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いのちの旅 の商品レビュー

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3件のお客様レビュー

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2023/06/30

水俣の話だけではなく、水俣を踏まえて、日本は、世界は何を学んだのか、という話が展開される。そして、いたるところで、環境を破壊し人にも影響を及ぼす公害病が発生していることに暗澹たる気持ちになる。

Posted byブクログ

2021/10/13

水俣病は、現在 2283人が患者と認定されたほか、約7万人は典型症状があるとして水俣病被害者救済法などで被害を認められた。いまも約1400人が熊本、鹿児島両県に患者認定を求めており、損害賠償などを求めて訴訟を起こしている人も約1700人いる。MINAMATAは、終わっていないと言...

水俣病は、現在 2283人が患者と認定されたほか、約7万人は典型症状があるとして水俣病被害者救済法などで被害を認められた。いまも約1400人が熊本、鹿児島両県に患者認定を求めており、損害賠償などを求めて訴訟を起こしている人も約1700人いる。MINAMATAは、終わっていないと言える現実がある。ジョニーデップの映画を見て、涙を流し、MINAMATAの勉強を始めた。桑原史成が1960年からMINAMATAの写真を撮り始めたのは貴重な記録となっている。ユージンスミスのアシスタントとしての石川武志は、ユージンの人柄を伝える。MINAMATAの現実は、辛く悲しい。人間によって人間を傷つけた。その中で、注目した人が、原田正純医師だった。たくさんの本を出されているので、とりあえず伝記物を選んだ。原田正純医師は、実に魅力的な医師だった。「水俣学」を提唱するのも素晴らしい。そして、熊本学園大学での活躍は目覚しい。熊本学園大学のホームページには、水俣学を学べる資料がある。ネット上で、水俣学を学べるのはとてもいい。 さて、本書である。 原田正純は「チカラの強い権力とチカラのない弱い立場の患者がある場合、弱者の立場に立つのが公平であり、医学の中立性を保つことになる」「権威を守ることは悪いことではないが、事実に目を瞑ることで護ろうとするのは学者ではない」結局は「何のために研究をするかという研究とは何か、専門家とは何か」ということを水俣事件で学んだという。本書は「水俣学」を意識したエッセイで、実にわかりやすく、水俣学の縦横無尽に世界を駆け巡って、水俣病を発見する。 水俣病事件は、「取り返しのきかないいのちと環境を破壊して地域に大きな被害を与えてしまった。償おうとしてもとても償えるものではない。被害者がわずかに癒されるのはその責任の所在が明らかになり、事件が将来に教訓として生かされる時である」と原田正純はいう。 水俣病の患者を抱える家に訪問すると「先生たちは今まで何度も見てもらったし、入院までして、いろいろ治療してもらった。それでも治らなかった。だから、もうよいです」と言われ「治らない病気を前にした時に先生たちに何ができるのですか」「現状で先生たちがなすべきことは何ですか」ということが、医学の原点となったという。 原田正純医師は、胎児性水俣病に対して解明しようとした。胎盤が、毒物を通して胎児に送り込むことを発見した。これまでは「胎盤は毒を通さない」ということだった。そして、カネミ油事件での、PCBも胎盤を通した。生態濃縮した有機水銀が胎児に送り込まれるというのは、胎児性水俣病は、魚を食べていないという事実から確定する。実際は、もっと深刻なのは有機水銀は脳に侵入し、脳を破壊するということだ。なぜか、それがあまり語られない。脳の研究が進んでいるので、もっとこの分野の解明もいると思う。 有機水銀は、プランクトン、魚、人間への食物連鎖の中にある。その仮説は、実証されたが、なぜそのような形で進んでいくのか、わからないことが多い。それでも科学的な根拠となりうる。 新潟の水俣病が早く発見されたのは、水俣の研究が先行していたことによるが、髪の毛の水銀濃度を基準にしたことで、早期に患者を発見できた。水俣は髪の毛の水銀濃度検査をしなかったことが、大きな問題でもあった。PCR検査をしないという日本の政治と保健所の体質は、全く変わっていない。 胎盤が毒を通すというのは、有機水銀の水俣病、カネミ油のPCB、原爆被爆の小頭症(放射能によって先天性異常が起こる)、ベトナムの枯葉作戦における流産や先天性異常。ベトナム戦争では、2.4Dなどの有機塩素系化学物質有効成分5万5000トンもまかれた。環境と生物と人間を破壊する本当に許せない行為である。原田正純は、世界にその胎盤が毒物を通すということを見て歩き「水俣学」を確立するのだ。弱いものの味方として、世界をめぐる。すごいなぁ。原田正純は、実にいい仕事をしている。

