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二十五年後の読書 の商品レビュー

3.7

10件のお客様レビュー

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2021/01/03
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

脊梁山脈以来の乙川優三郎作品。 とにかく、使っている日本語の多彩さ豊富さ適切さに感心する。奇をてらうのではなく、日本語の豊かさで小説を描き切るのは素晴らしい。 比して自分の日本語力のなさよ。こうやってレビューを書いていても自分の語彙の乏しさが悔しくてならない。 物語自体は、どちらかというと退屈な部類である。中年も後期に差し掛かった書評家兼カクテルを愛する女性が仕事と恋と生き方に転換期を迎え、精神を疲弊したなか、南国リゾートで癒され再生をとげる…。それだけの話。 生き方も考え方もスノッブというかちょっと鼻につく主人公のちょっと鼻につく生活に引き込まれてページを食ったのも丁寧できれいな描写のおかげ。文章には(文学には)こういう力があるから侮れない。 物語の後半、彼女が復活の書評に選ぶ本のタイトルが「この地上において私たちを満足させるもの」…なんと、乙川優三郎がこの作品の次に上梓した小説なのである。どういうハードルのあげ方や!是非読まねばならない作品がここにも1作出現した。

Posted byブクログ

2020/06/04

 美文調ではなく、よく磨かれた感じの文章を目指すのか。何か繰り返し、現代的な作品への不満が語られているが。  最後が温かな空気になっているから、それが心地よく。よかったなぁ 響子さん。

Posted byブクログ

2019/12/26
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 ふむ、そう来たか、という最後のオチにニヤリ。  著者作品は、2作目。『ロゴスの市』がとても良かったので、著者得意の歴史ものではなく、同じく“読書”、“本”そのものを題材とした本作を読んでみた。  正直、美辞麗句のオンパレード、そのくせ、ストーリーは遅々として進まず、登場人物も、どこかハイソな縁遠い世界の浮っついた言動が鼻について、感情移入もできずに、なかなか読み進む気になれなかった。  ベテラン作家と男女の関係を続ける書評家が主人公。馴染みのバーの若いバーテンダーとカクテルの品評会にチャレンジしたり、元恋人が亡くなった親戚(従姉妹)の旦那として出てきて復縁を迫ったり、友人のトラベルエイジェンシーの女性が、都合よく海外旅行をアレンジしてくれて、どうもなんだかなーの展開。  話もたいして進まないし、どのエピソードも、それぞれ独立していて有機的に絡んでこない。要所要所に挟まれる、文章表現は素敵ではある。特に、本、日本語、そして今の業界というか作家や書評家に関しての言葉は、いくつも付箋を付けたりもした。 「読ませることを意識して書かれた文章の流れは、それこそ読者に読まれてします。どうにか展開は愉しめるが、なにも残らない。」 「佳作の代わりに気取った顔を売る作家が増えて、仕事を知らない編集者が尻馬に乗ったりする。好学の評論家が世間知らずなら書評や解説も凡庸で、作品の核心すら付けていない。」 「過剰に作家を持ち上げる書評、首をかしげたくなる賛辞、なんの役にも立たない青臭い分析、作家より自身の優秀さを証明したいだけの鼻高な文章などがちらついた。」  若い頃、夢中になって読んだ宮本輝の著作『錦繍』もなんの前触れも、説明もないまま出てきて(作者の紹介もない)驚いた。ずいぶん持ち上げる形で登場させる。 「それは手書きの文学の未来を暗示しているとも言えるし、時代という保護者にも破壊者にもなる無言の圧力を思い出させてくれるものでもあった。」  eメールに取って代わられ、手紙での交流が時代遅れとなり、作家も原稿用紙に万年筆ではなく、ワープロ、パソコン上で創作するようになって、なにか大切なものが失われていることを危惧してのことだろう。以下のように続く。 「欧米の作家の書斎からタイプライターの音が消えて、指先にこめていたなにかが失われてきたのと同じことかもしれない。」  こうして折に触れ、良い作品とは、美しい日本語とは、作家のあるべき姿はいかなるものかを語り、そして、本作の中の登場人物である作家(ちょっと落ち目っぽい)が、1冊の本を書きおろし自分の愛人である書評家の女に読ませる。一読して彼女は呟く 「こんちくちょう、生き生きしやがって」と。  その書物のタイトルが、 『この地上において私たちを満足させるもの』  本作と連作で上梓された作品そのものだ。書評家の彼女をしてこう言わせる。 「もう怪しい魅力的な世界が骨格を持って立っている」 「量産は考えられない薫り高い文章」 「美しい日本語がつづいて、それに勝る言葉など見つかるわけなかった」  おいおい、自分で自分の作品を、ここまで持ち上げて大丈夫か?!と心配になる。    本作は、実は、つまらなかった。  が、この作中作の出来次第で、その評価も変わるかもしれない。『この地上において~』を読んでから、こちらのレビューもすべきかと思ったけど、素直に本作を読み終わったところで、一度書いておく。 この作中作を読むのが楽しみだ。

