1,800円以上の注文で送料無料

プラハの墓地 の商品レビュー

3.4

31件のお客様レビュー

  1. 5つ

    4

  2. 4つ

    6

  3. 3つ

    7

  4. 2つ

    3

  5. 1つ

    1

レビューを投稿

2016/07/12

エーコでなければその差別表現に物言いがついたかもしれないとも思う、偽書成立のメタストーリー。密度の高さ、知の海の深さに置いてけぼりにされながら、何とかすじだけでも、と追いすがる読書。

Posted byブクログ

2016/07/09

先頃亡くなったウンベルト・エーコの遺作である。 テーマは、ナチスのホロコーストの根拠とされたという、世紀の偽書「シオン賢者の議定書」。 稀代の碩学は、この議定書や他の歴史的な事件の背後に、一人の偽文書作成者、シモーネ・シモニーニを配する。彼が狂言回しとなり、数々の「陰謀」が如何に...

先頃亡くなったウンベルト・エーコの遺作である。 テーマは、ナチスのホロコーストの根拠とされたという、世紀の偽書「シオン賢者の議定書」。 稀代の碩学は、この議定書や他の歴史的な事件の背後に、一人の偽文書作成者、シモーネ・シモニーニを配する。彼が狂言回しとなり、数々の「陰謀」が如何に計画され、実行されてきたか、その裏側を明かしていく。 語り手はシモニーニだけでなく、ダッラ・ピッコラと称する神父がおり、さらに神の視点のような「解説者」が加わる。シモニーニは記憶に問題を抱える。自らが誰で何をしてきたのか確かめるため、回想録を記し始める。彼が書き物をしていないとき、ピッコラ神父が彼のノートに書き込む。だが神父自身も自分が何者なのか、よく覚えてはいない。そんな状態の2人の書き物の合間に、「解説者」がときどき現れて解説する。三者の傍白はそれぞれ違う字体で記される。 語り手が複数で、そして時に記憶が曖昧であるという構成は、物語に不安感と曖昧さをもたらす。陰謀とはそもそも、白日の下に晒されたりはしないものだ。テーマと相まって靄の中を行くように、読者も歴史の裏舞台を手探りで進んでいくことになる。 若き日のシモニーニは、身寄りを亡くし、悪徳公証人の元で働くことになる。ここで偽書作成能力を身につけたシモニーニは、その腕を活かして歴史的事件に荷担していく。 炭焼き党、イエズス会、フリーメーソン、ロシア情報部、黒ミサ教団。さまざまな団体と関わりを持ちつつ、あちらこちらで人を裏切りながら、報酬を得て、美食を楽しむシモニーニ。 イタリア統一、パリ・コミューン、ドレフュス事件。シモニーニは歴史を渡る。そしてクライマックスとなる「シオン賢者の議定書」偽造。 シモニーニは、幼少時、ユダヤ人を嫌う祖父から、ユダヤ人が如何に忌避すべき人種であるかをたたき込まれていた。彼の文才は、ユダヤ人に関する俗説から、人々がいかにも本当らしいと思えるようなユダヤ人像を造り出す。プラハの墓地に葬られたユダヤ人賢者が甦り、世界征服の議定を行うという形で文書はできあがる。 シモニーニの回想録が進むにつれ、彼がなぜ記憶を失ったか、そしてピッコラ神父が何者かが朧気にわかっていく。このあたりの謎解きはミステリの味わいも感じさせる。 だが、物語を覆う霧は完全には晴れない。物語の終盤で、足を洗って隠居生活に入るかに思われたシモニーニは、1つの任務を命じられる。彼はふらふらと成すべきことを成しに向かう。その先は明るいようには見えない。 シモーネ・シモニーニなる人物は、もちろん、エーコが生み出した架空の人物である。 だが、その他の主要人物はほぼ実在の人物だというから恐れ入る(シモニーニの祖父さえそうだというのだ!)。エーコは複雑な歴史の糸を巧みにほどき、どの時点でどの場所にシモニーニがいることが適当だったかを割り出している。 秘密結社の内情、美食家を唸らせるメニューの数々、パリの下町の様子、恐るべき黒ミサの乱痴気騒ぎ等、細部の描写もさすがは博覧強記の人といったところか。 しかし、全体として印象に残るのは、世論の熱狂の根拠のなさ、だろうか。 世には多くの陰謀が確かにあるのかもしれない。だが、どれが成功し、どれが成功しないかは紙一重だ。あるときはしがない偽文書作りが成功を収めるかもしれないが、一歩間違って彼が命を落としていれば、サイコロのまったく別の目が出たかもしれない。成功したものが正しいとは限らないし、成功しなかったものがまったくの悪だったかと言えばそれはわからない。 いったいに、歴史のうねりがどちらに向くかは実は些細なことが決めているのかもしれない。 私たちが今「正しい」と信じている通説は本当か? 100年経ったら、そんなばかげたことを信じていたのかと後世の人々が呆れるようなことなのかもしれない。 あるいは、誰かが信じさせようとしていることを、ころりと騙されて信じてしまうことがあるのかもしれない。そんなことが起きえないと誰が言えようか。 霞の中で、ラビリンスを行く心許なさを残して、物語は閉じる。 私たちはシモニーニとどれほど違うのだろうか。 *「薔薇の名前」は何とか読み通したけど、「フーコーの振り子」は挫折したっけなぁ・・・(==)、とつい遠い目をしてしまいました。エーコ先生、長いっす・・・。でも、完全に読み解けたとは思えないですが、なかなかスリリングな読書体験でした。合掌。

