R.S.ヴィラセニョール の商品レビュー
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フィリピンの暗黒の時代、独裁者マルコスの時代に青春を過ごしたフィリピン人の父、日本人の母を持つレイ・市東・ヴィラセニョールは、武蔵野美大で染色を学び、房総・御宿海外に工房を持ち染色家の道を。乙川優三郎「R・S・ヴィラセニョール」、2017.3発行。マルコスの悪政、染色の世界、なんとなく折り合いが悪いままに読了しました。
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本書のフィリピン社会の記述から、日本が20世紀の発展途上国に近づいているのではないかと感じた。「警官はいてほしいところにはいないし、いればすぐ発砲するので却って危ない。彼ら自身が犯罪者であることも多い」。日本でも埼玉県警の巡査が病死者の遺族に虚偽の料金を請求するなど警察のレベルは...
本書のフィリピン社会の記述から、日本が20世紀の発展途上国に近づいているのではないかと感じた。「警官はいてほしいところにはいないし、いればすぐ発砲するので却って危ない。彼ら自身が犯罪者であることも多い」。日本でも埼玉県警の巡査が病死者の遺族に虚偽の料金を請求するなど警察のレベルは発展途上国化している。 「スラムは確かに不衛生で汚い。だがそこで生きてゆくしかない住人が醜いのではなく、助けようともしない国や見下す人間が醜いのであった」。これは日本の貧困問題にも当てはまる。貧困者を貧困ビジネスに押し込めるなど見えなくしようとする日本の方が深刻である。 日本もフィリピンも公共事業が利権化している。フィリピンでは公共事業のための予算が政治家の懐に入れられ、実際に工事が行われないという。一見するとフィリピンの方が圧倒的に悪質である。しかし、無駄な工事が資源の浪費や環境破壊を引き起こしている面がある。このように考えると甲乙つけ難くなる。 フィリピンから見たマッカーサーの評価は低い。「虚栄心が強く、野望と蓄財の才はあるものの、軍人としては無能な男にできたのはマニラホテルのペントハウスに暮らして黴臭い軍事計画に寄りかかり、兵隊の訓練も装備の点検も怠り、惨敗した挙げ句の『アイ・シャル・リターン』でしかなかった」(182頁) 東南アジアは中国や韓国、北朝鮮と比べて反日感情が相対的に小さいとされる。それは日本軍が善政であったという訳ではなく、別に搾取するだけの無能な支配者という矛先があったためだろう。台湾も日本との対決に無能と腐敗を示した国民党がある点で東南アジアと重なる。 マッカーサーは植民地から見れば無能と腐敗の収奪者だったことになる。一方でマッカーサーは日本占領の責任者となったが、収奪者のイメージはない。農地改革など清廉な改革を進めたイメージがある。日本とフィリピンでは対応が異なったのだろうか。収奪という都合の悪い事実は現代に至るまで隠蔽に成功しているのか。それとも日本ではマッカーサーはお飾りでGHQ民政局スタッフが実権を持っていて、彼らが有能だったのだろうか。
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フィリピン人の父と日本人の母を持つメスティーソのレイ・市東・ヴィラセニョールは、房総半島の海岸に工房を構え、染色に身を投じていた。日本人でありながら、その外見から常に先入観にまみれた目で見られ、アイデンティティを確立できず苦しむ彼女が染色を選んだのは、母の国の伝統にメスティーソとして立ち向かうためだった・・・ 下絵を描き、頭に思い描いた色を作り出し、布を染め出す染色の世界が、房総の情景をバックに色彩豊かに描かれて心地いい。乙川さんの魅力である、外国文学の翻訳物のような作品の世界が好きなのに、終盤で突然、マルコス政権下のフィリピンの凄絶な歴史と、反政府のジャーナリストであった父を無残に殺され、日本で生活せざるを得なかったレイの父・リオとその一族の怨嗟の過去が相当なページ数を使って描かれ戸惑った。 知るべきことなんだろうけど、民族の問題に比重がかかり、物語が大きくなりすぎた感がある。 芸術と工芸の分かれ目、メスティーソのアイデンティティの問題あたりでとどめておいてくれたほうが、理解しやすかったように思う。
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まさか、そこからフィリピン史へ行くとは。 でも、他国の歴史だから、小説として成り立っていると思えるのだろう。 日本史だったら、あまりリアリティを感じることができないかもしれない。
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フィリピン系のメソティソ(混血)のレイ・市原・ヴェラセニョールは染色家として様々な取り組みをしており千葉の田舎で生活している.近くにはメキシコ系のメソティソのロベルトも住んでおり芸術家としてのやり取りがある.レイの父のリオは若くして日本に来て働き,フィリピンに残した親戚たちを援助...
