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和菓子を愛した人たち の商品レビュー

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21件のお客様レビュー

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2017/07/06

虎屋文庫x山川出版社。 ばーんと正統派の和菓子エピソード集大成である。 虎屋は和菓子の世界では最高峰に君臨する老舗の1つである。虎屋製の和菓子は、風雅な佇まいで、もちろんお値段も一段上だ。室町後期に創業後、京都を拠点に御所の御用も勤めてきた。遷都に伴い、東京にも進出。今に至るま...

虎屋文庫x山川出版社。 ばーんと正統派の和菓子エピソード集大成である。 虎屋は和菓子の世界では最高峰に君臨する老舗の1つである。虎屋製の和菓子は、風雅な佇まいで、もちろんお値段も一段上だ。室町後期に創業後、京都を拠点に御所の御用も勤めてきた。遷都に伴い、東京にも進出。今に至るまで、虎屋の菓子といえば上等のおつかい物である。 歴史ある店だけに、蓄積された記録や器具も多い。菓子の型、絵図帖、古文書、古器物。こうした資料を整理・保管し、ときにギャラリーに展示するといった仕事をしているのが虎屋文庫である。 本書はその虎屋文庫のスタッフによる、HP上での連載「歴史上の人物と和菓子」がもとになっている。それぞれのスタッフの興味関心に合わせ、茶人、武将、作家、さまざまな人物が取り上げられている。登場する菓子も、羊羹やカステラなどの定番から、今では残っておらず、史料から推測するのみのものもある。 菓子は主食ではなく、ふと一息いれるときに食べるものだ。それだけに、人物たちと菓子とのエピソードも歴史に残るようなものではなく、さりげない、こぼれ話風のものが多い。だがそれだけに、いかつい顔つきのあの人この人が、実はこんな菓子でこんな風にほっこりしていたのかもしれないと想像すると何だか微笑ましくもある。 美食家で知られる谷崎潤一郎は、『陰翳礼讃』で羊羹に触れる。谷崎は、ほの暗い和室で塗り物の菓子器に入れられた羊羹の色合いを「瞑想的」と称し、口にふくむと「室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ」ると評する。 幕末の志士、高杉晋作は、破天荒でありながら、風流な面もあった。大望があったが、志半ばにして結核に倒れた。余命いくばくもない4月、知人が晋作を見舞うと、松の盆栽に白いものが振りかけてあったという。新潟・長岡の「越乃雪」と呼ばれる銘菓をくずした粉だった。「越乃雪」は和三盆ともち米の粉を合わせた押物で、非常に繊細で口溶けがよい。少し押しただけでほろほろとくずれてしまうので、これを雪に見立て、「名残の雪」としゃれ込んでいたというわけだった。 表紙のかわいらしい童子は、画家・デザイナーとして活躍した川崎巨泉の玩具画「饅頭喰人形」である。明治の終わり頃から郷土玩具に興味を持ち、全国各地を旅して多くの絵を描くとともに、その研究にも努めた。「饅頭喰人形」は、「両親のうち、どちらが好きか?」と聞かれた子供が、手に持った饅頭を2つに割って「どちらがおいしいか?」と聞き返す教訓話がもとになっている。もちろん、「両親共に大切だ」ということを言いたいわけだが、ただ説教臭いのではなく、ほっこりと「うんうん、どっちもおいしいよね」と言わせるのは、童子のかわいさであり、饅頭の滋味だろう。 豊富な絵や写真とともに、全9章、100人のエピソードが並ぶ。 あなたのお気に入りの菓子、お気に入りの人物は入っていますか?

Posted byブクログ