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犬物語 の商品レビュー

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13件のお客様レビュー

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2025/03/08

「ロンドンにおいては原則〈狼>犬>人間〉というヒエラルキーがあると言ってもあながち過言ではないだろう」と翻訳者の柴田元幸さんが、あとがきに書いている。 なるほどな、と思う。 各編の主人公犬たちの、立ち位置を並べてみる。 「ブラウン・ウルフ」 = 犬らしい犬 (安楽のカ...

「ロンドンにおいては原則〈狼>犬>人間〉というヒエラルキーがあると言ってもあながち過言ではないだろう」と翻訳者の柴田元幸さんが、あとがきに書いている。 なるほどな、と思う。 各編の主人公犬たちの、立ち位置を並べてみる。 「ブラウン・ウルフ」 = 犬らしい犬 (安楽のカリフォルニアの主人か、厳しいアラスカかの主人か、選択を迫られる) 「バタール」と「スポット」 =人並み以上の知恵と狡猾さを持った犬 (まったくもって褒め言葉ではない) 「バック(野生の呼び声)」 =犬から狼へと昇格 (野生に目覚めるという一種の退化のはずなのに、スタイルとしてはまるで教養小説/ビルドゥングスロマンだし、典型的な貴種流離譚) いやしかし、犬が秘めた野生の力を賞賛するのはよいのだけれど、ロンドンはちょっとばかり、犬に多くを求めすぎではないか。 現代日本で犬を飼っていた身としては、犬が気の毒になってくる(我が家では、側溝に落ちて鳴いてた雑種の子犬を妹が拾ってきたのだった。甘やかされた生活もまた良きものであったと願いたい)。 本書では、やはり『野生の呼び声』が白眉。 バックにすっかり感情移入してしまい、応援モードで読み進める。 ライバル犬との橇犬としてのリーダー争いに熱くなり、動物のことをまるで分かっていない人間からの非道な扱いに憤慨する。真の友との出会いと別れを経て、バックは王となってゆく。 努力・友情・勝利とまとめるには悲惨で過酷な運命だが、とても面白いのだ。 ロンドンは“足指の間に氷が張ったら噛みとらなければならない”いう橇犬の習性を、お気に入りの表現なのかあちこちで使っている。こういった細部がリアリティを醸し出して、シャープな文章と相まって引き込まれる。  “ 北極光が頭上で冷たい炎を放ち、あるいは星たちが厳寒の舞を舞い、土地は雪の帳に包まれて麻痺し凍りつくなか、このハスキーたちの歌は、生の側からの反抗のように聞こえたかもしれない。 だが、むしろ生の側からの嘆願と言うべきだったろう。それは古から続く、種と同じくらい昔からある歌だった。世界がまだ若かった、歌といえば悲しいものだったころの、最古の歌の一つだった。数知れぬ何世代もの悲しみがそこにはこもっていて、その訴えにバックは不思議と心を動かされた“ 本書の最後に収載されたのは、なんと犬がでてこない『火を熾す』。 先日に読んだ“犬が登場する方”の1908年改稿版『火を熾す』とは、印象がだいぶ異なることに驚いた。 本書収載の初版は、自然の怖さを軽視した男の教訓話し、もっといえば滑稽談な印象すらある。 いや、これは犬の不在だけの問題じゃないけれど、それでも犬は重要なアクセントだったんだと気づけた。 改稿版の方では、犬が内側に宿す野生の逞しさが描かれるからこそ、アラスカの非情な自然の前に屈する人間の脆さが一層に沁みてくる。 両バージョンを読み比べて推敲による差を感じられたのは嬉しいこと。

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2024/02/17

犬が主人公の作品集。犬の目を通して人間を描く、ではなく、本当に犬そのものがメイン。読んだからといって共感したり教訓を得たりはできないのだけど、何だろう、この読後の深い充足感は。

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2023/01/07

短編『火を熾す』でジャック・ロンドンを知り、短編集2冊めになります。 あのスポットのような楽しい短編もあるんだと発見もありました。 次は長編も読んでみたいと思います。

Posted byブクログ

2023/01/13

作品紹介・あらすじ 柴田元幸翻訳叢書 待望の新刊! 生か死か、勝つか負けるか、犬か人かーー。 第1弾『火を熾す』から9年、満を持して贈る『犬物語』は極北の大地を舞台に犬を主人公にした物語集。 代表作「野生の呼び声」を含め、柴田元幸が精選・翻訳した珠玉の5篇。 収録作品 「ブラウ...

