ある世捨て人の物語 の商品レビュー
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20歳で突如、仕事も行かずに車でどこかへ行き、そのまま森の中へ入り27年間も誰とも会わずに暮らした、トーマス・ナイトのノンフィクション作品です。 サバイバル術のような内容ではなく、トーマス・ナイトがどうしてこのような行動を行ったのか、そして発見された後の彼がどのように生きていくのか、という点にフォーカスされています。 終盤、ずっと心を閉ざしていたナイトが、著者に心を開き、森の貴婦人(死)に会いに行く計画を考えていると伝えます。その後、「何かを手放さなくてはならない。そうしないと、何かが壊れてしまう」と言い涙を流すナイトとともに、僕も涙腺が崩壊しました。 社会の中で表面上取り繕って生きることができるが、そこに充足感はなく、幸福も感じられない。だから、唯一充足感を感じることができた森の中に一人でいるしかなかった。27年間森で一人で生きたナイトをおかしな人としてでなく、一人の人間として向き合い描かれていて、深い共感を抱きました。 ナイトはただ人間社会から逃げ出しただけでなく、自分らしく生きられる場所を求めていたのではないでしょうか。
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クリストファー・ナイトは20歳で森に入り、27年間ほぼ他人と関わらず一人で暮らした「隠者」だが、その生活は盗みによって成り立っていた。 ・他人との交流を徹底して拒絶し自然と一体となって生活していたナイトへのあこがれ ・度重なる侵入によって心の平穏を乱された近隣住民への共感 ・著者に対する「いいからほっといてやれよ」という気持ち が交錯します。 私が思うハイライトは「ほしいものがあるならこれに書いておいてくれたら用意するから侵入やめてよ」という意図で置かれたメモ帳をナイトがフルシカトする場面です。他人との関わりたくなさの「深さ」が感じられた気がして。かといって、倫理観のない人物ではないので罪悪感は常にあるという…大変だ。 30年近く謎の侵入者による窃盗に脅かされ続けた近隣住民はナイトの隠者生活に批判的だが、中には「ハエみたいなもん」というご意見のおおらか(?)な方もいて興味深い。 窓辺に置かれた一杯のミルクで生活できたら良かったのにね。
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死ぬまでにしたいことリストのひとつが「静寂な環境に身を置いてみる」なので、ナイトの気持ちが少し分かる。自分たちが暮らす社会は物理的にも心理的にも雑音が多すぎる。ときどき自らの心臓の鼓動しか聴こえないくらいの静謐な空間が欲しくなるのです。
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20歳から27年間、メイン州の森で誰とも交流をもたず盗みを繰り返しながら生活した男、ナイトの物語。 ナイトの気持ちを知りたくて読み始めたが、途中知らなくてもいいような気がした。内向的、ピュア過ぎる以外にナイト自身に変わったところはないからだ。 世間に背を向け逃げ続けるナイト(そも...
20歳から27年間、メイン州の森で誰とも交流をもたず盗みを繰り返しながら生活した男、ナイトの物語。 ナイトの気持ちを知りたくて読み始めたが、途中知らなくてもいいような気がした。内向的、ピュア過ぎる以外にナイト自身に変わったところはないからだ。 世間に背を向け逃げ続けるナイト(そもそもそんなふうな「人目」がナイトには苦痛だろう。)に、羨望と恐怖と共感がない交ぜの気持ちになった。 翻訳物は苦手だが読みやすかった。
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20歳で家を出て、冬は氷点下30度になる森の中でテント生活を始めて、27年後(!)に捕まるまで、近くの別荘地で千件もの盗みを働いて生き延びた男の取材記。その生活は意外なことだらけで面白かったのだけど、1人が好きな人なので、取材に協力的じゃなかったのが少し残念。笑 想像を絶する半...
20歳で家を出て、冬は氷点下30度になる森の中でテント生活を始めて、27年後(!)に捕まるまで、近くの別荘地で千件もの盗みを働いて生き延びた男の取材記。その生活は意外なことだらけで面白かったのだけど、1人が好きな人なので、取材に協力的じゃなかったのが少し残念。笑 想像を絶する半生、もっといろいろ知りたかった!
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20歳で唐突に失踪し、その後の27年間を森で人知れず暮らしていた人物の伝記です。 道具や食料を他人の別荘から盗み続け、捕まらずに伝説的な存在となっていた“隠者”。 純粋な自給自足による生活ではないにしろ、27年間を社会から隔絶し会話も無い環境で生活した彼は、人間の肉体的・精神的な...
