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介護士K の商品レビュー

3.2

30件のお客様レビュー

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2019/07/21

これからの超高齢化社会がもつ、「介護」という問題について本格的に考えていかねばならないということをひしひしと感じさせる作品でした。 実際の有料老人ホームで起こった入居者の転落死亡事故を題材にし、また実際の事件は障碍者施設での大量殺傷事件でしたが、「選民思想」とでもいうような、社会...

これからの超高齢化社会がもつ、「介護」という問題について本格的に考えていかねばならないということをひしひしと感じさせる作品でした。 実際の有料老人ホームで起こった入居者の転落死亡事故を題材にし、また実際の事件は障碍者施設での大量殺傷事件でしたが、「選民思想」とでもいうような、社会的弱者を「社会の負担」として切り捨てる言説を語る主人公たちの主張に対して、読者が自分自身の意見をしっかりと考えてゆくことが必要です。 とくに、主人公に大きな影響を与えた医師が、「介護により、寝たきりで苦痛を受けながら生き続けなくてはならない状況をつくりあげること(介護施設での、十分に手をかけることができない現状での介護)こそが虐待だ」という主張については、医療倫理や生命倫理を考える大きなヒント(安楽死をめぐる問題にもつながるものだと思います)になると感じます。 さらに、疑惑の介護士を取材しているルポライターにその医者が語った、「(虐待がある意味で必然的に生じる過酷な労働環境がある介護業界について)優秀な人間を集めるためには、介護報酬を上げなければならん。介護に多額の公費を注ぎ込んで、優秀な人材を集めてみても、年寄りを喜ばすだけで、生産性にはつながらない。優秀な人間は、国の生産性と技術の向上に資するべきだ。それで社会が潤えば、介護業界も改善される。逆に高齢者は大事にすべきなどと、甘っちょろいことを言って、優秀な人材を介護業界が浪費したら、国力が落ちて、ひいては介護業界も破綻する。だから、現状でいいんだ……介護は有限な資源なんだ。今の日本に三千万人を超える高齢者を介護するだけの実力はない」という指摘についても、もちろん感覚的・「倫理/道徳的」には賛成してはいけない(できない)内容ではあるのですが、「非常識で、非道徳的で、人間として主張することが許されない意見だ」と切り捨ててしまってはいけないような気がしています。 実際、このルポライターは取材を通して色々tな人の話を聞く中で、「許容される死」があるのか、考えることになっていきます。 さらに、この作品では介護問題だけではなく、何らかの事件が起きたときのメディア(マスメディア)の白熱した取材合戦のあり方について対策を考えたり、社会的弱者への支援(=やさしさ)は結局自己満足であるだけなのではないか、という不安についても考えることが必須です。 一方で、作品はミステリの要素もありますが、基本的には社会問題について(高齢者への介護の必要性や「安楽死」という”救済”の与え方など)を読者に問う、かなり「重い」本だと思います。 色々な意見があると思いますが、ぜひこれは様々な人と読みあい、議論のきっかけとしてもらいたいと思う作品です。主人公の精神状況には不安定な部分もあり、そこは小説ならではの脚色ではありますが、本書が取り上げているテーマはまさに喫緊の課題です。

Posted byブクログ

2019/06/20

高齢者問題が取りざたされる昨今、高齢者の医療や介護のあり方を根底にその現場で起きた死亡事件に関わる介護士を主人公にし、難しい高齢者問題の小説ではなくエンターテイメントとしても味わえる作品だ。 主人公も単なる「いい人」「悪い人」といった単純な設定ではなく、彼に接する人により印象が変...

高齢者問題が取りざたされる昨今、高齢者の医療や介護のあり方を根底にその現場で起きた死亡事件に関わる介護士を主人公にし、難しい高齢者問題の小説ではなくエンターテイメントとしても味わえる作品だ。 主人公も単なる「いい人」「悪い人」といった単純な設定ではなく、彼に接する人により印象が変わり、また彼自身も複雑に揺れ動く心情や行動が作品により重みを加えている。 色々な登場人物が現在の日本の高齢者問題を様々な観点から語っている。真逆の意見を唱える人たちもいながら、どれも「なるほど」と思う点が必ずある。それほどにこの問題は難しいものだと痛感する。 読者は事件に関する明確な結末を期待しながら読み進めていくが、ついに結論は得られない。これは高齢者の安楽死、高齢者の介護をどのようにこれから日本は取り組んでいくのかという問いを読者に突きつけた終わり方とも言える。

Posted byブクログ

2019/05/16

説明 内容紹介 現役医師作家が、高齢者医療の実態に迫り人間の欲望にメスを入れる問題作! 介護施設「アミカル蒲田」で入居者の転落死亡事故が発生した。高齢者虐待の疑いを持ち、調査を始めたジャーナリストの美和は、介護の実態に問題の根の深さを感じていた。やがて取材をした介護士・小柳恭...