作品紹介・あらすじ 柴田元幸翻訳叢書 待望の新刊! 生か死か、勝つか負けるか、犬か人かーー。 第1弾『火を熾す』から9年、満を持して贈る『犬物語』は極北の大地を舞台に犬を主人公にした物語集。 代表作「野生の呼び声」を含め、柴田元幸が精選・翻訳した珠玉の5篇。 収録作品 「ブラウン・ウルフ」 「バタール」 「あのスポット」 「野生の呼び声」 「火を熾す(1902年版)」 四六判上製 232ページ ***** 全5編を収めた短編集。うち4編が犬を主人公に据えた物語で、残りの1編「火を熾す(1902年版)」も後に犬を登場させた「火を熾す(1908年版)」の元となる作品。 翻訳された柴田氏も語っているけれど、ここに登場する犬は愛玩のそれではなく、もっと自然界に近い存在、人間と同等あるいはそれ以上、あるいは人間と敵対する存在として描かれている。「バタール」においては「地獄の申し子」であり、「あのスポット」では狡猾な存在として登場する。 どの作品も面白いのだけれど、やはり「野性の叫び声」が飛びぬけて面白い。面白いのだけれど、重箱の隅を突いていると、気になる点もある。一つは「バック」という犬の思考がバック本人の視点として描かれている場面が多いのだけれど、でもこれってやはりジャック・ロンドンの視点だよね、犬が本当はどう考えているかわからないよね、とか。これなんかは野暮な考えだと思うし、面白く読んでいる自分に対して水を差す行為にもなるので、あえて深くは考えなかったけれど。あと、アメリカ原住民(本書ではあえて「インディアン」と書かれている)が悪者として登場するけれど、これって白人側からみた杓子定規的な扱いのようにも思えた。 そういえば今年(2023年)のお正月に、CSでハリソン・フォード主演による「野性の叫び声」の映画が放送されていたけれど、かなりソフィスティケイトされていてあまり面白くはなかった。 最後に収められている「火を熾す(1902年版)」は、前出のように「火を熾す(1908年版)」の元になった作品。数ページのみの小品であり、教訓譚みたいな内容。犬が登場してくる「火を熾す(1908年版)」の方が圧倒的な緊迫感があり、断然に面白い。

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2022/02/11

愛犬家であれば「あるある」と思うようなエピソードが満載だから動物小説の古典とされるのだろう/犬は野外生活ではハンターである主人と協働して「ヒト以上に役立つ」存在であった。言葉を話さないだけ、世話してくれるニンゲンを裏切ることばをしない。犬とは“文明化”された狼、という認識で、現代...

愛犬家であれば「あるある」と思うようなエピソードが満載だから動物小説の古典とされるのだろう/犬は野外生活ではハンターである主人と協働して「ヒト以上に役立つ」存在であった。言葉を話さないだけ、世話してくれるニンゲンを裏切ることばをしない。犬とは“文明化”された狼、という認識で、現代人(20世紀の欧米人)は文明化はヒトを軟弱にし官僚主義で“創造的破壊”が絶え。ヒトがルーティンワークで痴呆化するだけに、正面衝突すれば押し負ける/『荒野の呼び声』では(犬の)性欲が悲劇の遠因となった…犬狼に復讐の概念があるかなあ

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2021/09/28

犬好きの身としてはとてもうれしい犬が主人公の本。しかも出てくるのは自分の好きなハスキーとかああいった見かけの犬だ。 「ブラウン・ウルフ Broun Wolf」(エヴリボディズ・マガジン1906.8月号) 夫婦二人で暮らす家にどこともなくやってきたウルフ。だが飼いならすと北へ逃げ...

犬好きの身としてはとてもうれしい犬が主人公の本。しかも出てくるのは自分の好きなハスキーとかああいった見かけの犬だ。 「ブラウン・ウルフ Broun Wolf」(エヴリボディズ・マガジン1906.8月号) 夫婦二人で暮らす家にどこともなくやってきたウルフ。だが飼いならすと北へ逃げてしまうのを何度も繰り返す。ある日北から男がやってきた・・  解説によると、この犬は1905年にロンドンが行った船旅に同行させた、クロンダイクの住人から譲り受けた犬がモデルとのことだ。 「バタール Batard」(コスモポリタン1902.6月号) 「地獄の申し子」の犬、バタール。飼い主も犬の鬼気を感じつらく当たるが、バタールは逃げない。  「バタール」の姉妹編として「野性の呼び声」を書く気になったという。 「あのスポット Yhat Spot」(サンセット1908.2月号) こちらも一筋縄ではいかない意思を持った犬と飼い主との話。  とてもずるがしこい犬で大金をはたいたのに橇はひかない、肉は盗む。飼い主は犬を売り飛ばすが、買い手もすぐに音をあげ手放してしまう。そして犬は元の飼い主のところに戻ってくる。何度もこれを繰り返し、今は定住した俺の家に居座っている。しかしその性ワルの根性はそのままだ。 「野性の呼び声 The Call of the Wild」(週刊誌ザ・サタデイ・イヴニング・ポスト1903年夏に4回に分けて掲載) 小学高学年の頃読んだことがあった。児童向けの本だったのだろうが、ずっと後まで今も心に残っている。といって覚えているのは「・・それは野生の呼び声だった」というような最後の所。最初、家に飼われていたのも、途中橇をひいたのも忘れていた。改めて読んでみると、ほんとにおもしろい。犬じゃなく「ベン・ハー」みたいな逆境をものともせず、といったスーパー人間みたいだ。ほかの犬たちもそれぞれ個性的だ。確かに犬はそれぞれ性格が異なる。書かれた当時のカナダの金鉱の状況、グーグルで地図を見ながら、ユーコン川やドーソン、ホワイト峠など地図や写真でみながら想いを馳せるた。  最後の主人、ソーントン、心から好きになれた主人なのに、東へ幻の金鉱を探しに行く時点でなんとなくいやな予感はしたのだが・・ このソーントンや橇引き人、犬の仲買人含め人間をも自然の中で生きる点になっている気がした。 「火を熾す To Build a Fire」(1902年版)(Youth's Companion1902.5.29日号) 後に1908年に書き直し?同じ「火を熾す」として発表。これは断然後の1908年版のほうがいい。この1902年版は、カナダクロンダイク地方を歩く男が行程で火を熾す、という設定は同じだが、犬は出てこず、単なる男の思い出話といった趣。ので、結末も異なる。犬がいるといないのとではこうもちがうか。 2017.10.28第1刷 図書館

