海うそ の商品レビュー
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舞台となる遅島が実際ある場所かと思っていたら、梨木さんの作りあげた架空の島だったことに、まず驚いた。ルポタージュを読んでいるかのような感覚になった。 50年後の遅島が、近代的に変貌をとげている様を「色即是空」と秋野が受け止めていることが、超然としているようで、どこか諦めのような、物悲しさを感じた。 ただそこにあるが、実体はなく、執着するものではない。美しいものは、儚さをともなうから、美しいのだろうか。
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面白かったけど難しかった!もう一回読み返したい。 真剣に時間をとって読むべき本です。 (病院の待合時間に読むべきではなかった…)
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これは小説なのか、実際の体験記なのか。あまりにも光景が浮かびすぎて読んでてこれはなんなんだ、という気分になった。
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海うそとは、海の幻、蜃気楼のこと。秋野は若い頃、九州の遅島、自然豊かな島で修験道だった道を辿った。海、山、水、空、自然の息吹を感じながら、地霊との対話や交感を。島の植物や生き物、海の魚などが生き生きと描かれている。梨木香歩「海うそ」、2018.4発行。50年後に訪れた秋野が見たものは、観光地化によって変わり果てていく島の姿。人間の織りなす文化、風習、歴史はどこに向かうのか・・・。そんなことを考えさせられました。
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祖父や父が亡くなってから何年経ってもたびたび感じる切なさは何なのだろうと考える。それは、あのとき聞いた思い出も、そこに祖父と父がいて色んなことを感じ考え生きていたという事実も、私が忘れたときに消えてなかったことになってしまうのだという焦りと寂しさなんだと思う。 その寂しさは、大学...
祖父や父が亡くなってから何年経ってもたびたび感じる切なさは何なのだろうと考える。それは、あのとき聞いた思い出も、そこに祖父と父がいて色んなことを感じ考え生きていたという事実も、私が忘れたときに消えてなかったことになってしまうのだという焦りと寂しさなんだと思う。 その寂しさは、大学の民俗学実習で僭越ながらも感じた、「この習俗、伝承は今私が記録しなければいつか忘れ去られてしまうのだ」という危機感に似ている。 でも考えてみれば、人も歴史も生まれては変わって消えての繰り返し。寂しいけれど、そんなに切羽詰まって寂しがることはないんだよと慰められている気がした。
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昭和の初め、人文地理学者の秋野は南九州の遅島を訪れる。修験道の霊山があり雪も降るこの島は自然豊かで、彼は惹きつけられていく。 戦争を挟み五十年後、秋野は再び島を訪れる縁ができるが―― 神仏分離に起こる廃仏毀釈、失われる営み、過疎。 学術的に判別され世に知らしめられたものが遺産と...
昭和の初め、人文地理学者の秋野は南九州の遅島を訪れる。修験道の霊山があり雪も降るこの島は自然豊かで、彼は惹きつけられていく。 戦争を挟み五十年後、秋野は再び島を訪れる縁ができるが―― 神仏分離に起こる廃仏毀釈、失われる営み、過疎。 学術的に判別され世に知らしめられたものが遺産となる。だとすると…… 人知れず消えていった多くの文化を思うと胸が締め付けられる。 また時を経て読み直したい一冊。
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産まれた時から海無し県から出たことがない私でも郷愁を誘われるような心持ちに。 でも感覚としてはやっぱり息子寄りかなぁ。 私だったら岩の謂われとか息子に喋っちゃうし、そしたら恋愛スポットとして活用!なんて流れになる気がする(笑。 あと論文まで行かなくても手記として島のことを書いて残...
産まれた時から海無し県から出たことがない私でも郷愁を誘われるような心持ちに。 でも感覚としてはやっぱり息子寄りかなぁ。 私だったら岩の謂われとか息子に喋っちゃうし、そしたら恋愛スポットとして活用!なんて流れになる気がする(笑。 あと論文まで行かなくても手記として島のことを書いて残したいと思っちゃうだろうな。
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人文地理学の研究者である秋野は、南九州の遅島に赴く。 そこではかつて廃仏毀釈があった。島の「喪失」に、身内や許嫁を失った秋野の「喪失」が重なる。 癒しの一冊。 読むごとに草いきれが鼻腔に広がる。魂を鎮めるのは、亡き者に対してだけではなく、遺された人にとっても必要なことだろう。 ...
人文地理学の研究者である秋野は、南九州の遅島に赴く。 そこではかつて廃仏毀釈があった。島の「喪失」に、身内や許嫁を失った秋野の「喪失」が重なる。 癒しの一冊。 読むごとに草いきれが鼻腔に広がる。魂を鎮めるのは、亡き者に対してだけではなく、遺された人にとっても必要なことだろう。 諸行無常から色即是空へ。喪失を理解する秋野の心境が興味深かった。形を変えずっと続いていくというよりも、初めからなかった、幻であった、というこの世の理解のしかた。 「喪失とは、私のなかに降り積もる時間が、増えていくことなのだった」。
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終盤にかけての主人公の溶けていくようなカタルシスがすごく良かった…大切にしたい本がまた増えた。梨木さんやっぱり好きだなあ。 若くして許嫁を亡くしてる学者の主人公がどことなく寺田寅彦を彷彿とさせるんだけど、二人目の奥さんの名前も同じなのは偶然なんだろうか。
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渋い。深く味わいのある作品。 昭和初期に私が訪れた遅島は、もともとユタやノロに似た「モノミミ」のような民間信仰のある修験道の島で、寺なども多くあったが、廃仏毀釈の流れの中でモノミミはいなくなり、寺は破壊し尽くされる。その中で還俗させられた善照が「海うそ」=蜃気楼を見た場所で、私もまた海うそを見る。それと50年後に島が再開発され、元の姿を留めなくなった中で、同じ場所で海うそを見ることで、失われたものを嘆くだけの悲しみではなく、万物が移り変わってもそれはそういうものであって、あるものはある、みたいな悟りとしての海うそ、というのを感じた。 許嫁に自死され、両親を相次いで亡くした私が島で感じた色即是空。この世で生きるための足がかりのため、新しく恋をしなさいと島人は言う。全てがどうしようもなく移り変わっていく中で、あるがままを受け入れて生きていくための足がかりは永遠の愛、なんてことではなくて、実際主人公はそれほど劇的なものを妻に持っているわけではなくて、あるがままを受け入れてそこにある、ということが足がかりなのかなと思った。二つ家がただ寄り添ってそこに存在するように、次男曰く「慢性鬱」の私の隣にただ付かず離れずのポジティブな妻がいるように。
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