希望荘 の商品レビュー
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杉村三郎が会社を辞め、離婚してから私立探偵となって調査を引き受けていく顛末記。今作には4つの事件が描かれている。 杉村の一人称で書かれる物語なので、杉村の感情の変化が見て取れるのは勿論、今までの事件に重ねながら読める解釈がある。是非シリーズを順番に読んでみてほしい。 探偵として成長した杉村の話を長編で読みたいという気持ちが大きくなったので今回は⭐︎3で! ①聖域 杉村探偵事務所の初めての事件。 コーヒーショップで早苗の悪意を聞いたあと、当分コーヒーの香りを嗅ぐのも嫌だと思った杉村に、これこれこれこれこれ!杉村のこういうところがいいんだよ!と何度も頷いた。 事件の依頼者でもなんでもない、途中で聞き込みをした相手でしかないベルにフォローを入れる性分が杉村の良さなのだ。 最初の事件を最後まで終わらせた(解決のその先)とき「探偵など、所詮その程度の存在なのだった。」とかける言葉を思いつかないところに安心した。 探偵になるべきと言われたことが何度もあって、紆余曲折はあったが結果として探偵になって、事件を解決しても全能官に浸るような人間でないとこが信頼できる由縁。 ②希望荘 寛二氏の置かれていた状況を自分と重ねて動揺する杉村三郎は、今までにいなかった彼だなと思った。 離婚する前、逆玉の輿だとかゲシュタポだとか色々と噂されても、ましてや目の前で立ち位置のことをどう言われても本人は掌中の幸福を眺めるばかりで傷付いている自覚はなかったから、自分の感情に気付けるようになってよかったと思う。 犯人なのでは、という考えが頭をよぎったとき、あくまで疑惑でそこからひとつずつ確認していく作業を読んでるときが気持ちいい。 夜遅くへの電話の対応もヒヤヒヤしない。探偵を始めたばかりの杉村に探偵としての貫禄とかはないんだろうけど、この人になら話しても大丈夫、この人なら話を聞いてくれると思わせる何かがあるんだろうな。 ③砂男 姉と巻田夫妻の話をしていたとき、最初は自身の離婚を済んだことだから大丈夫と言っていたけど、浮気が話題にあがったときには「やっぱり傷つくよ」と杉村が言った。 希望荘のとき動揺という言葉で済ませていた杉村が自身が傷つくと明確に気付いて、それを口にしたのに感激した(終わりもなければ自覚もない自己犠牲を続ける男だったんだから!) 広樹の話、読者は原田いずみのことを知っているから杉村の想像に説得力がある。広樹(仮)の話は、ペテロの葬列にあった「真実は美しいものではない。この世で最も美しいのは、終わらない嘘の方だ。」を思い出した。そして自身の評価を間違え続けてしまった広樹(仮)はまともな人間だった。だから嘘をつき続けることができなかった。皮肉。 正義感、公平さがシリーズ通して一貫していて助かる。 杉村が姪の言葉を大事にしてるのも素敵。老若男女関係なく同じような心持ちで向き合えるのは彼の長所である。 テーマに合った歌が流れるのは久しぶりな気がして懐かしかった。 ④二重身 これまでの3作では結婚生活のことを彷彿させるシーンで杉村が何度も瘡蓋を作り直していたけれど、昭見兄と対峙したときに、「企業のトップに検分されることになら、私は経験値を積んでいる。」と過去のことが糧になっていて拍手してしまった、杉村かっこいいぞ! 犯人が分かった高揚感で突っ走ることなんかしないで、昭見兄にも丁寧に説明するし、蛎殻所長に相談して慎重にお膳立てする。杉村の真面目なところが出ていて安心して読める。 真相はほぼ分かっていても実際目にすると「人が蒼白になる瞬間というのは、あまり目撃したいものではない。」「人が崩壊する瞬間というのは、さらに目撃したいものではない。」と感じる杉村は、謎を解きたくて探偵をしているわけじゃないのがよく分かる。 その喫茶店で流れていたBGMが嫌いになるような、人間らしい探偵である。最初は〈結果〉であって〈動機〉ではありませんように、と祈るような優しい男。 松永の殺意については希望荘で寛二氏が言っていた「悪いもんに取り憑かれた男がやったんだよ。」が頭をよぎる。 松永のそれは色恋沙汰ではなくて、今まで積み重ねてきた不幸が取り憑いたんだろう。 名もなき毒にあった「不幸ってのは、たいていの場合そうなんだな。あちらを立てればこちらが立たずというふうに噛み合っちまってる。こんがらがってほどけない紐みたいに」という秋山氏のセリフがまた頭をよぎった。
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'24年11月21日、AmazonAudibleで、聴き終えました。杉村三郎シリーズの、4作目だそうで… シリーズ順を無視して、アタックしてしまいましたが…とても面白かったです。 以前にドラマを何作か観たせいで…主人公のイメージが、「あの役者さん」から離れられなくて...