20歳で唐突に失踪し、その後の27年間を森で人知れず暮らしていた人物の伝記です。 道具や食料を他人の別荘から盗み続け、捕まらずに伝説的な存在となっていた“隠者”。 純粋な自給自足による生活ではないにしろ、27年間を社会から隔絶し会話も無い環境で生活した彼は、人間の肉体的・精神的な限界に挑戦したと言えます。 彼にとっての最高の人生は間違いなくこの期間で、強制的な社会復帰が正しいものか疑問です。 まるで見世物にされた後に同化させられる先住民を彷彿させる一冊。
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冬には氷点下の日も珍しくないアメリカ メイン州の森でで、主人公ナイトは27年間もの長い間、一人きりでどのように暮らしていたのか…。人間存在意義に問いかけるような一冊。
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アメリカ合衆国メイン州の森で27年間、誰とも会わず一人で暮らした男のお話し。 彼が暮らしていた森の周辺は別荘地で、食料品や生活用品を調達するため不法侵入を繰り返していた。付近の住民からは森の隠者と呼ばれ半ば都市伝説化していたのだが、ついに地元の猟区管理官に捕らえられてしまう。 ...
アメリカ合衆国メイン州の森で27年間、誰とも会わず一人で暮らした男のお話し。 彼が暮らしていた森の周辺は別荘地で、食料品や生活用品を調達するため不法侵入を繰り返していた。付近の住民からは森の隠者と呼ばれ半ば都市伝説化していたのだが、ついに地元の猟区管理官に捕らえられてしまう。 冬は氷点下30℃近くにもなる野外で、27年間も一人で生活するなんて常軌を逸しているように見えるが、社会生活や人間関係のわずらわしさから逃れて、十分幸せな暮らしだったのだと思う。作品中の印象的な一節を記しておきたい。 「あらゆる願望の成就ではなく、願望の排除によって人は自由となる」 「人は悟れば悟るほど、悟るべき事が何もないのを悟る」
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森の中に逃げ込んで、捕まるまで27年孤独に暮らした男、クリストファー・ナイトの話。捕まったのは食料や生活必需品を近所の留守の別荘で泥棒して手に入れていたからで、ゲーム機や本、ラジオなんかも盗んできて楽しんでいたという。これって、森の代わりに自分の部屋、泥棒の代わりに親からの援助?...
森の中に逃げ込んで、捕まるまで27年孤独に暮らした男、クリストファー・ナイトの話。捕まったのは食料や生活必需品を近所の留守の別荘で泥棒して手に入れていたからで、ゲーム機や本、ラジオなんかも盗んできて楽しんでいたという。これって、森の代わりに自分の部屋、泥棒の代わりに親からの援助?でやっていたら、ただの引きこもりだ。本書には数行程度、日本の引きこもりについても触れられているけれど、アメリカにはいないのだろうか? 隠者に憧れる気持ちはわかる。程度の差こそあれ、一人になりたいと思ったことのないひとはいないだろう。だがナイトの物語から、なにかの教訓や箴言を引き出すのは難しい。ナイトは泥棒についてずっと罪の意識を感じていたと話していて、それでも社会に戻れなかった(戻らなかった)彼の選択は痛ましいとは思う。でも27年泥棒され続けた別荘の持ち主たちはそうは思わないだろう。 ぼくも付き合いの悪いほうなので、ナイトや引きこもりの気持ちはわかる。ちょっとうらやましいと思うことすらある。でもその一方で、ずりぃ、と思ったりもするのである。
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H.D.ソローを酷評している、という事に興味を持ち、読んでみた。 ドストエフスキー「地下生活者の手記」を誰もが連想する行為であり、本書の主人公、クリストファー・ナイト自身が共感を述べても居るのだが、私はどちらかと云えばチェーホフの「賭け」を思い浮かべながら読んでいた。 しかし、...
H.D.ソローを酷評している、という事に興味を持ち、読んでみた。 ドストエフスキー「地下生活者の手記」を誰もが連想する行為であり、本書の主人公、クリストファー・ナイト自身が共感を述べても居るのだが、私はどちらかと云えばチェーホフの「賭け」を思い浮かべながら読んでいた。 しかし、最後にはそれが「六号室」や「黒衣の僧」にあまりにも似ている事に気付いて震撼した。 私は彼にチェーホフを読ませたい。 公房「箱男」も再読したくなったし、何だか彼はグレン・グールドを思わせる様な所もある。 ともあれこれは文学行為とでも云うのだろうか。彼を文学とでも呼べば良いのであろうか。 狩猟採集とは人間という種の都合だけで勝手に自然の持ち物を盗んでいるのであり、そういう意味では彼の「窃盗」と呼ばれる行為は狩猟採集者として何の不思議も無い。 また彼が通常の人間と、有る意味違う種、違うチャンネルに属するものであるのならば彼に果たして我々と同じ理屈を通用させても良いものだろうか、というモラルの問題を強く感じる。 それが我々に問うものは強く大きい。我々の実は偏っているだけの正常さや常識を異化し無化する恐ろしさ。言わば世界にただ一人、完全に他者の目を持った人間。 最後は悲しく、苦しく、辛かった。最初から最後まで、自分の問題として読んだ。 彼の方法はプルーストの逆、私を時から失わせる、とでも云うのか、トスールプとでも云うのか。しかしたどり着く場所はもしかしたら同じ場所である様にも思える。完全なものになりたいのだ。
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