その犬の歩むところ の商品レビュー
無償の愛と優しさが犬の形をしてやってきて、ともに歩き始めた。 ボストン・テランの二冊目。 傷ついて息も絶え絶えの老犬がたどり着いたのは古い「セント・ピーターズ・モーテル」だった。そこには夫と愛犬を事故で亡くしたアンナがいた。 アンナは人生に深く痛めつけられ、かつての無邪気さなどと...
無償の愛と優しさが犬の形をしてやってきて、ともに歩き始めた。 ボストン・テランの二冊目。 傷ついて息も絶え絶えの老犬がたどり着いたのは古い「セント・ピーターズ・モーテル」だった。そこには夫と愛犬を事故で亡くしたアンナがいた。 アンナは人生に深く痛めつけられ、かつての無邪気さなどとっくに失い、目的のない旅をしていた。辿り着いたモーテルの老婆から家と母親をもらった。老婆は石にただ「母」と彫ってほしいと言いこの世から去っていった。アンナは傷ついてやってくる犬を集め始めた。 傷ついた老犬は犬の匂いを感じてモーテルにたどり着いた。アンナは首輪からその犬がギヴという名だと知る。そこには盲目の犬エンジェルがいた。そこでギヴは妻と子供を持った。生まれた子供は7匹で末っ子だけが男の子だった。 ギヴはギヴの流儀を我が子に教えた。知識と知恵を、さらに生まれたときから伝わり流れている生存のための極意を。 或る夜、老ギヴは決然と迷いなくアンナに別れを告げた。アンナは石にギヴの名前を掘っているときに決めた――あの子犬も父親と同じ名で呼ぼうと。 モーテルに兄弟が来た。兄はジェム弟はイアンといいギタリストだった。彼らはセッションやバンドに加わってきたが、ベガスで遊びすぎ借金や契約を踏みつぶして逃げてきていたのだ、アンナは兄はろくでなしだと思った。気の優しい弟はギヴと気が合った。兄は夜盗みに入って失敗し機嫌が悪かった。翌日アンナが留守の間に忍び込み日記を盗み見た。そこには弟には才能があると書かれていた。 出発の時兄はギヴを車に乗せて連れ出した。 ふたりはダラスに着いた。ロスで知り合ったストーナーのところにいて、オーディションに受かるために猛練習をしていた。しかしオーナーは二人を受け入れてくれなかった。ジェムは日記の言葉が頭を離れず荒れていた。弟は街で知り合ったルーシーのことで頭がいっぱいだった。 兄は止めても夜の仕事に出て行った。イアンはルーシーにギヴは盗んだ犬だと打ち明けた。 ギヴにはちゃんとわかってるんだよ。 「きみの愛は正しい愛で……そのちがいっていうのは……」彼は上体を前に倒すと、考えながら両手を広く広げた。「正しい愛とほとんど正しい愛の違いっていうのは……そう……完璧な和音(コード)と……ゴミみたいな音との違いだよ」 イアンはギヴを通して自分自身を見た。 ジェムはギヴを殴りつけ心の底の少しの恥を歪んだ喜びで押さえつけた。 惨めな人生を目いっぱい長びかせれば、みじめさなんてそのうち消えてなくなるかもしれない、だろ? ルーシーとの約束の場所にイアンは来なかった。 ここまでがギヴの旅の始まり。 二年後、海兵隊に志願して帰還したディーン・ヒコックとギヴの出会いの話になる。 9・11で姉をなくし戦友の死にざまを見ながら生き残り、虚無満載で走っていた車の前をよれよれのギヴが歩いていた。 ディーンは救急に連絡し、犬と共に治療を受けた。それからはこの犬が彼を癒し、周りを癒し慰め時には自己犠牲も顧みず生き抜く様子を読む。 ボストン・テランはその畳みかけるような表現で目的の言葉に導いていく。詩のような言葉が続いてそれを読むのも快い。 出会ったとき逃げようとしたギヴを抱き、彼はギヴの鼻づらを撫で、手を背中に回してその鼓動を感じた。 意志の強いやつ。 彼はマイクロチップに書き込まれた名前と飼い主を知った。ニューオーリンズへ行って飼い主を探そう。 自分と同じ何もかも失ったようなぼろぼろの犬を生き返らそう。 賢く勇気のある犬物語のようで、犬を見ることで心の奥底をのぞいてしまう。それが犬の生き方の反映のように。ボストン・テランの手のうちに落ちる。 ひとのあるべき姿を犬を通して見せる。 ありふれた話のようで、引き込まれて涙さえにじむような美しい話を作り上げている。
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ミステリーって感じではないですね。犬を飼ったことないけど、これを読むと飼ってみたくなりますね。9.11がきっかけで戦地へ行く人の出てくる映画「アメリカン・スナイパー」も観たので、アメリカ人にとっての9.11がどれほどのものかってことが少しわかったかな?
