不気味な物語 の商品レビュー
ステファン・グラビンスキ(1887-1936)は「ポーランド文学史上ほぼ唯一の恐怖小説ジャンルの古典的作家」と記されている。「ポーランドのポー」「ポーランドのラヴクラフト」とも呼ばれるそうだ。なるほど、ラヴクラフト(1890-1937)とはほぼ同世代だ。 芝田文乃さんさんの訳...
ステファン・グラビンスキ(1887-1936)は「ポーランド文学史上ほぼ唯一の恐怖小説ジャンルの古典的作家」と記されている。「ポーランドのポー」「ポーランドのラヴクラフト」とも呼ばれるそうだ。なるほど、ラヴクラフト(1890-1937)とはほぼ同世代だ。 芝田文乃さんさんの訳により図書刊行会から4冊の短編集が刊行され、本書はその4冊目である。作者グラビンスキの詳しいプロフィールについては1冊目の巻末で紹介されているらしい。 本書に収められているのは当時本国で出版された『無気味な物語』(1922)と『情熱』(1930)という2つの短編集のほぼ全てであるようだ。 巻頭の「シャモタ氏の恋人」から「お、これは凄いかも」とうなり、次々に読んでいく内に、確かにこれは優れた芸術品と言いうる小説集ではないかとの思いを深めた。 必ずしも人物同士の会話を必要とせず、しばしば地の文だけでどんどん進めていく筆法はラヴクラフトを思い出させるし、物語内容の感触もちょっと似たものがあるかもしれない。文章はとても読みづらい。ラヴクラフトの場合はただ単に「悪文」と思っているのだが、本書は、さらに頻繁な暗喩が飛び交っていたり、ときには驚くほど凝った言い回しをしていたり、ときおり立ち止まらずに読み進めるのが難しい。たぶん訳も良くない。生硬で、直訳しすぎているように思える節もある。が、原文自体も恐らく、決して読みやすい文章ではないのだろう。 このような「読みにくさ」を乗り越えて物語の中に引き込まれていくと、そこに拓けてくるのは素晴らしく象徴主義的な眺めである。巻頭の「シャモタ氏の恋人」などの象徴性と暗黒性は、確かにポーを想起させる。 先日来小池真理子さんのホラー短編小説集を読み、オーソドックスながら、そこにホラーの或る理想的な典型を見つけられるように思っていたが、このグラビンスキはそれとは全く違うやり方で「ホラー世界」を形作っているのだから、私はかなりの衝撃を受けた。 登場人物や情景やできごとを「それらしく」写実っぽく書いていくという常套手段をグラビンスキは取らない。この作家の「語る主体」はもっと野蛮で激しい。その常識を覆すようなところは、たとえば、或る概念を深く執拗に追求して行くという、まるでちょっとした哲学のような語りが進められる部分があり(特に「視線」 )、しかしそれでいながら、小説-素としてちゃんと自己組織化を繰り広げて「小説」を成していくのだから、これは驚きのシステムである。このようなものを読むと、幻想小説というものが更なる可能性を秘めているようにも思えてくる。 もっとも、本書の中にはあまり良くはないような作品もあるのだが、それを差し引いても、幾つかの優れた作品の芸術的な美しさ・痙攣性は覆いようがなく、訳も(たぶん)原文も文章としてちょっと読みにくい・手こずるところはあるものの、更にこの作家の本を読んでいこう、と決めたところだ。
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ポーランドと言えばショパン。その音楽からは東欧圏の響きが聞こえるし、フランス的浪漫も感じる。もちろん国境や人々が絶えず移動するヨーロッパにおいてそんな色分けは無意味かも知れないけれど。しかし、ポーランドが多くの国々と国境で繋がっていることは、彼の地に住む人々の文化的背景を説明する...
