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モラルの起源 の商品レビュー

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16件のお客様レビュー

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2021/08/08

人文科学と自然科学の接続をめざす野心的な試みにも見えるが、どうも周辺分野の学説を浅く広く紹介するにとどまり、終盤では人文寄りの話に終止している。「実験」社会科学を掲げているものの、社会心理学では昔から実験はごく当たり前だしね。 最後通告ゲームの結果に見られるように、ヒトの社会行...

人文科学と自然科学の接続をめざす野心的な試みにも見えるが、どうも周辺分野の学説を浅く広く紹介するにとどまり、終盤では人文寄りの話に終止している。「実験」社会科学を掲げているものの、社会心理学では昔から実験はごく当たり前だしね。 最後通告ゲームの結果に見られるように、ヒトの社会行動にも進化的な基盤を持つ(=概ね人類共通)ものとそうでもないものがあるみたいなので、もっとその境界を探ったりしてくれれば面白そうなのに。

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2020/12/12
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

たとえばミツバチの群れが集合知を実現している例から、ではなぜ人間社会では集合知が実現しないか(あるいは、しにくいか)についての考察があります。ミツバチの社会は血縁社会で、個人が生き抜けばよいというよりも群れが生き抜けばよしとします。よって、次の営巣地(ハチの巣の構築候補地)を探しその候補地を集合知でもって決定するとき、各々のミツバチは個人の利害なくフラットな目で候補地を判断するようなのです。そして八の字ダンスでのプレゼンを繰り返しながら、群れの多数決で決められた次の営巣地は、客観的に見てもベストなところに落ち着くのだそうです。他方、人間社会では「情報カスケード」と呼ばれる、無条件で他者の情報を優先する心理状態によってたとえばエラーである情報が連鎖してしまうことが多々あります。これは集合知ならぬ、その反対の集合愚にあたるケースです。つまりミツバチにくらべて人間のほうは自分の目で判断していないから上滑りするような情報共有になってしまう。それも無自覚にそうだし、そのような傾向も強い。そのあたりを深掘りして考えると、人間は非血縁社会で生きているがゆえに、「まわりとは独立に、自分の判断で評価を下す」ことが当の本人にとって不利益になる可能性があり、その可能性が少しでもあるならば空気を読んでそれを避ける心理が働く、という機制の存在が浮かび上がってきます。つまり、ほんとうは実体のない「世間」というものへの意識が、人間社会での集合知を実現させにくくしている。本書では、「だから、それをやめよう」というスタンスではありません。人間のありようを深くまでみつめて、「そのうえでベターを考えられたなら」というようなスタンスでした。なので、啓もう的ではなく科学的な態度の本であって、それゆえに客観的に、それこそデリケートな概念である正義やモラルを考える地点に近づくことができるのです。 後半部では、「最大多数の最大幸福」を掲げる功利主義や「最不遇の立場を最大に改善すること」を掲げるマキシミン原則を扱います。著者としてはその折衷点を考えていく実用主義を探る方向へと光を投げますが、この折衷(妥協)の落とし所がむずかしいんですよね。ある意味、おおざっぱな見立てをする人には「ダブルスタンダード」に見えてしまうくらいの、すっきりと洗練されていないところからまず始めないと到達できそうにない気が個人的にしますし、もしかすると現実的な実用主義はそういったゴツゴツして洗練されていない状態を受け入れることを要求してくるのかもしれない、なんていうイメージもふくらみました。 ページ数のすくない、ぎゅっと凝縮された論考といった新書なので、読んでいて難しかったりもっと広く扱ってほしいと思う箇所も少なからずありました。それでもぐっと視野が広まる良書です。著者はあとがきで、批判的に読んでほしいと書いています。この分野を活発にするためにはそういった態度での読み方が大歓迎なのでしょう。そのためには読みこんでしっかり把握しなければなりません。社会学に足をつっこみたい人にはぜひとも手にとっていただいて、がんばって批判をひとつでもぶつけてみるとおもしろいと思います。

Posted byブクログ

2020/12/03

たぶん刊行当時手にとって迷ったはずだ。そのときはおそらくほかに優先すべき本があり、購入をひかえたのだろう。今回、キャンペーンで岩波新書を3冊買うと「生きのびるための風呂敷」がもらえるということで再び手にした。なにも風呂敷がほしいわけではない。それをもらったことをツイートして自慢し...