説明 内容紹介 現役医師作家が、高齢者医療の実態に迫り人間の欲望にメスを入れる問題作! 介護施設「アミカル蒲田」で入居者の転落死亡事故が発生した。高齢者虐待の疑いを持ち、調査を始めたジャーナリストの美和は、介護の実態に問題の根の深さを感じていた。やがて取材をした介護士・小柳恭平の関与を疑った美和は、再び施設を訪れる。恭平は「長生きで苦しんでいる人は早く死なせてあげた方がいい」という過激な思想を持っていた。そんななか、第二、第三の死亡事故が。家族の問題を抱え、虚言癖のある小柳による他殺ではないのか--疑念が膨らむ一方の美和だが、事態は意外な方向に展開してゆく。高齢者医療の実態に迫り、人間の黒い欲望にメスを入れる問題作! 介護に関しては人ごとではなく 刻々と自分の身にも迫って来ている事だと感じています。 感じているけど 今考えても仕方がないと考えないようにしている自分がいます。 旦那の両親をたまに面会に行くと 介護の大変さは並大抵なものではないとつくづく思うのと 自分の将来までも悲観してしまいます。 自分が介護する立場にはなっていないので 本当のところはわかっていないのでしょうが... 登場人物の小柳の考えもわかる部分が私にはあります。 殺してあげた方がいいとは思いませんが 私自身、長生きしたくないという考えはやはり変わりません。 自分の命、自分で決めて終わりにすることをいつか許される日が来るのでしょうか...?

Posted byブクログ

2019/02/26

+++ 介護施設「アミカル蒲田」で入居者の転落死亡事故が発生した。高齢者虐待の疑いを持ち、調査を始めたジャーナリストの美和は、介護の実態に問題の根の深さを感じていた。やがて取材をした介護士・小柳恭平の関与を疑った美和は、再び施設を訪れる。恭平は「長生きで苦しんでいる人は早く死なせ...

+++ 介護施設「アミカル蒲田」で入居者の転落死亡事故が発生した。高齢者虐待の疑いを持ち、調査を始めたジャーナリストの美和は、介護の実態に問題の根の深さを感じていた。やがて取材をした介護士・小柳恭平の関与を疑った美和は、再び施設を訪れる。恭平は「長生きで苦しんでいる人は早く死なせてあげた方がいい」という過激な思想を持っていた。そんななか、第二、第三の死亡事故が。家族の問題を抱え、虚言癖のある小柳による他殺ではないのか--疑念が膨らむ一方の美和だが、事態は意外な方向に展開してゆく。高齢者医療の実態に迫り、人間の黒い欲望にメスを入れる問題作! +++ 介護の現場や実態について、考えざるを得ない物語である。わたし自身は介護の経験がないので、実際のところはまるで解っていないとは思うが、想像するだけでも、一時も気を抜けず、手も抜けない現状の苦労の大変さは壮絶なものだということは判る。入居者の相次ぐ不審死に関わったのでは、と疑われる若い介護士・小柳恭平の真実はどこにあるのだろう。親切で、骨身を惜しまずよく働き、入居者の人気者であるという一面もあり、虚言癖があるという面も持つ彼の言葉は、どこまで真実なのだろう。そして、彼が目指しているのは何だったのだろう。判らないことだらけで答えは見つからないのだが、たくさんのことを考えさせられたことだけは確かである。読んでいて気が重くなるが、目を背けてはいけない一冊だと思う。

Posted byブクログ

2019/02/10

介護の世界はきれいごとでは語れない。 理想通りの介護なんてできない世界である。 人と人だからこその素晴らしさももちろんあるが、介護する側、ケアする側も人間だから、疲弊もするし、耐えられないことだって起こる。それが現実だ。 この作品の話は現実で起こってはならないことであるし、突拍子...

