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こころの病に挑んだ知の巨人 の商品レビュー

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2024/07/24

優れた心理臨床に関する理論は、その理論を生み出した人間の人生、実存問題、人間観が深く関わっている。 何か物事を考える時、結局私たちは、自分の経験に基づいてしか考えること何できない。 動画やテレビ、本などで、色々な事象や概念、気持ちを知ることはできるが、結局のところ、深い洞察ができ...

優れた心理臨床に関する理論は、その理論を生み出した人間の人生、実存問題、人間観が深く関わっている。 何か物事を考える時、結局私たちは、自分の経験に基づいてしか考えること何できない。 動画やテレビ、本などで、色々な事象や概念、気持ちを知ることはできるが、結局のところ、深い洞察ができるのは自らの体験である。 森田正馬 森田療法の原点も、森田自身の経験である。目の前にあることに打ち込めば、他のことは気にならなくなった。勉強に没頭することで、自分の身体に対する気掛かり、病気の心配も忘れ、神経症的な不安や恐怖は消滅したことに起因している。 他の治療者と違う点として、著者は「森田療法は治療者と対患者を含めた関係性の視点がない」ことを挙げている。時代背景もあるだろうが、確かに指摘通りと私も思う。 土居健郎 「甘え」理論は単なる日本文化論ではない。土居自身が心理臨床の現場の中で、患者との治療関係に着目し、自らの内面に注視し続け、洞察して編み上げた精神病理論であり、かつ心理的治療論である。この甘え理論の出発点も彼自身の渡米体験が深く関わっている。 下記は印象的なところを抜粋。 「治療者自身の感情が治療にとって不可欠の道具」。治療者の感情は、患者の隠れた感情すなわち転移を理解するための鍵となる。なぜならば、患者の感情を感じ取るのは、直接の治療者の理性によるのではなく、常に治療者の感情を媒介としてなされるから。 河合隼雄 日本社会の中空構造論に魅了される。それを裏付けるような古い神話や昔話もとても魅力的に見えた。 中心に絶対的なものを置かず、空の状態を保つことで、対立するものや矛盾するものを排除せず、共存できるような均衡状態を保つ社会。 西洋のように、中心に父性を置く場合は、自らの力によって統率するリーダーが求められるが、日本のリーダーは全体を調整する世話役のような役割が求められ、リーダーは力を持たずとも、ただ中心的な位置を占めることによって、全体のバランスを保つ。 木村敏 あまりこれまで接してこなかったせいもあるのか難解。読みきれていない感じが残る。特に時間論からの生命論が難しい。 有名な「あいだ」理論はおもしろい。これも木村敏自身の音楽の合奏体験が原体験になっている。 数人で合わせている会話や合奏などの全体が個人の意志を超えたひとつの強大な意志を持ち始め、まるで一個の生き物であるかのように感じられてくることがある。これを成立させているのは、それに参加している個々個人の「あいだ」で働く何らかの大きな力だという。 ー私には魅力的な理論だが、一般的には受け入れられないだろうか。 中井久夫 なんといっても統合失調症の治療プロセスがわかりやすい。統合失調症者の支援に携わる多くの人が治療の指針にしていると思われる。 中井もまた治療を行う上で、自身の感情を大切にしている。相手の感情に対して自分自身の感情が直接反応し、同じような感情が巻き起こることを、わたしたは日常的な対人関係の中でも経験しているはず。 このとき、相手の感情に対して、ただ感情的に反応するのではなく、その感情に気づき(自己了解)、冷静に見据えることができてこそ、相手に対する適切な対応につながる。 少なくとも、心の治療者はこれができなければならないし、患者やクライエントとの距離調節も、基本的にはこうした治療者自身の心の動きに基づいている。色々と自分を振り返ってしまった。

Posted byブクログ

2024/07/01

特に木村敏さんの「精神病理の時間論」という章が刺激的な内容だった。 木村敏はこうした医学的人間学を評価し、精神病とは「生命それ自身」の関係が失われた状態なのではないか、と考えるようになった。そして、個人や個体の世代ごとに区切られた不連続な生命、個体の有限な生命を「ビオス」、生き...

特に木村敏さんの「精神病理の時間論」という章が刺激的な内容だった。 木村敏はこうした医学的人間学を評価し、精神病とは「生命それ自身」の関係が失われた状態なのではないか、と考えるようになった。そして、個人や個体の世代ごとに区切られた不連続な生命、個体の有限な生命を「ビオス」、生きとし生けるものすべてに受け継がれてきた根源的な生命、個体の分離を超えて連続する生命を「ゾーエー」と呼んで区別するようになる。 「私」は個別の生命であるビオスだが、同時に根源的な生命であるゾーエーにも属している。たとえば、自分の存在を内部から見た場合、私は一回きりの人生を生きている交換不可能な独自の存在である。しかし外部から見ると、私は大勢の集団の中の一人であり、他の誰かと交換しうる存在でもある。 戦争や災害などの非常時や、集団的なスポーツやゲームに熱中しているとき、祝祭の狂乱状態のときなど、私たちは没個性の感情が強くなり、一体感を感じることがあるだろう。そこでは、「個別以前」「自己以前」の生命の動きが感じられている。そして、この各個人の意識と一種のレベルでの連帯意識とのあいだの不均衡こそが、統合失調症をもたらしている。 哲学的な内容だが「地球上での自分の立ち位置を再確認しろ!」と言われているように感じた。 この本は日本人による日本人のための心理学教本という感じの内容で良書だと思う。 この本でやっと日本の近代心理学の歴史を把握できた(ような気がした)

Posted byブクログ

2023/05/31

森田正馬以外は名前を聞いたことがある程度だったが、それぞれの精神疾患の治療に対する理論がわかりやすく説明されていて良かった。

Posted byブクログ

2021/08/12

森田正馬、土居健郎、河合隼雄、木村敏、中井久夫という日本の偉大な臨床家について、とてもよくまとまっていて大変参考になった。 ただ、同じ内容の繰り返しが多めで、それだけ大事だということなのかもしれないが、その分を別の内容の記述にあてることもできたのではないかと思われ、ちょっと残念だ...

森田正馬、土居健郎、河合隼雄、木村敏、中井久夫という日本の偉大な臨床家について、とてもよくまとまっていて大変参考になった。 ただ、同じ内容の繰り返しが多めで、それだけ大事だということなのかもしれないが、その分を別の内容の記述にあてることもできたのではないかと思われ、ちょっと残念だった。

Posted byブクログ