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パリの片隅を実況中継する試み ありふれた物事をめぐる人類学 の商品レビュー

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2025/07/25

サン=シュピス教会が見えるパリの一角のカフェの窓から、ぺレック流の目線で三日間街を観察した記録。 パリの街の実況中継であると同時に、カフェの窓からじっと動かず外の喧騒を眺める男の実況中継でもある。『さまざまな空間』でもそうだったけど、ぺレックがトポスを語るときは同時にいつも...

サン=シュピス教会が見えるパリの一角のカフェの窓から、ぺレック流の目線で三日間街を観察した記録。 パリの街の実況中継であると同時に、カフェの窓からじっと動かず外の喧騒を眺める男の実況中継でもある。『さまざまな空間』でもそうだったけど、ぺレックがトポスを語るときは同時にいつも質量を伴った”自分”がいる。”純粋な観察者の目”というものは存在しないと知っていた人だ。 初日はランドマークや通りに溢れる文字情報を書き連ねていたのがどんどん減っていき、動きのないものは文字通り「背景」になっていく。建築物が徐々に後景へと退き、動き続ける人や車にフォーカスが移動していく視点は、画家や映像作家の思考の変化を書き起こされたかのようにも感じられる。 ある日は「青リンゴ色」の車がオブセッションのように何度も登場し、ほかにも緑や青など同系色ばかりが描写されたりして、ほとんどモノクロームの風景に限られた色がパッと浮かび上がるソール・ライターの写真を連想した。夕方に灯っていく街の光の色が印象に残る日もある。 人間観察のエッセイってわけではないけど、数学の文章問題にでてくる記号的なモブのような人間たちがたくさん書き留められている。そのなかに時折有名人やぺレックの知り合いが混ざっていたりして、ぺレックと一緒に『ウォーリーをさがせ!』をやってるような気分にもなった。『タンタン』にでてくるスノーウィに例えられた犬種が何度も通り過ぎ、頭のなかの風景が実写からふわっとバンドデシネの絵柄に変わっていく瞬間がある。 この「実況中継」が行われたのは1974年だが、本当にパリはこんなにも日本人観光客であふれていたのだろうか。おそらくは”異物感”を表すものとして執拗に繰り返される日本人観光客の描写に居心地の悪さを感じつつ読み進めると、唐突に百閒先生の『東京日記』みたいな一文がスッと入り込んでくる。完全に気を抜いた読書中に一文の幻想にいきなり刺される感覚、ここは日本人だから特別面白がれたかもしれない。 最後に。この邦訳は訳者解説がまえがきとして一番最初に置かれているんだけど、正直ここが40ページ近くあるのは萎える。読者を慮った意図があるんだろうけど、ぺレックって別に不親切な作家ではないし序文も上手いから、何を試みたのか解説より平易な言葉で説明してあるし。「娯楽の対象になりえないテクスト」というのも同意できなかった。

Posted byブクログ