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学生を戦地へ送るには の商品レビュー

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12件のお客様レビュー

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2024/06/11

無性生殖ではなく、自らの遺伝子を薄めてでも多様性を確保し、あらゆる環境に対して種全体の生存確率が高まる有性生殖を選んだ。こうして人類は、異性を求め、競争しながら共益を考える、利他と利己のアンビバレントな存在になった。そう考えると、田辺元に哲学的な裏付けで誘導されなくても、来るべき...

無性生殖ではなく、自らの遺伝子を薄めてでも多様性を確保し、あらゆる環境に対して種全体の生存確率が高まる有性生殖を選んだ。こうして人類は、異性を求め、競争しながら共益を考える、利他と利己のアンビバレントな存在になった。そう考えると、田辺元に哲学的な裏付けで誘導されなくても、来るべき時に戦地に赴く内在的理由を我々は有していそうだ。田辺元に関わらずに戦った多くの兵士たちを思えば、悪魔の哲学は、そうした時代の空気感からの産物であり、これが故に自己犠牲に駆り立てたものではない、と言えないか(別に、戦死への因果については佐藤優も触れていない)。つまり、このお話は、あの時代、戦争にどハマりするような哲学があったという話だ。 佐藤優が講義で述べる。田辺元の8割の主張は、正しく、後半2割の主張が危い。最後の2割で伝えたかった事は下記の文言だ。尚、余談だが、いつだって、彼の受講生は優秀だ。 「個人がなし得る所は種族の為に死ぬ事である」「個人は種族を媒介にしてその中に死ぬことによって却って生きる」 確かに過激だが、しかし、完全に誤っているとも言えないだろう。戦争を回避する姿勢は重要だが、家族を守るために、自らの死を捧げることの尊さは、田辺元に言われなくても身に付いているし、寓話化、アニメ化、劇場化されたようなコンテンツは山ほどあるじゃないか。戦争自体は正当化しないが、戦争における兵士の自己犠牲は、本分ではないかという気がするのだ。 そんな事をどっぷり考えさせられる。箱根に泊まりながら、受講者同士で意見交換する。羨ましい時間だが、本書を読めば、参加した気持ちになりお裾分けされた気分だ。

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2023/07/13

なかなかヘビーな書籍を読了! 8割の正論の中に、2割の悪を入れるといいらしい笑 ただ、佐藤氏は悪を作ることを助長しているわけではなく、正しいようなことの中に、ちょっとした悪を入れる思想が広まることの危険性の系譜をしてくれている。

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2022/10/19

2015年におこなわれた著者の講座の内容をまとめた本です。 1939年に京都大学でおこなわれた田辺元の講演『歴史的現実』のテクスト全文を読み、著者が解説をおこなっています。ほかに、国策映画『敵機来襲』を鑑賞し、また柄谷行人の『帝国の構造』の一部を読むこともおこなわれています。ま...

2015年におこなわれた著者の講座の内容をまとめた本です。 1939年に京都大学でおこなわれた田辺元の講演『歴史的現実』のテクスト全文を読み、著者が解説をおこなっています。ほかに、国策映画『敵機来襲』を鑑賞し、また柄谷行人の『帝国の構造』の一部を読むこともおこなわれています。また、講座参加者との質疑応答のやりとりも収録されていて、臨場感をあじわうことができるように思いました。 哲学のテクストをていねいに読み解く講座を書籍化するという試みは、仲正昌樹がおこなっており、本書もそうした内容を期待していたのですが、仲正の本とはかなり異なる印象を受けます。 著者は、田辺が『歴史的現実』の講義によって受講者である学生たちを戦争へと駆り立てていったと述べています。そのうえで、戦争の危機がしだいにせまりつつある現代において、こうした扇動に引っかからないための処方箋として、『歴史的現実』のテクストを読むという目的を語っています。そのためなのか著者の解釈は、『歴史的現実』のテクストに含まれているアジテーションとして有効な議論のしくみを暴くということにのみ向かっており、仲正の講義のように哲学のテクストの背後にあるさまざまな文脈をひとつずつ拾いあげるということには向かっていません。 もちろん著者自身の専門のひとつである神学にかんする補足情報や、現代の国際政治の問題に通じるような観点が含まれていることを指摘するなど、多少テクストの重層的な意味についての考察がなされているところはあるものの、全体としてはやや単線的な議論になってしまっているように感じてしまいました。

