本を読むひと の商品レビュー
パリ郊外の荒れ地に無断で住み着くジプシーの大家族。 まさに壮絶な環境で、現代でいうならホームレスの家族版になるのだろうか…。 いや、それ以上に酷い環境なのは、読み進めていくたびにわかるのだが。 そこへ1人の図書館員であるフランス人の女性がやってくる。 学校教育から疎外され、本ど...
パリ郊外の荒れ地に無断で住み着くジプシーの大家族。 まさに壮絶な環境で、現代でいうならホームレスの家族版になるのだろうか…。 いや、それ以上に酷い環境なのは、読み進めていくたびにわかるのだが。 そこへ1人の図書館員であるフランス人の女性がやってくる。 学校教育から疎外され、本どころか文字も知らない子どもたちに読書の喜びと魔法のようなその魅力を伝えたい一心で週に一度通ってくる。 このジプシーのおばあさんいわく、本とは一度も手にしたことのないもの。 ただ言葉やお話の書いてある紙っぺら以上のものであり、要するに生き方の一つであることを。 疎ましく思うことなく続けられるのはこの大家族が少なからず本の魅力に気づいているからだろうと思ったのだが…。
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賛否分かれるかもしれません。 少し読みにくいストーリー展開や、視覚触覚嗅覚にうったえる表現が、文字ベースで生きていない、本を読まずに生きている人たちの感覚なのではと、むしろリアルに感じました。そこに引き込まれました。 こういう視線で世の中を見ているのかなと。 感じたことが文...
賛否分かれるかもしれません。 少し読みにくいストーリー展開や、視覚触覚嗅覚にうったえる表現が、文字ベースで生きていない、本を読まずに生きている人たちの感覚なのではと、むしろリアルに感じました。そこに引き込まれました。 こういう視線で世の中を見ているのかなと。 感じたことが文字や言葉で整理されない暮らしをしていると、五感が研ぎ澄まされるものなのかなあと。
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もったいないことをした。本書は「訳者あとがき」から読むべきだった。 パリ郊外の空き地におんぼろのキャンピングカーとトラックで乗りつけたジプシーの大家族と、図書館員の出会いが引き起こす物語。フランスのジプシーと言われてピンと来なかったことに加え、題名とは少し異なる展開から来るもど...
もったいないことをした。本書は「訳者あとがき」から読むべきだった。 パリ郊外の空き地におんぼろのキャンピングカーとトラックで乗りつけたジプシーの大家族と、図書館員の出会いが引き起こす物語。フランスのジプシーと言われてピンと来なかったことに加え、題名とは少し異なる展開から来るもどかしさにずっと苛まれたまま、読了してしまった。 『ザリガニの鳴くところ』の意義が、白人貧困層というほとんど報道もされない人たちにフォーカスを当てたところにあったように、本書の意義もジプシーを取り上げたところにあった筈なのだ。米国の白人貧困層については多少の知識を持ち合わせていたけれど、フランスのジプシーに関してはほぼゼロ。「訳者あとがき」にていねいに書いてあったジプシーの歴史背景を先に読んでいれば、このもどかしさも半減したに違いない。 とは言え、学術書や参考書などではなく、美しい小説を通じて自分の知らない世界に触れることができたことは素直に嬉しい。
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ショコラを思い出した。 著者の他の本も翻訳されないかな。 死ぬ間際に、後を生きる人間の糧になるような言葉を遺せる人は、それができる人生を歩めたことと、受け止めてくれる人がいるという意味で、二重に幸せなのかもしれない。
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ジプシーと言えば、一般的にはカルメンが一番有名だろうけど、私の印象に残っているのは、オースティンの『エマ』。ハリエットがジプシーに襲われるシーンがあって、それに対する描写が、もう、なんというか、「恐ろしい」「忌まわしい」「あんな人達がなぜいるの」「決して近づいてはいけない」「早く...