たぶん刊行当時手にとって迷ったはずだ。そのときはおそらくほかに優先すべき本があり、購入をひかえたのだろう。今回、キャンペーンで岩波新書を3冊買うと「生きのびるための風呂敷」がもらえるということで再び手にした。なにも風呂敷がほしいわけではない。それをもらったことをツイートして自慢したいのだと思う(と自己分析している)。さて、本書の内容のおそらく半分くらいは知っていることだった。できれば著者自身の実験をもっとくわしく知りたかった。なかなかその仕組みが難しく、その結果をどう判断していいのか分からないことも多かった。そんな中、共感したのは、「情動的共感」と「認知的共感」そしてクールな利他性ということ。医者や教師は専門家としてはあまり情動的であってはいけないのかもしれない。多岐にわたる情報を吟味したうえで、冷静に(クールに)治療や指導に当たるべきなのだろう。感情移入しすぎると、受験指導であやまることも多い。しかし、それはそうなのだろうが、それでも、やはり情動的な部分は必要だと思うし、ホットな利他性もあってほしいと思う。薬剤師を主人公としたドラマがあったけれど、そこでのテーマも同じようなものであったかと思う。さらに、最終章での話。メタモラルとしての功利主義。「最大多数の最大幸福」高校性のころ倫理社会の授業でこのことばを知って、「それがいい」と思ったものだ。しかし、それだけではうまくいかないという議論をたくさん読んできたし、それは理解できる。それでも、どうしても価値観が対立したときにメタレベルとして功利主義を持ち出すのは有効なのかもしれない。ただその議論をするときに、いったい、幸福とはなんなのだろうか、ということも考える必要があるように思う。例として挙げられているのは年収だろう。年収は少ないのは困るけれど、多ければ多いほどいいのかというとそれは違うような気がする。そういえば、最近のドラマで30億とかの遺産を手にしていながら夫に内緒にしていたという話があった。それはハッピーエンドで良かったのだけれど、幸せについてはいろいろと考えさせられる。共感するということ、利他的であるということ、そしてそれぞれの幸福、こういうことを引き続き考えていきたい。ところで、まだ風呂敷は届かない。

Posted byブクログ

2019/11/03

オビの「いま・ここ・私たち」とある。「いまここ」本であれば読むしかないだろうといい感じで手に取ってみました。 多くの心理学の実験の結果などから「人の心とは大体こういうもの」という定義が長く続き、4章あたりから「いま・ここ・私たち」と功利主義などの解説に入る。 ロールズの無知の...

オビの「いま・ここ・私たち」とある。「いまここ」本であれば読むしかないだろうといい感じで手に取ってみました。 多くの心理学の実験の結果などから「人の心とは大体こういうもの」という定義が長く続き、4章あたりから「いま・ここ・私たち」と功利主義などの解説に入る。 ロールズの無知のベールを実現不可能と断定している点がよい。じつは別の著者の『科学報道の真相:(ちくま新書)』では「弱者に寄り添うことで無知のベールを土台にした報道は可能」と言った感じで書かれていて、そんなんだったらどうしようか、と心配していたが取り越し苦労でした。 本書にある通りに「最適な分配が行われる社会」の構造が、人の直感に反する(自然に反する)ようであれば、その最適な社会を採用するには、素朴に考えると「強制的に(暴力的に)適応する」しかなく、それこそ「反社会的行為」となってしまうというジレンマがある。 そうした自然に反する思想の例としての共産主義思想には「自然に反している」という感覚がなく、逆に「原始共産主義」のようなキリスト教的なストーリーを作り出すことで「自然」を捏造してまで「正しさ」を作り出してしまうなどなど、このあたりを実際に進めようとするとなかなか難しい。 どちらにせよ思考実験を実際の社会で理想通りに実現するのは難しいというのはよくわかるが、では「いま・ここ・私たち」はどうだったかというと我々は「いま・ここ・私たち」に縛られているという感じで、この点についてはそれほど深みがなかったかなとも。

