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ポピュリズムとは何か の商品レビュー

4.3

51件のお客様レビュー

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2024/12/01

2024年11月、トランプ再選。日本においても衆議院選挙での国民民主党の躍進等、昨今の国政選挙におけるポピュリズム的雰囲気が伸長しているように思える。そんな中で、ポピュリズムとは何なのか、気になって本書を手に取った。 本書では、ラテンアメリカ、ヨーロッパにおけるポピュリズム政党の...

2024年11月、トランプ再選。日本においても衆議院選挙での国民民主党の躍進等、昨今の国政選挙におけるポピュリズム的雰囲気が伸長しているように思える。そんな中で、ポピュリズムとは何なのか、気になって本書を手に取った。 本書では、ラテンアメリカ、ヨーロッパにおけるポピュリズム政党の事例を参照しつつ、副題の通りポピュリズムは「民主主義の敵なのか、改革の希望なのか」という点が考察されている。 総論としてはP20以降のまとめが非常にわかりやすく、メモとして以下に記しておく。論じられているのはポピュリズムの功罪である。 まず、デモクラシーに対しての寄与であるが、4点あげられている。主には、人々の参加と包摂を促すことである。 • 政治から排除されてきた周縁的な集団の政治参加を促進することでデモクラシーの発展に寄与する • 既存の社会的な区別を超えた新しい政治的・社会的まとまりを作り出すとともに、新たなイデオロギーを提供することができる • 政治そのものの復権を促すことでの寄与。重要な課題を経済や司法の場に委ねるのではなく、政治の場に引き出すことによって、人々が責任をもって決定を下すことを可能とする。またそれは、政治というものの持つ対立的な側面を呼びおこすことで、世論や社会運動の活性化につながる。 一方、デモクラシーへの脅威という観点では、以下の3つが挙げられる。 • 「人民」の意思を重視する一方、権力分立、抑制と均衡といった立憲主義の原則を軽視する傾向がある。特に、多数派原則を重視するあまり、弱者やマイノリティの権利が無視される傾向にある。 • 敵と味方を峻別する発想が強いことから、政治的な対立や紛争が急進化する危険性がある。ポピュリズムとアンチポピュリズムの新たな亀裂の中で、妥協や合意形成が困難になるおそれがある。 • 政党や議会と言ったっ団体・制度や、司法機関等の非政治的機関の権限を成約し、「良き統治」を妨げる危険がある。 ポピュリズムは、上述の通り、デモクラシーから見て必ずしも完全に相反する概念ではないことが、ある種の取り扱いづらさを呼びおこしている。完全に無視すれば、そもそも政治世界から排除された層の復権というポピュリズム団体の存在を認めることとなり、既存の政治主体への取り込みについても、一定の妥協が必要なことや、ポピュリズム団体が掲げる主張や排外主義的であれば、取り込むにしても既存の政治団体もそうしたイメージを払拭できないという袋小路となる。 また、本書における事例紹介では、主にラテンアメリカでは、社会格差を理由に、大地主や外国資本等のエスタブリッシュメント批判がポピュリズムの基本的な信念として、活用され、一方ヨーロッパではリベラルを錦の御旗にし、排外的な論調が目立つ。また、既存の政治手法や政治主体への批判、そもそもの間接民主制批判等も行われる。興味深い事例として、オランダのウィルデルスが挙げられ、1人政党として、政党組織を持たず、インターネットによる支援の呼びかけ等によって、政治手法そのものが全くの新しい形となっている例もある。 また、スイスの事例では、スイスの伝統的な国民投票の功罪も記載されている。例えば、スイスの福祉施策の遅れ等、現時点での国民に負担を強いる政治施策に対して、かなりの割合で国民投票で否決されることが記載されている。 こうしてポピュリズムというものを見たときに、中島岳志先生の、「立憲主義とは、民主主義に死者の存在を取り込むことである」というコンセプトのすばらしさを改めて感じる。ポピュリズムの特徴は、まさに主張の先鋭化と、今生きている人による多数者の圧政を促す点にあると、本書を読んで私自身理解した。端的に言えば、時間的にも空間的にも視野が狭いことにある。 一方、民主主義という意思決定手段を活用しながら、持続可能な社会を作るためには、民主主義を単なる多数決にしないための制度化されたシステムが必要となる。そうしたものが立憲主義であり、立憲主義が促すのは、意思決定者の視野を、少なくともその一生分やそこらの70-90年以上のスパンに広げることである。 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」 ドイツの初代宰相であるビスマルクの言葉だが、敢えて、ポピュリズムと立憲主義や間接民主制に置き換えれば、「ポピュリズムは経験に学び、立憲主義は歴史に学ぶ」のである。 正直、今読み返してみると、「今苦しんでいる人をどうするんだ、これだからリベラルなんでエスタブリッシュメントの遊具にすぎないのだ」という批判も浴びそうなものであるが、そうした意見に対しても、常に真正面から対話し続け、社会の亀裂や溝を無くす努力をし続けなければならない。

