アーレントと二〇世紀の経験 の商品レビュー
財産とは本来、たとえば「自分の家をもつ」ことがそうであるように、各人に「世界の中に自分固有の場所」を与える機能をもつ。すなわち財産を所有することは、公的領域とは区別された「私的領域」を確保し、個人が尊厳ある生を送るための不可欠の条件なのである。しかし近代資本主義の勃興とともに、財...
財産とは本来、たとえば「自分の家をもつ」ことがそうであるように、各人に「世界の中に自分固有の場所」を与える機能をもつ。すなわち財産を所有することは、公的領域とは区別された「私的領域」を確保し、個人が尊厳ある生を送るための不可欠の条件なのである。しかし近代資本主義の勃興とともに、財産は互換可能な商品となり、社会的な「富wealth」の蓄積過程へと徴用されていったのであり、その結果、人々は社会から隠れて生きるための私的領域を奪われ、剥き出しの労働力として「社会的なものの過程」にますます駆り立てられてゆくことを余儀なくされている。市場原理が財の適正な配分を実現して「個人の自由を守る」、などという「自由主義的経済学者」の「楽観主義」は、アーレントから見れば、何の根拠もない寝言にすぎない。今日個人の自由を脅かしているのは「国家ではなく社会であり」、個人の自由を保証するものは「国家」を措いてないのである。
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