十字軍物語(一) の商品レビュー
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エデッサ陥落、第二次十字軍、イェルサレム陥落を描いた第二巻。 読んでいて感じるのは、リーダー層の人材が何よりも大事ということ。 常に戦力不足に悩まされながら、城砦とそれを守る病院騎士団や聖堂騎士団、アマルフィ・ヴェネツィア、ピサ、ジェノヴァによる制海力と物資調達力により領土を保っていた十字軍キリスト教国家。 それが十字軍も第二世代になり、そして第三世代となると責任感と経験を備えたリーダーが少なり、弱体化していく。 そのような中、ボードワン四世が身体が崩れ落ちていくという癩病に侵されながら13歳で王に即位し、24歳で燃えつきるまで孤軍奮闘する様子には心を動かされる。 一方でバラバラだったイスラム世界はヌラディン、そしてそれを継ぐサラディンという優れたリーダーが誕生し、バグダッドからダマスカスを経てカイロまでを支配下に置く。 そして1187年。88年ぶりにイェルサレムがイスラム教の支配下に戻る。 1089年にキリスト教の支配下に入った時はイスラム教徒は殺戮されたか奴隷とされたが、1187年には殺戮は起こらず、キリスト教の聖墳墓教会も残されたのが印象的。 イスラム教導師の提言に耳をかさなかったサラディンが強く、先を読む力のあるリーダーだったということだろう。
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タンクレディという姓がこの時代からあったことが、個人的トリビア。 絶対的権力を持つ皇帝のような存在が立ち上がったわけではなく、地方貴族の財力によるところが大きかったということと、よっこらせという雰囲気でバラバラにイスラエルに向かったことが意外
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十字軍というとケビンコスナーの映画「ロビンフット」のイメージしかなかったが、この本を読んで随分イメージが変わった。もともと十字軍を体系だって書いてある本をあまり知らないので、非常に勉強になった。中世のイスラム教というと狂信的で残忍なイメージがあるが(多分にアメリカ映画ではキリスト教世界の敵役ということからかなりデフォルメして無表情な殺人者として描くことが多いからと思うが)、この本を読むと決してそのようなことはなく、むしろキリスト教側(特にローマ教会)の方が独善的であったようだ。それでも中世という時代だけあり、日本の戦国時代と同様、英雄がどちらの側にも輩出されその英雄譚を読むだけでも価値がある。第一次十字軍のボエモンド、ゴドフロア、ボードワン、タンクレディ、第三次十字軍の獅子心王リチャード、第六次十字軍のフリードリヒ、エルサレム王ボードワン四世、イスラム側のスルタン、ヌラディン、サラディン、アラディール、みな魅力的で格好良い。特にリチャードとサラディンの間には一度も直接会うことはない中で友情のような感情が芽生えるのは、やはり英雄同士だからなのだろう。ハンニバルとスキピオの関係を思い出した。一方、フランス王にはろくな人材が輩出されず、特に十字軍を終焉に導いたルイに至っては最悪なのだが、それがキリスト教の聖人として祀られるなどとは当時のキリスト教の狂信性がよくわかる。いずれにしてもやはり塩野七生の書く中世は面白い。
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十字軍とは何だったのか? なぜ始まったのか? とても面白かったです。 作者がキリスト教徒では無いので、 中立性があったかと思います。 日本人だからかヨーロッパ寄りでしたが。 それでも、物語としてとても面白い物になってます。
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神がそれを望んでおられる。 後世で悪名高き十字軍、キリスト教によるイスラム教への宗教戦争とは何だったのか。 11世紀ヨーロッパは東ローマ帝国、西ローマ帝国に分かれ、それぞれギリシア正教、カトリックと内紛を起こしていた。 西ローマ帝国皇帝ハインリヒ4世のカノッサの屈辱から...