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2024/08/01

非常に面白い EU離脱演説の際、ナイジェル・ファラージは「グローバリズムとポピュリズムの争いだ」と表現した。そしてまさにトランプ大統領が復活しつつある今、ポピュリズムの真価が問われる時代だなと感じた。

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2024/07/02
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※このレビューにはネタバレを含みます

たいして期待もなく読み始めたが、中々な良書。 見くびって、すまんかった。 ポピュリズムというのを「山本太郎みたいなもんだろ」というくらいの認識だったが、 中南米での抑圧からの解放、欧州でのリベラルへの対抗、アメリカでの中西部ラストベルトの見捨てられたプアホワイトの反逆など事例も豊かに解説されている。そうそう大阪維新の会も。 本書が上梓されたのがトランプ政権誕生の時期。 奇しくも今は、フランス下院での極右政党多数獲得や、もしトラの話題もあり為になる読書であった。 以下Amazonより。 いま世界中でポピュリズムが猛威を振るっています。 「大衆迎合主義」とも訳され、民主主義を蝕む悪しき存在と見なされがちなポピュリズム。しかし、ラテンアメリカでは少数のエリートによる支配から人民を解放する力となりました。 またヨーロッパでは、ポピュリズム政党の躍進が既成政党に緊張感を与え、その改革を促す効果も指摘されています。現代のポピュリズム政党は、リベラルな価値、民主主義のルールを前提としたうえで、既成政治を批判し、イスラム移民の排除を訴えており、ポピュリズムの理解は一筋縄ではいきません。 本書は各国のポピュリズム政党・政治家の姿を描き、「デモクラシーの影」ともいわれるその本質に迫ります。

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2023/10/03

各国のポピュリズムについてよく理解できた。ラテンアメリカとヨーロッパのポピュリズムのありかたの比較が興味深い。2016年の本だが、現在はどうなっているのか、別の本で学びたい。

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2023/09/24

水島治郎『ポピュリズムとは何か』中公新書 読了。民主主義の敵か、改革の希望か。多様性や平等など立憲主義的な価値に対する脅威か、それとも、既成政党や政治エリートによる支配を打倒し、人民に取り戻す救世主か。リベラルやデモクラシーの本質を突き詰めるほど、ポピュリズムとの親和性を帯びる。

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2022/03/19

各国のポピュリズム政党などに関する記述が多いため、知識ほぼ0で挑んだこともあり読み進めるのに予想以上に時間がかかった。 各国のポピュリズム政党を俯瞰して見渡すことにより、歴史的な文脈を理解できるのは非常に有益だった。 歴史が教えてくれるものは大きいので、ここで学んだことをフィルタ...

