トランプのアメリカに住む の商品レビュー
近現代史をきちんと学習しなかった身にとっては、驚きの連続である。一部素人には難しい言葉が出てくるが、流して読んでも概ね理解出来る。 自分が教えられてきた事と違う事実やそれぞれの国の政治的事情を知ることは、混沌とした世界の中で、ますます必要になってくるだろう。2019.4.2
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著者は社会学者。ハーバード大学客員教授として2017年9月から10か月間、マサチューセッツ州ケンブリッジに住んだ。 赴任が決まったのは前年の夏で、当初の予定としては、ハーバードの教育システムを内部から体験してくることを大きな目標としていた。だが、16年11月の大統領選挙で、ドナル...
著者は社会学者。ハーバード大学客員教授として2017年9月から10か月間、マサチューセッツ州ケンブリッジに住んだ。 赴任が決まったのは前年の夏で、当初の予定としては、ハーバードの教育システムを内部から体験してくることを大きな目標としていた。だが、16年11月の大統領選挙で、ドナルド・J・トランプが大統領となる。図らずも、当選前からさまざまな発言で物議を醸していた大統領の政権を、間近で観察することになったわけである。 本書は、トランプ政権に関する考察というよりも、「トランプのアメリカ」の中心近くで、社会学者たる著者が抱いた雑感に近い印象である。 その時、その場所の「空気」はどのようなものであったのか。 読み進めていくうちにそれがじわじわと伝わるような論考集である。 雑誌「世界」に連載された原稿が元だが、各章は加筆訂正され、その後の経緯なども付け加えられている。終章に25年前のメキシコ滞在記も加えられ、複眼的な視点が追加される形となっている。 全6章のテーマは、大統領選に絡むロシア疑惑、NHL選手の国歌演奏中の抗議問題、ハーバードの教育システム、MeToo運動の広がり、労働者階級の凋落、北朝鮮との関係である。 星条旗や国歌がどのような成り立ちを持つのか、日本の大学とハーバードのシステム上の根本的な相違といったあたりもおもしろいのだが、やはり労働者階級に触れた章が格段におもしろい。トランプ大統領誕生を生んだ原動力のかなりの部分は、この層にあるのだろうから。 アメリカンドリームといえば、一文無しが億万長者になることのように思うが、大衆にとってのアメリカンドリームは、どんな階級であっても、家電製品や豊かな食卓、自家用車を備えた「ほどほどの幸せ」を手に入れることだった。1950年から60年、つまり今の若者の親世代にはそれが大多数にとって可能であったのだ。だが、1980年代あたりを境に反転していく。親世代が実現できたことが子世代には手の届かないことになる。上昇から下降に転じた不安が世の中を覆う。 それを象徴するような話として、著者はシチュエーションコメディ(シットコム)「ロザンヌ」を挙げる。元々は80年代から90年代に掛けてヒットした、同名のコメディエンヌが主役である番組で、労働者寄りでフェミニスト的でもあることが話題を呼んでいた。それが2017年に復活したのだが、そこで描かれる主人公のロザンヌはトランプ支持者であった。これに対してロザンヌの妹がヒラリー支持の立場で、両者がそれぞれの立場でコミカルにやり取りをする。演じるロザンヌ・バー自身、中産階級の出身であり、また、実際にトランプ支持者だったのだが、かなりきわどい笑いを展開し、これが受けた。 その後、彼女は番組人気の絶頂期、ツイッターで極端な人種差別的発言をし、これに素早く反応したテレビ局が番組の打ち切りを決定する。人気番組の唐突な打ち切りは異例のことではあるが、SNSの広がりの怖ろしさを警戒した、まずは賢明な判断だっただろう。 こうしたロザンヌの過激発言は、どこか、SNSで過激な発言をしては騒ぎを起こすトランプ大統領と重ならないでもない。 ドナルド・トランプという「型破り」で「特異」な大統領が生まれたことに、「まさか」と思った人は多かっただろう。しかし、それ以上に、「彼」を選んだ人は多かったわけで、だからこそ彼がその座にいるわけである。 ある種、「異常」な状態にも見えるのだが、しかしアメリカがそこに至ったのは歴史の経緯の「必然」だったようにも見えてくる。 世界全体の情勢にも大きく影響するアメリカの舵取りは、この後、どうなっていくのだろうか。 それを考える一助ともなるタイムリーな1冊である。
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アメリカをめぐるさまざまな視点の中で、アメリカが壊れてきていることを論じている。ロシア疑惑、ワインスタイン、ロザンヌ、メキシコ、など切り口は多岐にわたるが、トランプの存在がその象徴として中央に存在することは間違いない。東アジアにおける日本も同様のアプローチが可能と思われるが、日本...
