無限の玄/風下の朱 の商品レビュー
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十二国記みたいなタイトルだと思ったら中編2作だった。 無限の玄は「再生産」、虐待児童がその子にも虐待を行なうというような暗い部分とともに、オチの部分に「再生誕」を持ってきたことで呪わしくも明るい継承といった感じがした。何かが救われたとはまったく思わないが、男だけの小さな社会にある「結局子供が産めない」という閉塞感だけは強引に打破された。きっと男の子なんだろうなあ。 対する風下の朱は潔癖なまでの女。出産のための性能・制約を課せられることを拒否したうえで、別に女性であることをを否定したり捨てたりするわけではないという生きざまは、賛同する人が少ないだろうだけに美しい。その点、『リリース』とは全然違う。リリース世界の技術であれば彼女の求めた「健康」は得られたかもしれないが、まずもって野球をしたがる女という文化が生まれてこないと思う。
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風下の朱の方が主題が取りやすかった。でも、フェミニズムの思想それ自体についてではなく、フェミニズム運動の展開や構造をなぞらえた物語って、読める人がかなり限定されるような気がするので、ここまで象徴的に書かずにもう少し具体的に分かりやすくしてもよかったような気もする。
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かなり面白かった。無限の玄は血縁でつながった男性のみのバンドの話、風下の朱は大学で女性野球チームを作ろうとするグループの話なんだけど、どちらも親から受け継いだ特殊な思想が核になり、それに基づいて作られるグループが破綻するまでを書いている。どちらの話にもジェンダーとか暴力という問題が含まれるのだが、その正しさを云々したりグループの異常性にフォーカスするのではなく、あくまで主軸を個人個人の在り方に置いたところがとても好みだった。ただその点において拒否感を持つ人もかなりいるだろうというのはわかる。風下の朱の生理に対するあまりに激しい憎しみには私もちょっと困惑する気持ちがあった。たぶん私が女性だから。 解説によると作者は無限の玄について「外から見ると理解しがたい、閉鎖的で野蛮で不条理な社会形態も、内部の人々にとっては心地よい場所かもしれない。宝と呼べるような何かをその中で守っているのかもしれなくて、そうだとしたら、たとえそれがどんなにおぞましいものだとしてもひとまず尊重するべきではないか」とコメントしているらしく、これもとても好き。そういう中にいる人間にはそれなりの切実さがあり、そこで育てられた人間にはよろこびや苦しみ全てをひっくるめた人生がそこにあるわけで、ただ他人に居場所を悪し様にののしられ、破壊し放り出されるのではその傷は取り返しのつかない状態になってしまうように思う。結局それでは、その異常な思想自体を壊すことはできない。頭の中で、つけられた傷が思想を加害者でなく被害者として固定してしまう。 この話ではグループは自壊するが、そのことが必要なんだと感じた。居場所が引きちぎられる痛みを味わいながらも個人の在り方が自ら変化していく、解放されるということが。これは社会的な話を無視した個人の話に終始している。暴力や異常といっていい思想の強制があり、たとえあってはならないものだとしても確かにあったのならば、それすらも自分の生の一部だったのならどうなるのか?どこへ向かえばいいのか?はっきりとした結末をもたらさないのも良かったと思う。方向性だけがある。作者の他の本も読んでみたい。
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2作ともつかめないモヤモヤ感が残って何とも言えない物語でした。 でも風下の朱は私自身も女だからかどうもこうもしようがない体に対する気持ちはわかる気がします。 ちょっとイライラするときはある。
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「無限の玄」語り手、父、兄、叔父、従兄、血縁で構成されたブルーグラスバンド。ずっと五人で演奏してきた。強烈な個性を放つ父親。文字通り、死んでも尚。毎日死んでは又戻ってくる父。 「風下の朱」メンバー集めをしている大学未公認の女子野球部に勧誘される新入生の語り手。ただ野球選手でありた...
「無限の玄」語り手、父、兄、叔父、従兄、血縁で構成されたブルーグラスバンド。ずっと五人で演奏してきた。強烈な個性を放つ父親。文字通り、死んでも尚。毎日死んでは又戻ってくる父。 「風下の朱」メンバー集めをしている大学未公認の女子野球部に勧誘される新入生の語り手。ただ野球選手でありたい、そう望む部長の侑希美は自らの女である生理を嫌悪する。 男達の血縁の呪縛と、女という性の呪縛。どちらも小説としての存在感は感じるが、自分との接点を見つけられなかった。 語り手の他者に対する洞察は余りに精緻で、何処か作り物めいて感じられた。 センチメンタリズム、ロマンティシズム、ノスタルジーを毛嫌いしていた筈の父が詩集を読み作詞していたという、誰も気付かずにいた事実。「私のフィールドでは、私の打席で打っていいのは私だけなの。私だけが打てるのよ」そう言い残し、梓を置いて一人立ち去る侑希美。どんなに深い絆、繋がり、結び付きがあるように思え、一見分かり合えたように見えたとして、結局人は孤独だということ?
