1,800円以上の注文で送料無料

日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか の商品レビュー

4

12件のお客様レビュー

  1. 5つ

    2

  2. 4つ

    5

  3. 3つ

    2

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか

日露戦争開戦前から樺太(サハリン)北部オハ周辺では、石油の存在が早くから知られていた。探鉱を手がけたロシア人たちの採掘は、一年の大半を氷の海と濃霧に閉ざされる寒冷で過酷な自然条件のため作業は困難を極めた。後に始まる日本による探鉱には、海軍が参加する。当時欧米列強海軍では、艦隊の燃...

日露戦争開戦前から樺太(サハリン)北部オハ周辺では、石油の存在が早くから知られていた。探鉱を手がけたロシア人たちの採掘は、一年の大半を氷の海と濃霧に閉ざされる寒冷で過酷な自然条件のため作業は困難を極めた。後に始まる日本による探鉱には、海軍が参加する。当時欧米列強海軍では、艦隊の燃料が石炭から石油に転換され始めており、日本海軍も積極的にその石油資源確保に動いた実例であった。しかし、残念ながら日本国としての動きではなかったことが日本の針路に多大な影響を与え続ける。現代に至るまで日本人の手で掘り出した最初の海外原油は、中東のカフジ原油と信じられているが実際は、樺太のオハ原油だった。樺太油田開発の権益を確保したい日本は、交渉相手のソ連側から世界で一番の「赤嫌い」が国家承認をしてまで石油利権の契約をしたいのは「人血と等しき石油を得んとするため」であればどんな条件でも応諾すると足元を見られている。満洲での探鉱には、故安倍元首相の祖父岸信介元首相が当時の満洲国の官僚のひとりとして名前が登場する。日露戦争後満洲に勢力を伸ばしていく日本の植民地政策の先兵となった満鉄(南満洲鉄道株式会社)や陸軍により試掘が各地で実施されたが、当時満洲では大規模な石炭の生産が開始されていたこともあり、石炭の液化による人造石油への道も探る状況であった。しかし、この分野でも成功できない。石油については、油田の掘削資材や技術の精度、資金や人材にも事欠く状況で世界水準に達していない中で実施され、大深度での掘削は、ほぼ実施されていなかった。日本は、中長期的な開発政策や技術導入や人材育成方針も持たずときを過ごした。後年大油田が発見された地域の真上で「軍事機密」という伝家の宝刀を持ち出し、油田探鉱の情報漏洩を恐れ外国人技術者の参画を忌避していた。油田探鉱に必要な海外からの先端技術導入の道を自ら閉ざしていた。さらに石油精製能力の低さについても言及されている。結局は、総合的な技術力、工業力、資源の乏しさによる。この閉塞状況を日本は、軍事行動による「南進」によって太平洋戦争に突入し、豊かな油田地帯を持つオランダ領インド(蘭印)の確保に走る。独自の力で油田を開発するという意識の欠如の結果は、みじめな敗戦となる。本書により樺太での困難な油田開発や戦前の日本の石油輸入の状況についての興味を高めることになりました。また、ロシアによるウクライナ侵攻に反対する諸国の経済制裁へのロシアの報復措置により注目された樺太でロシアなどと進めていた合弁事業サハリン石油・天然ガス開発プロジェクトの行方にもつながる内容。

小林裕人

2020/03/11

【技術とは,ハードだけで成り立つものではない。何のための技術かというソフト面を追求することも重要なのだ】(文中より引用) 戦前の日本のエネルギー政策、特に石油との関係に光を当てながら、意思決定や思考法にまつわる様々な問題点を指摘した作品。著者は、三井物産で一貫してエネルギー関連...