ジプシーと言えば、一般的にはカルメンが一番有名だろうけど、私の印象に残っているのは、オースティンの『エマ』。ハリエットがジプシーに襲われるシーンがあって、それに対する描写が、もう、なんというか、「恐ろしい」「忌まわしい」「あんな人達がなぜいるの」「決して近づいてはいけない」「早くいなくなって」みたいな感じで、読み手ももちろん共感できる前提で書いてある。これが当時のイギリス人のごく普通の感覚なんだな、差別だなんて考えたことも無い、だって同じ人間じゃないもの、という感じが痛いほど伝わってきた。 現代の小説だと人権意識が出てきて、良いジプシーも、才能あるジプシーも出てくるが、(ゴッデンの『ディタコイ』好きだった)この本で、リアルなジプシーの生活というものが分かった気がした。本文にはいつの時代か書かれていないが、発表は1997年なので、それより少し(?)前くらいの状況なのかなと思う。 ジプシーと言えば音楽、踊り、占い、幌馬車での放浪生活というのがポジティブな方のイメージだけど、この本のジプシーは音楽や踊りはしない。占いも、一家の長であるばあさんが手相を見るが、子ども世代はしない。幌馬車はキャンピングカーに変わっている。ネガティブな方のイメージとしては泥棒、不潔、知性がないってとこだけど、これは引き継がれている。しかし、その理由も分かるように書いてある。居住権どころか人権すらなく、まっとうな仕事にもつけない。物乞いするくらいなら、泥棒の方がましだし、捕まったって、失うものはほとんどない。水道もないので、お風呂にも滅多に入れない。頭が悪いのではなく、学校に行けないので、知識もなく、文盲だ。 エステールという女性が、この一家の子どもたちに本を毎週読みに行くことで、少しずつ、状況が変わっていく。ばあさんは年寄り(でも実は50代)で変えようがないが、孫世代は変えられるという信念を持っている。しかし、エステールが偉いという描き方はしていない。ばあさんに人間として魅力があり、子どもたちはおもちゃもテレビもなく、一切の物語を知らず、それだけに、エステールの読む本に食らいつくように夢中になっていくのが、エステールにとっても、喜びだったから。 しかし、安易にハッピーにはならないのが現実。特に子どもに起こる不幸は辛い。 フランスで、こんな劣悪な環境に放置されている人々がいることにも驚く。エステールのような普通の人たちが地道な努力で、変えていくしかないのだろう。大抵の人にとってはいなくなってほしい汚くて恐ろしい人達であり、政治家にとっては選挙権もないんだから、良くしてやる理由がない。 子どもたちの将来が明るいものとなるよう願わずにはいられなかった。 エステールが普段どんな生活をしているのか書いてあったら、もっと良かったのに、とそこだけが残念だった。
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400年も前からフランスの地を離れたことのないフランス人のジプシー。 アンジェリーヌばあさんは、まだ57歳なのにばあさんと呼ばれ、顔にはたくさんの皺が深く刻まれている。 持っているのはキャンピングカーと自分らの血潮。 5人の息子と、4人の嫁、8人の孫。 貧乏人と思われて平気なジプ...