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中編1編,短編1編. 意味深なタイトル「無限の玄」.玄氏の存在,エンドレスなのか?それにしても父子の関係は難しいを通り越して謎,不可解の領域に.そこには愛は存在するのか?呪いのような執着,これが百玄に連綿と続く愛なのか,面白かった. 「風下の朱」は女の生理を嫌悪する侑希美さんの野...
中編1編,短編1編. 意味深なタイトル「無限の玄」.玄氏の存在,エンドレスなのか?それにしても父子の関係は難しいを通り越して謎,不可解の領域に.そこには愛は存在するのか?呪いのような執着,これが百玄に連綿と続く愛なのか,面白かった. 「風下の朱」は女の生理を嫌悪する侑希美さんの野球にかける思いを,新入部員の私が共感し離れていく過程で物語っている.こういう病的な心情を取り出して見せる手腕は素晴らしいが,何の意味があるのか不毛な読書時間だった.
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視線と心臓をわしづかみにされる文章。目が離せない。 「風下の朱」の、全身の血が煮えたぎるような、体の中には入りきらないほどの熱。 気高くあろうとする姿はとても心が痛くて、わたしもそんな生き方ができたらと思うけど、自分の力ではどうしようもない体の変化は拒絶しようがない。そんなもんだ...
視線と心臓をわしづかみにされる文章。目が離せない。 「風下の朱」の、全身の血が煮えたぎるような、体の中には入りきらないほどの熱。 気高くあろうとする姿はとても心が痛くて、わたしもそんな生き方ができたらと思うけど、自分の力ではどうしようもない体の変化は拒絶しようがない。そんなもんだと思っていたけど、それに徹底的に抗おうとする姿を見て、ちゃんと戦おうとするとこんなに傷つかなきゃならないんだととても悲しかった。 遥の持つ考えに、どうしたって持っていかざるを得ないのだろうけど、侑希美の気高さがただただ羨ましい。
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三島賞を受賞した「無限の玄」と、芥川賞候補となった「風下の朱」二編を収録。 玄という名の父親は、男のみの血縁者で作ったバンドのリーダーでもあり、家族として暮らすメンバーの圧倒的な支配者でもある。その玄が死んだところから物語は始まるのだが、なぜか翌朝になると必ずよみがえりその日の...
三島賞を受賞した「無限の玄」と、芥川賞候補となった「風下の朱」二編を収録。 玄という名の父親は、男のみの血縁者で作ったバンドのリーダーでもあり、家族として暮らすメンバーの圧倒的な支配者でもある。その玄が死んだところから物語は始まるのだが、なぜか翌朝になると必ずよみがえりその日のうちにまた死を迎える。つまり、「無限の玄」というわけだ。 とぼけた設定だがトーンは終始重苦しく、延々と続く生と死の繰り返しに家族が追い詰められていく様が恐ろしい。 一方の「風下の朱」は、大学の女子野球部の話。野球ものの得意な作者だけに爽やかなスポ根ものかと思いきや、描かれているのは女性であることへの過剰な意識とねじれたコンプレックスだった。 同性としては、正直なところ気持ちのよい読み物ではない。 読みこなすのが難しいこの二編をなぜ組み合わせたのかと考えていたところ、ちょうど新聞の書評欄に取り上げられていた。 それによると、男性だけのバンドと女子だけの野球部、両者とも性別意識にとらわれた権力者のパワハラに翻弄されるという共通項があるという。なるほど、そうとらえればよいのかと納得。
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対局のようなふたつの物語のカップリング。まさに赤と黒。音楽が、スポーツが私たちの知る世界でないような。作家の紡ぎ出す言葉が私の中で渦を巻いて、ぐるぐるまわる不可思議な世界。少しでも核心に近づこうと躍起になっていつのまにか無我夢中です。こんな小説にはじめて出会いました。素晴らしかっ...
対局のようなふたつの物語のカップリング。まさに赤と黒。音楽が、スポーツが私たちの知る世界でないような。作家の紡ぎ出す言葉が私の中で渦を巻いて、ぐるぐるまわる不可思議な世界。少しでも核心に近づこうと躍起になっていつのまにか無我夢中です。こんな小説にはじめて出会いました。素晴らしかった。私は好きです。
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二編の中編集。どこかで女子野球の話だという書評を読んで手にしてみた。 女子野球の話だったのは「風下の朱」のほう。だが…これは何だ??女子野球がメインの話では決してない。女という性のグロテスクさと理不尽さが浮き彫りにされた、私には少々理解の追い付かない物語だった。 もう一編の「無限...
二編の中編集。どこかで女子野球の話だという書評を読んで手にしてみた。 女子野球の話だったのは「風下の朱」のほう。だが…これは何だ??女子野球がメインの話では決してない。女という性のグロテスクさと理不尽さが浮き彫りにされた、私には少々理解の追い付かない物語だった。 もう一編の「無限の玄」は、さらに理解不能。何度でも生き返る父親と、同じ血筋の男性家族たち。うーむ。ごめんなさい。未熟な私にはどちらの話も気味悪さだけが残り、作者の意図を読み取れませんでした。 でもたまにこうやって知らない作家さんに挑戦してみるのもやっぱりいいですね。 2018/09
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