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2021/08/10

犬と人間はやっぱり切っても切れない間柄。 だけどそれは単純な主と従のような間柄だけではなく。 この本の中には、ただただ猫っかわいがりされてる犬とか一匹もでてこない。 仕事を持ち、その仕事に対して様々な姿勢を示す。 働くことがその生の根底にある犬たちの姿。 シートン動物記好きな人は...

犬と人間はやっぱり切っても切れない間柄。 だけどそれは単純な主と従のような間柄だけではなく。 この本の中には、ただただ猫っかわいがりされてる犬とか一匹もでてこない。 仕事を持ち、その仕事に対して様々な姿勢を示す。 働くことがその生の根底にある犬たちの姿。 シートン動物記好きな人はこれも好きなような気がします。

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2020/12/15

コロナでの外出制限時に読むと、しかも寒波襲来と重なると面白みがぐっと来た。 小さい頃から親しんできた類の作品、懐かしさがある。 深町さんの訳と比べると好みが解れるところだが、私は柴田さんの方が好き~英語をなじんで話す人とそうでない人との違いを区別したと言うが。 「死滅した太古...

コロナでの外出制限時に読むと、しかも寒波襲来と重なると面白みがぐっと来た。 小さい頃から親しんできた類の作品、懐かしさがある。 深町さんの訳と比べると好みが解れるところだが、私は柴田さんの方が好き~英語をなじんで話す人とそうでない人との違いを区別したと言うが。 「死滅した太古の生物」を見て、巨大化した生物の骨格に僅か混じる小さい生物のソレ。太古から狼は人類と共に生きて来た、それが人間と文永の寄り添い、狼犬、そして犬になって行った。ロンドンの世界ではその繋がりがよく理解できる。北の地では狼犬がいるし、犬の中でも狼的なものと人間的なものに分かれるのもありだろうし。その境界で何かが劇的にスパークし、物語が生まれるのだろう~ロンドンのような作家の手で。 10代の頃より放浪の旅と職を転々としてきた彼、やがて来たゴールドラッシュで金鉱探しの旅に出る。そういった下地が無ければこのような作品は書きえない。 ロンドンには犬の声が解る、犬もロンドンの声を分かる。 火を熾す~1902年版が載っており1908年と比較すると犬の存在の重さが解る。

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2019/05/01

 難波で飲み会がなければ高島屋丸善に立ち寄ることもなく、ジャック・ロンドンの「マーティン・イーデン」を手に取ることもなかっただろう。「マーティン・イーデン」が実に面白かったことで、同じ作者の「野生の呼び声」を読み返したいと思った。人生には、色々な偶然と必然が転がっているものだと感...

 難波で飲み会がなければ高島屋丸善に立ち寄ることもなく、ジャック・ロンドンの「マーティン・イーデン」を手に取ることもなかっただろう。「マーティン・イーデン」が実に面白かったことで、同じ作者の「野生の呼び声」を読み返したいと思った。人生には、色々な偶然と必然が転がっているものだと感じる。  「野生の呼び声」が収録されている、この「犬物語」は、ゴールドラッシュに沸く極北の、人間のような橇犬達と野生むき出しの人間達の関わりが書かれている。一種、伝奇のようでもあり、面白かった。ジャック・ロンドンという人が、少しわかったような気がした。  「野生の呼び声」は、今読み返してみても面白かった。硬質で厳しい物語が、少年だった僕は好きだったんだな、とも思った。多読した丸山健二さんのフィクションや、本多勝一さんのノンフィクションに繋がる素養があったこともわかった。  ストーリーに懐かしさは感じなかったが、少年の頃の自身と出会えたような懐かしさを感じる瞬間があった。

Posted byブクログ

2019/08/05
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

よんでみた。「野生の呼び声」がはいっている。やっぱりいいな。しびれる。トルストイの『イワンの馬鹿』と同じくらいいい。「野生の呼び声」は1903年以来、一度も絶版になっていないという小説で、初版1万部が一日で売り切れたといわれ、1947年までに全米で600万部売れたという。文明化された人間、卑小な人間、残虐な人間、愚かな人間、愛情深い人間などがでてくる。『白い牙』とは反対の話で、文明から野生にという話です。なんとなく、アメリカの「第二の宗教」みたいなものを感じる。

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