Posted byブクログ

2017/05/18

全く基礎知識なく読んだ。「水俣病」が過去の問題ではないことに衝撃を受けた。著者は、自ら関わった三池炭鉱炭塵爆発事件や水俣病の他、世界中の公害や化学物質による健康被害の調査に出向いて印象を語っているが、多くの症状・後遺症が、脳性の身体障害や自閉症スペクトラム症の症状に重なるというこ...

全く基礎知識なく読んだ。「水俣病」が過去の問題ではないことに衝撃を受けた。著者は、自ら関わった三池炭鉱炭塵爆発事件や水俣病の他、世界中の公害や化学物質による健康被害の調査に出向いて印象を語っているが、多くの症状・後遺症が、脳性の身体障害や自閉症スペクトラム症の症状に重なるということに驚いた。水俣病は、四肢の感覚障害・運動失調・聴力障害・言語障害・視野狭窄等の症状が見られ、炭塵爆発によるガス中毒症状と後遺症には、注意欠陥症状・衝動性やこだわりなどの精神症状が見られるという。世界各国の化学物質が原因と思われる健康被害も症状は類似している(これは、ドシロウトの私の個人的感想だが)。 本書でも触れられているが、人類は現在も半減期が百億年以上というパンドラの箱のような放射性物質などをわざわざ地中深くから掘り起こして、大量使用している(ODAと称して、日本も大いに関与している)。身近に大量の化学物質が満ち溢れている現在、発達障害の子供が急激に増え続けている事実が、化学物質と無縁であると言えるのだろうか。発達障害の原因はについては 専門家も口を閉ざしている。家族の心情を考慮してのことなのかわからないが、様々な公害等の健康被害の因果関係が国によって隠蔽され続けてきた事実を読んで、ここにも事実を認めたくない国や企業の力が働いているのではないかと、勘繰ってしまう。 読んでいると日本に限らず、そのような被害を受けた人々に対する扱いの酷さやや、再発予防意識の欠如に憤りを覚えるが、そんな中で、当事者の人々の言葉が光を与えてくれる。 ーある日「お母さんも大変でしょう」言ってみた。すると「何の何のこの子のおかげで頑張れるとですよ」という返事が返ってきた。そして、いつも頬ずりしながら「この子は宝子ですたい」というの口癖だった。 宝子という理由はいくつかあった。母親にいわせると「この子がわたしの食べた水銀を全部吸い取って生まれてきてくれたので、わたしも(この子の)妹や弟たちも元気でおられます。この子のが一人で水銀を背負ってくれたので我が家の大恩人です。それに、わたしはこの子の面倒で手いっぱいで他の子の面倒は全くみてやれなかったとです。それでも他の子のたちはこの姉を見て育ったために自分のことは自分でする、お互いに兄弟姉妹助け合う優しい子どもに育ってくれました。これもこの子のおかげです。」「それになあ、先生。この子がテレビにでるでしょうが 、すると政府の偉か人や会社の偉か人が見て、環境に注意するごとなれば、この子はやっぱり宝子ですたい」。ー どんな運命を負って生まれようとも、一人一人の命は輝いている。私たちは、この「宝子」の命を見過ごさず、早くこの親子の願う世の中していかなければならない、と強く思った。

Posted byブクログ