400年も前からフランスの地を離れたことのないフランス人のジプシー。 アンジェリーヌばあさんは、まだ57歳なのにばあさんと呼ばれ、顔にはたくさんの皺が深く刻まれている。 持っているのはキャンピングカーと自分らの血潮。 5人の息子と、4人の嫁、8人の孫。 貧乏人と思われて平気なジプシーなど、めったにいない。 それでいて大半は貧乏人なのだが。 彼らの野営地は大都市の東。 追放されて、移動して、そしてまた移動して。 そこへ、毎週水曜日に、「外人」と呼ばれる図書館の責任者エステールという女性が通ってくるようになります。 エステールは「本というのは、寝るところやナイフとフォークと同じくらい生活に必要不可欠なもの」と思っていて、根気よく読み聞かせを続けます。 「人生には本が必要だし生きているだけでは十分じゃないと思うから」1年間の訪問で子供たちはエステールの読み聞かせを心待ちにするようになります。 しかし、孫のサンドロは車にはねられ、嫁のヘレナは子供を連れて去っていき、独身の長男アンジェロは、エステールに恋心を抱きます。乱暴者の息子シモンは精神病院に連れていかれます。 アンジェリーナの生涯は、なんと波乱万丈なことか。 しかし、自尊心だけは生涯なくしませんでした。 そして、一番年上の孫のアニタはエステールのおかげで、学校に通い始めます。 「ここの学校にいるどの子供とも変わらないんです。唯一違うのは、両親が読み書きできないこと、彼らには家がないということです」そしてこのときだった。そういいながら彼女は泣き出してしまった。 私が読んでいて一番好きだったのは、エステールが子供たちを動物園に連れて行くところです。 ー動物園に着く。子供たちは走った。標示板を指して、読んで、読んで、と叫ぶ。そしてエステールが読んで説明が終わると、アンジェリーヌを呼びに行く。アンジェリーヌは子供と楽しむ術を知っていた。ばあちゃん、ばあちゃん、と呼ぶ。ばあさんも走ろうとする。天気は最高だった。ばあさんの顔は太陽にあたっていつも以上に光っていた。シマウマって本当にいるんだ、とミカエルが驚く。ほかの子供たちも同じように驚いた。子供も親も一緒になって笑ったー 詩情に溢れる、古い一編の映画を観たような気持ちになりました。
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かなり微妙な本。 貧困、ジプシー、文盲、ときて、そんな人たちに本を読んで聞かせる、と来ると、もう誰も内容を批判できないわん、っていう感じ。これらのアイテムを揃えただけで、賞とか与えなくちゃいけないような、とにかくテーマの気高さに目がくらむ。 と、いきなり表面的なところをつつい...
かなり微妙な本。 貧困、ジプシー、文盲、ときて、そんな人たちに本を読んで聞かせる、と来ると、もう誰も内容を批判できないわん、っていう感じ。これらのアイテムを揃えただけで、賞とか与えなくちゃいけないような、とにかくテーマの気高さに目がくらむ。 と、いきなり表面的なところをつついて意地悪なことを言うのは、内容が気に入らなかったからにほかならないのであーる。 まず、主人公のおばあさん。 相当なページ数を割いてこのおばあさんのたわごとを延々と聞かされるわけだが、それなのに彼女の人生はほとんど見えてこず。 主人公なのに、もうちょっと魅力的に描けなかったのかしら・・・偉そうで偏狭で思い込みが激しい人、という印象しか残ってない。 次に、もう一人の主人公、エステール。 アニタはこの人のおかげで学校に行くことになるわけだが、「うんこ」呼ばわりされる彼女の学校での日々には心が非常に痛んだ。このあたりだけ妙に描写が生き生きしているのは、著者のよく知っている世界だからなんだろうか。 とにかく学校に放り込んでおしまい、なエステールに、後半、私はとても腹を立てていた。 エステールがみんなにしつこく「ほしいもの」を聞くシーンもとても嫌だった。この人、何が言いたいの?と思った。ほしいものが分かってなくて、彼らがかわいそうだとでも?と。 そんな感じで、決してつまらなかったわけではないけれど、褒める気にもなれない本。 なんとなく、お金持ちの人が書いた本って感じ、という気がしたが、あとがきを読んでその読みが当たっていたので、その時だけちょっと嬉しかった。 もうけっこう前に書かれた小説だけど、テーマそのものは(貧困とか疎外とか異分子とか異文化とかそういうもの)今も変わらずホットだよなぁ、と思う。むしろ世界中でどんどん加熱しているくらい? この小説の中のジプシーたちのように、社会のルールを完全に無視して無軌道な人生を送っているように見える人たちって、ノーマルとされる側から見ると恐怖の対象だったりするものだけれど、彼らの方も、普通の人たちの世界をとても怖がっているんだなぁ、と思った。 特にミジアが学校の先生を前に脅えていたところ。 それから、ルーブルってあたしたちも行けるの?っていうセリフは胸に刺さった。 オリジナルのタイトルは「本を読むひと」じゃないんですね。 ああ、やっぱり、そうだよね、と思った。このタイトル、美しくキャッチ―だけど、ちょっとズレてる感。
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ジプシーの大家族の元へ、通い続ける図書館員の女性。 それは、子どもたちに本を読み聞かせるためだった。 フランスで20年以上読みつがれているロングセラー。 パリ郊外の荒れ地に住んでいるジプシーの大家族。 アンジェリーヌばあさんが一家の主で、日がな一日焚き火にあたっている。 5人の...