神がそれを望んでおられる。 後世で悪名高き十字軍、キリスト教によるイスラム教への宗教戦争とは何だったのか。 11世紀ヨーロッパは東ローマ帝国、西ローマ帝国に分かれ、それぞれギリシア正教、カトリックと内紛を起こしていた。 西ローマ帝国皇帝ハインリヒ4世のカノッサの屈辱から、ローマを追われたローマ法王グレゴリウス7世の後任、法王ウルバン2世は自らの権威を示すため、キリスト教の共通的を作り出す。 聖地イェルサレムを解放せよ。 この言葉に共鳴したキリスト教徒は十字軍編成を待たずしてオリエントへと旅立ち、そして斃れていった。 その後構成された第一次十字軍はわずか5年弱で地中海沿岸にイェルサレムを中心とした十字軍国家を設立する。 それが残虐であったにせよ、第一次十字軍にはキリスト教側には英雄が誕生し、イスラム教側に傑出した人物がいなかったことが勝敗を分けた。 そして、イスラム教側にとっては、十字軍は単なるキリスト教側の領土拡大の争いだとしか認識していなかったことも災いした。 領土拡大とあれば、領主同士は決して連携しなかったのだ。 第一次十字軍、聖地を目指して戦いを挑んだ第一世代の英雄たちの物語。
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イスラムを理解するには、このへんから読むのが良いのかなぁ・・・と思って購入した本。 ボリューム沢山で、流し読みという訳にもいきそうにないので数カ月間積読状態だったのをようやく読了。 数多くの登場人物の中では、タンクレディが一番印象的だったかな。 第二巻もただいま積読状態。
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キリスト教の聖地がイスラム諸国の手に落ちてからから400年ちょっと、本書は法王の聖戦への呼びかけに参集した俗にいう第一回十字軍がエルサレム奪還を試みる遠征記になっている。 冒頭から目から鱗がポロポロ落ちる事実の連続であった。急激に発展を遂げるイスラム諸国の度重なる侵略で中東の領...
キリスト教の聖地がイスラム諸国の手に落ちてからから400年ちょっと、本書は法王の聖戦への呼びかけに参集した俗にいう第一回十字軍がエルサレム奪還を試みる遠征記になっている。 冒頭から目から鱗がポロポロ落ちる事実の連続であった。急激に発展を遂げるイスラム諸国の度重なる侵略で中東の領地を失い、衰退を辿るビザンチン帝国は教理の違いなど構わずカトリック教会に泣きつく。これを引き金に法王は東ヨーロッパにカトリック教会の影響力を強めようと、ヨーロッパ諸国の君主の上に立ち、指導できる力を示すために十字軍の編成を唱える。十字軍編成には極めて利己的な思惑があったとは・・・。聖戦やらイスラムの圧政に苦しむ人々の解放はすべて建前。宗教はいつの時代も利用されるものだと痛感する。 招集に応じた騎士たちの第一印象は、エルサレムにたどり着くどころかまともに小アジアにたどり着けるか不安をを感じさえるドイツ、フランス、イタリアの寄せ集め騎士部隊だった。第一ランデブーポイントのコンスタンティノープルまでの足並みはバラバラで各諸国手を取り合って進軍することは無かった。しかしエルサレムに近づくにつれてあれだけまとまりがなく行動していた騎士団の団結力が固まり、個々の人間的な成長、指導者としての頭角を現すのを垣間見ることができたのは感動を覚えざる得ない。 遠征自体は想像を絶する過酷さが伺えた。未知なる土地を不衛生極まりない生活環境のもと行進し、食料は基本略奪という名の現地調達のため餓死とは常に隣り合わせ。乗ってきた馬を食料にする騎士もいたそうな(人肉も・・・)兵力の補給も行えず、アウェーでの戦場にも関わらず数多の攻城戦を経てエルサレムまでたどり着き、十字軍国家の成立ができたのは軌跡と言わざるを得ない。 エルサレムを遠くから見下ろす、歓喜で震える十字軍の兵士たち一枚の挿絵が感慨深い。ギュスターヴ・ドレの「Enthusiasm of Crusaders at the First View of Jerusalem」という名の絵らしいのだが感動に震えて、涙する騎士一同の描写が細やかに描かれ、本書を読んだことで十字軍のついに来たという思いがより強く伝わった。 エルサレムを目指した諸侯が聖地を目の前した時と同等の感動、達成感で胸を満たすべく、自分も目標に向かって全力でぶつかって行きたいと強く思う一冊。
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十字軍結成の裏にカノッサの屈辱があるとは初めて知った 面白いね中世のヨーロッパは 第一巻でイェルサレムの解放まで進んでしまった
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突出した主人公が描かれるのではなく、多くのキャラクターが多彩に生き生き描かれている。その中でもやはり、イェルサレムの初代王になったボードワンの懐の大きさと、若き英雄タンクレディの活躍が目を引く。塩野さんに「チンピラ」「十字軍のチンピラ」と何度も書かれているが、チンピラも成長する、...
