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ゴッホの耳 の商品レビュー

4.1

17件のお客様レビュー

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2018/09/22
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 「自分はだめな人間のような気がする」フィンセント・ファン・ゴッホ  私は数分間その言葉を見つめた。すっかりやる気を失い、自分はゴッホの物語に新たな事実を何も加えられないのではないかと思った矢先の出来事だった。これまでの10ヶ月間に取り組んできたのは、ほかの人がすでに調べ上げたことなのだ。私はそのとき、実際に会ったこともないのに、この問題を抱えた男への共感で胸がいっぱいになった。その瞬間、私の心の中でこの芸術家が姿を変えた。世界的に尊敬されている画家が、自分をだめな人げんだと感じていたのだ。これを機に、ゴッホは単なる研究対象ではなく、現実の人間になった。(pp.62-63)  美の概念は変わる。現在では、巨大な看板、ディスプレイ、映画、雑誌、新聞など、生活の至る所に鮮やかあん色が無数にある。そのため、現代の目でこの『花咲く庭』を見ても、ゴッホの絵が当時の人々の目にどれほど過激に映ったかを想像するのは難しい。しかし私は、美術館で初めてゴッホの絵を見たとき、意外なほど強い衝撃を受けた。それなら、黄色に変色したニスに覆われた絵しか見慣れていない19世紀アルルの住民は、その絵をどう感じただろう?おそらく頭のおかしな人間の作品だと思ったに違いない。(p.158)

Posted byブクログ

2018/03/21

ゴッホが自分の耳を切り落とした事件を詳しく検証.その時の様子やら果たしてどの程度耳を切ったのかとか.物語は運命の瞬間に向かってじりじりと進んでいく.資料集めなど筆者の苦労話が多く,別に結果だけ書いてくれても良かったんじゃない?

Posted byブクログ

2018/03/19

地道な作業から積み上げて,ゴッホのアルル時代から自殺までの事件を解き明かす.耳全体か耳たぶか,アルルの人々がゴッホを追い出したのか,ゴーギャンはゴッホを冷たく見捨てたのかなどの疑問点に答えを出してすっきりさせている.そして何より傷つきやすくプライドの高いゴッホが,人の温もりを求め...

地道な作業から積み上げて,ゴッホのアルル時代から自殺までの事件を解き明かす.耳全体か耳たぶか,アルルの人々がゴッホを追い出したのか,ゴーギャンはゴッホを冷たく見捨てたのかなどの疑問点に答えを出してすっきりさせている.そして何より傷つきやすくプライドの高いゴッホが,人の温もりを求めながらも手に入れられなかった様子が描かれています,ここにゴッホが生きて苦しんでいるのを見るようでした.労作だと思います.

Posted byブクログ

2018/02/13

 著者はイギリス生まれでプロヴァンスに住む美術史教師だったが、病気をして暇ができたのを機に、ゴッホの耳切り事件のことを調べてみようと思い立った。ゴッホは耳を切ったというが、耳を全部切ったのか一部だったのか。切った耳を誰に手渡したのか。いったいなぜそんなことをしたのか。  専門家も...