各国のポピュリズム政党などに関する記述が多いため、知識ほぼ0で挑んだこともあり読み進めるのに予想以上に時間がかかった。 各国のポピュリズム政党を俯瞰して見渡すことにより、歴史的な文脈を理解できるのは非常に有益だった。 歴史が教えてくれるものは大きいので、ここで学んだことをフィルターとして政治を見られるようになる必要がある。

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2021/12/30

とても面白かった。 本書では、ポピュリズムを『既存のエリート層を批判することで人々の支持を集める手法』と定義付けしており、当たり前だけどポピュリズムだからといって必ずしも抑圧的であったり問題があるとは限らない。 ポピュリズムというのは民主主義の部分集合であって、問題が発生する時...

とても面白かった。 本書では、ポピュリズムを『既存のエリート層を批判することで人々の支持を集める手法』と定義付けしており、当たり前だけどポピュリズムだからといって必ずしも抑圧的であったり問題があるとは限らない。 ポピュリズムというのは民主主義の部分集合であって、問題が発生する時というのは、全体の一部あるいは多数派が結集することで、彼ら自身も含めた共同体全体の利益を結果的に損ねてしまう場合である。 近ごろだとEU離脱やトランプ政権、もっと言えば先月31日の衆院選での維新の会の大阪での大躍進がそれにあたる。 本来の民主主義の崇高な()理念というのは、多数派によって、少数派も含めた多様性を尊重することだけど、ポピュリズムの台頭はマジョリティに紐付けされていないマイノリティは問答無用で排除しても、切り捨てた側は痛くも痒くもないという現状を顕にしている。 本書では、党組織や労組などに依存した既存政党が、無党派層の増大や組合加入率の低下によって機能不全に陥り、直接民主主義を主張するポピュリズムに振り回される様子が活写されている。 ヨーロッパでは特に比例代表制がポピュリズムの躍進に一役買っているという指摘も正しい。 エリートの方々はとりあえずポピュリズムを批判するのがお決まりになっているけれど、彼らの頭が本当に良ければポピュリズムにも対応できるのでは?と思う。 それが出来ていない時点でお察し…ってことだよね。 #読書感想 #ポピュリズム #民主主義 #EU離脱 #トランプ #橋下徹 #維新の会

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2021/10/17

各国で猛威を振るっているポピュリズムに関する概説書。ベネズエラのチャベス政権といった南米のポピュリズム政権も取り上げられているが、筆者の専門はヨーロッパ政治史、比較政治なので、ヨーロッパのポピュリズム政党に関する記述がほとんどを占める。本書では、ポピュリズムの定義として、①固定的...

各国で猛威を振るっているポピュリズムに関する概説書。ベネズエラのチャベス政権といった南米のポピュリズム政権も取り上げられているが、筆者の専門はヨーロッパ政治史、比較政治なので、ヨーロッパのポピュリズム政党に関する記述がほとんどを占める。本書では、ポピュリズムの定義として、①固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル、②「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動といった二つの定義があるが、後者の定義が採用されている。 ヨーロッパのポピュリズム政党において、大きく分けて、極右に起源を持つ政党と「リベラル」に起源を持つ政党の2種類がある。前者はフランスの国民戦線、オーストリアの自由党、ベルギーのVBといった政党であり、後者は、デンマークの国民党、オランダのフォルタイン党、自由党、スイスの国民党といった政党が含まれる。後者のタイプの政党は、前者のポピュリスト政党と同じく「極右」勢力と日本のマスコミで報道されるが、露骨な人種差別・民族差別を唱えていない。これらの政党は、自由・人権・男女平等といった近代的価値を全面的に擁護して、その近代的価値観をイスラムが決して受け入れず、「後進的」であると批判して、移民・難民の排斥を主張する。西洋的な「リベラル」価値観を守るためがゆえに、反イスラムであるというのは、『西洋の自死』のダグラス・マレーと同じであろう。現代のポピュリズムは「リベラル」と「デモクラシー」との間に親和性があるというのは興味深かった。また、ベルギーのVBの進出に対して、さまざまな対抗運動も活性化した。VBの躍進とそれに対する反対運動の活性化を通して、ベルギーの人々の政治不信が高まるのではなく、むしろ低下したという。 以前にミュラーの『ポピュリズムとは何か』を読んだ際に、その定義の狭さゆえに、ポピュリズムは悪いものだという前提で不満を持ったが、本書では、ポピュリズムの定義を少し広く取り、ポピュリズムが既成政党に危機感を与えて改革を促すこと、ポピュリズム政党の進出とそれへの対抗運動によって、社会が「再活性化」するなど、ポピュリズムの「効用」まで触れられており、射程はミュラーの本よりは広く、納得のゆく議論がなされている。本書は、かなり情報量が多く、この情報量でたった820円とは価格破壊である。ハードカバーなら最低でも3500円以上のだろう。ポピュリズムのみならずほぼ現代ヨーロッパ政治史の優れた概説本なので、一家に1冊は確保しておきたい。

