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ザ・ディスプレイスト の商品レビュー

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2024/09/04

アニメ的な表紙に反して、重い、辛い話が続く。生きるために命がけで愛する故郷をあとにして、新たな国を目指して流浪の旅を続け、絶え間ない飢えや命の危険を超えてたどり着いた先での、さらなる差別や苦難には心が痛む。排外主義や不寛容が広がるこの世界で、難民の置かれた状況がさらに悪化している...

アニメ的な表紙に反して、重い、辛い話が続く。生きるために命がけで愛する故郷をあとにして、新たな国を目指して流浪の旅を続け、絶え間ない飢えや命の危険を超えてたどり着いた先での、さらなる差別や苦難には心が痛む。排外主義や不寛容が広がるこの世界で、難民の置かれた状況がさらに悪化しているであろうことは、想像に難くない。一人称で語られたこのようなルポを読むことで、少しは難民理解に繋がるか、いや、そもそもこのような本を手に取る人は少数派か。やりきれない思いを募らせるばかりである。

Posted byブクログ

2020/07/23

displaysed -故郷、故国を失った、はずされた、追放された、難民、流民 難民としての経験をした筆者たちが出自について回想し、アイデンティティを問うた作品が集められたアンソロジーです。サブタイトルにあるとおり執筆陣のほとんどは作家であるため、事実を書き残すことは主眼ではな...

displaysed -故郷、故国を失った、はずされた、追放された、難民、流民 難民としての経験をした筆者たちが出自について回想し、アイデンティティを問うた作品が集められたアンソロジーです。サブタイトルにあるとおり執筆陣のほとんどは作家であるため、事実を書き残すことは主眼ではなく文学的なトーンを帯びた作品が多くを占めています。編者をはじめとして難民としてだけではなく文学者であることに強く意識を向けて書かれたものも少なくありません。 客観的な記録・報告文を期待すると当てが外れて、戸惑うかもしれません。

Posted byブクログ

2020/02/28

エッセイ、ノンフィクションなんだよね、つまりこれは現実。 どんな国で、どんな状況で、どうして難民になるのか、そして行った先の国でどんなことが待ち受けているのか。まるで知らなかった。 悲惨で読むのがつらい話もあったが、そうだよねきっとそうだよねと共感するところも。 どれもよかった...

エッセイ、ノンフィクションなんだよね、つまりこれは現実。 どんな国で、どんな状況で、どうして難民になるのか、そして行った先の国でどんなことが待ち受けているのか。まるで知らなかった。 悲惨で読むのがつらい話もあったが、そうだよねきっとそうだよねと共感するところも。 どれもよかったけれど、中でも『トランプの壁は、つくられる前からおいしい食べものに負けていた』(アリエル・ドルフマン)、『恩知らずの難民』(ティナ・ナイェリー)がよかった。

Posted byブクログ

2019/06/03

タイトルの「ディスプレイスト(The Displaced)」は文字通り難民を指す。 動詞のdisplaceは、「(本来の場所から)動かす、はずす、取り除く」ことである。 これがdisplacedとなると、本来の場所から取り除かれた、すなわち故郷・故国を失った、追放された(人々)と...

タイトルの「ディスプレイスト(The Displaced)」は文字通り難民を指す。 動詞のdisplaceは、「(本来の場所から)動かす、はずす、取り除く」ことである。 これがdisplacedとなると、本来の場所から取り除かれた、すなわち故郷・故国を失った、追放された(人々)となるわけである。 移民が、希望して自ら外国に行く人々である一方、難民は、よんどころなく、致し方なく、故郷を追われた人々である。文化も生活習慣も言葉も仕事も友人も(時には家族も)失い、異国での暮らしを余儀なくされる。 本書は難民としての経験を持つ18人の作家の難民生活に関するエッセイ集である。 故郷はアフガニスタン、ソヴィエト、ベトナム、アルゼンチン、エチオピア、ボスニア、ハンガリー、イランとさまざまで、多くはアメリカやカナダに渡っている。 本書が刊行されたのは2018年4月であり、もちろん、その背景には、トランプ大統領の就任、その後の排他的政策がある。 多くの作家たちは、自らが主体というよりも、親世代が国を離れるのに伴われて子供の頃に難民となっている。成人してから外国に渡り、作家となるほどに言語を習得できるかと言えば、そこには1つ大きな壁があるだろう。また経済的にも苦しい中で、生活するだけで精一杯ということもあろう。そうした意味で、子供世代が多いのは当然といえば当然なのかもしれない。 子供の目から「難民」を見たとき、その不安や寄る辺なさは倍増する。訳も分からずそれまでの生活環境から切り離され、大切なものを失い、着いた先では他人の都合に左右され、時には蔑まれる日々。 ある子は目立たぬようにしようとし、ある子はとにかく勉強で一番になるよう努力し、ある子は自分の存在を確認するために作家となった。 心の奥底には、喪失がもたらす大きな「穴」がある。その体験を呑み込むためには、時に、長い長い年月が掛かる。 1つ、印象的なエピソードがある。 ウクライナからウィーンに逃れてきた少年。アメリカへの亡命の許可が出るのを待っている。父は真面目な人で、故郷でも人々がよくするような「ズル」はしたことがなかった。困窮する難民生活でも父は常にルールを守る人だった。だが、ある時、父は、少年を伴って、団体客に紛れて、美術史博物館に忍び入る。美術館のチケットを買う余裕はなかったのだ。暖房の効いた美術館で、マリア・テレジアのコレクションを半日かけてたっぷり鑑賞した後、少年と父は売店に立ち寄る。驚いたことに、父は「ポストカードを買おう」と言った。2人で2枚ずつ選んだカードの代金を払い、きちんと胸ポケットに入れた父は「人間らしく振る舞わなくちゃいけない」と言うのだ。 運命を人手に委ね、見知らぬ異国で、「あれをしなければならない」「これをしてはならない」とがんじがらめの日々。 ささやかな余裕すらなくした生活の中で自分の尊厳を保つことは、どれほど難しいことだったのだろうか。 その時、少年の父が買ったポストカードの重さを思う。 自身も難民作家である編者は、「はじめに」でこう述べる。 作家とは痛みのあるところへと向かうべきものであり、よそ者であることがどういう感覚かを知っている必要がある。 と。 身をもって「よそ者」の感覚を知った作家たちの言葉は、彼ら自身の背後にいる他の多くの難民たちの声なき声をも代弁する。 その声がずしりと胸に響く。