'24年11月21日、AmazonAudibleで、聴き終えました。杉村三郎シリーズの、4作目だそうで… シリーズ順を無視して、アタックしてしまいましたが…とても面白かったです。 以前にドラマを何作か観たせいで…主人公のイメージが、「あの役者さん」から離れられなくて、長編は読む気がせず、短編(というか、中編?)集である本作を聴きました。僕的には、大正解でした。 「聖域」のラストの、主人公の人柄がよく表れた優しい言葉に、胸打たれました。他の3編「希望荘」「砂男」「二重身」、どれも良かった!タイトルは?だけど…「二重身」も、上手いなぁ、と思いました。東北の震災時の大混乱を、思い出して…こちらも胸打たれました。 宮部みゆきさん、流石!
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離婚して、探偵業を始めた杉村三郎のお話。 いわゆる普通の探偵もののような、華麗なトリックとかはなかったけど、杉村三郎が依頼者に寄り添っていく形で、読ませる話だなあと感じた。 最後の「二重身」では、東日本大震災の話なども出てきて、当時の関東の話がリアリティをもって語られていたのが印象的だった。 私は、タイトルにもなった「希望荘」と「砂男」が一番心に残ったかも。 希望荘では、杉村三郎の老後か?って思うようなおじいさんが出てきたし、「砂男」ではいや、サイコパスにそこまで罪悪感を抱くか?って思いはしたけど。 杉村三郎シリーズもあと1冊。ここまで来たら見届けるしかないでしょ!
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探偵となって、今までの優しさだけでなく強さも持ち合わせてきた杉村。 これからの探偵としての活躍も楽しみもあり、怖さもある。
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「ペテロの葬列」を読む前に読んでしまって後悔。「希望荘」はその後の短編4話で、探偵杉村三郎氏の過去に触れられてて、そっちの方が気になってしまった。
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離婚して私立探偵になった杉村の短編集。 中途半端な終わりかたをせず、きちんとオチがつけてあって面白い。さすが。
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最後のドッペルゲンガーは読み応えがあったが、前回までが大作だったので、主人公の離婚に伴い、物語も尻すぼみした感が拭えない。
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めっちゃ久しぶりの宮部さん。 杉村シリーズはドラマで観てた(内容は全く覚えてない)ので、当然小泉孝太郎さんで脳内再生される。
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★3.5でおまけをしようとしたが。。。 これってシリーズものなんですね、まったく知りませんでした。が解説読んでみると、うーむ、若干某SFモノのような後付的な感じもしてきたなぁ。 単品でも問題ないので支障ありませんが、どうなんでしょうか、こういうのは。面白いなぁ、救いがほんの少し垣...
★3.5でおまけをしようとしたが。。。 これってシリーズものなんですね、まったく知りませんでした。が解説読んでみると、うーむ、若干某SFモノのような後付的な感じもしてきたなぁ。 単品でも問題ないので支障ありませんが、どうなんでしょうか、こういうのは。面白いなぁ、救いがほんの少し垣間見える読後感など、さすが筆力が最近の下の年齢の作家とは比べ物にならんと思っていたのに、少々味噌をつけた感じで。 まぁ別に気にせず楽しく読めば良い話ではあるのですが。
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杉村三郎シリーズ第4弾。杉村三郎は、離婚し、今多コンツェルンも離職したその後。杉村三郎は東京都北区に私立探偵事務所を開業する前後の4つの短編。 『聖域』 探偵事務所に、近所のおばさんの紹介で、依頼が来る。杉村三郎に、盛田という女性から、アパートの階下に住んでいるお年寄りの三雲...
