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人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか の商品レビュー

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15件のお客様レビュー

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2018/01/17

少子高齢化の進展による生産年齢人口の自然減少。それでいて一部の産業や職種を除いて幅広く妥当する給料の上げ止まり感。経済学の基本が教えるところの需給バランスが成り立たなくなっているように見えるのはなぜか。本書の表題は、好むと好まざるとに関わらず、社会人の誰しもが関心を抱かざるを得な...

少子高齢化の進展による生産年齢人口の自然減少。それでいて一部の産業や職種を除いて幅広く妥当する給料の上げ止まり感。経済学の基本が教えるところの需給バランスが成り立たなくなっているように見えるのはなぜか。本書の表題は、好むと好まざるとに関わらず、社会人の誰しもが関心を抱かざるを得ない一大トピックを体現している。 福祉・介護分野で働く人間にとっては、特に第1章、第3章、第13章が参考になると思われる。このうち第1章はまさにこの分野を念頭に表題の理由を探る内容となっており、介護労働市場が一般の労働市場における需給曲線の例外的ケースに陥っている可能性を指摘している。また、第3章におけるバス運転手の賃金プロファイルの推移については福祉・介護分野にとっても興味深い項目である。あくまで私見だが、両章を勘案すると、介護報酬の価格決定過程において賃金プロファイルがほとんど考慮されていないことが、この業界の昇給制度が十分に機能していない原因の一つになっているのかもしれない。いずれにしても、読者に対して多角的に考える材料を提供してくれる良書である。 なお、本書は編著であり、幅広い読者層を想定している性格上、いずれの章も紙幅の制約がある。そのため各章の末尾に掲げられた参考文献をあわせて読むと、理解が一層深まるだろう。充実した内容の割に価格が良心的なのも魅力的である。

Posted byブクログ

2017/10/04

本書では様々な観点から経済学者陣が本書のタイトルについて論じている。 中でも就職氷河期世代の影響が昨今の賃金へ影響を与えているという説は面白い。感覚的には企業が悪いと短絡的になってしまうが、この問題では日本の労働慣行(新卒一括採用)が問題であると感じた。 その他には非正規社員の増...

本書では様々な観点から経済学者陣が本書のタイトルについて論じている。 中でも就職氷河期世代の影響が昨今の賃金へ影響を与えているという説は面白い。感覚的には企業が悪いと短絡的になってしまうが、この問題では日本の労働慣行(新卒一括採用)が問題であると感じた。 その他には非正規社員の増加により、入社間もない新卒社員にやらせるべき簡単な業務がなくなるという、経験の不足にはとても良く理解できる。 これほどにも厚みのある本は、一つに様々な学者に割り当てた枚数の少なさが功を奏したのであろう。みな結論を明確に示し、詳細な論拠に関しては論文に席を譲っている。 なんとなく分かったつもりになって、賃上げ問題を論ずる前にまずは本書を熟読すべき!

Posted byブクログ

2017/08/03

2000年代前半、「仕事のなかの曖昧な不安」で若年層の"こぼれ落ちる人々"研究の第一人者となった玄田さんが、この本のタイトルとなっている「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか?」という極めて太い問いを行って、その1問のみの答えを巡って21名の研究者や実務家が...

2000年代前半、「仕事のなかの曖昧な不安」で若年層の"こぼれ落ちる人々"研究の第一人者となった玄田さんが、この本のタイトルとなっている「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか?」という極めて太い問いを行って、その1問のみの答えを巡って21名の研究者や実務家がその回答を披露、批評するという極めてユニークで知的な書。 この問いの回答は当然に複数あるし、多面的である。特に印象に残っている論考は、「給与の下方硬直性による上方硬直性」説、「(2000年以降で最も雇用を増やした)介護・医療分野での昇給規制」説、「団塊世代の再雇用および女性の就業率向上に伴う雇用弾力性の充実」説、「コーポレートガバナンス強化およびグローバル経済の不確実性の高まり対策」説などである。おそらくどれもが賃金の上がらない明確な理由であり、かつ複雑に絡み合っているのだろう。 このうち、会社を経営していてもっとも身近に感じる説は、「給与の下方硬直性による上方硬直性」と「コーポレートガバナンス強化およびグローバル経済対策」なのではないだろうか。行動経済学の原理として、人は得る喜びよりも失う悲しみの方が大きく、強く感じる(損失回避特性)。また、通常、人は現在の給与水準に生活をアジャストさせているので、給与が上がるよりかは下がるほうが実生活へのインパクトが大きい。給与が下がると給与を上げた時のモチベーション上昇以上のダウンが生じる。他方、コーポレートガバナンスの強化に伴い経営者は、株主還元や短期利益確保に対する配慮が以前よりもせねばならい。またリーマンショック的な世界経済の影響を受けやすくなって、結果として、給与以外での出費(や貯蓄)を余儀なくされており、人件費が上昇することに対して抑圧的なバイアスがかかることになる。 この本は、それぞれの研究者がそれぞれの角度や手法で1つの問いの答えを得ようとするので、「知の武道会」と見えなくもない。他方、導かれる答えは同じものだったりすることも多いので、総括編集の玄田さんが序文で書いているように「読者の関心の近い層から自由に読む」ことをオススメする。また実は骨太の問いは2問あり、「賃金を上げることが今後可能だとすれば、いかにして実現できるのか?」という2問目の問いについての解答があまり言及がなかったり、「当面は難しそうだ」、「***についてより議論の高まりが待たれる」的な結論で終わってしまっているものが散見されたように感じ、これは残念であった。唯一、「団塊世代の再雇用、女性の就業率向上」主犯説は、明確にそれらの雇用の吸収が終わった後に真の人手不足が生じて賃金上方がある、と言っていたが、マクロで賃金を上昇させるとはそれほど難しいということなのだろう。。

