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愛の顛末 の商品レビュー

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6件のお客様レビュー

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2022/12/17

作品を読んだことのある人、作品を読んではいないが名前や代表作は知っている人の中、唯一知らなかったのが近松秋江。ちょっと前の日本の私小説作家というと葛西善蔵とか貧困を赤裸々に描く人が多い印象だったが、この人は妻や恋人に対し、ストーカー行為を繰り返し、それを小説として書いたというんだ...

作品を読んだことのある人、作品を読んではいないが名前や代表作は知っている人の中、唯一知らなかったのが近松秋江。ちょっと前の日本の私小説作家というと葛西善蔵とか貧困を赤裸々に描く人が多い印象だったが、この人は妻や恋人に対し、ストーカー行為を繰り返し、それを小説として書いたというんだからたまげた。 現代だったらちょっとあり得ない。女性のプライバシーや人権に全く配慮してないし。(この時代の男は大抵そうだっただろうけど。)愛というより、妄執。田山花袋なんかもそうだけど、気持ち悪い。しかし、男子たるもの、という考えが当たり前だった時代に、妻に逃げられて追いかけ回して愛想つかされてというのを書いて、「滑稽だが、ただ嘲笑して済ませることのできない切実さがある」(p42)というのだから読んでみたくなる。 全体的には、男たちは本当に勝手で、八木重吉なんか、(昔はそのピュアな詩が好きだったが)あきれた。家庭教師した少女に夢中になって、相手が困惑するほどの熱烈なラブレターを送り続け、学校もやめさせて結婚したのに、今度はキリスト教に夢中になって(夢中になると他のものは何も見えなくなる人であったようで)「つまよ、ひとりの児よ、このようにくれ、またあしたをむかへる これだけが いのちの あぢわひなのか」なんて、勝手極まりない。無理やり結婚したくせに! 吉野せいの夫、三野混沌もそう。猛烈にアタックして結婚したくせに、結婚したら自分は文学をするからって農作業も子育ても丸投げ。しかも、彼女には文才があったのに、そのことは歯牙にもかけない。封印。俺の文学は大事だが妻の才能はどうでもいい。混沌を亡くしてすでに70歳を過ぎてから、やっと書くことができたのが名作『洟をたらした神』。しかし、それで彼女の命も尽きた。もし彼女がもっと若いときから書いていたら。 ま、自分の作品は忘れられてるのに、妻の作品は今も読まれていることを知って、混沌は泉下で地団駄踏んでるだろうよ。 性愛を詠んで「情痴俳人」「娼婦俳人」と呼ばれた鈴木しづ子、恋も知らぬまま19で結婚させられ三人の子を産み、不貞の夫と別れて恋の歌った歌人中城ふみ子も「やすやすと堕ちる」女と言われる。 才能があり、当時の状況からしたらすごい度胸もあった彼女たちに対する(男)社会の扱いはひどいもので、胸が痛む。 作家や詩人、歌人、俳人たちの恋愛をテーマにした本書は、一昔前の才能ある女性の生きづらさが胸に刺さる。 寺田寅彦の妻たち、特に三人目の志んなんか(当時は悪妻と言われていた)、現代に生きていたら、のびのびとその能力を活かせたのではないかと思う。 いろいろ考えさせられる、興味の尽きない本だった。

Posted byブクログ

2022/07/04

人が恋愛に費やすエネルギーは、やはり大きい。しかもそこに人間としての美しさも醜さも、ひっくるめて現れてくるから、ひとりの作家につき、20頁ほどの少ない分量で描かれていながら、その中で彼ら作家の魅力が最大限に引き出されているのだと思う。なぜなら未読の作家の作品を悉く読みたくなったも...