Posted byブクログ

2019/09/10
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

・互恵的利他主義 チスイコウモリ ・社会的ジレンマ 共有地の悲劇 ・公共財ゲーム実験 他人の目があると規範が守られやすい。 ・間接互恵性 評判 ・共感 表情模倣 情動伝染→親しい間柄ほど起こりやすい 思いやり行動は哺乳類に広く存在する。 情動的共感 認知的共感 ・分配の正義、いかに分けるか ・功利主義 ・最後通告ゲーム →分配の規範は文化によって異なる。 ・進化ゲームシミュレーション ・ヒトの脳は格差を嫌う。 ・ロールズの思考実験。 →無知のベールを被ったヒトの集団は、社会の中で最も不遇な人々にとっての利益を最大化する政策を生み出すような基本原則が、正義の原理として全員一致で合意される。 マキシミン原理。

Posted byブクログ

2019/09/08

文化的・形式的な所作は一見くだらないけれども、実は大きな文化群の中で暮らしてきたからこそここまでヒトの思考能力や言語化能力が高まったんだという説が斬新。単純に意味ないでしょwという理由だけで簡略化していくと、ヒト自体の力が下がる可能性もあってそんな簡単な話ではないなと思った。そう...

文化的・形式的な所作は一見くだらないけれども、実は大きな文化群の中で暮らしてきたからこそここまでヒトの思考能力や言語化能力が高まったんだという説が斬新。単純に意味ないでしょwという理由だけで簡略化していくと、ヒト自体の力が下がる可能性もあってそんな簡単な話ではないなと思った。そうはいっても現代は考えること多すぎるので、いろんなものは簡略化してもしすぎることはないと思う。 あとは何書いてあったか忘れた。

Posted byブクログ

2019/08/30

 人のモラルを他の生物とも比較しながら論じた本書。  一見悪癖とも思えるような人のゴシップ好きなども、相互評価という形で社会を成り立たせる一助になっている、との事。  確かに、悪癖とはいえデメリットばかりであるなら、人はとっくにそんなもの捨て去っていただろう。  他の悪癖、...

 人のモラルを他の生物とも比較しながら論じた本書。  一見悪癖とも思えるような人のゴシップ好きなども、相互評価という形で社会を成り立たせる一助になっている、との事。  確かに、悪癖とはいえデメリットばかりであるなら、人はとっくにそんなもの捨て去っていただろう。  他の悪癖、悪徳についてもメタ視点から見れば、ある種の効用があるのかもしれない。

Posted byブクログ

2018/11/18

<本全体、あるいは各章ごとの概要> <個人的な知識・ターム> * 覚えておきたい事(本全体の主張と関係なくともよい) + キーワードで興味のあるもの * 短い説明とページを記入 <引用> <自分の見解> * 読後感・...

<本全体、あるいは各章ごとの概要> <個人的な知識・ターム> * 覚えておきたい事(本全体の主張と関係なくともよい) + キーワードで興味のあるもの * 短い説明とページを記入 <引用> <自分の見解> * 読後感・意見・反論・補足など書きたいと思ったこと <読書回数>

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2018/08/19

読んで面白い本かと問われるならば答えに窮する。ただサイエンス系の学問の論文を門外漢が読んで面白いと思うことも滅多にない話しだと思う。 筆者の提唱する実験社会科学は実証を求められるので、他の人文科学の様に、感性に基づき自由に飛翔しながら、話を進めることは原理的に難しいのだと思った。...

読んで面白い本かと問われるならば答えに窮する。ただサイエンス系の学問の論文を門外漢が読んで面白いと思うことも滅多にない話しだと思う。 筆者の提唱する実験社会科学は実証を求められるので、他の人文科学の様に、感性に基づき自由に飛翔しながら、話を進めることは原理的に難しいのだと思った。 ある意味、地味な研究手法を世に認めてもらう様に問いかける筆者の主張はイバラの道とも感じるが、こういう自らを律する学問に時間と資源を与えて、そこから、しっかりとした指針が生まれることを期待する余裕がある社会であって欲しいとも思う。

Posted byブクログ

2018/06/28

公平さについての判断の仕組み。 共感性にもいろいろある。 最不遇になることを考える。 個人,種族を優先させるか。 不公平さを敏感に検出する人の特性。

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