Posted byブクログ

2024/07/22
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

賃金の情報硬直性。構造的な問題があるか? 医療福祉分野は、介護報酬制度による賃金抑制。 人手不足だが賃金をあげると採算がとれない。 名目賃金の下方硬直性の裏返し。 賃上げの不可逆性のため、下方に硬直的だと上方も硬直的になる。 成果主義の普及。 企業は誰のものか=従来の主要なステークホルダーだった従業員は、今はコスト要因として見られるようになった。 バス運転手の時間あたり賃金は下落傾向。生産性が上昇しない。新規参入障壁が低い=値上げができない=運転手の賃金を上げられない。 就職氷河期世代の生産性が上昇していない。 欲しい人材と働きたい人材のズレ。 企業内OJTが減った=即戦力を求める傾向。 off-JTは効率が悪い。しかし、OJTの余裕がない。 構成バイアスによって平均賃金があがらない。 女性の割合が増えた、パートタイムが増えた。高齢者再雇用が増えた。 高齢化、非正規化の影響。 保険、税金などの非消費支出の上昇。 国際競争によって、国内産業の介護医療などの賃金も引きずられる。賃金の伸縮性。 氷河期世代の能力開発の遅れ。 正規社員と非正規社員が同一労働で賃金の違いが見られる。正規社員が既得権層となり、正社員の留保賃金が低下し組合の賃上げ要求も抑制気味となる。 給与の資格給制度。 20240722再読 医療福祉産業では公的保険制度による価格統制がある。 長引くデフレでベアゼロが定着した。 給料の下方硬直性が情報硬直性をもたらしている。低インフレの弊害。 構成バイアスの結果。女性、高齢者の働く人が増えた。現代版ルイスの転換点が起きれば賃金が上昇する。 バス運転手は、分社化によって本体給料体系と切り離されて、賃金が年齢によって上がらなくなった。鉄道は熟練による技能向上があるが、バスの運転手には少ない。 運転手の高齢化。二種免許保有者の数は減っている。 新規参入やバス車両は増加、超過供給にあるが事業者の退出は少ない。参入費用が低く新規参入しやすい。その結果、運賃の値上げ、賃金が上昇しずらい。 就職氷河期が中心年代になったから。成果主義の普及、規模の小さい企業に就職した例が多い、など。 欲しい人材と働きたい人材のずれ。OJTの減少で育てられない。長期競争に耐えられない。OJTで欲しい人材への育成が少ないため、人材のミスマッチがある。オフJTでは不十分。境界のないキャリア、は理想像であり、誰もができる働き方ではない。地域でOJTの場を作る必要がある。 P121まで

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2017/07/03

本書のテーマは今やエコノミストや経済学者のみではなく国民的関心事ではないだろうか。本書の「原因は一つではない」との視点に納得する思いをもった。 賃金を上げようとしない経団連の圧力は眼に見えるからわかりやすい。大手企業は内部留保をひたすら増やしながら賃金に回さないのだから財務大臣か...

本書のテーマは今やエコノミストや経済学者のみではなく国民的関心事ではないだろうか。本書の「原因は一つではない」との視点に納得する思いをもった。 賃金を上げようとしない経団連の圧力は眼に見えるからわかりやすい。大手企業は内部留保をひたすら増やしながら賃金に回さないのだから財務大臣から「守銭奴」と言われても仕方がない。 しかし原因が「制度」や「規制」などの社会システムの場合、変革することは一朝一夕には難しそう。 本書の専門家による多角的な検証は、それぞれ胸にストンとおちると同時に「日本を賃金が上がる社会にする」ことの困難さも理解できた。 また、本書の考察のように原因が複合的ならば一つや二つの対策では不十分だろうし、日本の縦割り行政の下では実効ある政策の実施は難しいのではないかとも思えた。 本書を日本の現状を的確に分析した実にタイムリーな本であると高く評価したい。硬い経済書にもかかわらず一気に夢中で読んでしまった。 2017年7月読了。

Posted byブクログ