ポーランドと言えばショパン。その音楽からは東欧圏の響きが聞こえるし、フランス的浪漫も感じる。もちろん国境や人々が絶えず移動するヨーロッパにおいてそんな色分けは無意味かも知れないけれど。しかし、ポーランドが多くの国々と国境で繋がっていることは、彼の地に住む人々の文化的背景を説明する上で多少意味のある要素であるかも知れないとも思う。ステファン・グラビンスキの「不気味な物語」を読んで、その思いを新たにする。 ポーランド文学史唯一の恐怖小説作家、というラベルにはそれ程感心するところはないけれど、この作家が取り上げるモチーフが西欧的文化の背景に色濃く根ざしつつ、どこかぼんやりと薄暗い景色を立ち上げる様は興味深い。例えば「情熱(ヴェネツィア物語)」という作品では、ヴェネツィアの明るい日差しではなく陽の差さない暗がりや日没後の風景ばかりを描かれるが、それはヨーロッパの中の片田舎的位置にあるポーランドの人故の特徴なのかと訝しんでみたり。もっともそれは耳の奥でそっと鳴るピアノの旋律に影響されての感想であるかも知れない。 恐怖小説という割には、余りぞくぞくとしたところを感じないのは世の東西の感受性の違いか。あるいはこの物語をどことなく西洋の遠野物語的だなと感じてしまう狭量さ故か。遠くて近いと思うこの印象はどこかで感じたことがある、と考えてみると小泉八雲の怪談に行き着く。西洋のフィルターを通して描かれてはいても、死後に残る怨念という世界観は案外と汎世界的なものなのかも知れない。 グラビンスキが他の作家に与えた影響を語るには余りに知識が足りないけれど、レムに繋がるような空想科学小説的な流れはあちらこちらに散らばっているとは思う。そのままSF的な物語になる展開もありそうだ。もっともそんな半SF的な小説としてはカルヴィーノの柔らかい月への連想の方に傾く。ただグラビンスキには物語の展開の意外性はほとんどなくて、お決まりの様式へと帰結する傾向があるように感じる。どれもどこかで聞いたような響きがする物語ばかり。それ故、どことなく遠野物語との類似を感じるのかも知れないとも思う。
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「ポーランドのラヴクラフト」と評されるらしい作家のホラー短編集。恋愛と官能がテーマでしょうか。抒情的でしっとりとして、そしてタイトル通りに不気味な物語。じわじわとした恐怖感が楽しめます。 お気に入りは「情熱」。これ、読んでいてちょっと観光旅行をしたような気になりました。情景の描写...
「ポーランドのラヴクラフト」と評されるらしい作家のホラー短編集。恋愛と官能がテーマでしょうか。抒情的でしっとりとして、そしてタイトル通りに不気味な物語。じわじわとした恐怖感が楽しめます。 お気に入りは「情熱」。これ、読んでいてちょっと観光旅行をしたような気になりました。情景の描写が秀逸。その中でじわじわと襲い来る狂気もまた素敵。 一番怖いと思ったのは「投影」。これもまた影の描写が美しく感じられるのだけれど。それが指し示すものが何なのか、ある程度の予測はついてしまうので(ホラーではお約束ですよね)。やっぱりこういうのは怖いなあ。
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あとがきの情報によると結構映像化されているようで、そうした所からもわかるように前作までのぶっ飛び度は緩く、読みやすい短編集かと思う。じんわりとした湿気漂う不穏な空気の中じわりじわり物語が進み、非常に自分には好ましい世界観だが、またもラストが突然来る。さあもう一回。これは決まりごと...
あとがきの情報によると結構映像化されているようで、そうした所からもわかるように前作までのぶっ飛び度は緩く、読みやすい短編集かと思う。じんわりとした湿気漂う不穏な空気の中じわりじわり物語が進み、非常に自分には好ましい世界観だが、またもラストが突然来る。さあもう一回。これは決まりごとのようで、楽しみになりつつある。彼の中では物語の構成が第一で、人間は道具の一つという印象。実はちょっと耽美さが疲れた。やっぱ人間は生きて○して臭い生き物だと思う。彼の思い描く美女を見てみたい。好きな食べ物も知りたい。(あほな感想)
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まさに死と官能の物語。 100年も前にこんな不気味な物語を綴っていた作家さんがいたとは。 グラビンスキという作家を知れてよかった。 そんなにむかしのお話という気がしないんだよなぁ。 死とか官能のか不気味とかそういうネタは風化しないのかしらね。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
グラビンスキの短編集、4冊目。 本書で代表作の邦訳はほぼ完了したそうで、日本語での紹介はこれで一段落になるとのこと。『代表作』ということは、まだ未訳のものが残っているということだよねぇ……あと1冊ぐらい何とかならないだろうか……。
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