歴史の証人 ホテル・リッツ の商品レビュー
1898年、パリに開業したホテル・リッツ。 マルセル・プルースト、ヘミングウェイをはじめ、ウィンザー公爵夫妻、ココ・シャネル、チャーチルにゲーリングといった、作家、映画スターに名士たち、そして第二次大戦中はドイツ占領下で軍人、政治家、各国の諜報員、従軍記者が「中立地帯」として機能...
1898年、パリに開業したホテル・リッツ。 マルセル・プルースト、ヘミングウェイをはじめ、ウィンザー公爵夫妻、ココ・シャネル、チャーチルにゲーリングといった、作家、映画スターに名士たち、そして第二次大戦中はドイツ占領下で軍人、政治家、各国の諜報員、従軍記者が「中立地帯」として機能していたこのホテルに出入りした人々の間で繰り広げられたドラマの数々を、グランドホテル形式で描くノンフィクション。 章ごとにスポットライトを当てる主要人物を変え、描かれる時代も前後するので、どの章から読み始めてもあまり支障がないです。 ここで扱われる人達は、年単位でホテルに部屋を取って生活できるほど金や権力が比較的自由になる人達なので、第二次大戦中の物資が困窮している中ですらシャンパンを開け牡蠣を堪能できる世界観で、とても煌びやか。その上流階級の中でしたたかにあるいは愚かな選択をしていく各人の生き様を垣間見た感じで面白かった。
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パリ・ヴァンド-ム広場に君臨する「ホテル・リッツ」。1898年開業以来の様々な歴史の断面を綴ったオムニバス形式による記録文学である。世界一流を誇るホテルだけあって、二度の欧州大戦をとおして行きかった著名人の多彩な顔ぶれに驚かざるをえない。皇室・王室の貴族、政治家、作家、映画スタ-...
パリ・ヴァンド-ム広場に君臨する「ホテル・リッツ」。1898年開業以来の様々な歴史の断面を綴ったオムニバス形式による記録文学である。世界一流を誇るホテルだけあって、二度の欧州大戦をとおして行きかった著名人の多彩な顔ぶれに驚かざるをえない。皇室・王室の貴族、政治家、作家、映画スタ-、ジャ-ナリストなどが常連客名簿に連座している。世界の社交場のレストランやバ-は、スパイの巣窟でありレジスタンスの隠れた活動の場であったのも頷ける。ヒトラ-狂気の叫び「パリは燃えているか?」は、暗い歴史の記憶として生々しい。
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――その夏、あり得ないほど大きな死と恐怖に直面した人々は、苦悶しながらも、ついに最後の最後で良心のとがめを感じ。自分がしたことの残虐さと同時に、しなかったことの冷酷さと向き合う羽目になった。―― 1898年6月に開業したホテル・リッツ。現代的かつ清潔な贅を尽くしたこのホテルは、...
――その夏、あり得ないほど大きな死と恐怖に直面した人々は、苦悶しながらも、ついに最後の最後で良心のとがめを感じ。自分がしたことの残虐さと同時に、しなかったことの冷酷さと向き合う羽目になった。―― 1898年6月に開業したホテル・リッツ。現代的かつ清潔な贅を尽くしたこのホテルは、パリ上流社交界ばかりか、世界中の名士が集い栄えた。 1940年6月、パリはドイツ軍に占領され、ドイツ軍将校たちが宿泊するように。しかしリッツには民間人―作家、芸術家、女優、資産家、他国の王族も宿泊し続け、敵と味方がバーで酒を酌み交わし、レストランで食事を共にしながらスパイやレジスタンスが暗躍する不思議な社交界ができあがる。 本書に紹介されるエピソードの、その焦点の多くは著名人たちではなく、創業者一族や総支配人、シェフやバーテンダーなど、ホテルで働くスタッフに向けられている。 彼らはたとえばココ・シャネルがドイツ人の愛人を部屋に連れ込んでいるときに、バーでゲシュタポにカクテルを提供する合間に、レジスタンスを隠し部屋に匿い、彼らの間の郵便配達夫にもなった。 そして彼らの幾人かは「夜と霧」の中にただ消えてゆき、戦争の無数の無言の物語のひとつになり、幾人かは戦後へと生き延びていくのだ。 KADOKAWAさんの文芸情報サイト『カドブン(https://kadobun.jp/)』の企画「2017年ベスト3」で、『和菓子を愛した人たち』『レッド・クイーン』と共に紹介させて頂きました。 https://kadobun.jp/reviews/220
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歴史的な価値は高いのだろうが、何しろ登場人物が多すぎてすんなりと頭に入ってこなかった。 それでもホテルリッツの華やかさだけは充分に伝わって来た。
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パリの名ホテル、ホテル・リッツで繰り広げられた第一次大戦から第二次大戦のパリ解放・その後の没落までの様々なエピソード。 欧米の有名人たちが繰り広げるスキャンダラスな日々。 王侯貴族やナチス将校、デザイナーや作家などなど。欧米の近現代史の一こまをのぞかせてくれる。 週刊誌的な話題...
