マタギ奇談 の商品レビュー
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著者が『マタギに学ぶ登山技術』を書き終えたのち、マタギたちから取材の合間に聞いた様々な奇妙な話をまとめたもの。 主に白神山地や、青森・秋田・山田がなど東北地方のマタギたちから聞いた話。 八甲田山雪中行軍遭難事件の、隠された真実。ネタバレでいうと、弘前第三十一連隊の福島大尉率いる弘前隊は、その土地その土地の道に精通した案内人に誘導され八甲田山麓に到着し、八甲田山麓でマタギをしていた数人の若者に案内をさせて雪中行軍をしたというもの。出発後に天候が悪くなりマタギは中止を進言するが拒否されさらに進むことを命令される。早朝から深夜11時すぎまで歩き続け、やっと休めると思いきや、マタギたちには休みをあたえず、先の小屋の主人を連れてこいと命令する。しかも弁当と仲間二人を置いていけ。これは逃亡を防ぐための人質。弘前隊は青森隊が遭難しているとは知らず、歩き続け、青森市側の入り口である集落が遠くに見えたとたん、マタギたちをお払い箱にした。ここで見たことは他言するべからず。破ったら軍隊の牢獄に入れる。 命をかけて兵士たちを案内してきたのに、山中で見捨てるのだ。 あとは、クマを獲ったことにより起きる祟り話、山の髪の話、マタギの風習や伝説など。 切なかったのは時代の流れとでも言おうか、白神山地は世界遺産に登録される。あるマタギが予言した。 「昔はよかった。今では無駄な道路が出来たりしてろくなことはない。白神がズタズタにされました。さらに数年たったら世界遺産にでも指定され、いろいろと制約が出て来てマタギが出来なくなる日がくるかもしれません。 『国は、自然を守るというのは、誰も入れないことと思っている。そうなると荒廃するだけでなく、動物が増えてたいへんなことになります。山のことを知っているマタギが調整してやらないとダメになります。それを知らないのですよ、机の上で考えているから検討違いなことばかりやっている。我々地元のマタギに話を聞こうともしない。白神が荒廃しないで今もあるのは、昔からマタギが守ってきたからんんです。それをわかっていない、とういかわかろうとしない。』 第1章でも遭難した青森隊は集落の長が『この時期に山に入るのは無謀だ。やめなさい。もし進むなら案内人を雇いなさい」と忠告したのに、「我々にはお前ら案内人ごときより優秀な地図とコンパスがある。案内人を雇えというのは金が欲しいからだろう」とつっぱね、結局遭難するのだ。 白神山地や鳥獣保護区にしていされた。その結果白神では一切の量ができなくなった。 1000年以上続いて来たマタギという文化が終わってしまったこと、残念に思う。 そして伝承として、このように本に残されること、とても大事だと思う。
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最後の老マタギの話は、自然との共存共生という事について考えさせられた。古くからマタギのオキテは自然と共存していくための知恵だったのだろう。ただのハンターではなく、自然を知り敬意を払い、人間と自然の調整役として存在した。
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マタギはあまり地元では話を聞いたことがなくて、面白かった。白神山地の情景が浮かぶ。里山イニシアチブとか、SDGsなんて言葉のもっとずっと前から続く文化の話は、奥行きがあって良かった。
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マタギの話そのものというより、マタギ間の怪談?の拾遺集。 民俗学として、または近代版遠野物語として良。 最終章のマタギが入らないと山が荒れる、の下りはレンジャー(自然保護)としての山岳文化として興味深い。
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マタギ達と山の神さまについて書かれた内容で、あっという間に読み終えた。東北地方、特に馴染みのある白神山地や暗門の滝、鯵ヶ沢町といった地名も出てきて、以前訪れたときのことを思い出した。山や自然に対する感謝の気持ち、畏敬をあらためて感じた。
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実家に戻ったら狩猟免許を取りたくなったのでとりあえず本で誤魔化そうと、人の多い図書館で爆借りをして逃走するがごとく帰ったときに一緒に貸出をした。 青森の白神山地を主に「マタギ」という狩猟を行っていた人々が遭遇した怪奇談をまとめた本書。ひとつのエピソードは短いが、それでも山の中で出会う恐ろしい話、奇妙な話、不可思議な話が散りばめられており、大変興味深かった。 マタギという山と暮らす人々は、山を知るだけではなく共に生きるために「獲りすぎない」「汚さない」を徹底した謂れや伝統やオカルトじみた伝承で伝えてきたのだと思う。 最近の話にはなるが、地元の近くの山では杉の病気が流行って次々に木々が倒れているという。 山の寿命からしたら短時間のことだとしても、人間の寿命からしたら何世代にも渡る問題だ。