ジプシーの大家族の元へ、通い続ける図書館員の女性。 それは、子どもたちに本を読み聞かせるためだった。 フランスで20年以上読みつがれているロングセラー。 パリ郊外の荒れ地に住んでいるジプシーの大家族。 アンジェリーヌばあさんが一家の主で、日がな一日焚き火にあたっている。 5人の息子と4人の嫁、8人の孫たち。 400年前からフランスに住んでいる一族だが、決まった職もなければ社会保障もない。 アンジェリーヌばあさんは思う。 子どもたちが生きていて、嫁が息子を愛していればそれでいいと。 そんな家族の元へ、図書館員のエステールが通い始めます。 本を読むことは誰にとっても必要だと信じる不屈の女性。 忍耐強く淡々と、気難しいアンジェリーヌの信頼をかちえていきます。 最初は不審の目を向けた一家だが、まず子どもたちがなつき、母親たちもお喋りを始める。 年月がたつうちに新たに子どもが生まれ、出ていく者もある。 遠巻きにしていた男たちも楽しみにするようになり、独身の長男が恋するまでに。 学齢に達した女の子アニタを学校に行かせようとエステールは奮闘します。 学校側に談判し、通うようになった女の子だが‥ 習慣の違いがありすぎて、問題が起きます。 自由で情熱的で、家族は愛し合う。その濃密さ。 だが貧しく不安定で、病院でも診察を断られ、差別される民族。 馬の世話が伝統的な仕事だったのが馬があまりいなくなったことや、制度の変化においていかれた事情など。 エステールとともに、読むこちらも少しずつ事情を知ります。 アンジェリーヌばあさんは言う。 二人がここでこうしていることが恩寵だと。 エステールの背景はほとんど描かれませんが、元看護師だということで世話好きの性格が暗示されます。 結婚していて子供もあり、図書館では責任ある立場、しかも毎週通ってこられるということは、かなり安定した生活なのでは。 強烈な世界をしばし味わい、深い余韻の残る読書体験でした。
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フランスで20年以上読み継がれているという作品。アンジェリーヌばあさん(孫が居てばあさんと呼ばれているけど50代)の息子たちとその妻、そして子供たちからなるジプシーの家族と、その家族を週一回水曜日に訪ねてきては子供たちに物語を読み聞かせる女性エステールとの交流と、定住者の社会で阻...
フランスで20年以上読み継がれているという作品。アンジェリーヌばあさん(孫が居てばあさんと呼ばれているけど50代)の息子たちとその妻、そして子供たちからなるジプシーの家族と、その家族を週一回水曜日に訪ねてきては子供たちに物語を読み聞かせる女性エステールとの交流と、定住者の社会で阻害され、社会制度はあっても実際には迫害と差別にさらされながらギリギリの暮らしを続けているジプシーの家族の日常を描いた作品。予備知識がないと、読みづらいかもしれず、この作品の流れに入り込むのにちょっと時間がかかりましたが、独特の雰囲気のある文体で映画を見ているような気持ちで読了。人物描写が良かったです。
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どんな人にも本を読むということは恩寵なのか。 生きる上でどれだけの必要があるのか。 たくさんの本に助けられてきた私は、 この本のライブラリアン、エステールのように勇敢にそれは必要なことである、と言いたい。
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