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老いの荷風 の商品レビュー

4.7

4件のお客様レビュー

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2022/10/01

 2017(平成29)年刊。  永井荷風文学に関する評論文を集めたもので、幾つかは文学史的に評判の悪い「戦後の(老いの)荷風」作品にスポットライトを当てている。  もっとも、無条件に晩年の荷風文学を賞賛しているわけではなく、そのうち幾つかの作品の良いところを批評しているというだけ...

 2017(平成29)年刊。  永井荷風文学に関する評論文を集めたもので、幾つかは文学史的に評判の悪い「戦後の(老いの)荷風」作品にスポットライトを当てている。  もっとも、無条件に晩年の荷風文学を賞賛しているわけではなく、そのうち幾つかの作品の良いところを批評しているというだけだ。  老いて枯れたような晩年の荷風作品については、徹底的に悪罵を浴びせた石川淳の批評文が有名で、逆に最晩年の荷風の短編集を『墨東奇譚』よりも良い最高到達点と言い切った佐藤春夫の批評(先の岩波文庫『荷風追想』所収)が異様に珍しい、と言わなければならない。あと、本書によると吉田精一が戦後の荷風作品を称揚したらしい。  ある意味では、浮世絵や水墨画が、極めていくとどんどん枯淡の境地になっていくというようなイメージも、戦後の荷風にはないでもない。老いても、どうやら「ボケ」てはいなかったようだし、若い頃と同様に盛んに「散歩」している。元気な方なのではないか。  本書には他にも、荷風に関わった人物の紹介や、荷風を批評した本の紹介なども入っている。  さいきんは荷風の老いについてずっと考えているので、興味深い本だった。

Posted byブクログ

2022/04/19

永井荷風について語らせたら、おそらく川本三郎の右に出る者はそういない。むろん川本の学識が確かであることもあるが、同時に彼は荷風に惚れ込んでその生き方に自分自身を投影しているという、つまりは知識だけではない愛の深さにもよるのだろうと思う。逆に言えば、荷風について語る彼についていくた...

永井荷風について語らせたら、おそらく川本三郎の右に出る者はそういない。むろん川本の学識が確かであることもあるが、同時に彼は荷風に惚れ込んでその生き方に自分自身を投影しているという、つまりは知識だけではない愛の深さにもよるのだろうと思う。逆に言えば、荷風について語る彼についていくためにはその知識を楽しみ(むろん、ただ無駄な蘊蓄を披露する語りとは一線を画すわけだが)、その愛に共感する読者でなければならない。その意味で川本三郎の本とはこの本に限らず、読み手を試しているというか育てるという性質があるのではないか?

Posted byブクログ

2021/12/12

荷風の時代と現代では60歳であることの受け止めには違いがあるとは思うものの、共感するところは多い。隠棲。

Posted byブクログ

2020/10/30

川本三郎さん、どの著書も読み応えがあります。「老いの荷風」(2017.6)も楽しませていただきました。荷風が死ぬまでつけていた日記、「断腸亭日乗」、何度読んでも飽きないと聞いてますが、川本さんは随分読まれたことと推察します。昭和20年、偏奇館を皮切りに、行く先々で空襲による消失、...

川本三郎さん、どの著書も読み応えがあります。「老いの荷風」(2017.6)も楽しませていただきました。荷風が死ぬまでつけていた日記、「断腸亭日乗」、何度読んでも飽きないと聞いてますが、川本さんは随分読まれたことと推察します。昭和20年、偏奇館を皮切りに、行く先々で空襲による消失、そして一日違いで広島原爆の回避、60代半ばの荷風には途轍もない経験だったことでしょう。また、精魂込めた「墨東奇譚」で、作家としての荷風は燃え尽きたのかもしれませんね。

Posted byブクログ