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2019/11/09

非常に面白い。 輪読とはこういうものだというものを知らしめてくれた良書である。おそらく私1人ではこの原本を読み通すことなど到底できなかったであろう、かつ佐藤氏をしてもこの難読書を読み解くことが非常に難しいと言うことがわかった。(私の能力が低い) 佐藤氏を通して解読される本書は、私...

非常に面白い。 輪読とはこういうものだというものを知らしめてくれた良書である。おそらく私1人ではこの原本を読み通すことなど到底できなかったであろう、かつ佐藤氏をしてもこの難読書を読み解くことが非常に難しいと言うことがわかった。(私の能力が低い) 佐藤氏を通して解読される本書は、私の能力では本当にその読解で、解釈であっているのかいささか不安ではあるがその時代の思想を読み解くのに非常に良い本だと感じられた。 ポイントは3点、 ①京大生ほどの知性を戦場に送り込むのには大掛かりな思想が必要であり田辺元はそれを達成した。 ②しかしその論理には最終的には論理の飛躍がある ③しかし田辺元のずるいところは本書のおおよそ8割はまっとうかつ論理的で正しいことを言っていると言うことである。これは詐欺の手口と同じでほぼ大半を正しいことであれば最終的な結論は正しいように思わせてしまう。私には到底論破することができない。

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2019/07/25

一人前の泥棒になるために、という話から佐藤氏が自分自身の経験を当てはめて生き残るということを語った部分が印象に残っている。こうあるべき、なにをやりたい、ではなく、瞬間瞬間でできることをすべてやり、使えるものをすべて使わなければ生き残れない局面がある。そのあたり、面白かったし、引き...

一人前の泥棒になるために、という話から佐藤氏が自分自身の経験を当てはめて生き残るということを語った部分が印象に残っている。こうあるべき、なにをやりたい、ではなく、瞬間瞬間でできることをすべてやり、使えるものをすべて使わなければ生き残れない局面がある。そのあたり、面白かったし、引き込まれたな。 悪魔の京大講義を読む、というけれど、果たして田辺元という人物が本当に悪魔だったのかどうか。いや、田辺元を弁護しているわけではない。頭のよい個人の口車で悲劇が招き寄せられたのではなく、あの当時はみんなそういう気分だった。ただ頭のよい人がそれを上手に言葉にして、乗りやすくしただけだ。そんなふうに思えたんだよね。 今残る資料や普通にみられる映画から、歴史的場面を感じることができるんだ。そういう刺激的なところを教えてくれる本だったんじゃないかな。

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2018/05/13

佐藤優 氏の講義「 田辺元 歴史的現実を読む 」を本にしたもの。田辺元氏が 京大生を 太平洋戦争や侵略戦争に 向かわせた 悪魔のロジック(知的操作)を検証している。 京大生に エリートの自覚を促し、愛する人の救済を約束し、死の恐怖を取り除き、社会的大義を与えている。最後の「国の...