【技術とは,ハードだけで成り立つものではない。何のための技術かというソフト面を追求することも重要なのだ】(文中より引用) 戦前の日本のエネルギー政策、特に石油との関係に光を当てながら、意思決定や思考法にまつわる様々な問題点を指摘した作品。著者は、三井物産で一貫してエネルギー関連業務に携わった岩瀬昇。 石油というフィルターを通して見た『失敗の本質』といった趣きの一冊。嘘が数字を作り願望が現実に優先する様子などからは、過去の出来事だからと済ませてはいけない教訓が満載かと。 少し硬い文章ですが☆5つ

Posted byブクログ

2019/07/02

数字は嘘をつかないが、嘘は数字を作ると言う言葉がでてきたが、嘘で積み上げられた石油の産出量や需要量でWWIIの開戦が決定された。事業計画でも根拠ないが、事業規模ありきで数値目標を積むこともあるとは思うが、責任をもって遂行できる数値目標を立てるべきだと思った。

Posted byブクログ

2018/12/24

そもそも陸軍は石油をあまり使わなかったので関心が薄かったというのが原因。 軍隊というのは保守的なので新しい流れについていけないのでしょう。

Posted byブクログ

2018/05/28

◆日本軍の組織としての問題点は、彼らが喉から手が出るほど欲しがった石油を定点に見ると、違った色彩で見える。自省心と虚心坦懐さのない組織は自壊していくのだと…◆ 2016年刊行。 著者は物産子会社の三井石油開発の元常務執行役員。  まず本書はタイトルのことだけを書くに止まらな...

◆日本軍の組織としての問題点は、彼らが喉から手が出るほど欲しがった石油を定点に見ると、違った色彩で見える。自省心と虚心坦懐さのない組織は自壊していくのだと…◆ 2016年刊行。 著者は物産子会社の三井石油開発の元常務執行役員。  まず本書はタイトルのことだけを書くに止まらない。つまり、対米英開戦の直接要因になったとされる石油枯渇が、軍・政の様々な失政の帰結である点を、石油を定点に露わする書だ。 つまり、 ① 戦後1950年代当時の中国の技術ですら存在が確認できた満州地区の油田を、日本が発見・掘削し得なかった技術的・政治的理由 に加え、 ② 北樺太の油田の開発・利用機会を外交的悪手で喪失。 ③ インドネシアの石油施設の占領と、その利用・活用とは違うことを、海軍は失念(輸送護衛戦略の欠落)。  さらには、 ④ 戦前、特に1930年代の油田発見や掘削技術に関する世界的潮流に言及し、日本がキャッチアップできていなかった内情 とともに、 ⑤ その理由としての軍・官僚の無謬性の悪癖、 あるいは、 ⑥ その帰結としての対米戦争の帰趨=必敗に関する軍の調査レポート(つまり猪瀬直樹が発掘した「総力戦研究所」以外にも、対米開戦必敗を報告したグループが存在した)と、 ⑦ 米独はおろかソ連にすら「化学」「石油化学」の面で大きく見劣りしていた事実 が開陳される。  正直、③や⑤はこれまで散々語られてきたことで意外性はないが、石油という観点で見ると違う印象が生まれる面もある。石油不足=戦わずして負けるというほど石油に固執していたのだが、それを支える技術や思考が全く追いついていなかったこと、軍人らが組織体としてその事実を虚心坦懐に踏まえて対応策を練っていなかったことが透けて見える。  さらにいえば、奇形的に一部の技術面では優れていたものの、日本は総合技術力、技術を支える人的基盤の層が薄弱である。これは抽象的には意外ではないが、これも②⑦のように、石油という切り口で見るのは新鮮だ。  が、ここで一番印象的なのは⑥である。個人的に新規ネタということもあるが、正しい情報を上げても、受領側に虚心坦懐さがなければ、そして結論ありきの議論の不毛さに無自覚であれば全く価値を持たない。こんな様を見るにつけ、どうしようもないなぁと。

