜の宮殿と輝くまひるの塔 15. 紫禁城の後宮で、ひとりの女が 目の眩むようなペダントリーを遺憾なく発揮しながら、その真髄は衒学ではなくあくまで独自の奇想にある。個人的ベスト5は 3, 4, 7, 12, 15だろうか。12は破滅的な作品で、無垢な少女を奈落へ突き落とす容赦なさは絵本作家のエドワード・ゴーリーのようだ。3はラストの祝祭的狂騒が一枚の絵画のような印象を与える作品。7は物語らしい筋のない作品だが、読了後コバルトブルーの湖に浮かぶボートのイメージが頭から離れなかった。4、15はいわば同じテーマの作品で、女であるばかりに片翼をもがれてしまったヒロインが残る翼で飛翔する話と読んだ。 先だって山尾悠子を存命の日本人作家としては他に類を見ないと述べたが、これほどの高山が単独で屹立しているはずがなく、近くは渋澤龍彦、遠くはボルヘスなど、過去や海外にまで視野を広げれば山尾作品は孤立どころか雄大な山脈に連なる峰であることが知れる。なかなか手強い高峰だが、本書に収録されている作品は比較的攻略しやすいものばかりだ。入門には最適ではないだろうか。 日常生活のあいま、つかの間のトリップを楽しむのにぴったりな一冊。ビターなエスプレッソなどを添えて。
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美文。 文庫化してくれてありがとう、ちくま。 幻想こそが文章になるべくして生まれた物語だと思っている。世の中には色々な表現方法がある。その中でも、文章によってしか表すことのできない物語というのが幻想というジャンルの一つの特徴だ。(映像化できるものはファンタジーに分類される) 硬質...
美文。 文庫化してくれてありがとう、ちくま。 幻想こそが文章になるべくして生まれた物語だと思っている。世の中には色々な表現方法がある。その中でも、文章によってしか表すことのできない物語というのが幻想というジャンルの一つの特徴だ。(映像化できるものはファンタジーに分類される) 硬質で端正。まるで宝石、いや鉱石のような。
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山尾悠子の掌編集が文庫化。 単行本が出た時の堪能した記憶があるが、文庫化で改めて読んでも作品世界にどっぷりと浸ることができる。 『腸詰宇宙』ものの掌編とか、しみじみと好きだなぁ……。この世界の短編(掌編)をもっと読みたい。その前に新作も読みたいし、『仮面物語』も復刊して欲しいのだ...
山尾悠子の掌編集が文庫化。 単行本が出た時の堪能した記憶があるが、文庫化で改めて読んでも作品世界にどっぷりと浸ることができる。 『腸詰宇宙』ものの掌編とか、しみじみと好きだなぁ……。この世界の短編(掌編)をもっと読みたい。その前に新作も読みたいし、『仮面物語』も復刊して欲しいのだが……。
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