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ボストン・テランはエエはなし書かはるなぁ。 「その犬」の名前はギヴ(give)。人がギヴに寄せる愛や、ギヴが人に感じさせる優しさが通底する、ギヴとギヴに関わる人たちの物語だ。語り手は湾岸戦争の復員海兵隊員で、戦場で追った心の傷をギヴの物語を追体験する中で和らげ、かつての自分...
ボストン・テランはエエはなし書かはるなぁ。 「その犬」の名前はギヴ(give)。人がギヴに寄せる愛や、ギヴが人に感じさせる優しさが通底する、ギヴとギヴに関わる人たちの物語だ。語り手は湾岸戦争の復員海兵隊員で、戦場で追った心の傷をギヴの物語を追体験する中で和らげ、かつての自分を取り戻してゆく。 アメリカは第2次大戦以降も世界で戦争を続ける好戦国ではあるが、市民生活は至って平穏な面を見せる。本書は古き良きアメリカの善意に包まれていて、悪意の現れも一部あるが、全体に古いアメリカ映画を観ているような気分に浸れる。最近のアメリカ大統領が振っている旗印に反吐が出る思いを感じるなか、包容力あるアメリカの復興を願わずにはいられない。
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邦題は詩的で印象的なタイトルである。 原題は簡潔にGiv(ギヴ)。物語の軸となる犬の名である。副題はThe Story of a Dog and America、1頭の犬と「アメリカ」の物語。 原著発行は2009年。つまり、9・11の同時多発テロを経たアメリカだ。心を病んだ多くの...
邦題は詩的で印象的なタイトルである。 原題は簡潔にGiv(ギヴ)。物語の軸となる犬の名である。副題はThe Story of a Dog and America、1頭の犬と「アメリカ」の物語。 原著発行は2009年。つまり、9・11の同時多発テロを経たアメリカだ。心を病んだ多くの帰還兵を抱え、ハリケーン・カトリーナの甚大な被害にも見舞われたアメリカだ。 そのアメリカを1頭の犬が流転する。犬はあるときは奪われ、あるときは自ら選んだ人に寄り添う。犬は時に人を救い、時に人に救われる。 彼の数奇な運命は人と人とをつなぎ、奇跡と言ってもよいような希望をもたらす。 物語の語り手はディーン・ヒコック。 イラク帰りの退役軍人だ。分隊でたった1人の生き残りである彼は、心に大きな傷を負い、生きる意味を見失っている。 雨の中、車を走らせていた彼は、道路で1頭の死にそうな犬を見つける。その犬、ギヴを助けたことで、ヒコックの人生は動き出す。 物語はギヴの「犬生」を追う形で進む。 最初の飼い主はハンガリーからの移民の女性。次の飼い主はミュージシャン志望の兄弟。それから兄弟の弟の恋人となった娘。そして帰還兵。 移民の国であり、映画や音楽の国でもあるアメリカを、ギヴは旅し、さまざまな人々と出会う。 物語はどこか寓話めき、時に神話のようにも映る。 物語の鎖には、欠けている部分もある。エンデの『はてしない物語』で「けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときに話すことにしよう」と語られるように、物語はところどころ、完結しないのだ。 ギヴがいかにして悪徳業者に虐待されるに至ったのか。また、ギヴの父親がどのような人々と出会い、どのように彼らに寄り添ったのか。 語り手であるヒコックはいずれその物語に辿り着くのかもしれないし、辿り着かないのかもしれない。 それもまた1つの余韻となっている。 著者は作中人物の多くについて、実在の(時には行きずりの)人々からヒントを得たという。彼らの多くに血肉が通っていると感じられるのは、そのためだろう。彼らの視点はよくも悪くもアメリカの外へは向いていないとも感じるのだが、一方で、本作に描かれるような「よき隣人」がいるのもアメリカの美点ではある。 悲惨な事件が描かれないわけではない。だが、一方で、多くの善意の人々もいる。そしてそこに寄り添うまっすぐな犬もいる。 そんな世界で生きていくのは、案外悪くはないかもしれない。
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読み始めは「何?この読みにくさ!」と思ったけどギヴという犬と彼に関わる人間の温かなドラマ、そしてその後の悲劇に引き込まれた。読むのが辛くなるような展開もあるけれど、先が気になってやめられない。馳星周の「少年と犬」のように、ギヴを現実離れした奇跡の存在にせず、リアルな犬らしく描いて...
読み始めは「何?この読みにくさ!」と思ったけどギヴという犬と彼に関わる人間の温かなドラマ、そしてその後の悲劇に引き込まれた。読むのが辛くなるような展開もあるけれど、先が気になってやめられない。馳星周の「少年と犬」のように、ギヴを現実離れした奇跡の存在にせず、リアルな犬らしく描いていて犬への愛おしさが増したい。
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外国の本を和訳してるので文が非常に読みにくい。伏線期間が長すぎ、話が飛びそうで伏線回収に至るまで読むのがきつかった。 イアンの無駄死にや、ルーシーの死、なんというか理不尽で胸糞悪い。話の展開が多いけど、登場人物の扱いが雑。 ただディーンは生き延びた兵士で、闇を抱えつつも意志が強く...