Posted byブクログ

2017/11/25

世界最前線のビジネスマンが書いた本は、学者の書いた本とは全く違う面白さがある。 太平洋戦争開戦前に石油の需給や戦況の展開を正しく予想出来ていながら、対米戦を回避できなかった不思議。国民世論が戦争を望んでいたにせよ、東条英機の頭の中を覗いてみたいと思った。

Posted byブクログ

2016/07/03

石油視点での日本史。 時系列にばらつきがあり、前提知識がないと若干読みにくい気がした。 客に前提知識があれば良書だと思う。

Posted byブクログ

2016/05/14

日本が太平洋戦争で対米開戦に踏み切ったのはアメリカからの石油の禁輸がきっかけであったことはよく知られています。当時、日本が実効支配していた満州や樺太では現在はかなりの量の石油が生産されています。もしも当時の日本がそれらの地域で石油を生産するに至っておれば、対米開戦のシナリオは違っ...

日本が太平洋戦争で対米開戦に踏み切ったのはアメリカからの石油の禁輸がきっかけであったことはよく知られています。当時、日本が実効支配していた満州や樺太では現在はかなりの量の石油が生産されています。もしも当時の日本がそれらの地域で石油を生産するに至っておれば、対米開戦のシナリオは違った結果を辿ったかもしれません。 なぜ、石油資源の豊富な地域を手にしていながら石油を手にすることができなかったのかを当時、石油探鉱に携わった軍や民間の記録を辿って検証します。 石油を探す技術や、原油から石油製品を生産する技術の欠如であったり、産油地から日本までの輸送計画のずさんさであったりと、ここでも科学的・合理的とは言いがたい当時の日本の対応が原因となっていました。 著者は商社で石油を扱っていたエネルギーのプロです。原発も含めたエネルギー問題を考える上で、過去の失敗を冷静に検証している貴重な資料だと感じました。

Posted byブクログ

2016/04/29

 本書は、日本の石油史を描いたもので、表題はその一部でしかない。  明治末期の石炭から石油への変換期、樺太石油のロシアとの交渉、満州や戦時の石油をめぐる政府や軍部、石油会社や技術者などの状況を記してあり、石油から見た日本現代史と言ってもいい。  石油技術者の意見や提言は、政軍には...

 本書は、日本の石油史を描いたもので、表題はその一部でしかない。  明治末期の石炭から石油への変換期、樺太石油のロシアとの交渉、満州や戦時の石油をめぐる政府や軍部、石油会社や技術者などの状況を記してあり、石油から見た日本現代史と言ってもいい。  石油技術者の意見や提言は、政軍には軽んじられ或いは理解が乏しく、水から作るなどの詐欺に騙されそうになったなど、エピソードも豊富である。  このように石油というか一次エネルギーは日本は恵まれていないのに、一般には関心が低いように感じられるのだが、それを覆すには、本書のような読みやすくわかりやすい良書が必要であろう。  著者は、石油事業に長年携わってきた経験があり、引退後は本書のように本を執筆することにも積極的に思えるので、今後の活躍が楽しみである。

Posted byブクログ

2016/04/16

シェールオイルとオイルシェールの違いにびっくり(笑)。 オイルシェールは石油の出来かけというイメージらしい。 タイトルへの答えとしては、 ①海軍と陸軍の軋轢と、石油への認識の違い。 特に陸軍での石油の重要性への意識の欠如 ②探鉱の技術不足 に尽きる。 時系列が行ったり来たり...

シェールオイルとオイルシェールの違いにびっくり(笑)。 オイルシェールは石油の出来かけというイメージらしい。 タイトルへの答えとしては、 ①海軍と陸軍の軋轢と、石油への認識の違い。 特に陸軍での石油の重要性への意識の欠如 ②探鉱の技術不足 に尽きる。 時系列が行ったり来たりして読みにくく、中身が入ってこないのが残念。 歴史にイフはないものの、大慶油田が当時湧いていれば、対米開戦はなかったかもしれないなぁと思う。

Posted byブクログ