羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季 の商品レビュー
都会で暮らす人が雄大な自然に憧れる感覚について、実際にそこで住む人の感覚だと、すべて間違っている、というところから話が始まる。本を読むことが怠惰といわれる世界に生きる、そんな人の羊飼いとしての四季の生活が描かれている本。 そんな中で、あるきっかけでロンドンの大学に通うことにな...
都会で暮らす人が雄大な自然に憧れる感覚について、実際にそこで住む人の感覚だと、すべて間違っている、というところから話が始まる。本を読むことが怠惰といわれる世界に生きる、そんな人の羊飼いとしての四季の生活が描かれている本。 そんな中で、あるきっかけでロンドンの大学に通うことになって、都会の生活を知っていき、なぜ国立公園を求めるのかを自分の経験ではっきり理解して相対的に見ることができる様子も興味深かった。また、四季折々の羊飼いとしての楽しさ・困難さが丁寧に描かれていてとてもおもしろかった。 ==== “湖水地方のような土地の風景は、そんな名もない人間たちの努力によって形作られ、護られてきた。だからこそ、学校で"金持ちの死んだ白人"バージョンの湖水地方史があると知ったとき、私は衝撃を受けた。ここにあるのは謙虚で勤勉な人々の風景であり、この土地の真の歴史は名もない人間の歴史であるべきなのだから。(p.30)” ”ロンドンに知り合いはひとりもいなかったし、この街を訪れたいと思ったこともなかった。ここでの生活は理想とはかけ離れたものだったけれど、職務経験のためだとあきらめるしかなかった。まるで、神様が私に教えてくれているかのようだったー都会の住人たちがいかに過酷な生活を送り、私が田舎に何を置き忘れてきたか……。そのときになってはじめて、湖水地方のような場所に逃避したい人の気持ち、国立公園の存在意義を理解できたような気がした。ロンドンのような都会の住人たちには、街を飛び出したい理由があった。彼らには、髪をたなびかせる風、顔に照りつける日光を感じることができる場所が必要だった。(p.246) “雪。羊飼いは大雪と吹雪を恐れ嫌う。雪は家畜の命を奪い、羊の体をすっぽりと埋めてしまう。雪が草を覆い隠すと、羊には人間の手助けがさらに必要になる。雪玉、雪だるま、そり遊び・・・雪が降ると誰しも喜ぶものだが、ファーマーにとっては苦痛以外の何物でもない。雪は脅威だ。少しの雪ならそれほど害はない。干し草を与えれば、羊はなんなく寒さに耐えることができる。しかし風と大雪の組み合わせは致命的で、羊はおろか人間の命も危険にさらされることになる。雪が融けたあと、石垣の脇に横たわる雌羊の死体を見たことがあるなら、あるいは産まれた直後の子羊がその場で死んでいる姿を見たことがあるなら、もう雪を無邪気に愛することはできなくなるはずだ。”
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最初は正直なところそこまで期待していなくて、この本の世界に入り込めるか不安だったけどそんなのは完全な杞憂だった。 イギリスの湖水地方について何の知識もなく、なんとなく自然豊かで美しいところくらいのイメージだったから初めて知ることばかりで楽しかった。 かといって田舎の羊飼いとしての...
