贋作 の商品レビュー
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『太陽がいっぱい』から6年後の話。 リプリーはいまや自信もあり、贋作に関する仲間もいて、金持ちの妻や気の利く家政婦もいるという最高の身分になっていてびっくりした。 前作より登場人物が増え、サスペンス色も強まって面白かった。 殺人、自殺偽装、殺人未遂、生き埋め、自殺、死体を焼く…などの衝撃的な場面が散りばめられていて先が気になってどんどん読めたが、終盤は行ったり来たりする場面が多くすこし冗長に感じたかもしれない。 警察はだいぶリプリーを疑ってはいたけど、もっと頑張れなかったか?という感じ…。 当時だとネットとかもないから色々証明するの難しかったりするのかな? こんなにいろんな罪を犯しておいて、ディッキーについて話をふられたときが内心一番動揺してるのがよかった。 ディッキーのいとこのクリスが出ててたのでなにか起きるか!?とおもったら、そこはたいして何もなかったのはちょっと拍子抜け。 今後も出てきたりするのかな…?
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ディッキー事件のあと、結婚しパリ郊外に住んでいるトムの元にロンドンから「至急来てくれ」と一本の電話が入る。トムの一言からはじまった現代画家の贋作事業が、コレクターの一人に勘付かれたのだ。死んだ画家のダーワットに変装しコレクターのマーチソンと対峙したトムは贋作疑惑を晴らすため画策するが、仲間の一人であるバーナードが罪悪感から思わぬ行動にでてしまう。「太陽がいっぱい」で逃げおおせたトムが新たな詐欺に手をだし、自ら境地に追いこまれていく、トム・リプリーシリーズ第二作。 死ぬまで売れなかった現代画家を、その悲劇によって売りこみ、贋作でビジネスをするというのが皮肉で面白かった。ダーワットが有名になったのは贋作仲間たちがつくりあげたストーリーゆえであり、人びとはその虚構に金を払うのだということをトムは掴んでいて、そこに罪悪感は微塵もない。 しかし、生前ダーワットの友人であり、今は彼の贋作画家になってしまったバーナードが苦しんでいる理由はトムには痛いほどわかるのだ。ディッキーとの日々となりすましの逃亡劇を直接振り返ることはないが、トムはバーナードに過剰な共感を寄せ、己に重ねている。 だが、トムの思いはバーナードには伝わらない。バーナードにとってトムは贋作事業の言いだしっぺであり、己の罪をより大きくした張本人だ。トムは自分を殺そうとしたバーナードを許していると伝えたくて追いかけていくが、その行為がむしろバーナードを追い詰めていく。 トムの悲劇は、自分も誰かを愛することができると信じたいと願っているのに、結局は保身と引き換えに孤独を選んでしまうことにある。演じるのが癖になっていて、自己開示が下手なのだ。なのに相手には過剰に感情移入してしまうから暴走していく。 今作ではそんな〈役者〉トムのことを少ない言葉で理解してくれるキャラクター、妻のエロイーズが登場したのも嬉しかった。表面上は浮ついた感じのする女性だが、トムが本当にケアを必要とするときには思いやり深くなり、鋭い助言もしてくれる魅力的なキャラクター。トムが強く愛したいと衝動を感じるのは男性なのかもしれないけど、一緒に生活するならエロイーズみたいな人がいいよね。ハイスミスは現実的だなぁ。 当の殺人のきっかけはバーナードのためというよりトム自身がいらんこと言ったせいだったり、そもそもディッキー事件で顔が知られている描写がありながら簡単に変装して警察まで騙しおおせるのは都合がよすぎるなど、前作同様、犯罪小説として緻密というわけではない。だがハイスミスの真骨頂はトムの心理描写にあるというのを今回もまざまざと感じられた。読者もトムと一緒にバーナードの行動に翻弄される分、サスペンスとしては前作を上回っている。 緊張感にあふれた死体遺棄の共同作業、地下室に残された身代わりの首吊り人形、殺人未遂とトムの仮死、自殺を見届けて一人で無理やり火葬など、好きな展開が次から次へと続くのでご褒美のような小説だった。終盤はややグダつくが、ザルツブルクでの追走劇は〈幽霊視点の怪奇小説〉のような幻想的な書き方がされていて、ホフマンみたいで好きだった。そのあと森でガンジス川のほとりみたいに雑に死体を焼く。この雑さがほんと最高。 犯罪もののBLが好きな人でまだ読んでない方は、ぜひトム・リプリーシリーズを読んでみてほしい。全然相互Loveにはならないので、〈二人だけの短く甘い記憶〉のパートは全くないけど。 そう思うと『黄昏の彼女たち』と本書は対照的な共犯関係を描いているなぁ。
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ミステリーというのか犯罪小説というのか。 悪事を働いて置きながら、自分本位な理屈で、解決方法として簡単に人を殺める。 露見しそうな時にでも、逆に、隠しごとを誰かと共有できることすら、ギリギリのラインでどこか喜びを感じていたり、 すべては自らの脚本、監督、主演による劇の一幕。 生ま...
ミステリーというのか犯罪小説というのか。 悪事を働いて置きながら、自分本位な理屈で、解決方法として簡単に人を殺める。 露見しそうな時にでも、逆に、隠しごとを誰かと共有できることすら、ギリギリのラインでどこか喜びを感じていたり、 すべては自らの脚本、監督、主演による劇の一幕。 生まれながらの悪党が覚醒したかのよう。
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『太陽がいっぱい』の続編。 前作でややナイーヴさを見せていたリプリーだが、本作ではすっかりふてぶてしいダークヒーローぶりを見せている。 現代なら簡単に『サイコパス』と言われそうだが、書かれた時代を考えると、このキャラクター造形はかなり斬新ではないだろうか。 しかし、これだけシレッと殺人を告白した場合、誰か裏切りそうなもんだが、皆、口を噤んでいるのは凄いw さて、『太陽がいっぱい』と本書は復刊されたが、シリーズ全5作のうち、『リプリーをまねた少年』は品切れ重版未定、残りの『アメリカの友人』『死者と踊るリプリー』の2作も在庫が心許ない……という状況はちょっと寂しいものがある。取り敢えず全部揃えたが、これで全部改版→復刊されたらちょっと悔しいなw
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