佐藤優 氏の講義「 田辺元 歴史的現実を読む 」を本にしたもの。田辺元氏が 京大生を 太平洋戦争や侵略戦争に 向かわせた 悪魔のロジック(知的操作)を検証している。 京大生に エリートの自覚を促し、愛する人の救済を約束し、死の恐怖を取り除き、社会的大義を与えている。最後の「国のために死ね」という部分以外は 論理破綻を感じない点が 悪魔のロジックなのだと思う。集団催眠にも近い 悪魔のロジック *人間は なるもの→人間になるために変化して成長せよ *未来は 過去に制約されている→未来は変えられる→考える未来は 現在を規定する *愛する者のため死ぬ=種族のために死ぬ→他の者も憧れて死ぬ→それこそ永遠に生きること *既存のゲームのルールに従うことは 強者の論理に従うこと。ならば 自分でルールを立てればいい 「我々は〜その種族から生まれ、現在 その種族に属し、将来の目標を与えられている」 *種族の中の人は 掟に囚われている *種族の掟に従わない人(突出した人)は 普遍言語を持つ→突出した人になれ

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2018/03/04

1939年京都大学(当時の京都帝国大学)において全6回で行なわれた田辺元の講義録「歴史的現実」(1940)を、現代の知の巨人(またの名を外務省のラスプーチン)佐藤優が二泊三日の合宿で読み解いた一冊。 佐藤優が指摘する通り、時の構造や個人、種族、人類の構造を解いた部分は面白いのだ...

1939年京都大学(当時の京都帝国大学)において全6回で行なわれた田辺元の講義録「歴史的現実」(1940)を、現代の知の巨人(またの名を外務省のラスプーチン)佐藤優が二泊三日の合宿で読み解いた一冊。 佐藤優が指摘する通り、時の構造や個人、種族、人類の構造を解いた部分は面白いのだが、その後に「どうせいつかは死ぬんだから、お国のために死んだら?」と説く部分は支離滅裂。佐藤優の議論のレベルもそれに合わせて、序中盤は充実していて「久しぶりに面白いリベラルアーツの本を読むなぁ」と思いながら読んでいたものだが、後半は軽薄過ぎてつまらず。柄谷行人パートも蛇足。

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2017/12/19

田辺元をはじめとする”京都学派”の哲学者たちが、旧日本陸海軍の周辺国侵略を擁護する思想的な枠組みを提供したというのは、哲学の業界では結構常識である。本書はその代表的な文書を精読する短期講座をベースにしていて、日本の当時のエリート学生たちがどのようにして「国のために死ぬ」と教育され...

田辺元をはじめとする”京都学派”の哲学者たちが、旧日本陸海軍の周辺国侵略を擁護する思想的な枠組みを提供したというのは、哲学の業界では結構常識である。本書はその代表的な文書を精読する短期講座をベースにしていて、日本の当時のエリート学生たちがどのようにして「国のために死ぬ」と教育されたかがわかりやすく学べたのはよかった。ただライブ感を出したいためか、横道にそれたところやジョークなどもそのまま収録しているため、読みづらいところも多いのは、ちょっと残念。また終盤の柄谷の著作の部分が尻切れトンボに終わったのも残念な印象が残った。

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2020/07/27

松竹の敵機空襲、観なくては。◆◆現在、過去、未来はつながっている。◆8時の自分と12時の自分は同一なんだから、過去の責任は着いて回ること。◆読書会ってすごいな。

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2017/10/05

どの著作を拝読しても著者の知の巨人ぶりには驚愕します。内容について行くのが精一杯ですが、この講座シリーズは良いですね。恥ずかしながら講座シリーズは初めて拝読させて頂きましたが、スゴく内容がわかり易かったです。脱線含めて自分が賢くなった気にさせてくれます。悪魔の講義の最後の飛躍っぷ...

どの著作を拝読しても著者の知の巨人ぶりには驚愕します。内容について行くのが精一杯ですが、この講座シリーズは良いですね。恥ずかしながら講座シリーズは初めて拝読させて頂きましたが、スゴく内容がわかり易かったです。脱線含めて自分が賢くなった気にさせてくれます。悪魔の講義の最後の飛躍っぷりは逆に清々しさすら感じますねえ。思考停止している現在の日本国民の過半数は簡単に騙されそうです。小泉や平蔵にコロっと騙されてこの有様ですから。やはり知的筋トレは必須だと改めて感じました。別の講座シリーズも読みたいと思います。

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