Posted byブクログ

2019/09/10

世界のニュースを普通に見ている人は、さすがにここ5年の間のどこかで、難民を受けれるということについて、あるいは難民支援、ということについて、一度くらいは考えることがあったのではないだろうか。 ん? 考えたことない? まあ日本にいると、あんまり深く考えなくても済むんだけれど・・・。...

世界のニュースを普通に見ている人は、さすがにここ5年の間のどこかで、難民を受けれるということについて、あるいは難民支援、ということについて、一度くらいは考えることがあったのではないだろうか。 ん? 考えたことない? まあ日本にいると、あんまり深く考えなくても済むんだけれど・・・。(今のところはね) 私も折にふれ、もし日本が、難民が押し寄せているギリシャの場所にあったら?ハンガリーのあたりだったら?ドイツだったら?イギリスだったら?と考えようとしてみたけれど、結局答えは出なくて結論はいつも保留。 ひとつだけハッキリしているのは、日本だろうとどこの国だろうと、全員は受け入れられないということ。 一度飲みの席で、会社の偉い人に、かるーい気持ちで「さすがに今の日本は移民や難民を受け入れなさ過ぎでしょー、人手不足も少子化も解消されるし彼らが自立すれば税収も増えるしもっと受け入れたらいいのにぃー」と適当なことを言ったら、その偉い人は急に真顔になって、「じゃあ君は、今よりももっと治安が悪くなっていいんだね? もっと犯罪率が上がっていいんだね? テロとか増えてもいいんだね? それにどこから支援のお金が出るんだ?」と畳みかけるように言うので、ビックリした。 なぜそうなると決まっているの? そう言いたかったけど、うまく言えないどころか、黙るしかなかったのが、ずっともうモヤモヤしている。その人は理性的で寛大で頭がいい人だという印象があっただけに、いきなり頑なで偏狭で、ドナルド・トランプみたいなことを言うのでびっくりした。そして、やっぱり移民や難民については多くのごく普通の人が(極右とかじゃない、という意味で「普通」の人が)多かれ少なかれこのような「恐れ」をもっていて、受け入れ側には悪いことしか起こらない、という考えなのかなぁ、と思った。 まあそんなことを思い出しながら、この本を読んでみた。少なくとも、議論をするにはこういう本をいくつか読んでからだよなぁ、と思う。もちろん、この本に収録されている話は、すべてあまりにも個人的な話でそのまま一般化はできない。でも、世の中すべて、一般化できないことを集めて一生懸命一般化して制度を決めるものだと思う。 この本を読むと、母国を出てからの彼らのたどる道は「まっすぐでも安全でもない」というのがすごくよく分かる。 そして、その過程で本当に多くの人がトラウマをかかえる、というのは、簡単に想像できることなのに、私はこの本を読むまで全然考えてもみなかった。 「はじめに」と「ラスト、ファースト、ミドル」「神聖ローマ帝国の女王、マリア・テレジアのゲスト」「神の運命」が特に印象的だった。 子供たちは親を傷つけないように用心深く行動し、親は子供を守ることを第一に考えて行動し、その結果として家族の絆が深まったり、逆に見えない傷が深く残ったりする。こういうのって普通の日常でもあることなんだけど。 あと、この本を編集したヴィエト・タン・ウェンの「はじめに」の中で述べられている「境界線」についての考え方は、非常に心を動かされた。 国境なんていらないでしょう?っていうとてもシンプルな考え。 確か「アミ 小さな宇宙人」にも同じ考えが書かれていたけど、そちらの方は、童話のような語り口で、本気にしない人が多いような気がした。でも、今回ウェン氏の文章で改めて同じ考えを聞かされると、夢想家の非現実的な夢物語以上のものを感じた。 これはみんなが本気でやれば実現可能じゃない?と私は真剣に思ったのだけれど、どうでしょうか。

Posted byブクログ