アメリカをめぐるさまざまな視点の中で、アメリカが壊れてきていることを論じている。ロシア疑惑、ワインスタイン、ロザンヌ、メキシコ、など切り口は多岐にわたるが、トランプの存在がその象徴として中央に存在することは間違いない。東アジアにおける日本も同様のアプローチが可能と思われるが、日本に出口はあるのでしょうか?
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※このレビューにはネタバレを含みます
著者がハーバード大学で教えるためにアメリカはマサチューセッツ州ケンブリッジに滞在した、2017年9月から2018年7月までの間の滞在記である。時はトランプ大統領の就任1年目から2年目にあたる。当初の滞在目的は「あくまでハーバードの教育システムを内部に入り、それがどのように廻っているかを体験」することであったが、トランプ政権誕生で事情が変わった。この書もハーバードの教育システムにも触れるが、アメリカで次々と発生した「ポスト真実」「ラストベルト」「人種差別」「セクハラ」「銃乱射」といった問題に向き合い、アメリカの今を映し出すルポとなっている。 興味深かったのは、ハーバード大学を扱った第3章、ラストベルトを扱った第5章、北朝鮮問題を扱った第6章。 まずはハーバード大学の事情を知り、大学制度が日米でここまで違うのかと思い知らされた。大学システムが根本的に異なる。日本の大学はやはり肩書き重視で、有名大学に入学し、無事に単位を取り終えることが肝要となっている。片やアメリカでは何をどのように学ぶのかが追求されている。日本のように満遍なく学ぶことより、選考した授業をどこまでも深く学ぶことが求められている。 大学の優れたシステムとは対照的に白人労働者階級の生活は荒廃している。著者自身が日本の郵便局から船便で送った書物が見るも無惨な形で手もとに届く(実際には半分以上行方不明)。アメリカの公共システムが崩壊していることを如実に示している。90年代の人気テレビ番組「ロザンヌ」が復活して大人気である(その後あっけなく放送打ち切りとなるのだが)。主人公ロザンヌはトランプ支持を公言して憚らない。その姿に視聴者は何を見ているのだろうか。白人労働者階級が不動産で巨大の富を積み上げたトランプを支持する捻れの謎を問いかけている。 第6章では、ヘレン・ミアーズの「アメリカの鏡・日本」を引用しつつ太平洋戦争前の日本とアメリカがともに相手への憎悪を掻き立て、相手を「世界の脅威」とみなしていく姿を見て、両者が合わせ鏡のようであったことを見る。そして戦後日本は高度経済成長の中でずっとアメリカの背中を追ってきた。それに対して北朝鮮といえば、休戦協定は結ばれても未だ平和条約が結ばれていない状態が続いていて、「核攻撃を含むあらゆる事態を想定し」て核開発を進めている。しかしその一方で金正恩はNBAの大ファンであり、その父金正日はハリウッド映画がお気に入りであった。「核」と「ソフトアワー」は現代世界におけるアメリカの力の二つの源泉である。その二つの源泉を追いかける北朝鮮にはアメリカと敵対し憎悪しながらも、アメリカに憧憬を抱く姿がある。北東アジアの国々とアメリカの関係はこの後どのように変遷していくのだろうか。
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