南の窓から の商品レビュー
栗木京子さんの歌集、短歌日記ですね。 『2016年一月一日から十二月三十一日までの一年間、一日一首を詠み、ふらんす堂のホームページで「短歌日記」として発表しました。その折の三百六十六首を詞書とともに収めたのが本書です。私の九番目の樫木にあたります。』とあとがきにあります。 栗木...
栗木京子さんの歌集、短歌日記ですね。 『2016年一月一日から十二月三十一日までの一年間、一日一首を詠み、ふらんす堂のホームページで「短歌日記」として発表しました。その折の三百六十六首を詞書とともに収めたのが本書です。私の九番目の樫木にあたります。』とあとがきにあります。 栗木京子さんは、私と同年代なので、共感と親しみやすさのおかげで付箋だらけになりました。 羽ひろげ半円形に飛ぶときに 街のすずめは風を生みたり 空に在る光は最もさびしくて 飛行機雲のますぐに伸びる 早春の日差しを受けてつぼみ見ゆ いまだ香らぬ沈丁花の垣 元気かと息子に問へばスイーツの 画像が届きひとまづ安堵 木蓮の真白き花はゆうまぐれ 雛(ひひな)の顔のやうに咲きをり まだ触れぬ指想ひつつ春の日の 楽器の店にヴィオラまどろむ 詩を語り合へば心の明るめり マドレーヌには窓があるから 花を摘むやうに洗濯とり込みぬ ソックスひとつふたつ落として 影までがわれの象(かたち)をもつゆゑに 初夏のまひるを歩むほかなし 感情の糸底洗ふ音ならむ 菖蒲を濡らすたそがれの雨 ミコシグサ白き花弁にむらさきの 蜜標(みつへう)走り日射しにしづか 白き蝉散らばるごとし咲き終へし 芙蓉はあさの土に静もる 祖母の飼ふ猫は怖がり 階段をゆつくりころがりながら降りにき 歌一首推敲しをり軟膏を 秋の踵にすり込むやうに ある夜ふと風の尾と尾のつながりて 季節は秋に移りゆくなり 残り菜を卵でとぢて昼すぎの 厨に食めば遠しフィヨルド われに似る誰かも雲を眺めゐむ 彼方の窓が夕日に染まる 駒鳥の卵の色なり冬空の 青を瞳にをさめて歩む 雪椿のをさなき花とつややかな 葉を分けがたし一枝(いっし)を卓に 極月の森より夜ごと歩み出る 木のあり誰の夢に入りゆく 今日といふ窓から明日といふ窓へ ぶーんと音を立てて飛びたし ロマンあり、ユーモアあり、自然の移ろいを情感豊かに歌われていて、心地よい調べを感じますね。
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