パリの名ホテル、ホテル・リッツで繰り広げられた第一次大戦から第二次大戦のパリ解放・その後の没落までの様々なエピソード。 欧米の有名人たちが繰り広げるスキャンダラスな日々。 王侯貴族やナチス将校、デザイナーや作家などなど。欧米の近現代史の一こまをのぞかせてくれる。 週刊誌的な話題の行列に、読みつかれた。
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ホテル・リッツといえばパリを代表する、豪華で壮麗な高級ホテルの代名詞である。 1989年、スイス人ホテル経営者セザール・リッツが、料理人オーギュスト・エスコフィエの協力の下、ヴァンドーム広場を見渡す位置に宮殿型ホテルを設立。欧州で初めて、居室に隣接した浴室や電話、電気を各部屋に配...
ホテル・リッツといえばパリを代表する、豪華で壮麗な高級ホテルの代名詞である。 1989年、スイス人ホテル経営者セザール・リッツが、料理人オーギュスト・エスコフィエの協力の下、ヴァンドーム広場を見渡す位置に宮殿型ホテルを設立。欧州で初めて、居室に隣接した浴室や電話、電気を各部屋に配した、破格のホテルの誕生だった。 アーネスト・ヘミングウェイやココ・シャネル、スコット・フィッツジェラルドやマレーネ・ディートリッヒ、マルセル・プルーストにロバート・キャパ。 錚々たる顔ぶれがここを定宿とし、数々の伝説を残してきた。 近年知られるところでは、英・ダイアナ元皇太子妃がエジプト富豪の息子ドディ・アルファイドと悲劇的な事故で命を落とす直前、食事を取ったのがこのリッツである。ドディの父、モハメドは1979年にリッツを買い取っていた。 ホテルは改装のため、長期間休業していたが2016年に営業を再開。日本円にして、一泊十万~数百万を支払えば、名士たちが愛したホテルに宿泊することができる。 本書の舞台は、現代より少し時代を遡る。第二次大戦下、パリ占領時代が主である。 ナチスドイツが席巻し、パリを牛耳っていたこの時代、ホテル・リッツは奇妙な中立状態にあった。経営者がスイス人でドイツ語を解することもあり、ドイツ軍将校が利用するようになった。しかし、ホテルの半分は一般人に開放され、市民や、ホテルの常連客であるエリートたちも利用できた。ホテルの構造から、2つのグループを分けることが可能であったのである。 接収された他のホテルとは異なり、リッツはそれまで通りの高級サービスを提供することを許された。 こうしてリッツは、戦時とは思えない華やかなしつらえの中、ナチスの将校や、著名人、そしてレジスタンスやジャーナリストをもてなすことになったのだ。 冒頭は主要登場人物の紹介から始まる。その数50人弱。ホテル・スタッフ、ドイツ人、政治家、従軍記者、作家、映画スター、名士と実に多彩である。彼らの挿話が18章の短い章で描き出される。 贅沢を好んだナチス将校。故国を捨ててきたアメリカ人富豪。フランス人女優とナチスの恋人。密かにレジスタンスに手を貸すバーテンダー。従軍記者たちのスクープ争い。ヘミングウェイをめぐる女性たち。謎めいたココ・シャネル。「王冠を捨てた恋」の舞台裏。パリ解放のその日。 いずれの章もそのまま、一編の映画になりそうだ。 ここで描かれるのは、評価を下された歴史ではない。今まさに生み出されようとしている歴史のうねりである。 誰もまだ結末を知らない戦争の行方。打算と誠意と揺れ動く感情が個々の人々を動かし、時代を形作っていった。 歴史の荒波に揉まれて消えていったものもいる。したたかに乗り切り、戦後を長く生き抜いたものもいる。 パリ占領の4年間。リッツは、夢のような壮麗さで、不思議な平衡状態を保ち続けた。 きらびやかな舞台背景の中、繰り広げられる群像劇。清濁併せ呑む、奇妙な度量がそこにはあった。 圧巻である。 *8月14日記
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