突出した主人公が描かれるのではなく、多くのキャラクターが多彩に生き生き描かれている。その中でもやはり、イェルサレムの初代王になったボードワンの懐の大きさと、若き英雄タンクレディの活躍が目を引く。塩野さんに「チンピラ」「十字軍のチンピラ」と何度も書かれているが、チンピラも成長する、すごい。塩野さんの筆には、ボードワンとタンクレディへの愛があふれている。 殺戮と破壊の嵐ではある。戦争なのだから当たり前なのかもしれないが勝った方のやることが苛烈。 まえがきで著者が投げかけているテーマが気になる。今後読み進めると明らかになっていくのか、ぜひ続きを読む予定。 1.200年続いた十字軍時代で勝ったのはイスラム側であり敗れたのはキリスト教側なのに、なぜその後からは両者の立場は逆転したのか。なぜ最終的な勝者はキリスト教側になったのか。 2.十三世紀当時にはイスラムとキリスト教の間で解決できたいわゆる「パレスティーナ問題」が、なぜ七百年が過ぎた現代のイスラムとユダヤの間では解決できないのか。
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☆☆☆2019年8月レビュー☆☆☆ 「十字軍」とは、だれもが知っているようで、実際はよく知らない。そういうものでは無いだろうか。世界史を勉強しても、さらっと第一次だ、第三次だとあらすじをたどるだけで何もわからない。 本書では、十字軍というものが起こされた背景から、当時う人物...
☆☆☆2019年8月レビュー☆☆☆ 「十字軍」とは、だれもが知っているようで、実際はよく知らない。そういうものでは無いだろうか。世界史を勉強しても、さらっと第一次だ、第三次だとあらすじをたどるだけで何もわからない。 本書では、十字軍というものが起こされた背景から、当時う人物の息遣いまで感じることができる、読み応えのある作品だ。 まず、背景として「カノッサの屈辱」から筆を進めるのが面白い。カノッサの屈辱の後、ローマ教会はハインリヒ4世に押されに押されたが、巻き返しのため、権威を取り戻すために十字軍が考えられたという。ウルバン2世によって。 「聖地を取り戻す」という目的だけではなかったのか。 そうしてスタートした第一次十字軍が、苦しみながらも聖地までたどり着く。その道のりを描いたのが第一巻。 トゥールーズ伯レーモン・ド・サン・ジル (司教アデマール) ロレーヌ公ゴドフロア・ド・ブイヨン (弟ボードワン) プーリア公ボエモント・ディ・アルタヴィッラ (甥タンクレディ) これらの人々を中心に、十字軍の足跡を辿る。 十字軍といえば、どうしても排他的で残虐なイメージがあるが、勇気や誠実さといった面もある。 十字軍とは何だったのか? 二巻、三巻、四巻もじっくり考えながら読み進めたい。
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