闘争領域の拡大 の商品レビュー
フランスを代表するベストセラー作家であるミシェル・ウエルベックのデビュー作。フランス現代思想のような衒学的なタイトルであるが、その意味するところはシンプルであり、痛切なものだ。 近代の資本主義は、企業やそこで働く個人を市場という絶え間ない闘争領域に追い込んでいく。最初は生産・販...
フランスを代表するベストセラー作家であるミシェル・ウエルベックのデビュー作。フランス現代思想のような衒学的なタイトルであるが、その意味するところはシンプルであり、痛切なものだ。 近代の資本主義は、企業やそこで働く個人を市場という絶え間ない闘争領域に追い込んでいく。最初は生産・販売などの経済的活動が闘争領域で繰り広げられたが、止む事のない資本の自己増殖能力は徐々に闘争領域を拡大させていく。その結果、恋愛そしてセックスまでもが闘争領域に飲み込まれていく。 身の回りを見渡してみれば良い。良いセックスができる人間はますますそのチャンスを増大させる一方で、そうした機会が与えらない人間はますますそのチャンスを逃していき、格差が増大していく。 常に現代社会の残酷な一面を切り取り、小説という形態にテーマを昇華させ見事な作品に仕立て上げるウエルベックの方法論はデビュー作からして確立されていた。そうしたことを感じた一冊。
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ウエルベックの処女作。冒頭のデブス二人がミニスカートは男の気を引きたくて履いているわけではないと高らかに宣言するのに対し「くだらない。粕の極み。フェミニスムの成れの果て」と主人公が毒づくのは苦笑してしまった。ウエルベックは相変わらず差別的だが、ある種の絶望した男性を描くのは本当に...
ウエルベックの処女作。冒頭のデブス二人がミニスカートは男の気を引きたくて履いているわけではないと高らかに宣言するのに対し「くだらない。粕の極み。フェミニスムの成れの果て」と主人公が毒づくのは苦笑してしまった。ウエルベックは相変わらず差別的だが、ある種の絶望した男性を描くのは本当に上手い。 自由主義が経済市場や恋愛市場に行き渡ること=すなわち闘争領域の拡大が本作のテーマである。Twitterでよく論じられるキモカネ論(キモくてカネのないおっさん)にも通じる内容で、それは主人公の観察対象であるティスランを見ているとよく分かる。彼は経済的には成功しているものの、性的行動は満たされていない。性的行動は一つの社会階級システムであると本書は語っているわけだが、生まれつき醜く容姿の悪い人間はそれを得ることができない。カネで代替することはできるものの、そこに愛はなく、狭い闘争領域の中に愛は存在しない。これは残酷な真実であり、どうしようもなさを感じてしまう。処女作ということもあって後の作品と比較するとやや淡々とした運びであり、救済も答えもないのだけれど、ウエルベックの暴きたい欺瞞がわりと露骨に出ている秀作である。
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自由であるが故に、自分が敗者となる恐怖・敗者であると認める恐怖は、私たちにとってもあまりにもリアル。 自分を客体視することで平静を保とうとし、硬質な文で綴られるこの独白も、その内側の絶望感を浮き彫りにしていて痛々しい。けっきょくのところこの主人公も愛を渇望していて、闘争領域の外に...
自由であるが故に、自分が敗者となる恐怖・敗者であると認める恐怖は、私たちにとってもあまりにもリアル。 自分を客体視することで平静を保とうとし、硬質な文で綴られるこの独白も、その内側の絶望感を浮き彫りにしていて痛々しい。けっきょくのところこの主人公も愛を渇望していて、闘争領域の外に立つことはできないのだから。
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ウェルベック先生的要約は 「自由が進むと、経済的な落伍者が出るように性的落伍者がでるよ。」 「それってとっても苦しいことで、メンタルもやられちゃうよね。」 うん、つらい。
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入手困難だった作品が河出文庫より刊行された。 河出文庫はホントこういうのを拾ってくれるから有り難い(あと、ちくまも)。 濃縮されたウエルベックのエッセンス……と言いたくなるような内容。読む人は多分選ぶし、誰彼構わず勧められる本ではないが……これ、好き。
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これがウェルベックのデビュー作らしい。テーマというか作者の姿勢は本当に一貫していて清々しさすら感じる。これと後の作品を比べると(全部読んではいないが)、変えていっているのは読者層を広く取り込むための工夫の部分だろうか。遡ってデビュー作が文庫化されるくらいなのだから、その努力は上々...
これがウェルベックのデビュー作らしい。テーマというか作者の姿勢は本当に一貫していて清々しさすら感じる。これと後の作品を比べると(全部読んではいないが)、変えていっているのは読者層を広く取り込むための工夫の部分だろうか。遡ってデビュー作が文庫化されるくらいなのだから、その努力は上々の成果を上げている。この作品自体は、面白いのだけど、まあウェルベックの作品として一番に薦めることはないかなという感じ。 最後はあの後、自殺したのかな?してないのかな?どちらもあり得ると思うが…。雄大な自然の中にいてもむしろ虚無感を感じるというのは自分にも覚えがある。個人というものの枠組が根源的には「死によって世界から分離されるもの」として規定されており、その前提のもとに社会が運営されているのだから、冷静に考えるとなかなかぞっとする。人は繋がりが完全に絶たれることに耐えられないにも関わらず、それを社会全体が奨励している。可能性のなくなった人は死んでいく。人間は一体なにがしたいんだ、とは思う。
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争の領域に誘われたが、果たして闘争の領域を目指そうとしたのか?その想いで読み進む事で繰り広げられる物語を客観視すると無意識のうちに闘争の領域を目指すべく目指していたことに気付かされた。ウェルベックが示唆した方向は残念ながらその通りになりつつあるが、このことについては彼が後々語り続...
争の領域に誘われたが、果たして闘争の領域を目指そうとしたのか?その想いで読み進む事で繰り広げられる物語を客観視すると無意識のうちに闘争の領域を目指すべく目指していたことに気付かされた。ウェルベックが示唆した方向は残念ながらその通りになりつつあるが、このことについては彼が後々語り続けていくことになったんだろう。
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※このレビューにはネタバレを含みます
ちょっと後半の展開が急なきがするけど、ウェルベック独特の視点がもう現れている気がする。 恋愛の自由主義化によって経済と同じ階層が出現してしまった。
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