杉村三郎シリーズ第4弾。杉村三郎は、離婚し、今多コンツェルンも離職したその後。杉村三郎は東京都北区に私立探偵事務所を開業する前後の4つの短編。 『聖域』 探偵事務所に、近所のおばさんの紹介で、依頼が来る。杉村三郎に、盛田という女性から、アパートの階下に住んでいるお年寄りの三雲勝枝がいなくなったのに、若い女性が押している車椅子に三雲勝枝はおしゃれな服着て乗っていた。そのことを不審に思い依頼したのだった。杉村三郎が、三雲勝枝を探し始める。若い女性は、三雲勝枝の娘早苗、40歳で離婚した。早苗は変な宗教カルトにかぶれて貢ようになった。年金生活していた三雲勝枝が、突然行方不明になったのは、早苗のアドバイスによるものだった。行きつけだった「睡蓮」のマスター水田大蔵も、事務所近くに「侘助」という喫茶店を開いて、相談に乗ってくれるのをありがたがる。三郎とマスターの会話が絶妙だ。 『希望荘』 老人ホームにいる武藤寛二は、心不全で亡くなった。息子の相沢幸司は、その父親が死ぬ前に、「35年前(昭和50年)に人を殺した」と言っていたことを不審に思い、杉村三郎にそのことを調べてほしいと頼んだ。杉村三郎は、老人ホームで保護士、看護士、掃除担当者から聞いていた。 昭和50年の殺人事件については、オフィス牡蠣の木田光彦のリサーチで、犯人が捕まっていることがわかった。武藤寛二は、その時働いていた吉永運送会社の同僚が犯人で可愛がっていたのだ。出頭に付き合ったのだ。孫が、よく病室におとづれ、杉村三郎におじいちゃんのことを聞く。孫は、おじいちゃんに助けられたことがあったのだ。そして、おじいちゃんのことを心配していた。 武藤寛二は、昨年公園で、ジョキングしている女性が殺されたのだ。その犯人はまだ見つかっていない。死体のそばに、三つにおられたタオルがあった。そのタオルが、杉村三郎がヒントになって、犯人がわかったのだ。それは、武藤寛二は、その事件のテレビニュースを見たことからも。 『砂男』 今多菜穂子と離婚した杉村三郎は、会社も辞めたので、山梨の実家に帰った。ちょうど父親は入院していた。兄は農園を運営し、姉は学校の先生をやっている。母親は、杉村三郎のことを勘当しているので、ケンもほろろである。母親は毒蛇のように口が悪いのだ。三郎は、兄に農業を手伝うというけど、兄は簡単に断る。兄嫁が三郎のことが嫌いなのだ。姉の世話で、フリーペーパーの仕事をするのだった。さらに農産物の販売センターを手伝うことになり、配達先の一つである評判の蕎麦屋の旦那が行方不明になるのだ。杉村三郎は、その失踪問題を解決する。 『二重身 ドッペルゲンガー』 2011年3月10日 東日本大震災の前日に、アンティークショップのオーナーが出かけ、その後連絡が取れなくなった。オーナーと付き合っている母の高校生の娘が、そのオーナーの行方を探してほしいと言われる。杉村三郎は未成年からの依頼は受けないルールがあるが、東日本大震災に巻き込まれたことから、ボランティアで調査を始める。 オフィス蛎殻の人から、「杉村さん、余計なお世話を申しますが、その案件の場合、震災がらみのーこう、何と申しますかね、感情的に揺さぶられる部分は脇に置いて、単なる行方不明の案件としてとらえることを忘れない方がいいと思います」というアドバイスを受ける。それが、行方不明の事案を解決する糸口となった。 日常の生活の中で、人が行方不明になったり、殺されたりする。人はなぜ殺すのかという事件を、日常を描く中で、その事件の見えない景色を見つけ出して、事件を解決する。 この杉村三郎、探偵としての能力は高いが、経済的に成り立つのだろうか?
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