最初は正直なところそこまで期待していなくて、この本の世界に入り込めるか不安だったけどそんなのは完全な杞憂だった。 イギリスの湖水地方について何の知識もなく、なんとなく自然豊かで美しいところくらいのイメージだったから初めて知ることばかりで楽しかった。 かといって田舎の羊飼いとしての暮らしを無条件に褒め称えて都会を貶すようなものでは一切なく、羊飼いたちの暮らしの良いところや綺麗な部分と同じくらい過酷なところや時には都市部に住む畜産業に馴染みのない人からしたら残酷だと感じそうなところも包み隠さずリアルに書かれている。 これはこの地に生まれて羊飼いの一家として育ちながらもオックスフォード大学に進学し都会での生活も経験した筆者にしか書けない本だと思う。 湖水地方の羊飼いたちの生活や産業を知ることができるだけでなく、単純に読み物としても面白い。 美しい風景や澄み切って冷たい空気、そこに住む羊飼いたちの声までも感じられそうな綺麗な文章だった。 作中で語られる羊飼いたちの仕事は全てが理論的ではなく、むしろ感情とか伝統とかそういうわかりやすい根拠のない描写も多かった(実際に彼らのやり方がその地で羊飼いをするなら1番効率的なのかもしれないが、その理由がいちいち書かれているわけではないということ)。 それが教科書みたいな作品ではなく、人間のリアルな感情が伝わってくるあたたかみのある雰囲気につながっているのかな。
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なんでこの本を選んだのか全然分からないんだけど笑 羊への愛が深いな。読み手の私まで、羊の事が気になって仕方なかった。 湖水地方の季節の移り変わり、各季節の美や苦、それが羊、羊飼いへ与える影響、わたしが生きている世界とは全く違う暮らしを見れた。 この本選んで良かったな。
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自然は美しく人生を豊かにしてくれるけれど、決して優しくはないと感じました。 羊飼いの暮らしは便利、快適、効率的とは言い難い。しかし本を読めば読むほどこの場所での暮らしに憧れの気持ちが湧き上がっていました。 後世へとバトンを繋ぐ役割を担う生き方に、人へ繋ぐだけではなく、見ている自然...
自然は美しく人生を豊かにしてくれるけれど、決して優しくはないと感じました。 羊飼いの暮らしは便利、快適、効率的とは言い難い。しかし本を読めば読むほどこの場所での暮らしに憧れの気持ちが湧き上がっていました。 後世へとバトンを繋ぐ役割を担う生き方に、人へ繋ぐだけではなく、見ている自然そのものを守る大きな役割があるのだと思いました。
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イギリス湖水地方で羊飼いを営む暮らしを、自分の生き方と共に祖父母、父母、また妻子どもへと続いていく中で語られる。羊へのこだわり、愛が確かにあってそしてそれはまた生産者としての厳しい面も持つ。自然描写も素晴らしく、時系列が記憶の中で蘇るままにあっちこっちと巡るのも、全てが溶け合って...
イギリス湖水地方で羊飼いを営む暮らしを、自分の生き方と共に祖父母、父母、また妻子どもへと続いていく中で語られる。羊へのこだわり、愛が確かにあってそしてそれはまた生産者としての厳しい面も持つ。自然描写も素晴らしく、時系列が記憶の中で蘇るままにあっちこっちと巡るのも、全てが溶け合って満ち足りているような感じでとても良かった。
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#読書記録 2023.1 #羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季 #ジェイムズ・リーバンクス #ワシントン・ポー シリーズのミステリを読んで、湖水地方の自然に興味を持ったので本書を読んでみた。自分の中の湖水地方の牧歌的なイメージが覆った。 過酷な自然と対峙しつつ、数百年前か...
#読書記録 2023.1 #羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季 #ジェイムズ・リーバンクス #ワシントン・ポー シリーズのミステリを読んで、湖水地方の自然に興味を持ったので本書を読んでみた。自分の中の湖水地方の牧歌的なイメージが覆った。 過酷な自然と対峙しつつ、数百年前から変わらない牧羊の仕事を続ける親子三代の物語。彼らの生活は自然という大きな存在の一部であり、何世紀も続く羊飼いの伝統を守り繋ぐ鎖の一つでもある。 湖水地方の美しい景観や様々な動物たちの様子が、随所に具体的に描かれる。生まれ育った場所への、著者の限りなく深い愛情を感じる。 #読書好きな人と繋がりたい #読了
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イギリスのシェフィールドという街に半年ほど滞在したことがある。シェフィールドに滞在する前にもイギリスに行ったことはあったが、仕事でロンドンに行っただけのことであり、ロンドン以外の街、また、イギリスの田舎の光景を目にするのは初めてのことだった。それは、目を奪われるとても美しい光景だ...
