13・67 の商品レビュー
「13・67/陳浩基 著」読了。素晴らしい!これは傑作だな。ページをめくる手が止まらないとはこの事か。5年ほど前に香港に一人旅したけど、その時の情景が目に浮かぶようだった。また行きたいなぁ、香港。
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連作短編。評判が高いのだけど自分には合わなかった。話が多かった。一番最初の話が一番面白く、あとは冗長な感じがした。 時系列が遡っていくというのが、興味を削ぐ原因だったかもしれない。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
中国ミステリーの金字塔。 香港の文化を押さえつつ、しっかり本格ミステリーとしても完成度が高い。 中国小説は登場人物の把握が難しいが、重複して登場する人物も多いし、とにかく魅力的なキャラが多いため、すぐに覚えられる。翻訳も秀逸で読みやすい。 どの章もとにかく面白かった。 手放しで褒められる
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香港の歴史を辿りながら、しっかり本格的ミステリー要素も織り込んだ作品。2014年に刊行しているが、国家安全維持法成立後の今読むと尚響いてくるものがある。
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フォローしているレビュアーさん方の高評価なレビューを見て読んでみた。二段組480ページのガッツリした作品だったが、中身も濃く高評価なのも頷けた。 タイトルは2013年から1967年という意味。香港警察の『天眼』ことクワン刑事と、彼を『教官』と慕うロー刑事の活躍を描く。 『ロー、...
フォローしているレビュアーさん方の高評価なレビューを見て読んでみた。二段組480ページのガッツリした作品だったが、中身も濃く高評価なのも頷けた。 タイトルは2013年から1967年という意味。香港警察の『天眼』ことクワン刑事と、彼を『教官』と慕うロー刑事の活躍を描く。 『ロー、いいか。ルールを守るだけでは、事件など解決できない。(中略)警察官たるものの真の任務は、市民を守ることだ。ならば、もし警察内部の硬直化した制度によって無辜の市民に害が及んだり、公正が脅かされるようなことがあるなら、我々にはそれに背く正当性があるはずだ』 富裕層一家の主人が殺され、家族や関係者を集めて謎解きをするのが末期癌で意識がないままベッドに繋がれたクワンというビックリ設定から始まる第一話。 二つのマフィアグループの間で起こる小競り合いから殺人にまで発展し抗争事件が起きるのではという緊張感が高まる第二話。 劇薬がビルの屋上から撒かれる事件が続く最中、凶悪な囚人の脱走と脱走を手助けした仲間たちと警察との銃撃戦という次々起こる大事件に振り回される第三話。 強盗犯グループのアジトを見張り中に起きた、一人の警察官の暴走をきっかけに多数の市民の犠牲を出してしまった銃撃戦になった第四話。 クワンの手法は違法すれすれでバレたら良くて始末書もの、悪ければ懲戒処分になるような危ういもの。しかし相手は警察のやり口や法律の抜け穴を知り尽くした強者だから、さらにその上を行くためにはこの位しなければ解決出来ないのだろう。 まるで横山秀夫さんの警察ミステリーを読んでいるかのようで、読み進めるごとに景色が一変、また一変とし、一体いつ本当の構図が見えるのかドキドキする。 日本の小説でもいわゆる「警察の暗部」を描く作品はあるが、この作品で描かれる香港警察はさらに上を行く。何しろ警察内部に賄賂で簡単に転ぶ者、内通者になる者など警察と敵対する人物がいることが前提として謎解きが進められるのだ。 外にも内にも油断出来ない人間だらけだからこそ、クワンのこの手法は確立されて行ったのか。 一方でクワンの『天眼』振りにも驚かされる。クワンとローは共に現場を見て聴き込みもしたのに、まるでホームズとワトソンのように見える景色が違う。 多分同じ景色を見ても、同じことを聞いていても注目するところが違うからだろうけど。 それにクワンは「偶然」を信じないし、先日読んだ『同心亀無剣之介』のように見過ごし勝ちな小さな違和感や発見を忘れない。 それが発揮されるのが第五話。イギリスからやって来た、警察内部の汚職を調べる警察官の息子が誘拐される事件。ただ一度だけ見たものも忘れないクワンの能力に驚く。同時に彼の決着の付け方にも感心する。ただ真実を明るみにし、犯人を見つければ良いというものではないこともある。 ここまで読んできてクワンの『天眼』振りや手法に感心させられたものの、何故時代を遡る手法にしたのかは分からないまま。 しかし最終話の第六話を読み終えると、その謎が解ける。同時に冒頭に上げた、ローに語った警察官の有り様を何故クワンが目指すようになったのかも。最後まで読むとそう来るかー、と唸りたくなる。こんな形で第一話に繋がるとは。 あとがきにによると、一話一話は本格ミステリーの体裁だが、全体的には社会派ミステリーという二重構造にしたらしい。 最終話の1967年当時、香港警察は統治国たるイギリスのための組織であり、作中、香港市民からは『黄色い犬』と罵られている。しかし現在は中国共産党のための警察になっていて、イギリスが中国共産党に取って代わっただけに見える。イギリスに移住する人々もいるらしく、何とも皮肉な現状だ。 これから香港がさらにどう変わっていくのか、香港警察がどんな位置付けになるのかも注目だ。
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1967年から2013年までの香港を、一人の警察官の活躍を通じて描いた物語。 6つのエピソードは、多少の関連はあるもののそれぞれが独立した事件で、主人公の「クワン警視の事件簿」であり、そのまま年代順とすれば、英国統治時代から現在までの香港を描いた「クワン警視の一生」という大河ドラ...