外国の本を和訳してるので文が非常に読みにくい。伏線期間が長すぎ、話が飛びそうで伏線回収に至るまで読むのがきつかった。 イアンの無駄死にや、ルーシーの死、なんというか理不尽で胸糞悪い。話の展開が多いけど、登場人物の扱いが雑。 ただディーンは生き延びた兵士で、闇を抱えつつも意志が強くてかっこいいなと思った。 アメリカの地理が分かっていないため、少々理解できていない点あり。
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GIVが助かったから良かったけれど、助かってなければ、本を破り捨てていたかもしれない。それくらい、この本を通じてGIVは、自分にとって愛しい犬になった。 どこまでもアメリカンな所、どこまでもアメリカンな描写にはついていけなかったけれど、面白かった。 それにしても、どうして一部...
GIVが助かったから良かったけれど、助かってなければ、本を破り捨てていたかもしれない。それくらい、この本を通じてGIVは、自分にとって愛しい犬になった。 どこまでもアメリカンな所、どこまでもアメリカンな描写にはついていけなかったけれど、面白かった。 それにしても、どうして一部の人間は、人間のために犬を犠牲にするのだろう?
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戦争や貧困で傷ついたアメリカ人の再生の物語なので、アメリカ人の愛国心や反骨精神は興味深く読めたけど、復活のアイテムに犬を使わないで欲しい。 最後には犬がヒーローみたいな感じでハッピーエンドにしても、犬はそんなもの求めてないと思う。 と、辛口で評価しても面白かったことは否めない。...
戦争や貧困で傷ついたアメリカ人の再生の物語なので、アメリカ人の愛国心や反骨精神は興味深く読めたけど、復活のアイテムに犬を使わないで欲しい。 最後には犬がヒーローみたいな感じでハッピーエンドにしても、犬はそんなもの求めてないと思う。 と、辛口で評価しても面白かったことは否めない。ミステリーと言うほどの謎はない。どちらかと言えばロードムービー的。 作者のボストンテランは覆面作家で性別すら謎だけど、最後に書評の人が「おそらく60代の女性」と推測してて、私は絶対男性だと思ったので、この人の他の本も読んでみようと思った。
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2018年このミス海外編8位、本屋大賞翻訳小説部門3位。 この作者の「神と銃弾」が読みにくかったのを思いだしてテンション下がったけど、今回はそれほどでもなかった。 犬(ギブ)の一生が話の中心でいろいろな人と出会いながら流転の生涯を過ごす。出会った人たちがそれぞれ主役級で、その生き...
2018年このミス海外編8位、本屋大賞翻訳小説部門3位。 この作者の「神と銃弾」が読みにくかったのを思いだしてテンション下がったけど、今回はそれほどでもなかった。 犬(ギブ)の一生が話の中心でいろいろな人と出会いながら流転の生涯を過ごす。出会った人たちがそれぞれ主役級で、その生き様が個性的かつドラマチックであり、ギブとの振れ合いが生き生きと描かれている。お話の流れが予想できず展開していき最後につながっていく構成もよい。 犬に興味がない自分も楽しめた。 ただ、少し文章が難解で読み進めるのが若干しんどかった。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
目次 ・プロローグ ・父親 ・息子 ・海兵隊員 飼い主への嫌がらせのためにさらわれたギヴ。 さらったのは弟イアンとバンドを組んでいるジェム。 父親に暴力で支配されて育った兄弟は、ミュージシャンになるために家を捨ててきたのだ。 しかし、大嫌いな父と同じように暴力的になっていく兄ジェム。 逆らうことができずに従っていたイアンは、しかし、ルーシーという少女と出会ったことにより、違う世界へ踏み出そうとする。 ルーシーとギヴと一緒に。 しかし、兄に別れを告げてからルーシーたちに追いつくはずだったイアンは、その後二度とどこにも姿を現わすことはなかった。 失意のまま知人の家でイアンを待つルーシーに、カトリーナ台風が襲い掛かる。 これが前半。 後半は、9.11で姉を失った青年ディーンが、志願兵としてイラクに赴くものの、戦争の実態を経験することにより心に大きな傷を受け、死を思いながら車を走らせていると、衰弱しながらも虐待されとじこめられていた小屋から逃げ出してきたギヴと出会い、ギヴの本当の飼い主を探す旅に出る話。 文体に癖があるので、とっつきにくく感じる人もいるかもしれない。 けれどこれは、イラク戦争で疲弊してしまったアメリカという国に、犬という姿を借りて、夢や希望や小さな奇跡などを思い出させてくれる作品なのだ。 だからすべての謎が解明されたわけではない。 大切なのは、その犬の歩んだところには交流があり、犬を救おうとした人たちが結局犬に救われている、ということなのだ。 前半、良い人たちに起きる悲劇が辛くて、読み通せるか?と思ったけれども、最後まで読んでよかった。
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