イギリスのシェフィールドという街に半年ほど滞在したことがある。シェフィールドに滞在する前にもイギリスに行ったことはあったが、仕事でロンドンに行っただけのことであり、ロンドン以外の街、また、イギリスの田舎の光景を目にするのは初めてのことだった。それは、目を奪われるとても美しい光景だった。 シェフィールドの郊外には、ピークディストリクトという名の国立公園が広がる。街を出るとすぐに緑に覆われた丘陵地帯が広がる。日本のような深い森はあまり多くなく、牧草地帯だ。そこに、羊が放牧されている光景もよく見かけた。日本にはない美しい光景をとても好きになった。 シェフィールド滞在中に、本書の舞台になっている湖水地方に小旅行に出かけたこともある。ピークディストリクトと同じく、とても美しい場所だった。 本書は、湖水地方で羊を中心とした牧畜を営む筆者が、湖水地方で牧場を営むことがどういうことなのかを、四季に渡っての、また、子供時代から今までの経験を綴って示した本だ。そこには、激しい喜怒哀楽の全てがある。 私がピークディストリクトや湖水地方で見かけたのは、のんびりと草を食む羊たちの群れだった。その群れを維持することが、どれだけ大変なことなのかを初めて知ることが出来た。
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読み始めてから心の中がざわついてしょうがなかった。 理由は訳者あとがきと解説を読んで腑に落ちた。 都市生活を楽しんでいると思っているが、心の奥底では、何かが足りないと感じているのだ。 表紙に惹かれて手に取ったが、思わず、これまで読んだ本の中でもかなり上位に来る本だった。 訳者あ...
読み始めてから心の中がざわついてしょうがなかった。 理由は訳者あとがきと解説を読んで腑に落ちた。 都市生活を楽しんでいると思っているが、心の奥底では、何かが足りないと感じているのだ。 表紙に惹かれて手に取ったが、思わず、これまで読んだ本の中でもかなり上位に来る本だった。 訳者あとがき 「私たちが本書から受け取るのは、現代の生活から失われた、圧倒的な生の息吹である…私たちはあらためて自らの生き方を問い直すことになる」 解説 「著者は、多くの人が『こう生きたい』と心のどこかで願っている生活を静かに継続させている。その事実は、ある種の憧憬と共に、人の心をゆるやかに温めてくれるのだ。」 訳者と解説者の文章も好きで、 読みたい本がまた増えてしまった。
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エッセイという感じ?かと思ったら、羊飼いとして生きた人々の長い物語を読んでいる気分になった。 この本を取らなければ知らない事を知ることができたと思う、例えば羊の品評会がある事、そこでそれぞれの農場が評価される事、群単位での売り買いもある事、そして羊が思ったより自然に死んでしまう事...
エッセイという感じ?かと思ったら、羊飼いとして生きた人々の長い物語を読んでいる気分になった。 この本を取らなければ知らない事を知ることができたと思う、例えば羊の品評会がある事、そこでそれぞれの農場が評価される事、群単位での売り買いもある事、そして羊が思ったより自然に死んでしまう事、繋がりが何よりも大切な事など。 単純に読み物として面白かった、、下手に押しつけの考えや少しの虚栄心のかかった文章もなく、淡々と事実と事象を書いてくれて、非常に読みやすかった。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
イギリスの湖水地方で伝統的に羊飼いをしている家庭にうあまれた著者による羊飼いの生活の話。 季節ごとに羊飼いが何をしないといけないかという話と著者の家族や著者の半生が語られる。 オックスフォード大学に一年発起して合格する話は面白かった。 著者は羊飼いに誇りをもっており、これからの羊飼いのあるべき姿を探っている。同時に工業化社会や資本主義社会に対するアンチテーゼの提案ともなっている。オックスフォードで学んだ著者がこのような作品を書いたことの意義は深い。次回作も早く邦訳が出て欲しい。
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