Posted byブクログ

2016/07/07
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

最後の一行 「ガヴィアーリが最後の注意をしてくる。『ここに気をつけろ、そこに注意するんだぞ』 まったくなんてことだ、私はまだ老いぼれじゃない。」

Posted byブクログ

2016/06/15
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

二人が二人とも、所謂 " 信頼できない語り手 " っつー奴で、近代イタリア・フランス史はサッパリで、もう振り回されっぱなしだったけど、ちょいちょい美味しそうなのが挿入されてて読んじゃった。ゴッドファーザーのカンノーリとか。そしたら巻末に、章題とプロットとストーリーの対応表があった!先に出せよ〜( ̄▽ ̄)

Posted byブクログ

2016/05/06

イタリア統一、パリコミューン、ドレフェス事件、シオン賢者の議定書を、全てに関わる1人の男がいたとしたら? 陰謀の普遍的形式、人々は既に知っていることだけを信じる、 暴露記事と言うものは、奇想天外割衝撃的で、現実離れしていなければならない、そーゆー場合に限って人は信じ込んで憤慨する...

イタリア統一、パリコミューン、ドレフェス事件、シオン賢者の議定書を、全てに関わる1人の男がいたとしたら? 陰謀の普遍的形式、人々は既に知っていることだけを信じる、 暴露記事と言うものは、奇想天外割衝撃的で、現実離れしていなければならない、そーゆー場合に限って人は信じ込んで憤慨する.世界征服のためのユダヤ人の企み、 人間の1番の特徴は、なんだろうと信じ込むことです。信じやすい人ばっかりでなかったなら、どうして協会が2000年近くも存続できているでしょうか? 敵を作る、集団のアイデンティティーを強化し、自らの価値を確信するために脅威となる癖を乱す事は、極めて自然な現象である.異民族、異教徒、1部にし、マジオネアいたん、ユダヤ人が悪魔扱い、

Posted byブクログ

2016/05/03

よく考えずに手を出したらとんでないお話だった。 主人公はユダヤ人嫌いの祖父に育てられたシモニーニ。祖父の死後、公証人のもとで文書偽造に関わった彼はやがてその腕を買われ、各国の秘密情報部と接点を持つようになり、守備範囲を政治的な文書へと広げていく──というストーリー。主人公以外の...

