生きづらい明治社会 の商品レビュー
明治政府の誕生や廃藩置県といった政策を見ても、ほぼクーデター、大正初期までは暴動が絶えなかった。伝統社会に明治政府という「異物」が覆いかぶさって搾取しているイメージ、現代日本に重なる。しかし現代日本では政府への反乱が中々起きない、何故だろうか。
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「貧しいのは努力が足りないから」「辛いのはお前だけじゃない」「日本にそんな余裕はない」と生活に行き詰まった人を批判するのは現代だけではなかった。明治時代もまた、そうであった。 明治政府はクーデターを起こした士族の政府で、実際カネはなかったのであるが、投票も一定以上の税金を納めた男...
「貧しいのは努力が足りないから」「辛いのはお前だけじゃない」「日本にそんな余裕はない」と生活に行き詰まった人を批判するのは現代だけではなかった。明治時代もまた、そうであった。 明治政府はクーデターを起こした士族の政府で、実際カネはなかったのであるが、投票も一定以上の税金を納めた男子のみ、議員も金持ちばかりだから、当然自分の所属している階層が得するような社会を作る。そうするとますます貧しい人は救われない。 現在は、18歳以上なら投票できるし、被選挙権も収入とは関係なくある。しかし、国会を見たら二世三世議員ばっかり。小学校から私立で、お金の苦労なんかしたこともない人が政治のトップにいて、自分の所属する階層が儲かるような社会を作っている。 ということで、明治時代を専門にしている歴史研究者が明治の社会を解説する本ではあるが、現代はじゃあ、どうなの?という問題提起が実はメインテーマである。 まあ、暗澹たる思いがしますね。 勤勉、倹約、努力はそれ自体悪くはない。しかし、そうしたからって、成功や幸福が約束されているわけではない。これを信じ込みすぎると、極端な自己責任論に走りやすい。実際に歴史を見れば、個人の努力とは関係なく、マネーゲームや政治家の判断でインフレやデフレが起こり、突然職を失ったり、資産の価値が無くなったりすることが起きるのは明らか。これを自己責任にすれば、一部政治家、資本家の思うつぼじゃないか、とこれを読んで私も思った。 明治期の生きづらさの理由を解き明かすことによって、現代を生きる私たちの生き方を考えよう、という内容で、明治社会から今に続く「通俗道徳」に縛られる危うさは、知っておいて損はない。就職氷河期の人なんか、真剣に怒っていいと思う。
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「人間頑頑張って勉強すれば成功します!」と唱えた人が一万円の人で、その明治の精神を日本政府は次の人まで40年称え続ける事になる(次の人は来年の大河ドラマの主人公だが、「論語ブーム」とかきたら、それはそれでちょっと嫌な感じもするが、たぶん来るんでしょう)。 ただし「通俗道徳」そのも...
「人間頑頑張って勉強すれば成功します!」と唱えた人が一万円の人で、その明治の精神を日本政府は次の人まで40年称え続ける事になる(次の人は来年の大河ドラマの主人公だが、「論語ブーム」とかきたら、それはそれでちょっと嫌な感じもするが、たぶん来るんでしょう)。 ただし「通俗道徳」そのものに良し悪しはなく、時代と共に変化するものであり、それに合致しない人はいつの時代でも生きづらい。江戸時代の封建制・身分制が生きづらい人もいれば、それが解体された明治時代が生きづらい人もいれば、非正規雇用の令和時代が生きづらい人もいる。 本書はジュニア新書という事で書き方は平易だが内容的には非常に濃い。中高生でこれを読んでる人はそれなりのレベルだと思うが、一歩進んで本書を疑ってみるスタンスも必要だろう。内容的には嘘は殆どないだろうが、この本が何のためにどういう意図や目的で書かれているのか?逆に見落とされている・除外されている史実はないのか?という事を考えてみるのも大事である。
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この手の話はよく海外との比較で語られ、書き手と読み手の理解や認識に差が出てしまい、緻密に論理を積み上げても伝わらないことが多いように感じるが、これは日本という国の中での比較で面白いと思った。「貧困層」を中心に通俗道徳や生存者バイアスの話が主だが、もう少し明治時代における「普通/中...
この手の話はよく海外との比較で語られ、書き手と読み手の理解や認識に差が出てしまい、緻密に論理を積み上げても伝わらないことが多いように感じるが、これは日本という国の中での比較で面白いと思った。「貧困層」を中心に通俗道徳や生存者バイアスの話が主だが、もう少し明治時代における「普通/中流家庭」と「貧困層」の比較もあるともっと説得力が増すと感じた。
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岩波ジュニア新書なので中高生向けに平易に書かれており、1〜2時間もあれば読める。しかし、内容は重要。 この本のキーワードの1つは「通俗道徳」。明治時代には江戸時代の身分制社会の枠がなくなり、自由になった。しかし、人々は自由な競争社会の中で安心して暮らせるようになったのか。著者の...
