らんちう の商品レビュー
二人目の供述の途中で事件の真相は見えてしまう。その時点で、この小説の本質はそこにないということが分かる。 社会とか人間に対して、皮肉たっぷりで面白かった。何だかんだ人間は自分のことしか見えてないし、人それぞれ。生身の人間が描かれていて、ある意味で非常にリアル。グロテスクな外見の高...
二人目の供述の途中で事件の真相は見えてしまう。その時点で、この小説の本質はそこにないということが分かる。 社会とか人間に対して、皮肉たっぷりで面白かった。何だかんだ人間は自分のことしか見えてないし、人それぞれ。生身の人間が描かれていて、ある意味で非常にリアル。グロテスクな外見の高級金魚のらんちうというタイトルはまさにぴったり。 浅いようで深い、簡単に書かれているようで実はよく考えられている小説だと思う。
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「本物になるために、将来性のないのを間引いていくんです」 「奇形こそ誉」 三千尾ほどの幼魚から1尾いるかいないかの本物を選別する。 本物のランチュウの価値は、そのグロテスクさにある。 本書のタイトル「らんちう」には、選別とグロテスクの二つの意味があると考えた。 この社...
「本物になるために、将来性のないのを間引いていくんです」 「奇形こそ誉」 三千尾ほどの幼魚から1尾いるかいないかの本物を選別する。 本物のランチュウの価値は、そのグロテスクさにある。 本書のタイトル「らんちう」には、選別とグロテスクの二つの意味があると考えた。 この社会には選別された一握りの人間が、選別後に処分される底辺層の犠牲で生きている。 その底辺層に悟られることなく、その犠牲でうまく生きる人との断絶した社会のグロテスクさを炙りだそうとしている。 第一章で事件が起きる。 リゾート旅館の総支配人を殺したと警察に通報があり、殺人に加担した従業員六人が殺人の前段までが語る。 第二章、殺人者たちの殺意が語られる。 総支配人は殺されるべくして殺されたのだ。 個々の殺意の有無は曖昧だったが、殺されるに足る総支配人の振る舞いが当事者たちから語られる。 第三章、部外者たちからの目線。 リストラされた旅館の古参社員が語る総支配人像は、むしろ旅館の再建に成功を称える声だった。 第四章、殺人者たちの語る明るい未来と、吐かれた一つの不条理。 底辺層には社会の歯車として、上手に機能してもらわなければならない。 そのことは一握りの富裕者層が施す一種の洗脳として描かれる。 身を粉にして働く底辺層と、自身の逃げ切りを図る世代とうまく合致した社会を描き出している。 底辺層の中でも、気が付いてしまった奴は弾かれる。 よくできたシステムだ。
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箱根山、駕籠に乗る人担ぐ人、そのまた草履を作る人、捨てた草履を拾う人、欲深き、人の心と降る雪は、積りに連けて未知を忘るる
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「殺人がありました。犯人はここにいる全員です。」殺人描写、取り調べ、供述。全てがいろいろな人物の一人称で語られます。現代に巣食う様々な問題点を取り上げた社会派。被害者を含めひとりひとりの人物像を描き出すのも、物語の作りも抜群に上手いのでしょう。こうなった経緯や原因を夢中で追いまし...
「殺人がありました。犯人はここにいる全員です。」殺人描写、取り調べ、供述。全てがいろいろな人物の一人称で語られます。現代に巣食う様々な問題点を取り上げた社会派。被害者を含めひとりひとりの人物像を描き出すのも、物語の作りも抜群に上手いのでしょう。こうなった経緯や原因を夢中で追いました。自分がそこのメンバーの一人だったら…想像するとものすごく怖いです。実は一番印象深かったのは誰が一番まともだったか、ということだったりします。読後、らんちうという題名と表紙絵が急にグロテスクに見えました。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
平易なテキストに、一見わかりやすいオチがついてるようにみえるが、徹底した「信頼できない語り手」で構成された「ストーリー」の背景こそがキモ。表題のらんちうですら、語り手次第でその価値が真逆になることにあらためて戦慄する。どんな歪んだ視点でもそこから一種の「真実」がみえるが、世界のすべてを一度に「みる」視点はひどく恣意的で奇形的な眼球ですら不可能。誰もが逃れようもない個体の限界の外で、誰が誰を選別しているのか?ずるずると地べたを這いずるミクロなポリティカル・スリラーの傑作。
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旅館の総支配人が殺害された。従業員ら6人が殺したと通報してきた。6人それぞれの取り調べによる供述が進むうち、豚と称されるほど見苦しく肥えた、意地汚い支配人の姿が浮き彫りになる。彼は殺されるべくして殺されたのか・・・ 供述のなかで明らかになる容赦ないリストラ、月300時間という労働...