Posted byブクログ

2019/11/08

文章の美しさに魅了される。2度読みした文章がいくつもあった。叙情的と言うより理知的な美しさの文章。 女としての自分を考えさせられた。もちろん落ち込みましたが。

Posted byブクログ

2019/03/09

歴史小説の美文が素晴らしい著者が現代小説。高齢期を迎えたヒロイン響子は長年の公私にわたる深い付き合いのあった作家三枝の影響もあり、書評を書く立場になっている。三枝もまた歳を重ねてきた小説家の文章が枯れてきたという危機感をヒロインに感じる。これは著者自身?確かにあの美文は感じなかっ...

歴史小説の美文が素晴らしい著者が現代小説。高齢期を迎えたヒロイン響子は長年の公私にわたる深い付き合いのあった作家三枝の影響もあり、書評を書く立場になっている。三枝もまた歳を重ねてきた小説家の文章が枯れてきたという危機感をヒロインに感じる。これは著者自身?確かにあの美文は感じなかった。初めて現代小説を読む私自身の感じなのかなとも思うが…。メインテーマから逸れるかも知れないが、亡き従姉妹の夫が大学時代の恋人で、30年ぶりの偶然の出会いからのいろんな場面での会話が興味深かった。このような会話になるのかな、と。

Posted byブクログ

2019/01/06

190105*読了 久しぶりに夢中で読み切った小説となりました。 出合ったきっかけはブクログの記事。なんとなく惹かれて、図書館で借りました。女性作家ものばかり読んでいるので、乙川さんのことも存じ上げず、もしその記事を目にしていなかったら知ることもなかったであろう小説です。偶然が繋...

190105*読了 久しぶりに夢中で読み切った小説となりました。 出合ったきっかけはブクログの記事。なんとなく惹かれて、図書館で借りました。女性作家ものばかり読んでいるので、乙川さんのことも存じ上げず、もしその記事を目にしていなかったら知ることもなかったであろう小説です。偶然が繋げれてくれたご縁に感謝。 自分とは接点のない五十五歳の未婚女性。なのに、すごく惹かれる。孤独と戦いながら生きている人なのに、こんな風に生きたいとすら思ってしまう。わたしは響子さんのような五十五歳になれるだろうか。五十五歳になった時、こんな信念を抱いて、こんな生き方ができているのだろうか。 孤独になりたいわけではないのだけれど、自分の生き方を貫きたいとは思います。あと、書評家という職業にも憧れます。 響子さんが日本語の文章の美しさを何度も語るだけあって、久しぶりに整った日本語で書かれた小説を読んだように思います。文学に触れたというか…。今までに触れてこなかった単語もたくさんあって、難しく感じるはずなのに、流れるように読めてしまう。描写が上手くて、頭の中で人物が淀みなく動いていく。 最近、読んでいても、うっと詰まってしまう小説が多いように思っていたので、うーんこれはすごい。 乙川さんの他の小説も読もうと思います。乙川さんが創り出す文章をもっと味わいたいです。

Posted byブクログ

2018/12/22

初出2017〜18年 今年読んだベスト。 なめらかな美しい文体はさすが。 ラストが予想できたが、読み終えたくなかった。 旅行業界紙の記者からエッセイスト、さらに没良心と戦う書評家に転じた50代の主人公中川響子。30年近く前にパラオで出会ったカメラマン谷郷は、作家に転じ、美しい...

初出2017〜18年 今年読んだベスト。 なめらかな美しい文体はさすが。 ラストが予想できたが、読み終えたくなかった。 旅行業界紙の記者からエッセイスト、さらに没良心と戦う書評家に転じた50代の主人公中川響子。30年近く前にパラオで出会ったカメラマン谷郷は、作家に転じ、美しい文学を間に置く恋人の関係が続いてきた。 最近良い作品が描けていない谷郷を響子は心配する一方、充分に推敲されず洗練されていない最近の小説、作家を、文学を愛する故に容赦なく批判する書評を書いて反響を呼ぶ。(当然そこには作者の思いが溢れている。) 別居してヨーロッパで画家として生きている谷郷の妻が病で苦境にあることを知って、谷郷は身辺を整理してベネチアに向かい、響子は喪失感と増えた仕事に追われて体調を崩し、南の島に西洋に向かう。そこに届けられたものが、この本のタイトル。 作者が好きらしいカクテルも物語の重要なアイテムだが、如何せん下戸なので理解が及ばない。 終盤の舞台、フィリピンのスールー海の小島での長期滞在は、一庶民には羨ましい限りで現実感が薄かった。まあ、行ってみたいけど。 気に入った作家たちが亡くなって、この3年、新しい作家を探して新刊書を週3冊読んできたが、過去の秀作も読んでみようという気にさせられた。 それにしても、作者はもう時代小説を書かないのだろうか。 追記 12/22の朝日新聞の書評欄に、諸田玲子がさすがと思える文章を書いている。「本を閉じたとき、文学への限りない愛を感じた。死や別離や苦悶の先にある希望、それが文学だよ——と、と著者の声が聞こえてきたような。」全く同感。