岩波ジュニア新書なので中高生向けに平易に書かれており、1〜2時間もあれば読める。しかし、内容は重要。 この本のキーワードの1つは「通俗道徳」。明治時代には江戸時代の身分制社会の枠がなくなり、自由になった。しかし、人々は自由な競争社会の中で安心して暮らせるようになったのか。著者の答えは明快であり、頑張れば成功できるという「通俗道徳」によって競争を煽られる社会は決して安心をもたらしはしなかったということである。 近代の資本主義社会はこうした「通俗道徳」を形を変えながらも発信し続けており、今もなおそうである。もちろん、20世紀に入る頃には(つまり明治が終わり大正期に入ってくると)社会政策的な施策も採られるようになってくるが、十分なセーフティーネットとは言えなかった。 最初に松方デフレによる農民の窮乏が描かれている。松方のデフレ政策はあとから見れば、近代的な資本主義制度確立によって評価されるが、当時を生きた人々にとっては非常に厳しい経済政策であった。
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たまに大人から聞くであろう「昔はよかった」は本当でしょうか?日本のちょっと昔のことと同時に今のことも知り、今の自分を社会を考えることができる本です。
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共同社会の一員であることを強要された江戸時代から個人主義の明治になって、自由になった一方で、セーフティネットが失われた。もともと資産なり身分なりを持っている成功者が「通俗道徳」を盾にしてセーフティネットを否定する、「生きづらい明治時代」を概説する一冊。 通俗道徳とは、勤勉、倹約、...
共同社会の一員であることを強要された江戸時代から個人主義の明治になって、自由になった一方で、セーフティネットが失われた。もともと資産なり身分なりを持っている成功者が「通俗道徳」を盾にしてセーフティネットを否定する、「生きづらい明治時代」を概説する一冊。 通俗道徳とは、勤勉、倹約、親孝行といった、これといった深い哲学的根拠に支えられるまでもなく「良いこと」と考えられる行為のことである。この通俗道徳によって「ある人が直面する問題がすべて当人のせいにされる」。ひいては社会保障の否定につながるという話である。(安丸良夫の指摘を紹介している)
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講談社のブルーバックス。なので中高生対象に書かれたものですが、日本社会でこれから大人になる人にぜひとも知り考えてほしい内容です。格差の広がる現代日本社会で「自己責任」が叫ばれるのはなぜか?その原因は明治の日本社会経済状況にあるのではとの指摘なのですが、明治と今の社会状況を比較する...
講談社のブルーバックス。なので中高生対象に書かれたものですが、日本社会でこれから大人になる人にぜひとも知り考えてほしい内容です。格差の広がる現代日本社会で「自己責任」が叫ばれるのはなぜか?その原因は明治の日本社会経済状況にあるのではとの指摘なのですが、明治と今の社会状況を比較するとあまりにも似通っている(つまり現代社会が明治時代まで後退している)ということがわかります。
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生きづらい社会ってのは、何によって生まれているのか? ってのを、明治時代から学んでみようの巻 生きづらい社会を生んでいるのは、みんなの認識(通俗道徳)のせいなので、これを通俗道徳の罠と呼ぼうとしたところが、良かった。理解を簡単にするには、名前をつけてしまうのは有効だからだ。(まぁ...
生きづらい社会ってのは、何によって生まれているのか? ってのを、明治時代から学んでみようの巻 生きづらい社会を生んでいるのは、みんなの認識(通俗道徳)のせいなので、これを通俗道徳の罠と呼ぼうとしたところが、良かった。理解を簡単にするには、名前をつけてしまうのは有効だからだ。(まぁ、有効すぎて間違った認識が広まることもあるけど) 作者はいったん現代を離れて明治の分析をすることにより、他人事として認識させることで、現代も未だ蔓延している、通俗道徳の罠に気づかせたかったのではないだろうか。 通俗道徳の罠の根底に、教育すれば誰しも勉強や仕事ができるようになると言う、教育万能説が流れていることにも注目したい。教育すれば誰しも勉強ができると言う前提があると、勉強できないのは全部個人の責任になってしまう。んなわきゃねぇよ。とおじさんは思うのであった。
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明治という社会が大きく動いた時期、その中での人々の日常はどうだったのかを紹介されています。そしてそれを現代社会との比較を通しての問題提起に結び付けられています。明治政府というのが生まれたばかりで力の無い(金の無い)存在であったことが、消極財政となり、社会的な弱者は後回しにされ、そ...
明治という社会が大きく動いた時期、その中での人々の日常はどうだったのかを紹介されています。そしてそれを現代社会との比較を通しての問題提起に結び付けられています。明治政府というのが生まれたばかりで力の無い(金の無い)存在であったことが、消極財政となり、社会的な弱者は後回しにされ、それを許容する社会風習があったこと。それは現代社会にも似たところがあり、それを学ぶことで、現代の闇を知ることにもつながります。そのうえで、現代社会の常識に対して、著者からの問題提起がなされています。 日本人は昔から変わっていないという根本的なところかもしれませんが、ひょっとしたら人間そのものの闇なのかもしれないなと思いつつ読ませていただきました。
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