旅館の総支配人が殺害された。従業員ら6人が殺したと通報してきた。6人それぞれの取り調べによる供述が進むうち、豚と称されるほど見苦しく肥えた、意地汚い支配人の姿が浮き彫りになる。彼は殺されるべくして殺されたのか・・・ 供述のなかで明らかになる容赦ないリストラ、月300時間という労働実態、パワハラやセクハラ。相対的貧困層といわれる者たちの過酷な日々。彼らを精神的に支える憧れの女神、支配人の妻で女将の純子。 6人で殺していながら、6人ともが冷静に問われるとそこまでの殺意がなかったという奇異。読み進めるにつれて膨らんでいく違和感。 そして、供述が周辺人物へと及ぶと事態は反転、事件はまったく違った様相を見せる。そして、ランチュウの象徴する狂気。 自己責任、自己啓発セミナー、マインドコントロール、突破、突破、突破、突破、突破、、、 あ~怖いよ~。 だけど、一番いい加減だと思っていたあいつが一番まともだったとは・・・ 普通にさらっと心に染みを残してくれました。
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ホテルの総支配人を殺し自首した6人の供述で物語が進む犯罪小説。 いい。これはいいぞ。やはり赤松利市は私に怒りを滾らせてくれる。 殺された巨漢デブ成金はやりたい放題だ。彼を何故殺すことにしたかをそれぞれの目線で語っていくのだが「そりゃ殺意湧くよね」という傍若無人。 その過程だけで...
ホテルの総支配人を殺し自首した6人の供述で物語が進む犯罪小説。 いい。これはいいぞ。やはり赤松利市は私に怒りを滾らせてくれる。 殺された巨漢デブ成金はやりたい放題だ。彼を何故殺すことにしたかをそれぞれの目線で語っていくのだが「そりゃ殺意湧くよね」という傍若無人。 その過程だけでも面白いのだが、この作者の裏テーマは社会批判だ。汚い言葉で大いに語る。特にタイトルである金魚のらんちゅうと選別と人間のクズ共の仕分けが重なった時に、震えるほど作者に共感する自分がいるのである。それは敗者の遠吠えだと自覚してもなお。 自己啓発セミナーが登場した時点で穏やかではないと思ったが、やはりこういう構成できたかと。 『鯖』でも感じた、崖から突き落とされるような感覚は、より嫌らしく洗練されている。 不愉快で最悪な私の好み。
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3月-13。3.0点。 旅館の経営者が、従業員達に殺される。 従業員達はすぐに自首し、逮捕。彼らの供述を追っていく。 経営者は、若女将と結婚した上場企業の次男。 供述の後半、違和感が。 よくあるパターンでは片付けられない、筆力有り。 次作も楽しみ。
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旅館の従業員たちによって殺された総支配人。傲慢で強欲で下品で馬鹿な彼はそりゃあ殺されて当然なのじゃないか、と序盤は思えるのだけれど。従業員たちやほかの関係者の証言を読むうちに事件の様相が変わってきて、やがて明らかになる真相……ランチュウのイメージも相まって、なかなかに不気味な読み...
旅館の従業員たちによって殺された総支配人。傲慢で強欲で下品で馬鹿な彼はそりゃあ殺されて当然なのじゃないか、と序盤は思えるのだけれど。従業員たちやほかの関係者の証言を読むうちに事件の様相が変わってきて、やがて明らかになる真相……ランチュウのイメージも相まって、なかなかに不気味な読み心地の物語です。 ネタバレになるので多くは語れませんが。自己啓発セミナー、明らかに怖いですよね。なのにその中で陶酔しちゃうと気づかないのか……こういうの、実際にもありそうで。どうしようもなく気持ち悪くて仕方ありませんでした。案外と一番まともで自分をしっかり持っていたのは、一番不真面目に生きていそうな彼だけだったのかも。
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