人が恋愛に費やすエネルギーは、やはり大きい。しかもそこに人間としての美しさも醜さも、ひっくるめて現れてくるから、ひとりの作家につき、20頁ほどの少ない分量で描かれていながら、その中で彼ら作家の魅力が最大限に引き出されているのだと思う。なぜなら未読の作家の作品を悉く読みたくなったもの。女性の強かさ。

Posted byブクログ

2021/11/26

書かれたものにも、書かれなかったものにも、言葉にしなかったことにも、想いは詰まっているのだなあ、と思う。 中井英夫と八木重吉と、吉野せいに俄然興味が湧いた。

Posted byブクログ

2020/01/06
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

目次より 小林多喜二 恋と闘争/近松秋江 「情痴」の人/三浦綾子 「氷点」と夫婦のきずな/中島敦 ぬくもりを求めて/原民喜 「死と愛と孤独」の自画像/鈴木しづ子 性と生のうたびと/梶井基次郎 夭折作家の恋/中城ふみ子 恋と死のうた/寺田寅彦 三人の妻/八木重吉 素朴なこころ/宮修二 戦場からの手紙/吉野せい 相克と和解 どの作家の愛と死と文学もそれぞれの時代や周囲の人々に、幾多の困難や喜びに彩られ魅力的で引き込まれましたが、特に心に残ったのは奇しくもともにクリスチャンだった三浦綾子、八木重吉の愛と死です。 二人とも既知の作家(詩人)であったこともあると思います。(初めて名前を知った作家も多かったです) 作者の梯久美子さんはあとがきにおいて 「すぐれた作家や多くの読者を得た作家の人生は、それぞれが生きた時代を映し出す。本書では作家たちがどのように死んだかにも紙幅を割いた。恋愛と結婚の顛末に加えて、死の様相にも作家の個性と時代性があらわれていることが、あらためてわかっていただけるのではないか」と述べられています。 三浦綾子は自著『道ありき』『この土の器をも』の中でも詳しく書いているのを読んだ記憶がありますが、キリスト教を通じて夫となった三浦光世と出会う前に前川正という幼なじみの青年からこのような遺書を届けられています。 「綾ちゃんは真の意味で私の最初の人であり、最後の人でした。綾ちゃん。綾ちゃんは私が死んでも、生きることを止めることも、消極的になることもないと確かに約束して下さいましたよ。(中略)決して私は綾ちゃんの最後の人であることを願わなかったこと。このことが今改めて述べたいことです。生きるということは苦しく、又、謎に満ちています。妙な約束に縛られて不自然な綾ちゃんになっては一番悲しいことです」前川と夫となった三浦光世は驚くほど似た面差しの青年だったそうです。 八木重吉の墓の左側に14歳と15歳で亡くなった子供たちの墓があり、その墓をはさんで「登美子」とだけ刻まれた墓があるそうです。姓がなく名前だけなのは重吉の死後に再婚したためで、再婚相手は歌人の吉野秀雄だそうです。吉野は登美子より先に亡くなったけれど生前、重吉の墓に参ってこんな歌を詠んでいるそうです。 「われのなき後ならめども妻死なば骨分けてここにも埋めやりたし」 吉野はこの歌を自分の遺言としたそうです。 八木と吉野は生前一度も会ったことがないそうですが、22歳の若さで夫を亡くした登美子は幼な子を抱え働きましたが、子供を亡くし、吉野45歳、登美子42歳で再婚。吉野の家にきたときは、重吉の詩集、遺稿、写真、聖書の入ったバスケットを携えていたそうです。そして吉野は、無名だった重吉の詩を世に知らしめることに力を尽くしたということです。 重吉と登美子は、家庭教師と生徒の間柄で重吉24歳登美子17歳での結婚でしたが、重吉は結核に罹り29歳で息を引き取ったそうです。

Posted byブクログ

2019/01/13

超有名どころから、知る人ぞ知るという人まで、 様々だが、どの文学者も強烈な生き様で 圧倒される。 それぞれの作品への興味もかき立てられた。 吉野せい、宮柊二など、ぜひ読もうと 思った。

Posted byブクログ

2018/11/20

【『狂うひと――「死の棘」の妻・島尾ミホ』に続く文学史】秘められた恋、ストーカー的熱情、夫婦の愛憎――小林多喜二、三浦綾子、中島敦、原民喜、中城ふみ子、寺田寅彦ら十二の作家の物語。

Posted byブクログ