 著者はイギリス生まれでプロヴァンスに住む美術史教師だったが、病気をして暇ができたのを機に、ゴッホの耳切り事件のことを調べてみようと思い立った。ゴッホは耳を切ったというが、耳を全部切ったのか一部だったのか。切った耳を誰に手渡したのか。いったいなぜそんなことをしたのか。  専門家もびっくりの執念深い調査で彼女が明らかにしたことは3つ。1つは、いくつかの資料が伝えるようにゴッホが切り落としたのは「左耳の一部」なのか、ゴーギャンが言っているように左耳全部なのか。これについては、耳を切ったゴッホを最初に診察したレー医師が後年、『炎の人ゴッホ』の著者アーヴィング・ストーンに耳の切り方を図解したメモを発見する。事件から40年以上もたってからのメモだが、これは記憶違いをするような事柄ではないのでかなり信憑性があるとみていいだろう。  第2に、ゴッホが切った耳を近隣の娼館の娼婦ラシェルに手渡したと当時の新聞に書かれているのだが、この人物を特定したこと。それは娼婦でもなければラシェルでもないのである。  第3は、アルルの人々がゴッホを危険な狂人だとして騒ぎ立て、当局に嘆願書を提出して彼を追い出し、そのために彼はサン−レミの精神病院にはいることになるのだが、この嘆願書がアルルの人々の総意ではなく、ごく一部の人の利害に基づく、一種の隠謀だった証拠を発見したことである。  肝心のなぜゴッホが耳を切ってそれをラシェルならぬ、娼館の小間使いをしていたガブリエルなる少女に渡したのかである。しかしこれはゴッホの内面に関わることであり、彼がその内心を吐露した手記でも見つからないかぎり何ともいえないことである。著者の推測によれば、それはとても利他的な意図を持った行為であり、しかも誰にも理解されないような論理に駆動された行為なのである。著者の推測が当たっているかどうかはわからないが、それなりに説得力はあると思う。まるでゴッホは宮澤賢治的に思えてくるのだが。  ともあれ、ミステリを読むような面白さであった。

Posted byブクログ

2017/11/17

ゴッホといえば、ヒマワリの絵と耳を切り落とした狂気の人という印象は誰にでもあるだろう。そのゴッホの耳はなぜどのように切られたのかを徹底的に調べ上げたのが本書。 アルルを訪れ、公文書館で当時の膨大な記録を一つ一つ調べていくという地道な調査を積み上げ、少しづつゴッホに近づいていく。そ...

ゴッホといえば、ヒマワリの絵と耳を切り落とした狂気の人という印象は誰にでもあるだろう。そのゴッホの耳はなぜどのように切られたのかを徹底的に調べ上げたのが本書。 アルルを訪れ、公文書館で当時の膨大な記録を一つ一つ調べていくという地道な調査を積み上げ、少しづつゴッホに近づいていく。そして、少しづつ見えてくる当時のゴッホとその周辺の人々。ゴッホを支え続けた弟テオ、ゴッホを見捨てたと言われるゴーギャン。それぞれの新たな姿を探り出し、ゴッホの病の深刻さが読み取れる。 著者がエピローグでも書いているが、一つ一つは大きな発見とは思えなかったものの積み重ねが、新たなゴッホ像を構築していく。 ゴッホの画集をそばに読むとより面白さが増したかも。 今公開されているゴッホの絵が動くというゴッホの映画、見てみたくなった。

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2017/11/13

繊細で神経質ゆえ、苦悩した画家ゴッホ。 その謎にせまった本書。彼の真実はきっと永遠にわからないのかもしれないけれど、その色使いや筆遣い、作品に込められた思いの熱さは時を超えて響きます。日本を愛した画家。

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2017/11/04
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

謎に満ちた画家ゴッホ。 自ら切り落としたとされる「耳」の謎を追う。 著者の、大量のデータベースを作成し真実を探求していく姿勢にまず驚かされた。 けれどこれは単なる「耳」の謎解きに留まらず、ゴッホが過ごしたアルルの素晴らしい自然や、数々の絵を描いた背景も丁寧に綴られてあり、ゴッホの魅力を再確認させるものだった。 気性が激しく些細なことにも思い詰める質のゴッホ。絵を描くことに情熱を注ぎ、どんなに過酷な環境の中においても自分の絵を描き続ける。 彼が生み出す優しい色使いや筆のタッチは見ている者を癒してくれる。 病に侵され思うように描けない苦悩や絶望。 そして最期は非業の死を遂げてしまう。 そんな常に不安定な状況の中にある彼が、自分の甥の誕生を祝って描いた「花の咲くアーモンドの木の枝」は日本の桜を彷彿とさせる位優しさとおおらかさを感じる作品で、正に「生きる」力を連想させてくれる。 日本を愛し日本の浮世絵から多大なる影響を受けたゴッホ。 一度も日本の地を踏むことは叶わなかったけれど、彼の絵が彼に替わって日本の地を訪れ多くの日本人に愛されている。 それはとても素敵なことだと思う。

Posted byブクログ