Posted byブクログ

2018/12/15

55歳、独身、書評家の響子は、作家の谷郷と関係を持っている。趣味は新しいカクテルを考案すること。優秀なバーテンダーと組んで、大会で勝つのを目標にしている。仕事、恋愛、趣味。彼女の人生はどう転がっていくのか・・・ まだるっこしいことをまだるっこしい文章で書かれたのを読むのが好きな...

55歳、独身、書評家の響子は、作家の谷郷と関係を持っている。趣味は新しいカクテルを考案すること。優秀なバーテンダーと組んで、大会で勝つのを目標にしている。仕事、恋愛、趣味。彼女の人生はどう転がっていくのか・・・ まだるっこしいことをまだるっこしい文章で書かれたのを読むのが好きな自分にとってはご馳走。 これと言ってドキドキするような展開が続くわけでもなく、やや淡々と進む。その過程で、文学についてかったるい議論が続出する。そのかったるさはある人にとっては毒でしかないだろうし、私のような好き者のヘンタイには薬になる。 主人公の内面をひたすらに進むので、「55歳独身女性の人生はどんなものなのか」を体感している感じがした。時代小説を中心に書く、しかも男性作家が、現代小説でしかも女性の内面を描くのを読むのもまた趣き深いものがある。

Posted byブクログ

2018/12/06

一気読み。 物語を追って止められなくなるのではない。 そこに書かれている文章を求めて、追ってしまう。 芳醇な言葉が紡ぐ大人の世界。ああ、好きだなあ。 『トワイライト・シャッフル』の「ビア・ジン・コーク」だったかな?その登場人物を広げて深めたような感じ。もしかして、同一人物だった...

一気読み。 物語を追って止められなくなるのではない。 そこに書かれている文章を求めて、追ってしまう。 芳醇な言葉が紡ぐ大人の世界。ああ、好きだなあ。 『トワイライト・シャッフル』の「ビア・ジン・コーク」だったかな?その登場人物を広げて深めたような感じ。もしかして、同一人物だったりするのだろうか。 一筋縄ではいかない男女間を描いて、この硬質な雰囲気。 格好良い。 著者の読書への思いが、言葉に対する真摯な姿勢が、文章を書く者としての覚悟が、びしびしと感じられる作品。 読み終わると結構疲れた。でも、心地よい。 しかし、カクテルが飲みたくなるなあ。

Posted byブクログ

2018/12/01

「ロゴスの市」「トワイライトシャッフル」など、生きるということの例えようもない哀しさと力強さを、この上なく美しい文章で表現し続けてきた乙川さんが、「完璧に美しい小説」をテーマに描いた作品。 作中作である「この地上において私たちを満足させるもの」が12月に連続刊行されるという力のこ...

「ロゴスの市」「トワイライトシャッフル」など、生きるということの例えようもない哀しさと力強さを、この上なく美しい文章で表現し続けてきた乙川さんが、「完璧に美しい小説」をテーマに描いた作品。 作中作である「この地上において私たちを満足させるもの」が12月に連続刊行されるという力のこもった作者の記念碑的長編小説。 文学は芸術であるという作者の思いがページの端々から感じられ、わかりやすいだけの言葉と、妥協の産物として量産される小説への痛烈な批判が止まらない。 作家、書評家、ひいては読者への苦言は、まさに現代の小説を取り巻く環境への静かな怒りと嘆きを表現して容赦がない。 作者は時間のせいにして文章をとことんまで磨く努力を怠っていないか、書評家は耳に心地いい無責任な賛美のみを書いて、核心をつく批判を避けてはいないか?私たち読者は、ただ読みやすく、奇を衒った作品ばかりをもてはやしてはいないか?どれもこれも思い当たり、耳に痛い言葉の数々。 それぞれがそういう努力をしなくなれば、文学というものは廃れ、活字の力も失われていくのかもしれない。先行きは暗い・・・

Posted byブクログ