1967年から2013年までの香港を、一人の警察官の活躍を通じて描いた物語。 6つのエピソードは、多少の関連はあるもののそれぞれが独立した事件で、主人公の「クワン警視の事件簿」であり、そのまま年代順とすれば、英国統治時代から現在までの香港を描いた「クワン警視の一生」という大河ドラマになるところ、なぜか年代を遡って描かれている。 エピソード自体も、横溝的「富豪家族の確執と過去の怨念」から始まり、「香港マフィアの内部抗争」「凶悪犯の脱獄」「市街地での銃撃戦」「警察組織の腐敗」「爆弾テロ」と次第に暴力的な色合いを強め、事件毎に時代背景を遡っていくことになる。 この物語が発刊された2014年には、民主化を求める「雨傘運動」があった。 その後も高度な自治権を持ったはずの香港行政府が揺らぎ始め、2019ー20年には民主化デモが最大限に拡大して、一部が暴徒化。この物語のエピソード6に描かれた「1967年反英暴動」以来初の「戒厳令」発令に至った。香港警察とデモ隊の衝突、暴徒化したグループの姿などの映像は、記憶に新しい。 作者は、あとがきで「ミクロ的には本格派、マクロ的には社会派の小説」としている。「政治的混乱などの中で、警察機構が守るべき対象」が正面から描かれているが、その奥には反英運動から反中運動と、常に他者の影響からの自立の歴史が見え隠れしてくる。 エピソード5.6のタイトル「借りた場所に」「借りた時間に」は、タイトル自体で何かを暗示すると感じてしまうのは、考えすぎか…。 ともあれ、推理仕立ても面白く、ドラマもスピード感溢れる上に、本来なら「本格推理小説」には不可欠の「ワトソン役」が不在のまま解決していくクワンが、どこか寂しげであることも、颯爽とした名探偵の事件簿以上の読後感をもたらした。
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図書館で借りて一気読み。改めてじっくり読みたいので、購入に至る。 元々、映画はもっぱら香港ノワールとノンフィクション。読書はミステリーという趣味なので、ハマったことは言うまでもなし。 まさに昔の香港ノワール映画を見ているような読書ができた。実際の地名が出てくるので、風景を思い出...
図書館で借りて一気読み。改めてじっくり読みたいので、購入に至る。 元々、映画はもっぱら香港ノワールとノンフィクション。読書はミステリーという趣味なので、ハマったことは言うまでもなし。 まさに昔の香港ノワール映画を見ているような読書ができた。実際の地名が出てくるので、風景を思い出しながら楽しめた。普段は書かない、という著者の後書きがあるがそこに、この本を手に本書に出てきた場所を巡って貰えたら嬉しい、という旨の一文。ではそのうちに、と思ったのが2月。まさかその後新型コロナでこんな状況になるとは。 ジョニー トーが映画権を取得した、ともあるがこれもいつになったら実現するのか。 最初の章に出てきた、殺害された会社社長と長年彼と兄弟同様に活きてきた秘書。この二人の関係だけで一つ番外編ができそう。「インターナルアフェア」のように3編の映画が頭に浮かんだのは私だけでしょうか。
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150年間の英国統治時代、香港は「借り物の土地、借り物の時間」といわれていた。中国復帰を果たして久しく、民主化運動に沸き立つ現在と、反英闘争の嵐が吹き荒れた1960年代のこの場所、この時間の相似の不思議を思う。そしてこの香港の50年間の変遷を刑事の視点から描く『13・67』もまた...