フィリピン系のメソティソ(混血)のレイ・市原・ヴェラセニョールは染色家として様々な取り組みをしており千葉の田舎で生活している.近くにはメキシコ系のメソティソのロベルトも住んでおり芸術家としてのやり取りがある.レイの父のリオは若くして日本に来て働き,フィリピンに残した親戚たちを援助してきた.弟のフェルは弁護士として活躍している.芸術大学の仲間の根須広夢とも僅かだが交流がある.リオに癌が見つかり,フィリピンの親戚と交流が始まる.突然来日したフェルの語るフィリピン現代史は155頁から35頁も続くが,これだけでもすごい物語だ.マルコスに対する怨念を感じる.病弱になったリオを囲む家族の食事場面が素晴らしい.著者の時代小説は読んだことがあるが,同じ作家の作品とは思えないほど,意外性を感じ,さらに楽しめた.
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フィリピン人の父と日本人の母をもつメスティソのレイ.染色で立つ覚悟で外房総に工房を構える.この染色に重点がかかったところと,父親のフィリピンの血の歴史への拘り、誓い,復習といった部分があって,レイにはどちらも存在の基盤であったのであろう,染色に関わる部分に心惹かれて.レイの型染を...
フィリピン人の父と日本人の母をもつメスティソのレイ.染色で立つ覚悟で外房総に工房を構える.この染色に重点がかかったところと,父親のフィリピンの血の歴史への拘り、誓い,復習といった部分があって,レイにはどちらも存在の基盤であったのであろう,染色に関わる部分に心惹かれて.レイの型染を見たいと思った.
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メスティソ、という言葉を初めて知った。 日本人の母と、フィリピーノの父を持つ娘、仕事は染師。アイデンティティって何なんだろう。 レイの染めた着物、見てみたい、着てみたい。
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文書が下手すぎてびっくり。 一文が異常に長かったり、脈絡がなかったり。 このくらいベテランになると編集者も指摘出来ないのかな? とにかく読みにくい。 まず内容が入ってこない。
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前知識なしに読み出したので、最後の展開には、驚きの中でぐっと引き込まれていった。 フィリピン、なんて国なんだろうか。 この壮絶な歴史は、私には全く想像のつかない世界なのだろう。 染色という職人の世界に、メスティソという揺らぎを織り込んで、深く思考し、浸透する。 一見、社会派の内...
前知識なしに読み出したので、最後の展開には、驚きの中でぐっと引き込まれていった。 フィリピン、なんて国なんだろうか。 この壮絶な歴史は、私には全く想像のつかない世界なのだろう。 染色という職人の世界に、メスティソという揺らぎを織り込んで、深く思考し、浸透する。 一見、社会派の内容にみせて、個として落ち着く。そして広がり溶け浸みていく。 新しいように思ったけれど、よく考えてみれば、これまでの形が進化したということではないだろうか。 これはこれで、良かった。 冒頭が、全然繋がらなくて、すっかり忘れていたけれど、最後にもう一度読み返して、納得。
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初出は2016年の「小説新潮」 淡々とした情景描写の文体なのだが、そこから鮮やかに映像が、心情が立ちのぼる。昔からこの作者が好きな一番の理由。 冒頭の一文の布石が終盤まで理解できないのだが、終盤に差しかかってやっと、テーマの比重を知らされる。 マルコス政権下に父を殺されて日...
初出は2016年の「小説新潮」 淡々とした情景描写の文体なのだが、そこから鮮やかに映像が、心情が立ちのぼる。昔からこの作者が好きな一番の理由。 冒頭の一文の布石が終盤まで理解できないのだが、終盤に差しかかってやっと、テーマの比重を知らされる。 マルコス政権下に父を殺されて日本に働き口を求めたフィリピン人の父と日本人の母を持つメスチソ(混血)の娘レイ・市東・ヴィラセニョールは、美大で染色を学び、江戸更紗の老舗での修行ののち外房で工房を構えた。 日本社会で異質な者と見られて育った彼女は、自らのアイデンティティを求め、修行者の如く魂を打ち込んで求める色を追求し、和服の生地を染める主人公に感情移入させられる。 そして、終盤で父の秘された生き方を知ってヴィラセニョールの血を嗣ごうとする彼女に驚く。 酒井抱一や鈴木其一の名が出てくると、『麗しき花実』の理野にかぶって見えてしまう。乙川さんまた時代物を書いて欲しいなあ。
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