Posted byブクログ

2021/10/11

出版時から気になっていたが、ようやく読了。出版後、少し時間が経ったが面白かった。 ポピュリズムを理解するために、民主主義・デモクラシーの「二つの原理」という枠組みは、考え方の整理に役に立つ。 一つは、自由主義的・実務型デモクラシー。法の支配、個人的自由の尊重、議会制などを通じ...

出版時から気になっていたが、ようやく読了。出版後、少し時間が経ったが面白かった。 ポピュリズムを理解するために、民主主義・デモクラシーの「二つの原理」という枠組みは、考え方の整理に役に立つ。 一つは、自由主義的・実務型デモクラシー。法の支配、個人的自由の尊重、議会制などを通じた権力の抑制を重視する立場。 もう一つが、民主主義的・救済型デモクラシー。人民の意思の実現、統治者と被治者の一致、直接民主主義を重視する立場。 どちらもデモクラシーだが、どちらに重点を置くかで、運動の進め方は、かなり違ってくる。 実務型デモクラシーが優位に立ち、救済型デモクラシーがないがしろにされると、民衆の疎外感がひろがり、この差を埋めようとしてポピュリズムが支持を広げる。なるほど。 現代ポピュリズムの流れとして、解放のポピュリズムとしての南米と、抑圧のポピュリズムとしての欧州が取り上げられる。 興味深かったのは、欧州の流れ。当初は、極右の泡沫政党だったポピュリズム政党が、民主主義の価値を全面に押し出しつつ、民主主義の精神を尊重しないイスラムの排斥、福祉タダ乗りの移民の排除を訴え、支持を広げていったということ。 それが、「置き去りにされた人」「サイレントマジョリティ」の支持拡大につながり、各国でポピュリズム勢力拡大につながり、ブレグジット、トランプ旋風にもなった。 外からみていると、なぜ米英であんなことが起こったのかと不思議に思っていたが、仏、オーストリア、デンマーク、ベルギー、オランダ、スイス等々、民主主義先進国で着々と進んでいたというのは、ちょっと驚き。 日本のポピュリズムとして、橋本の維新の会が取り上げられていたが、日本で、「置き去りにされた人」は誰なのかは考えていかないといけないポイント。「公」が極端に弱い日本で、サンダースのように、左派ポピュリズムが出てきても面白いと思うんだけどなぁ。

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2021/10/16
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※このレビューにはネタバレを含みます

ポピュリズムという概念が近年急速に広まり、現在ではかなり人口に膾炙している感がある。しかしながら、トランプの強烈なイメージが先行し、その厳密な意味や変遷が必ずしも正確に解されているとは言い難い。本書を通じてポピュリズムの出自や変遷、そして現在地の一端を垣間見ることができた。ポピュリズムといわれると、どうしても極右やネオナチといったイメージが付きまとうが、現代の主要なポピュリズム政党は、リベラルな価値を全面的に受け入れたうえで、移民排斥や反イスラムといった主張を展開している。

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