よく考えずに手を出したらとんでないお話だった。 主人公はユダヤ人嫌いの祖父に育てられたシモニーニ。祖父の死後、公証人のもとで文書偽造に関わった彼はやがてその腕を買われ、各国の秘密情報部と接点を持つようになり、守備範囲を政治的な文書へと広げていく──というストーリー。主人公以外の人物はほぼ全員が実在。さまざまな人種、思想が入り乱れての陰謀、策略の上塗り大会。 構成も凝っており、主人公とある神父の書簡のやり取りから始まる。主人公はこの神父と自分が同一人物ではないかと疑っており、そんな主人公の曖昧な記憶を埋めるかのように「書き手」が物語を補足する。書簡の中には身に覚えのない死体が登場し、時系列もあやふや。この殺人を巡る展開はミステリでもあり、そう思うとストーリー全体がフーダニットにも思えなくはないのよね。 勉強不足に加えて、実在の人物・事件と身構えたので余計に難しく感じてしまった。逆にフィクションだと思い込む方が面白く読めるのかも。

Posted byブクログ

2016/04/30

イタリアの近代史を知らないので,人物がよくわからないところもあって,面白さが半減したのかもしれない.表の歴史を知っていての裏の歴史なので,知識のなさが残念でした.できるならば参考文献で人物相関図や,簡単な事件の説明があれば読みやすかったと思います.悪人,シモニーニに魅力がないのも...

イタリアの近代史を知らないので,人物がよくわからないところもあって,面白さが半減したのかもしれない.表の歴史を知っていての裏の歴史なので,知識のなさが残念でした.できるならば参考文献で人物相関図や,簡単な事件の説明があれば読みやすかったと思います.悪人,シモニーニに魅力がないのも,この本の読みにくさの一因だと思うし,最後もしり切れとんぼのような感じだ.ただ,挿画は素晴らしいの一言.

Posted byブクログ

2016/04/24

エーコ、亡くなるのと販売が前後した遺作、ってことでいいのかな。 去年の年始くらいから発売予定になってて待ちくたびれたところはあったけれども、まさか亡くなるとは…か ユダヤ人迫害の根拠の一つながら実は偽文書だったと言われる「シオンの議定書」の誕生を巡るミステリー。 ややこしいのは主...

エーコ、亡くなるのと販売が前後した遺作、ってことでいいのかな。 去年の年始くらいから発売予定になってて待ちくたびれたところはあったけれども、まさか亡くなるとは…か ユダヤ人迫害の根拠の一つながら実は偽文書だったと言われる「シオンの議定書」の誕生を巡るミステリー。 ややこしいのは主人公シモニーニ以外の登場人物は実在したってこと。とはいえ、あくまでフィクション。寝不足気味の通勤電車の車内ではなかなか読み進めないんだけど、そんなブツ切れの時間に読んでも読み進められるくらいには読みやすいし、特に時代についての知識がなくても読むのには困らない。

Posted byブクログ

2016/03/12

ユダヤ人排斥の根拠ともなった偽書『シオン賢者の議定書』を巡る意図的に的に作り上げられる憎しみの構図。 ある程度そうあってほしいと人々が思うようなフィクションをそれらしく物語る事によってフィクションだったはずのものが事実になる。もしくは歴史になる。ていう怖さ。 フィクションが信念...

ユダヤ人排斥の根拠ともなった偽書『シオン賢者の議定書』を巡る意図的に的に作り上げられる憎しみの構図。 ある程度そうあってほしいと人々が思うようなフィクションをそれらしく物語る事によってフィクションだったはずのものが事実になる。もしくは歴史になる。ていう怖さ。 フィクションが信念を補強していく大きな物語と、シモニーニとピッコラ神父が互いの日記の対話を通してただの覚書が肉付けされていくという小さな物語の二重構造も仕掛けとしてもすごく面白い。

Posted byブクログ

2016/03/09

さすがエーコ。何が何だかさっぱりわからない。亡くなってしまったのはほんと残念だ。 大デュマなど19世紀の娯楽小説の体裁をとりながら、二重人格の解釈や陰謀家・オカルティストに向ける厳しい批判の姿勢は今日的。作品の評価としては極上だけど、個人的には『フーコーの振り子』の方が好きかな。

Posted byブクログ