山肌が崩れれば地形が変わる。地形が変わるほどの変動は、ひとの居住区でなければ人的被害はないかもしれないが、早々に立ち退くことはできない里や盆地に生きている人間からすれば大問題だ。家を失うということは生活を失うのと同義。もし失いたくないのであれば、山に入り、手を入れ、共存しなければならない。 本書においても融雪洪水だったっけか、雪と土砂が入り混じった濁流が多くのマタギがいる里を襲う逸話も乗っていた。周囲からはクマを狩っていた祟りだ、と噂されていたそうだが、生き残った人々はシカリというマタギの長の家が立派だったから逃れることができたと信じていた。しかしそのシカリの家の金品を取っていたのは人間だという。そこでは「鬼が出た」と言われたのだというが、やっぱり恐ろしいのは人間の方だなと思った。 確かに大災害は逃れられない。多くの人が犠牲になるだろう。けれどその悲しみと悔しさを簡単に踏みにじることができるのは人間しかいない。 狩猟するにあたっても山で獲物相手に死ぬことは自己責任だとしても、縄張り争いや仕掛けた罠で獲物を盗んでいくのも人だという。もちろん掛かり方が甘いというのもあるかもしれないが、それも猟師の腕に因ると思えば納得できるだろう。山(もしくは山の神)が相手であればそれでこそ伝承や誠実さを怠った人間の在り方を見直すことで回避はできなくもない。 なんだかやっぱり人間の方が怖いんだなあとしみじみ感じ入る次第である。 最後には白神山地が世界遺産認定と鳥獣保護区になってしまったことを憂う老マタギが登場する。 結局害獣が出てしまったらどう対処するつもりなのか。農作物を食い荒らされてしまえば山に住む人間からしたらたまったものではない。この狭い本土の中、人々は自然と共存していくつもりであれば、ただ囲って守るだけでは意味がないはずだ。 マタギが居なくなった山で何が起こるのかなど、山が廃れたとしても認定した人間からしたら考える必要がないことなのかもしれない。同じ自然の中で生きていこうとすれば、決してマタギという存在は無意味にはなれないはずなのに。
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熊を獲りすぎない、キノコを根こそぎ採ってしまわない、そうやって人間と山のバランスをとりながら生きる。のみならず、そうすることが山をメンテナンスすることにもなる、人を入れないようにしてしまうと逆に山が廃れる、という最後の章で語られていたことは印象的。 人間が自然の中で調整役を果たす...
熊を獲りすぎない、キノコを根こそぎ採ってしまわない、そうやって人間と山のバランスをとりながら生きる。のみならず、そうすることが山をメンテナンスすることにもなる、人を入れないようにしてしまうと逆に山が廃れる、という最後の章で語られていたことは印象的。 人間が自然の中で調整役を果たすということがあり得るのだろうか。いわば山と人間がお互いに頼りあう共存関係。ちょっと信じがたいが、マタギの歴史が先年も続く中でそのような特殊な関係が出来上がったのかも知れない。だとすればそれは人類の目指す先にもなり得る凄いことになのに、マタギ文化が消え行くのは残念。
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やや散漫だけど面白く読んだ。 マタギの知り合いはいないけど、 やっぱり山を畏怖する気持ちは強いから お手軽なアウトドアや山登りには 未だに違和感。 神様は確かにいるだろうな〜と思うし、 それを信じて真摯に生きる人が 長く続いてほしいんだけども。
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マタギの山での考え方や言い伝えと、それらが生まれた謂われが紹介されている。 本の終わりで、白神山地の老マタギが、同地が世界遺産に指定されることへの不安を語っている。 国は誰も人を入れないことで自然を守れると考えているが、それでは動物が増え山が荒廃してしまうため、マタギの調整が必要...
マタギの山での考え方や言い伝えと、それらが生まれた謂われが紹介されている。 本の終わりで、白神山地の老マタギが、同地が世界遺産に指定されることへの不安を語っている。 国は誰も人を入れないことで自然を守れると考えているが、それでは動物が増え山が荒廃してしまうため、マタギの調整が必要である。それを知らず知ろうともせず、机の上で考えているから見当違いなことをするのだ、と。 マタギは山の調整役なのだ。 老マタギの話を聞き、マタギの営為を行政に結びつける調整役こそが、今求められるだろうと感じた。
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秋田や青森の猟師をマタギと言うのかな、日本に古くから伝わる伝統が絶えてしまったのは悲しい。それに自然を守ろうとしてやってることがかえって破壊に繋がるというか、白神山地はまさに人間と共存してたんだ。最初のホラーチックな話やクマの話とかも面白い。
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