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西南役伝説 の商品レビュー

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6件のお客様レビュー

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2024/03/01

侍も、苗字のなか者共もひとしなみになるちゅう噂は本当らしゅうもあった。どこらあたりの庄屋殿じゃったろうかな、こういう噂がながれてきた。一日、村の人間を集めてご馳走する、といわるげな。その庄屋殿の家のにわに、今まで使いよった肥桶と肥柄杓がきれいに洗いおさめてある。その洗い上げた肥桶...

侍も、苗字のなか者共もひとしなみになるちゅう噂は本当らしゅうもあった。どこらあたりの庄屋殿じゃったろうかな、こういう噂がながれてきた。一日、村の人間を集めてご馳走する、といわるげな。その庄屋殿の家のにわに、今まで使いよった肥桶と肥柄杓がきれいに洗いおさめてある。その洗い上げた肥桶になみなみと酒をいっぱい入れてあるちゅう。それから洗った肥柄杓で湯呑に酒をついで、「一統づれよう来て呉れた。今日はご馳走するぞ。何ば遠慮するか、さあ呑め」と配ってまわる。「呑まれんかのう。呑まれんじゃろうのう。やっぱりそうじゃろうとも。お前共平民も、苗字を名乗ってよかごとなるちゅうて威張ってみよるが、元はと言えばおまえどもはこの、肥柄杓や肥タゴと同じ身分の、どん百姓ぞ。よかか、洗うても肥桶は肥桶ぞ」

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2023/04/16

島原の乱について書かれた「春の城」がおもしろかった。それと似た感じかと思って読み始めたので、しばらくはついて行くのがつらかった。水俣病について書かれた「苦界浄土」に近いと言えるだろうか。聞き書きである。熊本のことばである。ところが次第にそれが心地良くなっていく。読める。「にき」(...

島原の乱について書かれた「春の城」がおもしろかった。それと似た感じかと思って読み始めたので、しばらくはついて行くのがつらかった。水俣病について書かれた「苦界浄土」に近いと言えるだろうか。聞き書きである。熊本のことばである。ところが次第にそれが心地良くなっていく。読める。「にき」(そば)ということばが何度か登場する。それで思い出した。「ねき」ということばを子どものころ使っていたと思う。まあ、親が使っていたのを聞いて知っていたというくらいか。すっかり忘れていた。こうして言葉は移ろっていく。1960年代に聞き書きをされている。当時、100歳に近いような老人から聞かれている。したがって、明治維新や西南の役が身近にあるわけだ。それが、親から聞かされた話というような形であったとしても。時代が変わっても、農民の暮らしがそんなに大きく変わるわけではない。将軍だろうが、天皇だろうが、どんな人かもまったく知らない。誰が上にいようと、自分たちの日々の暮らしはそうそう変わらない。そんな中で、いわゆる隠れキリシタンの人々の村で、村民がまるごと殺されている。その状況が克明に描写されている。「そうすると切り口から血柱の空に向けち、さあーっとふきあがって。」強烈な印象を受ける。刀を振り下ろすのは非人であった。(「血柱」と検索すると「血栓」と出て来る。バカにされている気がする。)遊郭に売られて神経を患って、しんけい殿になってしまったおえんしゃまと犬の五郎との話もなかなかいい。これは実はフィクションであったと「あとがき」に書かれている。

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2021/09/11

苦海浄土をまたぐようにして書き継がれたそう。島原の乱から西南戦争そして水俣病 これが我々の来し方かもしれないが、自分はそこからなんと遠いところに生きているのだろう。でも、こうして読んでいて感じるところがあるのだから縁が途切れてしまっているわけでもないのかな 天草はもう40年近...

苦海浄土をまたぐようにして書き継がれたそう。島原の乱から西南戦争そして水俣病 これが我々の来し方かもしれないが、自分はそこからなんと遠いところに生きているのだろう。でも、こうして読んでいて感じるところがあるのだから縁が途切れてしまっているわけでもないのかな 天草はもう40年近く訪れていない。ただの海水浴でいいからまた行ってみたいものだ

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2021/01/27

石牟礼道子の代表作といえば苦海浄土だが、まだ読んだことがない。 実は彼女の最高傑作だと思っているのは、町田康の「告白」の解説である。 そんな邪な読者の私が実際に彼女の本を読んでみた。 うーん、ヌルい宮本常一かな。文学に流されすぎだ。最初からこれは文学だと言ってしまえばそうだけどさ...

石牟礼道子の代表作といえば苦海浄土だが、まだ読んだことがない。 実は彼女の最高傑作だと思っているのは、町田康の「告白」の解説である。 そんな邪な読者の私が実際に彼女の本を読んでみた。 うーん、ヌルい宮本常一かな。文学に流されすぎだ。最初からこれは文学だと言ってしまえばそうだけどさ。 だけれどもそれは水俣病に対してはどうなのさ。 どうなのさと言われれば、私はそれで良いと思う。 人間の悲惨さは、結局は文学に回収するしかない。 そう思ったとき、私が連想したのは莫言の蛙鳴である。「一人っ子政策」と簡単に言うが、そこにあったのは一人ひとりの人間と人生を押しつぶす経験である。月並みな言い方をすれば声なき声と言っても良い。 それは、文学でしか表現することができない。一人の経験を想像力を使って万人の経験に昇華するものが文学だろ。 だとすれば、石牟礼道子はマジックリアリズムかもしれない。かなりそんな感じだ。

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2020/05/02

天草四郎の乱 ↓ 弘化の一揆 ↓ 天草から北薩への移民 ↓ 西郷さんのいくさ ↓ 太平洋戦争 ↓ 水俣事件 これらを一本の糸に縒り合せて現出させる、本作の野心は恐るべきもの。 小説の体裁としては「苦海浄土」が成し遂げたような、寸鉄を打ち込む隙も無い完璧さには至らないが、体裁が整...

天草四郎の乱 ↓ 弘化の一揆 ↓ 天草から北薩への移民 ↓ 西郷さんのいくさ ↓ 太平洋戦争 ↓ 水俣事件 これらを一本の糸に縒り合せて現出させる、本作の野心は恐るべきもの。 小説の体裁としては「苦海浄土」が成し遂げたような、寸鉄を打ち込む隙も無い完璧さには至らないが、体裁が整わないが故の異様な迫力がある。 再読を己に課したい。

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2018/07/24

西郷好きの私はこのタイトルに惹かれて読み始めたが、思いがけない世界に深く引きずりこまれた。 宮本常一の「忘れられた日本人」に連なる我々の根っこに触れた感覚。

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