150年間の英国統治時代、香港は「借り物の土地、借り物の時間」といわれていた。中国復帰を果たして久しく、民主化運動に沸き立つ現在と、反英闘争の嵐が吹き荒れた1960年代のこの場所、この時間の相似の不思議を思う。そしてこの香港の50年間の変遷を刑事の視点から描く『13・67』もまた、過去と現在との間にある説明しがたい「縁」を感じる物語だ。 香港警察で“天眼”と綽名され、解決できない事件はないといわれた伝説的刑事クワン。2013年、末期の肝臓がんを患う彼の命は今まさに尽きようしていが、その命と体を弟子であるローに託し、ひとつの殺人事件の謎を暴こうとしていた。 香港きっての大企業・豊海グループの総帥、阮文彬が邸宅で殺害される。早朝に侵入してきた窃盗犯と鉢合わせになり、犠牲となったと考えられた事件だが、真犯人は身近にいた。そのトリックを暴くために、クワンとローが打つ一芝居とは――。第1話「白と黒のあいだの真実」に始まり「任侠のジレンマ」、「クワンのいちばん長い日」から最終の第6話、1967年を舞台とした「借りた場所に」まで。約50年間の歳月を連作形式の短編で遡り、腐敗した組織に倦むことなく、真の警察官であろうとし続けたひとりの男の信念の終わりと始まりを描ききる。 死に瀕した老刑事の警官人生を振り返るとき、かつて英国女王から認証され「皇家警察」と呼ばれた時代の香港警察――市民にとって英雄的存在だった時代、または反対に腐敗しきった嫌悪の対象だった時代の複雑な変遷と背景が見えてくる。いったいなにが彼を「天眼」たらしめたのか。いったい誰が彼を本当に「殺した」のか。 訳文のノリやセリフまわしが昔ながらの香港映画っぽくて、マニアならきっと場面場面を脳内で鮮やかに映像が再生できるミステリ仕立ての警察小説。ウォン・カーウァイが映画権を獲得したそうだが、こういった作品はジョニー・トーのほうが上手にまとめそうだと思った。 ともあれ、最後の一編を読んだ後は、ぜひもう一度最初の一編を振り返ってみてほしい。巡り巡る縁の不思議さ、非情さをしみじみと感じるいい仕掛けが隠れているから。
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凄い本を読んでしまった。物語は香港警察の伝説的な刑事、天眼、名探偵と謳われるクワンの人生を追う6つの中編で構成される。読者はまず第一話で度肝を抜かれる。そして最後の第六話でまた驚愕し、人生の哀しさを思う。著者はあとがきで、ミクロ的には本格、マクロ的には社会派のミステリを書いたとい...
凄い本を読んでしまった。物語は香港警察の伝説的な刑事、天眼、名探偵と謳われるクワンの人生を追う6つの中編で構成される。読者はまず第一話で度肝を抜かれる。そして最後の第六話でまた驚愕し、人生の哀しさを思う。著者はあとがきで、ミクロ的には本格、マクロ的には社会派のミステリを書いたという。まさに両者が見事に融合している。さらに、著者は、今の香港の警察がかつてのヒーローのような存在からかけ離れるたものになっていると指摘し、市民のために戦う警察のイメージはいつか復活するのかと投げかける。残念ながら、その後の雨傘運動、昨年から続く逃亡犯条例への抗議運動の中で、警察は市民に敵対し、あまつさえ発砲までして見せた。2013年以降の物語が紡がれるのか、それはどのような形になるのか、陳浩基の新作を追い続けたい。
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一言でいえば「優れた社会派ミステリー」ということになろう。イギリス領を経て、中国に返還され、いずれにしても中途半端な形での主権しか得られない「香港」を六篇の中編を通して描きだしている。たまさか香港が「民主化」を求めて激しいデモが勃発し、市民と警察が日々衝突しているこのタイミングで...
一言でいえば「優れた社会派ミステリー」ということになろう。イギリス領を経て、中国に返還され、いずれにしても中途半端な形での主権しか得られない「香港」を六篇の中編を通して描きだしている。たまさか香港が「民主化」を求めて激しいデモが勃発し、市民と警察が日々衝突しているこのタイミングで本作を読んだからか、この作品に描かれたフィクションからは明確な香港の姿が立ち昇ってくる。 一定の主権を得て、それなりの自由を持ちながらも、ひと握りの権力者によって民主的決定権を実質的に剥奪されている香港の現状は、すぐ近くにある極東の島国とも重なり合う。権力を手にした愚か者が、あらゆる公的なモノをほしいままにする有り様が本作には描かれている。それは、本当にわがことのような恐ろしさを伴っている。 訳者は「市民と直接相対する国家権力は警察しかない」と書いていたが、本当にそのとおりだ。かつては漠然と怖い存在だった警察が、この作品に描かれた警察のように汚職まみれだとしたら、我々市民はいったい何をよりどころに生きればいいだろう、と考えさせられる。怖い存在たる警官は、それでもかつての幼い頃の自分にとっては、「正義の味方」だったはずだ。それが愚か者の権力者の軍門に下り、文字通りの「権力の犬」になり下がった社会――それに絶望した市民たちの精いっぱいの抵抗こそ、今の香港で日々展開されている過激なデモなのではないだろうか。 本作は、香港の歴史とそれに続く「今の香港」をも描きだしているように思えた。そして、それはあたかも戦時下に「国家総動員法」という天下の悪法を作ってしまった国が、今、似たような法をいくつも作り、自分たちを徹底的に守る(もちろんここでの「自分たち」には、一部の「お友だち」を除く一般市民は含まれない)ことにのみ汲々とする現状を描きだしているような畏怖をも感じさせる。 ただただ救いなのは、主人公たるクワンとその弟子ローの誠実さだ。そこに触れたとき、いつか香港にも、わが国にも、そのような救世主が現れることへのかすかな希望を覚えるのである。
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