介護の世界はきれいごとでは語れない。 理想通りの介護なんてできない世界である。 人と人だからこその素晴らしさももちろんあるが、介護する側、ケアする側も人間だから、疲弊もするし、耐えられないことだって起こる。それが現実だ。 この作品の話は現実で起こってはならないことであるし、突拍子もない部分もある。だが、一歩踏み外せばこの作品に近いことが起こらないとは言い切れない…なんともやるせない気持ちになるものがある。

Posted byブクログ

2019/02/01
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

超高齢化社会に向かって着実に歩みつつある日本人にとって、老人介護や認知症などといったトピックスは、ヒリヒリと刺すような実感を伴って迫り来つつある。 誰しもが、本書の着想のモデルとなったであろう実際のいくつかの事件が思い浮かぶことだろうが、それほどに老人介護の現場はタフで、あたかも決壊寸前のダムのように常に危険水位にあるのではなかろうか。 文章の表現力や会話の構成力など、小説家としての技術全般については手練れとは言えないかもしれないが、医師ならではの知識と目線が活かされたプロットはいつも通り、分かりやすくて読みやすい。 が、小柳や美和といった主要登場人物たちの性格付けにブレがあり、読者の中でキャラクターのイメージを確立させられないのはちょっといただけないかな。 結末部分の小柳の翻意も、その狙いの意味するところがイマイチ不明。 後半にチラリと、まんま釈徹宗氏そのものの人物が会話の中に登場して、事前に知ってはいたが個人的にニヤリとしてしまった。

Posted byブクログ

2019/01/30

介護問題に触れているのは読み応えあるが,主人公の脈路のなさがこの本の印象をぼやけさせているようで残念な感じだ.

Posted byブクログ

2019/01/26

介護施設で起こる連続不審死事件を巡るミステリ。高齢化社会に伴う介護の問題を重々しく取り上げていることもあって、とってもどんよりした気分になってしまうのですが。これは目を背けてはいられない問題なのかもなあ。長生きするのが怖くなってしまいます。元気に長生き、だったらいいのですが。 疑...

介護施設で起こる連続不審死事件を巡るミステリ。高齢化社会に伴う介護の問題を重々しく取り上げていることもあって、とってもどんよりした気分になってしまうのですが。これは目を背けてはいられない問題なのかもなあ。長生きするのが怖くなってしまいます。元気に長生き、だったらいいのですが。 疑惑の介護士・小柳のキャラクターはたしかにぞくりとさせられますが。死が救い、という考え方も理解できないではないんだよなあ。だからこそ彼に共感したい部分もないといえば嘘になるけれど。ただ、いったい何が真実だったのか、彼の言葉がどこまで本当だったのか、という部分が曖昧なため、なんともいえない不気味さが痛烈に残りました。

Posted byブクログ

2018/12/18

久坂部羊さんとの出会いは「廃用身」でした。衝撃的でした。実話か小説か・・・。新作「介護士K」(2018.11)、この作品も実話か小説グレーな要素がぷんぷん匂います。2025年問題(団塊の世代が後期高齢者)間近に控え、高齢者の介護はいかにあるべきか、介護不足の解消には高齢者を減らす...

久坂部羊さんとの出会いは「廃用身」でした。衝撃的でした。実話か小説か・・・。新作「介護士K」(2018.11)、この作品も実話か小説グレーな要素がぷんぷん匂います。2025年問題(団塊の世代が後期高齢者)間近に控え、高齢者の介護はいかにあるべきか、介護不足の解消には高齢者を減らす・・・?。殺すのは悪意、死なせるのは慈悲。読み進めて最後をどうまとめるのか心配しましたが、まとめになってるのかなってないのか。様々な問題を提議してますが評価は割れると思います。小説としては介護士Kの人格に対する疑問と、それによる朝倉美和のやるせなさが読後感を悪くさせています。

Posted byブクログ

2018/12/15

久坂部流の老人介護問題提起小説。まあいつもの久坂部節です。問題提起は良いのだが、主人公のまわりの登場人物が不鮮明キャラゆえに、主人公像もぼやけてしまっている。姉しかり、姉の恋人しかり、黒原医師(本当は黒腹にしたかったんだろうなあ)しかり。しまいには虚言癖を題材にした小説なのかと思...

久坂部流の老人介護問題提起小説。まあいつもの久坂部節です。問題提起は良いのだが、主人公のまわりの登場人物が不鮮明キャラゆえに、主人公像もぼやけてしまっている。姉しかり、姉の恋人しかり、黒原医師(本当は黒腹にしたかったんだろうなあ)しかり。しまいには虚言癖を題材にした小説なのかと思ってしまうエンディングに唖然。完成度低し。

Posted byブクログ